勉強のご褒美は効くか:外からの報酬とやる気の研究と、大人の資格勉強での使い方

勉強のご褒美は、使い方しだいで助けにも妨げにもなります。研究では、「やり終えたら○○をもらえる」と前もって決めたモノのご褒美は、ご褒美がなくなったあとに自分から取り組む気持ちを下げる場合がありました。一方で、勉強している最中の小さな楽しさは、長い目標を続けることと結びついていました。

そこでこの記事では、ご褒美を「何に対して・いつ・どんな形で」つけるかで分けて考えます。量をこなす作業には区切りのご褒美、勉強を始めることには勉強中の楽しみ、理解したい分野には外のご褒美をつけすぎない、というのが当サイトの整理です。4本の研究を条件つきで紹介し、行政書士試験・宅建試験の勉強に落とします。子ども向けのご褒美や、商品の紹介は扱いません。

「ご褒美でやる気が下がる」は、どんな条件の話か

「ご褒美をあげるとやる気がなくなる」という話のもとになっている代表的な研究が、Deci・Koestner・Ryan(1999年)のメタ分析(たくさんの実験の結果をまとめて計算し直す方法)です。

  • どんな研究か:外からの報酬が、内からのやる気(内発的動機づけ=おもしろいから自分でやる気持ち)にどう働くかを調べた128の研究をまとめました。内からのやる気は、主に「報酬がなくなったあとの自由な時間に、その課題に自分から取り組むか」で測られています。
  • 何が分かったか:取り組むこと・やり終えること・成績に応じて与えられる報酬は、自分から取り組む気持ちを下げていました。形のある報酬(モノやお金)と、前もって予告された報酬でも、同じように下がっていました。
  • 逆の結果:肯定的なフィードバック(「よくできています」のような言葉)は、自分から取り組む行動と、興味の感じ方の両方を高めていました。
  • だれに強いか:形のある報酬のマイナスは、大学生より子どもで大きい傾向でした。言葉のプラスは、子どもでは大学生より小さい傾向でした。

ここから読み取れるのは、ご褒美が問題になりやすいのは「もともと自分から取り組める課題に、予告したモノのご褒美を、取り組んだこと・やり終えたことに対してつける」場合だ、ということです。大学生でも下がる結果だったので、大人なら関係ない、とまでは言えません。ただし、この研究が測ったのは「ご褒美がなくなったあとの自発的な取り組み」で、試験の点や勉強の量ではありません。

また、ここでの「肯定的なフィードバック」は、実験をする人からかけられた言葉です。自分で自分をほめる場合を調べたものではありません。

ご褒美が助けになりやすいのは、どんな勉強か

では、ご褒美は使わないほうがよいのでしょうか。学校・職場・運動の場面の研究をまとめた Cerasoli・Nicklin・Ford(2014年)のメタ分析は、別の見方を示しています。

  • どんな研究か:40年分の研究から、183の独立したデータ(参加者は合わせて21万人あまり)をまとめ、内からのやる気と外からの報酬(インセンティブ)が、成績とどう結びつくかを調べました。
  • 何が分かったか:内からのやる気は成績の質とより強く結びつき、外からの報酬は成績の量とより強く結びついていました。また、報酬が成績に直接結びついているときは、内からのやる気が成績に占める重みが小さくなり、間接的なときは大きくなっていました。

試験勉強に当てはめると、ご褒美は「量をこなす作業」の区切りに向いていそうです。たとえば、○✕を決めた数だけ解く、暗記カードを1周する、まちがえた肢を解き直す、のような作業です。一方、行政法の条文のしくみや民法の考え方を理解するような「質」の勉強は、ご褒美で押すより、分かってくるおもしろさのほうが支えになる、と読めます。研究は試験勉強そのものを調べたものではないので、ここは当サイトの読み方です。

