寝る前の15分は、新しい範囲を読み進める時間にしないでください。今日やった所を、テキストを閉じたまま思い出す時間にします。思い出せなかった所は3つまで選び、次の朝の通勤でもう一度思い出します。
研究では、覚えたあと数時間のうちに眠ったほうが、起きている時間をはさむより忘れた量が少なかった、という結果が出ています。夜に覚えて眠り、朝にもう一度練習した組は、2回目の練習が少なくてすみました。ただし、眠る時間を削ってまで勉強を延ばすと、かえって覚えにくくなるという実験もあります。だから15分で切ります。
この記事では、睡眠と記憶の研究で分かっていることを、実験の条件とセットで紹介します。そのうえで、行政書士試験と宅建試験の勉強での15分の使い方に落とします。何時間眠るか、どうすればよく眠れるかといった健康の話は扱いません。
寝る前に勉強すると、覚えやすいのか
睡眠と記憶の関係は、100年以上前から研究されてきました。Rasch と Born は、2013年の総説(それまでの研究をまとめた論文)で、眠ることが記憶を保つのに役立つという考えを整理しています。眠っている間に、その日に覚えたことが脳の中でもう一度よび起こされ、長く残る形に整えられる、という考え方です。
勉強の場面に近い実験もあります。Gais らの2006年の研究です。
- どんな実験か:アメリカの高校生12人が、英語とドイツ語の単語の組(24組)を覚えました。覚える時間は、朝8時か夜8時です。24時間後または36時間後に、どれだけ覚えているかを調べました。
- 何が分かったか:夜に覚えたとき、つまり覚えてから数時間のうちに眠ったときのほうが、忘れた量が少なくなりました。別の実験(高校生14人)では、覚えた夜に眠らずに過ごすと、その後に一晩眠って回復しても、覚えている量が少ないままでした。
試験勉強ではこう使います。働く人は、夜にしか時間がとれない日が多いはずです。研究の結果から見ると、夜の勉強は不利な時間ではありません。寝る前は「その日に覚えたことを固める時間」として使えます。
研究の結果は、法律の勉強にどこまで当てはまるのか
研究を知ると、「寝る前にやれば覚えられる」と思いたくなります。でも、そこまでは言えません。理由は2つです。
1つ目は、効果の大きさです。Berres と Erdfelder は2021年に、1967年から2019年までに発表された実験をまとめて分析しました(メタ分析といいます)。眠ることで記憶がよく残る効果は「中くらい」でした。そして、目立つ結果ほど発表されやすいかたよりを差し引くと、効果は小さくなりました(なくなりはしませんでした)。
2つ目は、実験の中身です。紹介した実験は、若い人が単語の組を覚えるものです。法律の要件を理解して、事例に当てはめる力に、同じだけの効果があるかは確かめられていません。行政書士試験や宅建試験の問題は、単語の暗記だけでは解けません。
だから、このサイトでは、睡眠だけに頼るやり方はすすめません。効果がはっきりしている2つのやり方と組み合わせます。見ないで思い出す練習(読むより思い出すほうが覚える)と、間をあけたくり返しです。寝る前に思い出し、眠り、朝にもう一度思い出す。この形にすると、どれか1つの効果が思ったより小さくても、ほかの2つで支えられます。
寝る前と翌朝をつなぐと、何が変わるのか
「寝る前」と「次の朝」をつなぐやり方を調べた研究があります。フランスの Mazza らの2016年の研究です。
- どんな実験か:フランスのリヨンの大学で、18〜29歳の大人40人が、スワヒリ語とフランス語の単語16組を覚えました。1回目は、全部言えるようになるまで練習します。12時間後の2回目も、もう一度全部言えるまで練習します。一方の組は「朝に1回目、その日の夜に2回目」(間は起きている)。もう一方の組は「夜に1回目、眠って、次の朝に2回目」です。
- 何が分かったか:1回目の覚え方には、2つの組で差がありませんでした。眠った組は、2回目に全部言えるようになるまでの練習が、約半分ですみました。1週間後と6か月後のテストでも、眠った組のほうがよく覚えていました。著者たちは、覚えたあとに眠るのはよいが、2回の練習の間に眠るのはさらによい、とまとめています。
試験勉強ではこう使います。夜の最後に、今日の所を思い出します。眠ります。次の朝、同じ所をもう一度思い出します。朝の分は5分でかまいません。間をあけて同じ所をくり返す考え方は、復習の間隔の決め方でくわしく書いています。
