行政組織をわかりやすく:行政庁と、権限の委任・代理・専決の違い

行政組織(ぎょうせいそしき)のルールは、国や地方公共団体の中で「誰が決めて、外に示すのか」「その仕事を誰に任せられるのか」を決めたものです。決めて外に示す役が行政庁(ぎょうせいちょう)で、大臣・知事・市長などが当たります。

ひとことで言うと、権限の委任は「権限そのものを別の機関に移す」こと、代理は「権限はもとの持ち主に残したまま、代わりに使う」ことです。専決(せんけつ)は、役所の中で決める人を変えるだけで、外から見れば本来の行政庁が決めたことになります。

この記事では、行政機関の分け方、権限の委任・代理・専決、国家行政組織法の骨組みを扱います。地方の議会と長の関係は議会と長の関係の記事で扱います。

身近な例で考えると

舞台はさくら市です。登場人物は、市長のみなみさん、副市長のたかはしさん、市の東部建設事務所の所長のおかださん、道路課の課長のいしいさんです。

  1. 市道を工事などで使うときの許可は、もともと市長の権限です。申請が多く、市長が全部を決めるのは大変です。
  2. 委任:市長は、市の東部地区の分の許可の権限を、おかだ所長に委任しました。以後、許可書は「東部建設事務所長」の名で出ます。この分については、市長はもう自分では許可を出しません。
  3. 代理:ある日、市長が急に入院しました。法律にしたがい、副市長のたかはしさんが市長の職務を代理します(地方自治法152条1項)。書類は「さくら市長職務代理者 副市長」と示して出し、効果は市長がしたのと同じです。
  4. 専決:西部地区の小さな許可は、市の内部のきまりで、いしい課長が決めています。それでも許可書は「さくら市長」の名で出ます。外から見れば、市長の許可です。

会社にたとえると、委任は「この取引の決裁権を、規程を変えて支店長に移す」こと、代理は「社長が不在の間、副社長が社長の名で判を押す」こと、専決は「課長が決めて社長の名前で書類を出す」ことに近いです。ただし本物のルールでは、委任は法律の根拠が要る、など会社より厳しい決まりがあります。

条文ではこう決まっている

行政主体と行政機関(教科書での整理)

権利や義務の持ち主になるのは、国や地方公共団体です。これを行政主体といいます。行政主体のために実際に仕事をするのが行政機関です。行政機関は、教科書では次のように分けられます。これは学問上の分け方で、条文の定義ではありません。

種類役割例
行政庁決めて外に示す大臣・知事・市長
補助機関行政庁を手伝う副市長・職員
諮問機関意見を答える(しばられない)審議会など
参与機関議決が行政庁をしばる法律が定める一部の機関
執行機関実力で実行する警察官・消防職員
監査機関仕事をチェックする会計検査院

注意したいのは「執行機関」です。地方自治法の「執行機関」は、長と委員会・委員のことです(138条の4第1項)。上の表の、実力で実行する機関とは意味が違います。

国家行政組織法

  • 対象(1条):内閣の統轄の下の行政機関のうち、内閣府とデジタル庁以外の組織の基準を定める。
  • 種類(3条2項・3項):国の行政機関は、省・委員会・庁。設置と廃止は法律で定める。委員会と庁は、省の外局として置かれる。
  • 各省大臣(5条):各省の長は各省大臣で、主任の大臣として仕事を分担して管理する。国務大臣の中から内閣総理大臣が命じる。総理大臣が自分でなってもよい。
  • 審議会等(8条):重要事項の調査審議や不服審査などのため、法律または政令の定めで、合議制の機関を置ける。
  • 長の権限(10条):各省大臣・委員長・長官は、機関の事務を統括し、職員の服務を統督(とうとく=まとめて監督)する。
  • 告示・訓令・通達(14条):公示が必要なときは告示を出せる(1項)。所管の機関と職員に、訓令または通達を出せる(2項)。

訓令・通達は、役所の内部への命令です。国民をしばる法規とは扱いが違います。くわしくは行政立法の記事で扱います。

委任と代理の条文の例

  • 地方自治法153条1項:長は、権限の一部を補助機関である職員に委任し、または臨時に代理させることができる。
  • 地方自治法153条2項:長は、権限の一部を、管理に属する行政庁に委任できる。
  • 地方自治法180条の2:長は、委員会や委員と協議して、権限の一部をそこに委任できる。
  • 地方自治法152条:長に事故があるとき・長が欠けたときは、副知事・副市町村長が職務を代理する(1項)。2人以上いれば、長があらかじめ決めた順番による(1項)。
  • 内閣法9条・10条:内閣総理大臣に事故があるとき・欠けたときは、あらかじめ指定された国務大臣が臨時に職務を行う(9条)。主任の国務大臣に事故があるとき・欠けたときは、総理大臣かその指定する国務大臣が臨時に職務を行う(10条)。

委任・代理・専決の効果(教科書での整理)