「終わったら」より「やっている最中」の楽しさが続くのはなぜか

資格の勉強は、試験日まで何か月も続きます。長い目標が続く人は、何に支えられているのでしょうか。Woolley と Fishbach(2017年)は、すぐに得られる報酬と、遅れてくる報酬を比べました。

  • どんな研究か:5つの研究で、新年の目標(抱負)、1回ずつの勉強や運動について、「取り組んでいる最中の楽しさ」(すぐの報酬)と、「健康になる・成果が出る」のような先の報酬が、続ける行動とどう結びつくかを調べました。1週間後と3か月後の両方を見た研究もあります。
  • 何が分かったか:続けているかどうかを予測したのは、取り組んでいる最中の楽しさのほうでした。先の報酬は、目標を立てる気持ちとは結びついていましたが、新年の目標や1回の勉強・運動の研究では、実際に続けるかどうかを予測していませんでした。参加者自身は「先の報酬のためにやっている」と答えていたのに、です。

この研究の「すぐの報酬」は、終わったあとにもらうご褒美ではなく、やっている時間そのものの楽しさです。合格という先のご褒美は、勉強を始めるきっかけにはなります。ただ、毎日机に向かうのを支えるのは、勉強の時間そのものが少しでも嫌でないこと、と読めます。研究が調べたのは活動そのものの楽しさですが、当サイトでは、好きな飲み物を用意する、気に入った席で解く、解けた問題に印をつけていく、のような工夫を、この考え方の応用として勧めます。目標の置き方そのものは、モチベーションの上げ方の記事で扱っています。

好きなことを勉強の時間だけに取っておくと、どうなるか

勉強中の楽しさを、意図して作るやり方もあります。Milkman・Minson・Volpp(2014年)は、「楽しみ」と「やるべきこと」をセットにする方法(テンプテーション・バンドリング=誘惑の抱き合わせ)を、スポーツジムで試しました。

  • どんな実験か:参加者を3つの組に分けました。①続きが気になる人気の朗読(オーディオブック)を、ジムでしか聞けないようにした組、②ジムでだけ聞くように勧めただけの組、③比べるための組(朗読の取り決めなし)です。ジムに通った回数を比べました。
  • 何が分かったか:①の組は、はじめのうち③の組より51%多くジムに通いました。ただし効果は時間とともに弱まり、とくに長い休み(感謝祭の休暇)のあとに落ちていました。実験のあと、参加者の61%が、ジムでしか使えない機器にお金を払う選択をしました。

勉強に当てはめるなら、「好きなことを、勉強の時間とその場所だけに取っておく」形です。気をつけたいのは、楽しみが勉強の邪魔にならないことです。条文を読む・問題を解く最中に歌詞のある曲を流すと、読む勉強の妨げになるとした研究があります(勉強中の音楽の記事)。そこで楽しみは、勉強の場所までの移動や、答え合わせのあとの整理の時間など、頭への負担が軽い場面に置きます。また、この実験でも休みのあとに効果が落ちたので、連休や繁忙期のあとの戻り方を先に決めておくと安心です。

どんなご褒美を・いつ・何に対して決めるか

4本の研究を合わせて、大人の資格勉強でのご褒美の決め方を表にしました。「効きやすい使い方」「逆効果になりやすい使い方」は、研究の結果をもとにした当サイトの目安です。

ご褒美の種類効きやすい使い方逆効果になりやすい使い方
予告したモノ・楽しみ(終わったら○○)量をこなす作業の区切りに、ときどきつける理解したい分野や、もう楽しめている作業に毎回つける
勉強中の小さな楽しさ好きな飲み物・気に入った席など、始めるハードルを下げる動画・歌詞のある曲など、勉強の邪魔になる楽しみ
好きなことを勉強の時間だけに取っておく移動中や答え合わせのあとなど、頭への負担が軽い場面休みのあとに効き目が落ちたまま放っておく
言葉・記録(できたことが見える)解いた数や解き直した肢を記録して見返す点数だけを見て、解き方の中身を見なくなる

