共同抵当(きょうどうていとう)は、一つの借金の担保として、いくつかの不動産(土地と建物など)に抵当権を付けることです。民法392条は「債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合」と書いています。
ひとことで言うと、土地と建物を同時に競売して配当するときは、それぞれの価額の割合で借金の負担を分けます(392条1項)。片方だけを先に競売したときは、先順位の抵当権者はそこから全額を受けられ、その代わり、損をした次順位の抵当権者が、もう片方の抵当権を代わりに使えます(同条2項)。どちらの順番で競売しても、次順位の人が受け取る額がおおむね同じになるようにする仕組みです。
この記事では、同時配当と異時配当の計算、代位の付記登記、建物が他人(物上保証人)のものだったときの判例を扱います。抵当権の基本は抵当権の記事にあります。条文は令和8年4月1日時点のものです。
身近な例で考えると
はるかさんは、自分の土地(甲)の上に、自分の店舗兼住宅(乙)を持っています。
| 人物 | 立場 | 抵当権 |
|---|---|---|
| はるかさん | 借りた人(土地・建物の持ち主) | なし |
| みどり銀行 | 1番の共同抵当権者 | 甲と乙に1番。債権3,000万円 |
| そうたさん | 土地の2番抵当権者 | 甲に2番。債権2,500万円 |
| ゆうこさん | 建物の2番抵当権者 | 乙に2番。債権1,500万円 |
競売の代金は、甲が4,000万円、乙が2,000万円とします(費用・利息は考えません)。
同時に配当するとき(392条1項)
- みどり銀行の3,000万円を、甲と乙の価額の割合(4,000万円対2,000万円=2対1)で分ける。甲が2,000万円、乙が1,000万円を負担する。
- 甲の残り:4,000万円−2,000万円=2,000万円。そうたさんが2,000万円を受ける。
- 乙の残り:2,000万円−1,000万円=1,000万円。ゆうこさんが1,000万円を受ける。
甲だけを先に配当するとき(392条2項)
- みどり銀行は、甲の代金から3,000万円の全額を受けられる。そうたさんは、甲の残り1,000万円だけを受ける。
- このままだと、そうたさんは同時配当のときより1,000万円少ない。そこで、そうたさんは、みどり銀行が同時配当なら乙から受けるはずだった1,000万円を限度に、みどり銀行に代位して乙の抵当権を使える。
- のちに乙が2,000万円で競売されると、そうたさんが代位で1,000万円、ゆうこさんが1,000万円を受ける。
- 結果は、そうたさん2,000万円、ゆうこさん1,000万円で、同時配当と同じになる。
たとえるなら、共同抵当は「2つの財布から払ってよい約束」です。先順位の人が片方の財布だけから全部取ると、その財布を当てにしていた人が損をします。そこで、損をした人が、もう片方の財布から取り戻せるようにしています。ただし本物のルールでは、取り戻せるのは同時配当なら先順位の人がもう片方から受けたはずの額までです。
条文ではこう決まっている
- 同時配当(392条1項):同時にその代価を配当すべきときは、「その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する」。按分(あんぶん)は、割合で分けること。
- 異時配当(392条2項前段):ある不動産の代価だけを配当すべきときは、抵当権者は、その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。
- 次順位者の代位(392条2項後段):この場合、次順位の抵当権者は、先順位の抵当権者が1項に従って他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使できる。代位(だいい)は、他人の立場に入れ替わってその権利を使うこと。
- 代位の付記登記(393条):392条2項後段で代位して抵当権を行使する人は、その抵当権の登記に、代位を付記することができる。
- 物上保証人の代位(499条・501条):他人の借金のために自分の不動産を担保に出した人(物上保証人)が、競売などで借金を払った形になったときは、債権者に代位し、債権者が持っていた担保の権利を、債務者への求償の範囲で使える。保証人・物上保証人・第三取得者が何人もいるときの割り振りは弁済による代位と物上保証人の記事にあります。
判例では何が決まっているか
建物が、借りた本人ではなく物上保証人のものだったときは、392条2項の代位と、物上保証人の代位がぶつかります。
