語呂合わせは、宅建・行政書士の勉強で「使ってよい所」が決まっています。期間の日数のように、理由がなく、何と何を結べばよいかがはっきりしている所には効きます。要件や例外を見分ける所には効きにくく、理由を考えて覚えるほうが向いています。語呂合わせの一覧や本を丸ごと覚えるのはやめて、2回続けて言えなかった数字だけを、自分で作ります。作った語呂は、思い出す練習の道具として使います。
この記事では、記憶術の研究で分かっていることと、試験勉強での使い分け、作り方の手順を説明します。語呂の一覧は載せません。かわりに、このサイトのオリジナルの例を3つだけ示します。
語呂合わせは効くのか:研究で分かっていること
語呂合わせは、音やイメージで「覚えたいもの」と「覚えやすいもの」を結ぶ記憶術(きおくじゅつ)の一つです。研究がいちばん多いのは、外国語の単語を、似た音の言葉とイメージで結ぶ「キーワード法」です。語呂合わせと同じものではありませんが、音で結ぶ点が似ています。
- すぐのテストには効く:Wang らの論文(1992年)は、キーワード法が外国語の単語を覚える速さと、すぐ後の再生を大きく高めることが示されてきた、と整理しています。
- 時間がたつと忘れやすいことがある:同じ論文の4つの実験では、時間をおいたテストまでの忘れ方が、キーワード法を使った人のほうが、くり返し唱えて覚えた人より一貫して大きくなりました。
- 学習法の比較では低い評価:Dunlosky ら(2013年)は、10の学習法を比べた総説で、キーワード法を「有用性が低い」側に分類しました。高い評価は、練習テスト(思い出す練習)と分散学習(間をあけてくり返す)でした。
ただし、これらの実験の多くは外国語の単語を覚えるもので、法律の試験で確かめたものではありません。ここから言えるのは「語呂は覚え始めを速くするが、それだけでは長く残るとは限らない」までです。試験勉強では、語呂を作って終わりにせず、思い出す練習とくり返しで支えることになります。思い出す練習そのものは読むより「思い出す」ほうが覚えるで説明しています。
語呂合わせが効く所は、どこか
効くのは、「なぜその数字か」に理由がなく、結ぶ相手が一つに決まっている所です。試験でいうと、次の3つです。
- 期間・日数:免許の更新の申請期間、審査請求の期間など。「90日前から30日前まで」に、理屈で導ける理由はありません。
- 面積・割合・金額:法令上の制限の面積や、宅建業法の割合など。似た数字が並ぶので、取り違えを防ぐ手がかりになります。
- 短い並び:3〜6個の項目を全部挙げる必要があるもの。ただし、項目に共通の理由があるなら、次の章の方法のほうが向いています。
宅建では、法令上の制限と税の数字がこれにあたります。行政書士では、行政不服審査法・行政事件訴訟法・地方自治法の期間と数字が中心です。数字の全体は宅建で覚える数字の一覧と行政書士試験で覚える期間・数字の一覧に、条文と一緒に並べてあります。語呂を作るのは、その一覧で言えなかった行だけです。
語呂合わせが効かない所は、どこか
効きにくいのは、「どんなときに、そのルールが使えるか」を判断する所です。択一式の選択肢では、数字だけでなく、要件や効果の入れかえも問われます。語呂は、その入れかえを見抜く助けになりません。
- 要件の組み合わせ:宅建の8種制限は、業者が売主で、買主が業者でないときだけに使います。「手付は2割まで」の語呂を覚えても、業者どうしの取引にあてはめる選択肢は見抜けません。
- 判例の結論:行政法の処分性(取消訴訟で争える「処分」かどうか)は、結論を語呂で覚えても、初めて見る事例に答えられません。判例がどこに注目したかを覚える必要があります。
- 原則と例外:「原則はこう、ただしこの場合は違う」の形は、語呂にすると例外の条件が落ちやすくなります。
こうした所では、「なぜそうなるのか」を自分に問い、答えを短く言う方法が向いています。Dunlosky らの総説は、この方法(精緻化質問〈せいちかしつもん〉=「なぜ?」と問いかけて説明をつけること)を「中くらいの有用性」に分類しています。キーワード法よりは上の評価です。宅建業法の8種制限なら「プロではない買主を、プロの売主から守るため」と言えれば、業者どうしの取引で使えないことは自然に出てきます。
語呂合わせの一覧・本・アプリは、使ったほうがいいか
このサイトでは、一覧を頭から覚えることはすすめません。理由は3つです。
- 覚える量が倍になる:一覧には、すでに言える数字の語呂も入っています。言える数字に語呂を足すと、覚えるものが増えるだけです。
- 人の語呂は、自分には結びつかないことがある:語呂は「その音からその数字を思い出せる」ときだけ役に立ちます。他人の言葉づかいやイメージが、自分の頭で同じように働くとは限りません。
- 条件が抜けやすい:短くするために「以上か超か」「いつから数えるか」が削られている語呂があります。数字だけ合っていても、選択肢の言い換えに負けます。
自分で作ることには、別の利点もあります。Slamecka と Graf(1978年)は、規則にそって自分で作り出した単語は、同じ単語を読んだだけのときより覚えている、という結果を5つの実験で報告しました(生成効果)。これは単語の実験で、語呂そのものを比べたものではありません。それでも、語呂を作る途中で条文を開き、数字と条件を自分で確かめる手間は、読むだけより記憶に残りやすいと考えられます。
一覧・本・アプリは、どうしても言えない数字の「作り方の参考」として、一つずつ見る程度にとどめます。教材の選び方は宅建試験の教材の選び方と行政書士試験の教材の選び方に任せます。
自分で語呂合わせを作る5つの手順
- 作る数字を選ぶ:数字の一覧を隠して言い、2回続けて言えなかった行だけを選びます。1回まちがえただけなら、まだ作りません。
- 条文で確かめる:数字のほかに、「以上・超・以内」「いつから数えるか」「だれが・だれに」をメモします。語呂に入れられない条件は、語呂の横に書きます。
- 何から何を思い出すか決める:試験では「制度の名前」を見て「数字」を思い出します。語呂も、制度の名前から始まる形にします。数字から始めると、どの制度の数字か分からなくなります。
