宅建業者や宅建士への監督処分には、決まった手続きがあります。処分の前には、言い分を聞く「聴聞(ちょうもん)」を公開で行います(宅建業法69条)。処分の後には、業務停止と免許取消しなら「公告」をし(70条1項)、ほかの知事や大臣が関わるときは「通知・報告」をします(70条2項〜5項)。さらに、国土交通大臣が、個人の消費者を相手にした取引での違反を理由に処分するときは、前もって内閣総理大臣と「協議」します(71条の2)。
処分の種類(指示・業務停止・免許取消し・事務禁止・登録消除)と、だれが処分できるかは監督処分と罰則の記事で扱っています。この記事は、その処分を「どんな手順で行い、だれに知らせるか」に絞り、表と事例で見分けられるようにします。
身近な例で考えると:県境をまたぐ処分と、大臣の処分
登場人物を紹介します。
| 人物 | 立場 | 起きたこと |
|---|---|---|
| そよかぜ不動産 | 愛知県知事の免許の業者 | 三重県内の物件で、誇大広告をした |
| ひのき住宅 | 国土交通大臣の免許の業者 | 会社員の買主に、重要事項の説明をしなかった |
| なおみさん | 愛知県知事の登録の宅建士 | 三重県内の事務所で、不正な事務をした |
まず、そよかぜ不動産です。違反は三重県内の業務で起きたので、三重県知事も処分できます(65条3項・4項)。三重県知事が業務停止を命じるまでの流れは次のとおりです。
- 処分の前に、聴聞を行う。期日の1週間前までに通知し、期日と場所を公示する。審理は公開で行う(69条1項・2項、16条の15第3項・5項)。
- 1年以内の期間を定めて、業務の全部または一部の停止を命じる(65条4項)。
- 公告する。知事の処分は、県の公報かウェブサイトへの掲載などの方法で行う(70条1項、施行規則29条)。
- 免許をくれた愛知県知事に、処分の年月日と内容を遅滞なく通知する(70条3項)。
次に、ひのき住宅です。買主は、事業のためではなく自分が住むために家を買う会社員です。国土交通大臣が業務停止を命じるときは、手順が1つ増えます。
- 前もって、内閣総理大臣に協議する(71条の2第1項)。
- 聴聞を公開で行い、業務停止を命じる。
- 官報で公告する(70条1項、施行規則29条)。
- ひのき住宅の主たる事務所がある県の知事に、処分の年月日と内容を通知する(70条2項)。
最後に、なおみさんです。三重県知事が事務禁止を命じたときは、聴聞を行い(69条1項)、登録をしている愛知県知事に通知します(70条5項)。宅建士への処分は、70条1項の公告の対象に入っていません。
たとえると、公告は「町の掲示板に貼り出すこと」、通知は「本人の担任の先生に連絡すること」です。ただし本物のルールでは、掲示板に貼るのは業務停止と免許取消しなどに限られ、指示処分や宅建士への処分は貼り出しません。
条文ではこう決まっている
処分の前:聴聞(69条)
- 65条(業者への指示・業務停止)と68条(宅建士への指示・事務禁止)の処分をするときは、行政手続法13条1項の区分にかかわらず、聴聞を行います(69条1項)。行政手続法だけなら、この程度の処分は「弁明の機会の付与」(書面で言い分を出す手続き)で足りる場合があります。宅建業法は、それより手厚い聴聞を求めています。
- 免許の取消しは、行政手続法でも聴聞が必要な処分です(行政手続法13条1項1号イ:許認可等を取り消す処分)。
- 65条・66条・67条の2・68条・68条の2の処分の聴聞には、次の決まりがかかります(69条2項で16条の15第3項〜5項を準用)。期日の1週間前までに通知し、期日と場所を公示する。審理は公開で行う。
- 事務所や業者の所在が分からないときの免許取消し(67条1項)には、行政手続法第3章(聴聞などの手続き)は使われません(67条2項)。かわりに、取り消す前に所在が分からない旨を公告し、30日を待ちます。
処分の後:公告(70条1項)
- 公告が必要なのは、業務停止(65条2項・4項)、免許の取消し(66条)などです(70条1項)。
- 指示(65条1項・3項)、宅建士への処分(68条・68条の2)は、70条1項に挙がっていません。
- 公告の方法は、大臣の処分は官報、知事の処分は県の公報やウェブサイトへの掲載などです(施行規則29条)。
処分の後:通知と報告(70条2項〜5項)
