所有者不明土地管理命令と管理不全土地管理命令:令和5年4月施行の4つの管理制度の違い

令和5年4月1日から、手入れされない土地・建物について、裁判所が管理人を選んで管理させる制度が民法に4つ加わりました。持ち主(所有者)が分からない、または所在が分からないときの所有者不明土地管理命令・所有者不明建物管理命令と、持ち主は分かるが管理が不適当で他人に迷惑をかけているときの管理不全土地管理命令・管理不全建物管理命令です(民法264条の2〜264条の14)。

どれも、利害関係人(りがいかんけいにん=その土地・建物のことで困っている人など)が裁判所に請求して始まります。大きな違いは、所有者不明の管理人は管理と処分の権利を独り占めし、裁判所の許可で土地を売ることもできるのに対し、管理不全の管理人は独り占めせず、土地を売るには裁判所の許可に加えて所有者の同意がいる点です。

この記事では、4つの制度を「使える場面・申し立てる人・管理人ができること・訴えと登記」で比べ、昔からある不在者の財産管理とも並べます。管理の手続の細かい書類(申立書の書き方など)は扱いません。条文は令和8年4月1日時点のものです。

身近な例で考えると:隣の空き地と、ひびの入った擁壁

登場人物を紹介します。

人物立場困っていること
みなとさん空き地の隣に住む人空き地の草木が伸び放題で、持ち主が分からない
空き地の持ち主所有者(不明)登記の名義人は亡くなっていて、相続人が分からない
かわのさん斜面の下に住む人上の土地の擁壁(ようへき)のひびが広がっている
おおのさん斜面の上の土地の所有者住所は分かるが、擁壁を直そうとしない

場面1:持ち主が分からない空き地

  1. みなとさんは、空き地の持ち主を探しました。登記の名義人は亡くなっていて、調べても相続人が分かりませんでした。
  2. みなとさんは、利害関係人として、裁判所に所有者不明土地管理命令を請求しました(264条の2第1項)。
  3. 裁判所は命令を出し、同じ命令の中で所有者不明土地管理人を選びました(同条4項)。
  4. 管理人は、草木を刈るなどの管理をします。土地の管理と処分の権利は、管理人だけが持ちます(264条の3第1項)。
  5. 土地を売るなど、保存や利用・改良の範囲を超えることは、裁判所の許可を得てすることができます(同条2項)。

場面2:持ち主は分かるが、放置された擁壁

  1. かわのさんは、上の土地の擁壁が崩れて自分の家に被害が出るのを心配しています。持ち主のおおのさんの住所は分かっていますが、直してくれません。
  2. かわのさんは、利害関係人として、管理不全土地管理命令を請求しました(264条の9第1項)。所有者が分かっていても使える制度です。
  3. 裁判所は命令を出し、管理不全土地管理人を選びました(同条3項)。
  4. 管理人は擁壁の補修などをします。ただし、おおのさんの土地を売るには、裁判所の許可に加えて、おおのさんの同意がいります(264条の10第2項・3項)。

たとえるなら、所有者不明の管理人は「持ち主が帰ってくるまで家の鍵をすべて預かる人」、管理不全の管理人は「持ち主がいるのに危ない所を直しに来る人」です。ただし本物のルールでは、所有者不明の管理人も好きに売れるわけではなく、保存や利用・改良を超えることには裁判所の許可がいります。

条文ではこう決まっている

所有者不明土地管理命令(264条の2〜264条の7)

  • 使える場面:所有者を知ることができない土地、または所有者の所在を知ることができない土地。共有の土地なら、共有者が分からない・所在が分からないときのその共有持分(264条の2第1項)。
  • 始まり方:裁判所が必要があると認めるときに、利害関係人の請求により命令する(同項)。
  • 効力が及ぶ物:その土地と、土地の上にある所有者の動産(同条2項)。
  • 管理人:裁判所は、命令の中で所有者不明土地管理人を選ばなければならない(同条4項)。
  • 管理人の権利:土地などの管理と処分をする権利は、管理人に専属する(264条の3第1項)。
  • 裁判所の許可:保存行為と、性質を変えない範囲の利用・改良を超える行為には、裁判所の許可がいる。ただし、許可がないことを善意の第三者に対抗できない(同条2項)。
  • 訴え:その土地などに関する訴えは、管理人を原告または被告とする(264条の4)。
  • 義務と費用:管理人は、所有者のために善良な管理者の注意で権限を使う(264条の5)。費用と報酬は所有者の負担(264条の7第2項)。