  • 委任:権限が受任者(任された機関)に移る。受任者が自分の名で行使し、委任した行政庁はその権限を使えなくなる。法律が決めた権限の持ち主を変えるので、法律の根拠が要る。
  • 代理:権限はもとの行政庁に残る。代理者は「〜の代理」と示して行使し、効果はもとの行政庁がしたのと同じ。本人が頼んで始まる授権代理と、事故などのとき法律で当然に始まる法定代理がある。
  • 専決・代決:役所の内部で、補助機関が決裁する仕組み。代決は、決める人が不在のときに代わって決裁すること。外に対しては本来の行政庁の名で出す。権限は移らない。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 市長がおかだ所長に許可の権限を委任した → 所長が行政庁になる(当てはまる例)。許可書は所長の名で出ます。この処分の処分庁は所長です。
  • 委任したのに、市長が自分の名で同じ許可を出した → 委任とずれる(当てはまらない例)。委任すると、その範囲の権限は所長に移ります。市長は、所長が補助機関なら指揮監督(地方自治法154条)を通じて関わります。
  • 市長の入院中に、副市長が職務代理者として許可した → 市長の処分になる(当てはまる例)。152条1項の法定代理です。処分庁は市長で、副市長ではありません。
  • いしい課長が専決した許可 → 外からは市長の処分(ひっかけやすい例)。決めたのが課長でも、権限は移っていません。審査請求や取消訴訟で「課長の処分」として扱うのは誤りです。
  • 審議会が「許可すべきでない」と答申した → 大臣はしばられない(当てはまらない例)。諮問機関の答申には、行政庁をしばる力がありません。しばる力があるのは、参与機関の議決です。
  • 所長の許可に不服がある → 争い方はどうなるか。取消訴訟の被告は、処分をした行政庁が属する国・公共団体なので、さくら市です(行政事件訴訟法11条1項)。審査請求は、所長に上級行政庁(市長)がいるので、原則として最上級行政庁の市長に出します(行政不服審査法4条4号)。それぞれの決まりは取消訴訟の要件の記事と審査請求の記事で確かめてください。

似ているルールとの違い

委任・代理・専決を、いちばん問われやすい点で並べます。

くらべる点委任代理専決・代決
権限はどこに受任者に移るもとの行政庁もとの行政庁
誰の名で出すか受任者の名代理と示すもとの行政庁の名
処分庁は受任者もとの行政庁もとの行政庁
法律の根拠要る法定代理は法律で内部のきまり

授権代理に法律の根拠が要るかは、教科書では「権限の一部なら要らない」と整理されています。地方自治法153条1項は、長が職員に「臨時に代理させる」ことを条文で認めています。法定代理は、152条や内閣法9条・10条のように、法律が「事故があるとき・欠けたとき」に代理者を決めています。

民法の代理と比べると、「本人のためと示して、効果は本人に」という点は似ています(民法の代理の記事)。ただし行政の代理では、権限の持ち主は法律で決まっています。民法のように、本人が自由に代理権の範囲を決めるものではありません。

試験ではここをまちがえやすい

行政書士試験では、委任と代理の効果を入れかえる形や、国家行政組織法の条文の言葉(法律か政令か、内閣府は入るか)を入れかえる形が考えられます。

  • 「委任しても、委任した行政庁はその権限を使える」→ 誤り。委任すると、権限は受任者に移ります。
  • 「受任者は、委任した行政庁の名で処分する」→ 誤り。受任者は自分の名で処分します。「もとの行政庁の名」は代理と専決です。
  • 「代理者がした処分の処分庁は代理者」→ 誤り。効果は、代理された行政庁がしたのと同じです。
  • 「諮問機関の答申に、行政庁はしばられる」→ 誤り。しばられるのは参与機関の議決です。
  • 「国家行政組織法は、内閣府にも当てはまる」→ 誤り。1条で内閣府とデジタル庁は除かれています。
  • 「省・委員会・庁は政令で置ける」→ 誤り。設置と廃止は法律で定めます(3条2項)。審議会等は「法律または政令」です(8条)。
  • 「地方自治法の執行機関は、警察官のように実力を使う機関」→ 誤り。地方自治法では、長と委員会・委員のことです。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
国家行政組織法によれば、国の行政機関である省・委員会・庁の設置と廃止は、政令で定めることができる。

答え:✕ 設置と廃止は「別に法律の定めるところによる」とされています(3条2項)。政令でもよいのは、8条の審議会等です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
さくら市には副市長が2人いる。市長のみなみさんに事故があるときは、市長があらかじめ定めた順序にしたがって、副市長が市長の職務を代理する。

答え:○ 地方自治法152条1項のとおりです。副市長も代理できないときや、置いていないときは、市長が指定する職員が代理します(同条2項)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
市長から許可の権限の委任を受けたおかだ所長は、その許可をするとき、許可書を「さくら市長」の名で出す。

答え:✕ 委任を受けた機関は、自分の名で権限を使います。もとの行政庁の名で出すのは、代理(代理と示す)や専決の場合です。

まとめ

  • 行政庁は、国や自治体のために決めて外に示す機関。補助機関・諮問機関・参与機関などと区別する。
  • 委任は権限が移る(受任者の名、法律の根拠が要る)。代理は権限が残る(代理と示し、効果はもとの行政庁)。
  • 専決・代決は内部の決め方。外にはもとの行政庁の名で出る。
  • 国家行政組織法:内閣府・デジタル庁は対象外。省・委員会・庁は法律で、審議会等は法律または政令で置く。

次に読むなら、行政立法をわかりやすくがおすすめです。国家行政組織法14条の訓令・通達が、国民をしばる法規命令とどう違うのかがつながります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。行政機関の分け方や、委任・代理・専決の効果は、条文の定義ではなく学問上の整理です。