- 大臣が業者に指示・業務停止をしたとき:大臣免許の業者なら主たる事務所の所在地の知事に、知事免許の業者ならその知事に通知します(70条2項)。
- 業務地の知事が、ほかの免許権者の業者に指示・業務停止をしたとき:大臣免許の業者なら大臣に報告し、ほかの知事の免許の業者ならその知事に通知します(70条3項)。報告を受けた大臣は、主たる事務所の所在地の知事に通知します(70条4項)。
- 知事が、ほかの知事の登録の宅建士に指示・事務禁止をしたとき:登録をしている知事に通知します(70条5項)。
内閣総理大臣との協議(71条の2)
- だれが:国土交通大臣だけです。知事が処分するときには、この協議の定めはありません。
- どんな違反:業務の信義誠実(31条1項)、誇大広告など(32条〜34条)、媒介契約の書面(34条の2第1項)、重要事項の説明(35条の一部)、35条の2から45条まで(37条書面・クーリング・オフ・手付・手付金等の保全など)、47条・47条の2などの違反です(71条の2第1項)。
- どんな相手の取引:事業のためではなく、宅地や建物を買う・借りる個人を相手に契約する場合に限られます(71条の2第1項、35条1項14号イ)。
- どの処分:指示・業務停止・免許取消しの一部です(71条の2第1項)。
- 内閣総理大臣は、こうした消費者を守るために必要なときは、国土交通大臣に意見を述べることができます(71条の2第2項)。そのために特に必要なときは、業者に報告を求めたり立入検査をさせたりできます。その前に、国土交通大臣と協議します(72条2項・6項)。
処分ごとの手続きを1枚の表で
| 処分 | 処分の前 | 公告 | 通知・報告 |
|---|---|---|---|
| 業者への指示 | 聴聞(69条1項) | しない | 業務地の知事→免許権者(70条3項) |
| 業者の業務停止 | 聴聞(69条1項) | する(70条1項) | 業務地の知事→免許権者(70条3項) |
| 免許の取消し | 聴聞(公開) | する(70条1項) | 処分するのは免許権者だけ |
| 所在不明の取消し | 聴聞なし(67条2項) | 取消し前に公告して30日 | ― |
| 宅建士の指示・事務禁止 | 聴聞(69条1項) | しない | 他県の知事→登録の知事(70条5項) |
| 宅建士の登録消除 | 聴聞(公開) | しない | 処分するのは登録の知事だけ |
大臣が業者に指示・業務停止をした場合は、表の「通知・報告」に加えて、知事への通知があります(70条2項)。大臣が消費者との取引の違反で処分する場合は、表の「処分の前」に内閣総理大臣との協議が加わります(71条の2)。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例
- 三重県知事が、愛知県知事の免許のそよかぜ不動産に指示処分をした。→ 公告はしませんが、愛知県知事への通知は要ります(70条3項は指示も含む)。
- 国土交通大臣が、大臣免許のひのき住宅に、個人の買主への37条書面の違反で業務停止を命じる。→ 前もって内閣総理大臣と協議します(71条の2第1項)。
当てはまらない例
- 愛知県知事が、自分の免許のそよかぜ不動産に、個人の買主への重要事項説明の違反で業務停止を命じる。→ 71条の2は国土交通大臣が処分する場合の定めです。知事には協議の定めがありません。
- ひのき住宅の違反が、ほかの宅建業者を相手にした取引で起きた。→ 協議の対象は、事業のためではなく買う・借りる個人を相手にした場合に限られます。
ひっかけやすい例
- 宅建士の事務禁止を公告する:70条1項の公告は業者への業務停止や免許取消しなどの定めで、宅建士への処分は入っていません。
- 指示処分だから聴聞はいらない:宅建業法では、指示でも聴聞を行います(69条1項)。行政手続法の区分(弁明の機会の付与)とは違います。
似ているルールとの違い:行政手続法の聴聞と比べる
| 項目 | 行政手続法の原則 | 宅建業法の監督処分 |
|---|---|---|
| 指示・業務停止の前 | 弁明の機会の付与で足りる場合あり | 聴聞(69条1項) |
| 聴聞の審理 | 原則は公開しない | 公開(69条2項) |
| 通知の時期 | 相当な期間をおいて | 期日の1週間前まで |