- 音・関係・理由のどれで結ぶか選ぶ:数字は音で結べます。似た制度の数字どうしは「倍」「同じ」などの関係で結ぶほうが短くすみます。並びは、共通の理由でまとめられないかを先に考えます。
- 思い出す練習で使い、最後は語呂なしで言う:作った日、2〜3日後、1週間後に、制度の名前だけを見て数字を言います。語呂を経由せずに数字が出るようになったら、その語呂は役目を終えています。
間をあけてくり返す決め方は復習の間隔の決め方で説明しています。1つの語呂にかける時間は数分までにします。いい語呂が浮かばないときは、作るのをやめて、紙に数字だけ書いて思い出す練習に回したほうが早いことがあります。
このサイトのオリジナルの例:音・関係・理由
例1(音で結ぶ):宅建業の免許の更新は「9時から3時」
免許の更新の申請は、「免許の有効期間満了の日の九十日前から三十日前までの間」に出します(宅地建物取引業法施行規則3条)。これを「更新の窓口は、満了の前の9時から3時まで」と覚えます。90を9時、30を3時に置きかえ、早い時刻(前の日付)から遅い時刻へ、の順番もそろえています。
横に書く条件は「満了の日の前に数える」です。変更や廃業の届出の「30日以内」は、できごとの日から後ろに数えます。同じ30でも向きが逆なので、語呂に「満了の前」を入れています。
例2(関係で結ぶ):審査請求は3か月、取消訴訟はその倍
行政書士試験の行政法で、取り違えやすい2つの期間です。審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3月(行政不服審査法18条1項)。取消訴訟は、処分があったことを知った日から6箇月です(行政事件訴訟法14条1項)。知ったかどうかに関係なく、処分があった日を基準にした上限は、どちらも1年です(行政不服審査法18条2項、行政事件訴訟法14条2項)。
これは音の語呂にせず、「裁判は審査の倍。上限はどちらも1年」と関係で覚えます。2つの数字を別々に覚えるより、入れかえに強くなります。数え始めの言い回しの違い(「翌日から起算して」と「知つた日から」)は、期間・数字の一覧で確かめます。
例3(理由でまとめる):罰金で欠格になる罪は語呂にしない
宅建業の免許の欠格事由で、罰金刑が問題になる罪は決まっています。宅建業法違反、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の違反、刑法の傷害・現場助勢・暴行・凶器準備集合及び結集・脅迫・背任、暴力行為等処罰に関する法律の罪です(宅地建物取引業法5条1項6号)。
頭文字を並べた語呂も作れますが、ここは「人に力を使う罪と、任された仕事で裏切る罪(背任)。あとは宅建業法と暴力団関係」と理由でまとめます。理由があると、並びにない罪(たとえば道路交通法違反の罰金)が選択肢に出たときに、「力でも裏切りでもない」と判断できます。欠格事由の全体は宅建の欠格事由をわかりやすくで説明しています。
語呂合わせで失点しないための注意
- 法改正で数字が変わる:試験は、その年度の4月1日に施行されている法令から出ます。古い本の語呂は、改正前の数字のことがあります。作る前に、今の条文で確かめます。
- 似た語呂を作りすぎない:同じ音を別の制度に使うと、語呂どうしが混ざります。似た数字は、例2のように関係で1つにまとめます。
- 本番で語呂を書き出さない:問題用紙の余白に語呂を書き出すと、時間を使います。本番までに、語呂なしで数字が出る状態にしておきます。
今日からやること
- 数字の一覧を1ページだけ隠して言い、言えなかった行に印を付ける。2回目も言えなかった行だけを語呂の候補にする。
- 候補の数字を条文で確かめ、「以上・超」「いつから」を横にメモする。
- 音・関係・理由のどれで結ぶかを選び、制度の名前から始まる一文にする。数分で作れなければ、作らずに思い出す練習へ回す。
- 要件や例外の問題でまちがえたときは、語呂ではなく「なぜそうなるか」を一文で書く。
- 作った語呂は、2〜3日後と1週間後に、制度の名前だけを見て数字を言えるか試す。
このサイトで次に読むなら、語呂を作る候補を選ぶための宅建で覚える数字の一覧(行政書士なら期間・数字の一覧)がおすすめです。数字の列を隠して言えなかった行が、語呂を作る価値のある所です。
参考にした研究・資料(2026年10月確認)
- Wang, A. Y., Thomas, M. H., & Ouellette, J. A. (1992). Keyword mnemonic and retention of second-language vocabulary words. Journal of Educational Psychology, 84(4), 520–528. https://doi.org/10.1037/0022-0663.84.4.520(要旨:セントラルフロリダ大学の論文ページ)
- Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques: Promising directions from cognitive and educational psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4–58. https://doi.org/10.1177/1529100612453266
- Slamecka, N. J., & Graf, P. (1978). The generation effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory, 4(6), 592–604. https://doi.org/10.1037/0278-7393.4.6.592
- 宅地建物取引業法施行規則(e-Gov 法令検索):3条。宅地建物取引業法:5条1項6号。
- 行政不服審査法(e-Gov 法令検索):18条1項・2項。行政事件訴訟法:14条1項・2項。条文は令和8年4月1日時点の版を指定して確かめました。
働く人の法律試験ノート