行政書士・宅建の勉強に落とすと、たとえば次のようになります。

  • 量の作業に区切りのご褒美:宅建業法の数字の○✕を1周したら、週末に好きな店でお茶をする。毎回ではなく、1周の区切りにだけつける。
  • 勉強中の楽しさ:平日の夜は、決まった好きな飲み物を用意してから机に向かう。飲み物は「始める合図」にもなる。
  • 好きなことを取っておく:続きが気になる音声番組は、休日に図書館へ向かう道でだけ聞く。着いたら止めて、行政法の問題を解く。通勤や昼休みの短い時間の使い方は、通勤・昼休みの15分の記事で扱っています。
  • 理解の勉強には外のご褒美をつけすぎない:民法の考え方を整理する時間は、ご褒美を約束するより、「今日分かったことを1行書く」で終える。

どの例も、勉強の時間そのものを短くしてよいという意味ではありません。合格に要る勉強の量は変わらないので、ご褒美は「量を減らす道具」ではなく「続ける・始める道具」として使います。

ご褒美がよくない形になるのは、どんなときか

研究と、ここまでの整理から、当サイトでは、次のような形を避けることを勧めます。

  • ご褒美が勉強の時間を食う:「1時間勉強したら2時間動画」のように、ご褒美のほうが長いと、勉強の時間そのものが減ります。
  • 毎回の約束が「取引」になる:Deci らの研究で、ご褒美がなくなったあとの自発的な取り組みが下がったのは、予告した報酬を、取り組んだことや、やり終えたことに対してつけた形でした。勉強でも、やるたびにご褒美を約束していると、ご褒美がない日に手が止まるおそれがある、と当サイトは考えます。
  • 模試の点だけに大きなご褒美をつける:点に直接結びついた報酬では、内からのやる気の重みが小さくなる結果がありました(Cerasoli ら)。点よりも、まちがえた肢を解き直した数のような「やったこと」に結びつけるほうが、次の勉強につながりやすい、と当サイトは考えます。
  • できなかった日に罰を決める:ご褒美の裏返しとして「できなかったら○○を禁止」と決めると、つまずいた日に自分を責める材料になります。崩れた日の立て直し方は、社会人の勉強がしんどいときの記事で扱っています。

記録をつけて進み具合を見えるようにするやり方は、やる気に頼らない勉強の続け方にまとめています。ご褒美は、記録や習慣の代わりではなく、その上に少し足すもの、と考えると使いすぎを防げます。

今日からやること

  • 今の勉強を「量をこなす作業」と「理解する勉強」に分け、ご褒美は量の作業の区切りにだけつける。
  • 机に向かう前に用意する「小さな楽しみ」を1つ決める(好きな飲み物、気に入った席など)。
  • 好きなことを1つ選び、勉強の場所への移動中など、勉強の時間だけに取っておく。
  • ご褒美の長さが勉強の時間を超えていないか、1週間分を見返す。
  • 連休や忙しい週のあとに、どの作業から戻るかを先に決めておく。

参考にした研究・資料(2026年10月確認)

  • Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (1999). A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 125(6), 627–668. https://doi.org/10.1037/0033-2909.125.6.627
  • Cerasoli, C. P., Nicklin, J. M., & Ford, M. T. (2014). Intrinsic motivation and extrinsic incentives jointly predict performance: A 40-year meta-analysis. Psychological Bulletin, 140(4), 980–1008. https://doi.org/10.1037/a0035661
  • Woolley, K., & Fishbach, A. (2017). Immediate rewards predict adherence to long-term goals. Personality and Social Psychology Bulletin, 43(2), 151–162. https://doi.org/10.1177/0146167216676480
  • Milkman, K. L., Minson, J. A., & Volpp, K. G. M. (2014). Holding the Hunger Games hostage at the gym: An evaluation of temptation bundling. Management Science, 60(2), 283–299. https://doi.org/10.1287/mnsc.2013.1784

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