- 最高裁判所第一小法廷 昭和44年7月3日判決:債務者の甲不動産と物上保証人の乙不動産に先順位の共同抵当権があり、甲に次順位の抵当権があった。先順位の抵当権者が乙の抵当権を放棄して甲の抵当権を実行しても、甲の代価から債権の全額の満足を受けられるとした。判決の理由は、次順位の抵当権者の代位と物上保証人の代位がぶつかるときは「後者が保護される」と述べ、甲が競売されたときは「もともと第二順位の抵当権者は、乙不動産について代位することができない」から、乙の抵当権が放棄されても不利益はない、としている。
- 最高裁判所第三小法廷 昭和53年7月4日判決:債務者の不動産と物上保証人の不動産に共同抵当の抵当権があり、物上保証人の不動産が先に競売されて一番抵当権者が弁済を受けた。このとき、物上保証人の不動産の後順位抵当権者は、物上保証人に移った債務者の不動産の一番抵当権から、優先して弁済を受けられる。その主張に登記や差押えは要らない。
- 判決当時の民法500条(弁済による代位)の内容は、令和2年4月施行の改正で499条(弁済をした者は債権者に代位する)に整理され、代位した人が使える権利は501条に定められています。
まとめると、物上保証人の不動産は、債務者の不動産の後順位抵当権者にとって「当てにできない財布」です。物上保証人は、もともと債務者の不動産から取り戻せる立場にあるからです。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる(両方がはるかさんのもの):甲だけが先に競売された。甲の2番のそうたさんは、乙について、みどり銀行に代位できる(392条2項後段)。
- 当てはまらない(乙が父のもの):乙が、はるかさんの父まさるさん(物上保証人)のものだった。甲が先に競売されても、そうたさんは乙について代位できない(昭和44年判決の考え方)。
- 当てはまる(乙が父のもので、乙が先):乙が先に競売されると、まさるさんは、みどり銀行に代位して甲の1番抵当権を使える(499条・501条)。乙の2番のゆうこさんは、その抵当権から優先して受けられる(昭和53年判決)。
- ひっかけやすい(ゆうこさんの受取額):甲が先に競売されてみどり銀行が全額を受けたあと、乙が2,000万円で競売された。ゆうこさんは、そうたさんの代位の分(1,000万円)が先に出るので、1,000万円しか受けられない。みどり銀行が払い終わったから乙の1番は消える、とはならない。
似ているルールとの違い
| 比べる点 | 同時配当 | 異時配当 |
|---|---|---|
| 先順位の受け方 | 価額の割合で各不動産から | 先に売れた不動産から全額 |
| 次順位の受け方 | 自分の不動産の残りから | 残り+他の不動産への代位 |
| 条文 | 392条1項 | 392条2項 |
順位の譲渡・放棄のように、抵当権者どうしで順番や取り分を動かす配当は抵当権の処分の記事で、別の計算として扱っています。共同抵当は「不動産が2つ以上」、抵当権の処分は「抵当権者どうしの約束」と、場面が違います。
土地と建物に共同抵当を付けたあとで建物を建て替えた場合に法定地上権が成り立つかは、法定地上権の記事の平成9年判決で扱っています。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している宅建試験の問題(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、抵当権が主な論点の問題は29問で、直近10回(平成30年度〜令和7年度)では5問でした。ほかの論点の問題の中で抵当権を副の論点として扱ったものは7問でした。共同抵当だけの数は、分けて数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 按分の基準:同時配当は不動産の価額の割合。債権額の割合や、半分ずつではない。
- 異時配当の先順位:先に売れた不動産から全額を受けられる。
- 代位の限度:同時配当なら先順位が他の不動産から受けたはずの額まで。
- 代位するのはだれか:次順位の抵当権者。物上保証人の不動産には、債務者の不動産の後順位者は代位できない(昭和44年判決の考え方)。
- 付記登記:代位の付記は「できる」と書かれている(393条)。
計算は、まず同時配当の負担を出し、次に異時配当で動いた分を代位で戻す、の順で解くと迷いません。最後に、各不動産の代金と配当の合計が一致するかを確かめます。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
はるかさん所有の甲土地(4,000万円)と乙建物(2,000万円)に、みどり銀行が債権3,000万円の1番共同抵当権を持ち、ゆうこさんが乙だけに2番抵当権(債権1,500万円)を持つ。甲と乙の代金を同時に配当するとき、ゆうこさんの配当は1,000万円である(費用・利息は考えない)。