所有者不明建物管理命令(264条の8)

  • 所有者や所在が分からない建物(共有なら共有持分)について、同じしくみで命令できる(264条の8第1項)。
  • 効力は、建物の中の所有者の動産に加え、建物の敷地を使う権利(借地権など。所有権は除く)にも及ぶ(同条2項)。
  • 264条の3から264条の7までの規定を準用する(同条5項)。

管理不全土地管理命令(264条の9〜264条の13)

  • 使える場面:所有者による土地の管理が不適当で、他人の権利や法律上保護される利益が侵害され、または侵害されるおそれがある場合(264条の9第1項)。
  • 始まり方:必要があると認めるときに、利害関係人の請求により命令する(同項)。
  • 管理人の権限:土地などの管理と処分をする権限を持つ(264条の10第1項)。所有者不明の場合と違い、「専属する」とは書かれていません。
  • 裁判所の許可:保存や利用・改良を超える行為には裁判所の許可がいる。ただし、許可がないことを善意でかつ過失がない第三者に対抗できない(同条2項)。
  • 土地を売るとき:裁判所が許可するには、所有者の同意がいる(同条3項)。
  • 費用と報酬:所有者の負担(264条の13第2項)。

管理不全建物管理命令(264条の14)

  • 建物について同じしくみで命令でき、効力は建物の中の所有者の動産と敷地を使う権利にも及ぶ(264条の14第1項・2項)。264条の10から264条の13までを準用する(同条4項)。
  • マンションの専有部分と共用部分には、264条の8と264条の14は適用されません(区分所有法6条4項)。代わりに、令和8年4月1日施行の改正区分所有法が、所有者不明専有部分管理命令(46条の2)などマンション用の管理命令を置いています。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例

  • 登記の名義人が亡くなり、相続人を調べても分からない空き地。→ 所有者を知ることができない土地として、所有者不明土地管理命令の対象になりえます。
  • 住所は分かる持ち主が、崩れそうな擁壁を放置し、下の家に被害が出るおそれがある。→ 管理不全土地管理命令の対象になりえます。所有者が分かっていることは妨げになりません。

当てはまらない例

  • 持ち主は分かっていて、土地の手入れもされているが、隣の人が「買いたいのに売ってくれない」と困っている。→ 管理が不適当で他人の権利が侵害されている場面ではないので、管理不全土地管理命令は使えません。
  • マンションの一室の持ち主が行方不明。→ 専有部分には、民法の所有者不明建物管理命令の規定は適用されません(区分所有法6条4項)。令和8年4月1日からは、区分所有法の所有者不明専有部分管理命令(46条の2)を使う場面です。

ひっかけやすい例

  • 所有者不明土地管理人が、裁判所の許可を得ずに土地を売った。買主は許可がないことを知らなかったが、少し調べれば分かった。→ 所有者不明の場合、守られる第三者は「善意」だけで足ります(264条の3第2項ただし書)。過失があっても、許可がないことを買主に主張できません。
  • 同じことが管理不全土地管理人のときに起きた。→ 守られるのは「善意でかつ過失がない」第三者です(264条の10第2項ただし書)。過失のある買主には、許可がないことを主張できます。

似ているルールとの違い

所有者不明と管理不全

比べる点所有者不明(土地・建物)管理不全(土地・建物)
使える場面所有者やその所在が分からない管理が不適当で他人の権利を侵害(おそれを含む)
管理処分の権利管理人に専属専属しない
土地を売るとき裁判所の許可裁判所の許可+所有者の同意
許可なしの行為と第三者善意の第三者に対抗できない善意・無過失の第三者に対抗できない
訴えの当事者管理人(264条の4)所有者(法務省の説明)
命令の登記される(法務省の説明)されない(法務省の説明)

法務省の説明資料は、このほか、管理不全の命令では原則として所有者の陳述を聞くこと(所有者不明では不要)、どちらも土地・建物の所在地の地方裁判所に申し立てることを示しています。利害関係人の例としては、所有者不明では公共事業を行う者や、分からない共有者以外の共有者、管理不全では倒壊のおそれが生じている隣の土地の所有者などを挙げています。地方公共団体の長などが申し立てられる特例も、別の法律にあります。

不在者の財産管理との違い

比べる点不在者の財産管理所有者不明土地管理
対象不在者の財産全体個々の土地(と上の動産)
選ぶところ家庭裁判所(25条)地方裁判所(法務省の説明)
遺産分割への参加できるできない(法務省の説明)