寝る前の15分では、何をどの順にやるか
このサイトがすすめる15分の流れは、次のとおりです。どれも、今日やった範囲の中だけで行います。
| 時間 | やること | 使うもの |
|---|---|---|
| 0〜3分 | 今日の所を見ずに3つ書く | 紙1枚かスマホのメモ |
| 3〜11分 | 今日の✕と△の肢を解き直す | 今日使った問題集 |
| 11〜14分 | 言えなかった所を3つ選ぶ | 付せんかメモ |
| 14〜15分 | 閉じて、メモをカバンに入れる | ③のメモ |
①見ずに3つ書く(3分)
テキストを閉じて、今日の範囲で覚えるべき「数字」「期間」「だれが」を3つ書き出します。きれいに書く必要はありません。
- 行政書士の例:今日、行政不服審査法の審査請求を読んだとします。書くのは「処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月」「処分があった日の翌日から起算して1年」です(18条1項・2項)。「翌日から」まで書けるかを確かめます。
- 宅建の例:今日、宅建士の登録を読んだとします。書くのは「登録に必要な実務の経験は2年」(施行規則13条の15)、「宅建士証の有効期間は5年」(宅建業法22条の2第3項)です。
②今日の✕と△の肢を解き直す(8分)
今日解いた問題のうち、まちがえた肢(✕。肢は選択肢の一つひとつ)と、迷って当たった肢(△)だけを解き直します。答えは手で隠します。新しい問題には手を出しません。○か✕かだけでなく、「どの言葉がちがうから✕か」を声に出すか、1行で書きます。たとえば「『知った日から』ではなく『知った日の翌日から』」のようにです。
③言えなかった所を3つ選ぶ(3分)
①と②で言えなかったものから、3つまで選びます。付せんかスマホのメモに、問いの形で書きます。「審査請求の期間は?(知った日から)」のように、答えは書きません。答えを書くと、朝に読むだけで終わってしまうからです。4つ以上あっても、朝に回すのは3つにしぼります。残りは週末の見直しに回します。
④閉じる(1分)
メモをカバンかスマホの決まった場所に置いて、終わりです。15分たったら、途中でもやめます。続きは次の日に回します。
次の朝の5分でやること
通勤の電車や歩く時間に、昨夜の3つの問いに、見ないで答えます。言えたものは消します。言えなかったものは、テキストの該当ページで確かめます。そして、その日の夜の①に入れます。2日続けて言えないものは、理解があいまいな所です。週末にまとめて読み直す候補にします。通勤の時間の使い方は、通勤・昼休みの15分でやることにまとめています。
寝る前にやらないほうがよいことは何か
次の4つは、寝る前の15分には入れません。
- 新しい範囲を読み進める:新しい単元を読み始めると、今日の分を思い出す時間がなくなります。先に紹介した実験は、眠る前に、覚える時間をきちんととったうえでの結果です。読みかけのまま眠る形とはちがいます。新しい範囲は、頭が働く時間にまわします。
- まとめノートの清書や、テキストに線を引く作業:手を動かしているので勉強した気になりますが、時間のわりに点につながりにくいやり方です。くわしくは時間のわりに効果が薄い勉強のしかたで書いています。
- 答えの出ない難しい問題で粘る:これは研究ではなく、このサイトの考えです。考えても分からない問題で15分を使い切ると、今日の✕の確認ができません。難しい問題は、印だけ付けて休日に回します。
- 眠る時間を削って、勉強を延ばす:Gais らの実験では、覚えた夜に眠らなかった人は、その後に眠っても、覚えている量が少ないままでした。また、Yoo らの2007年の研究では、一晩眠らなかった人は、次の日に新しいことを覚えるとき、海馬(かいば=記憶に関わる脳の部分)の働きが弱くなっていました。あとで調べると、覚えている量も少なかったのです。寝る前の勉強は、眠ることとセットで意味があります。だから15分で切ります。
なお、Yoo らの研究は「一晩まったく眠らない」という強い条件での実験です。「少し寝不足だと同じことが起きる」とまでは言えません。ここで言いたいのは、勉強のために眠る時間を削るのは、覚えるという目的から見ても得ではない、ということです。