答え:○ 分かれ目は、同時配当で先順位の負担をどう分けるかです。各不動産の価額に応じて負担を按分します(民法392条1項)。3,000万円を4,000万円対2,000万円(2対1)で分けると、乙の負担は1,000万円で、ゆうこさんは乙の残り2,000万円−1,000万円=1,000万円を受けます。負担を半分ずつ(1,500万円)にすると500万円、甲から先に全部払うとすると1,500万円となり、どちらも✕にしてしまいます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
はるかさん所有の甲土地と、父まさるさんが物上保証人として出した乙建物に、みどり銀行の1番共同抵当権がある。甲が先に競売され、みどり銀行が全額を受けた場合、判例によれば、甲の2番抵当権者そうたさんは、392条2項により乙についてみどり銀行に代位できる。
答え:✕ 分かれ目は、代位する先が物上保証人の不動産かどうかです。最高裁判所第一小法廷昭和44年7月3日判決は、理由の中で、次順位の抵当権者の代位と物上保証人の代位がぶつかるときは物上保証人が保護され、債務者の不動産が競売されたときは、次順位の抵当権者は物上保証人の不動産に「もともと」代位できない、と述べています。正しくは、そうたさんは乙について代位できません。物上保証人は、もともと債務者の不動産に代位できる立場(民法499条・501条)にあるからです。甲と乙がどちらも債務者のものなら代位できる(392条2項後段)ので、その場面と取り違えた文です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
問1の甲・乙(どちらもはるかさん所有)で、甲には別にそうたさんの2番抵当権(債権2,500万円)があり、甲だけが先に4,000万円で競売されてみどり銀行が3,000万円を受けた。その後、乙が2,000万円で競売されたとき、ゆうこさんは乙の代金から1,000万円を受ける。
答え:○ 分かれ目は、次順位の代位が乙の後順位者にどう響くかです。甲だけを先に配当すると、みどり銀行は全額を受けられ、甲の次順位のそうたさんは、みどり銀行が同時配当なら乙から受けたはずの1,000万円を限度に代位します(民法392条2項)。乙の代金からは、そうたさんが代位で1,000万円を受け、ゆうこさんは残りの1,000万円です。みどり銀行が払い終わったので乙の1番はなくなり、ゆうこさんが債権の1,500万円を受けると考えると✕にしてしまいます。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。抵当権の配当や法定地上権を宅建の形で解く○✕20問は宅建の抵当権の問題にあります。
まとめ
- 共同抵当は、一つの借金の担保として、いくつかの不動産に抵当権を付けること。
- 同時配当は、不動産の価額の割合で先順位の負担を分ける(392条1項)。
- 異時配当では、先順位は先に売れた不動産から全額を受け、次順位は他の不動産に代位する。限度は同時配当なら先順位が受けたはずの額(392条2項)。
- 代位した人は、抵当権の登記に代位を付記できる(393条)。
- 物上保証人の不動産には、債務者の不動産の後順位者は代位できない。物上保証人の不動産が先に売れたときは、物上保証人が債務者の不動産に代位し、その不動産の後順位者が優先して受ける(昭和44年・昭和53年判決)。
次に読むなら、一括競売とはがおすすめです。土地だけに抵当権を付けたあとで建物が建ったとき、抵当権者が土地と建物をまとめて売れる場合を確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめています。判例は裁判所ウェブサイトで確かめ、昭和44年判決の理由の言葉は判決全文で確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(392条、393条、499条〜501条)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和44年7月3日判決(昭和41(オ)1284)」(先順位共同抵当権者が抵当権の一部を放棄した場合の次順位抵当権者との優劣)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 昭和53年7月4日判決(昭和50(オ)196)」(物上保証人の不動産が先に競売された場合の後順位抵当権者)
- 不動産適正取引推進機構(宅建試験の問題の公開。出題数は当サイトが数えたもので、公式の内訳ではありません)
働く人の法律試験ノート