行方不明の人の土地なら、どちらも使える場面があります。管理人がどこまでできるかの違いは不在者の財産管理と失踪宣告の記事で表にしています。共有者の一部が分からないときの共有物の管理や持分の取得は共有の記事、隣の土地の竹木の枝を切るルールは相隣関係と地役権の記事で扱っています。

試験ではここをまちがえやすい

所有者不明土地管理命令・管理不全土地管理命令は、当サイトの宅建試験の集計(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)では、論点の名前として分けて数えていません。周辺の論点では、共有が主な論点の問題は14問(直近10回で3問)、不在者・失踪宣告が主な論点の問題は2問(2問とも直近10回)でした(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • 場面の入れかえ:所有者が分かっていても、管理が不適当で他人の権利を侵害している(おそれがある)なら、管理不全の命令が使えます。「所有者が分かる土地には管理人は選べない」は誤りです。
  • 売るときの同意:所有者の同意がいるのは管理不全の管理人が土地を売る場合です。所有者不明では、同意を得る相手がいないので、裁判所の許可で足ります。
  • 第三者の守られ方:所有者不明は「善意」、管理不全は「善意でかつ過失がない」。
  • 訴えの当事者:所有者不明の命令が出たら、訴えは管理人が原告・被告になります(264条の4)。
  • だれが始めるか:どれも利害関係人の請求で始まります。裁判所が自分から始める制度ではありません。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
擁壁を放置するおおのさんの土地に、かわのさんの請求で管理不全土地管理命令が出た。管理人が補修の費用を作るためにこの土地を売るには、裁判所の許可を得るだけでは足りず、おおのさんの同意がいる。

答え:○ 分かれ目は、管理不全の管理人が土地を売るときの要件です。保存や利用・改良を超える行為には裁判所の許可がいり(民法264条の10第2項)、土地の処分を許可するには、その所有者の同意がなければなりません(同条3項)。所有者不明土地管理人は、裁判所の許可で土地を売ることができ、所有者の同意はいらないので、これと同じだと考えると✕にしやすい肢です。所有者が分かっているかどうかで、同意の要否が分かれます。

問2(このサイトのオリジナル問題)
みなとさんの請求で、相続人が分からない隣の空き地に所有者不明土地管理命令が出て、管理人が選ばれた。その後、みなとさんが空き地の一部は自分の土地だとして所有権の確認を求める訴えを起こすときは、土地の所有者を被告とする。

答え:✕ 分かれ目は、命令が出た後の訴えの当事者です。所有者不明土地管理命令が出た場合、その土地などに関する訴えは、所有者不明土地管理人を原告または被告とします(民法264条の4)。正しくは、管理人を被告として訴えます。管理人に管理と処分の権利が専属する(264条の3第1項)ことと結びついています。管理不全土地管理命令では管理の権限が専属せず、訴えは所有者自身が当事者になる(法務省の説明)ので、こちらと取り違えた形です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
所有者不明土地管理人が、必要な裁判所の許可を得ずに管理する土地を売った。買主が許可のないことを知らなかったなら、知らなかったことに過失があっても、管理人側は許可がないことを買主に対抗できない。

答え:○ 分かれ目は、守られる第三者の要件です。所有者不明土地管理人については、許可がないことを「善意の第三者」に対抗できないとされ(民法264条の3第2項ただし書)、無過失までは求められていません。管理不全土地管理人の場合は「善意でかつ過失がない第三者」(264条の10第2項ただし書)なので、こちらと同じだと考えると✕にしやすい肢です。二つの制度で、ただし書の言葉が一語違います。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 令和5年4月1日施行。所有者不明(土地264条の2・建物264条の8)と管理不全(土地264条の9・建物264条の14)の4つの管理命令がある。
  • どれも利害関係人の請求で、裁判所が必要と認めるときに命令し、管理人を選ぶ。
  • 所有者不明の管理人には管理処分の権利が専属し、訴えも管理人が当事者。許可がないことは善意の第三者に対抗できない。
  • 管理不全の管理人が土地を売るには、裁判所の許可と所有者の同意がいる。許可がないことは善意・無過失の第三者に対抗できない。
  • マンションの専有部分・共用部分には、民法の建物の管理命令は適用されない(区分所有法6条4項)。区分所有法に専用の管理命令がある(令和8年4月1日施行)。

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参考にした公式の情報(2026年10月確認)

宅建試験の出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているものです(不動産適正取引推進機構)。条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を e-Gov 法令検索(法令API)で確かめました。