疲れていて15分も無理な夜は、どうするか
残業や飲み会のあとなど、15分も机に向かえない夜はあります。そんな夜は、①だけをやります。布団に入る前に、今日の所を見ずに3つ書くだけです。3分で終わります。書けなかったものがあれば、それが次の朝の問いになります。
それも無理な日は、何もせずに眠ってかまいません。次の朝に、前の日の範囲を5分だけ思い出せば、流れは切れません。疲れた日の最低ラインの決め方は、疲れた日・残業の日の最低ラインでくわしく扱っています。
反対に、元気で時間がある夜でも、寝る前の15分の中身は変えません。勉強を増やしたいなら、寝る前ではなく、その前の時間に新しい範囲や問題演習を入れます。寝る前の15分は「その日の締め」と決めておくと、毎晩迷わずにすみます。
今日からやること
- 今夜、寝る前にテキストを閉じて、今日の範囲の数字・期間・「だれが」を3つ書く。
- 今日まちがえた肢と、迷って当たった肢だけを、答えを隠して解き直す。新しい問題は解かない。
- 言えなかった所を3つまで、答えを書かずに「問い」の形でメモし、カバンに入れる。
- 明日の朝の通勤で、その3つに見ないで答える。言えなかったものは、その夜の①に入れる。
- 15分たったら途中でもやめて眠る。
寝る前の15分を、朝・昼・夜のどこに置くかを1日の流れで確かめたい人は、働く人の1日の勉強の流れ(例)を読んでみてください。寝る前と朝の時間が、ほかの時間とどうつながるかが分かります。「思い出す」練習そのものの効果を知りたい人には、読むより思い出すほうが覚えるがおすすめです。
参考にした研究・資料(2026年10月確認)
- Rasch, B., & Born, J. (2013). About sleep’s role in memory. Physiological Reviews, 93(2), 681–766. https://doi.org/10.1152/physrev.00032.2012
- Gais, S., Lucas, B., & Born, J. (2006). Sleep after learning aids memory recall. Learning & Memory, 13(3), 259–262. https://doi.org/10.1101/lm.132106
- Mazza, S., ほか (2016). Relearn faster and retain longer. Psychological Science, 27(10), 1321–1330. https://doi.org/10.1177/0956797616659930
- Berres, S., & Erdfelder, E. (2021). The sleep benefit in episodic memory: An integrative review and a meta-analysis. Psychological Bulletin, 147(12), 1309–1353. https://doi.org/10.1037/bul0000350
- Yoo, S.-S., Hu, P. T., Gujar, N., Jolesz, F. A., & Walker, M. P. (2007). A deficit in the ability to form new human memories without sleep. Nature Neuroscience, 10(3), 385–392. https://doi.org/10.1038/nn1851
- e-Gov法令検索「行政不服審査法」第18条:https://laws.e-gov.go.jp/law/426AC0000000068
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」第22条の2:https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176、「宅地建物取引業法施行規則」第13条の15:https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50004000012
働く人の法律試験ノート