行政手続法の聴聞そのものの流れは、聴聞と弁明の機会の記事で行政書士試験の側から説明しています。宅建試験では、宅建業法の側の「公開」「1週間前」「指示でも聴聞」を押さえます。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、監督処分・罰則が主な論点の問題は28問(28回)、ほかの論点の問題の中に2問でした。直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では、主な論点として5問(5回)です(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。手続きの部分で取り違えやすい形は次のとおりです。
- 公告の対象:「指示処分をしたら公告する」「宅建士の事務禁止を公告する」は誤り。公告は業務停止・免許取消しなど(70条1項)。
- 通知の向き:業務地の知事が処分したら、免許をくれた知事へ通知(大臣免許なら大臣へ報告)。宅建士なら登録の知事へ通知。
- 聴聞:指示でも聴聞。審理は公開。期日の1週間前までに通知と公示。
- 協議の主体:内閣総理大臣と協議するのは国土交通大臣。知事の処分にはこの定めがない。
- 協議の範囲:相手が事業のためではなく買う・借りる個人の場合に限る。
- 所在不明の取消し:聴聞などの手続き(行政手続法第3章)は使われない(67条2項)。
罰則(拘禁刑・罰金・過料)や両罰規定は監督処分と罰則の記事に表があります。違反の中身になる業務のルールは業務上の規制の記事と広告の規制の記事で確かめられます。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
甲県知事の免許を受けた宅建業者Aが、乙県内で行った取引について、乙県知事から指示処分を受けた。この場合、乙県知事は、遅滞なく、処分の年月日と内容を甲県知事に通知しなければならない。
答え:○ 分かれ目は、公告と通知を分けて考えられるかです。指示処分は70条1項の公告の対象ではありませんが、業務地の知事が65条3項の指示をしたときは、免許をくれた知事への通知が必要です(宅建業法70条3項)。「指示は公告しない」から「だれにも知らせない」と考えると✕にしてしまいます。Aが大臣免許なら、通知ではなく国土交通大臣への報告になります。
問2(このサイトのオリジナル問題)
甲県知事は、その免許を受けた宅建業者Aが、事業のためではなく住宅を買う個人Bに重要事項の説明をしなかったことを理由に業務停止処分をしようとするときは、あらかじめ内閣総理大臣に協議しなければならない。
答え:✕ 分かれ目は、協議をする主体です。内閣総理大臣との協議は、国土交通大臣が、その免許を受けた業者に処分をしようとする場合の定めです(71条の2第1項)。正しくは、甲県知事がAを処分するときに、この協議の定めはありません。違反の内容と相手(個人の消費者)は協議の対象に当たるので、主体の一語で正誤が決まる形です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
乙県知事は、甲県知事の登録を受けている宅建士Cが乙県内で行った事務について、Cに事務禁止処分をした。この場合、乙県知事は、その旨を公告しなければならない。
答え:✕ 分かれ目は、公告の対象に宅建士への処分が入るかです。70条1項の公告の対象は、業者への業務停止(65条2項・4項)や免許の取消し(66条)などで、宅建士への処分(68条)は入っていません。正しくは、乙県知事は、登録をしている甲県知事に通知します(70条5項)。業者の業務停止なら公告が要るので、これと取り違えた形です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「宅建業法」で続けて解けます。
まとめ
- 処分の前は聴聞。指示や事務禁止でも聴聞で、審理は公開、期日の1週間前までに通知と公示。
- 公告するのは業務停止・免許取消しなど。指示と宅建士への処分は公告しない。大臣は官報、知事は公報やウェブサイトなど。
- 業務地の知事が処分したら、免許をくれた知事へ通知(大臣免許なら大臣へ報告)。宅建士なら登録の知事へ通知。
- 国土交通大臣が、個人の消費者を相手にした取引の違反で処分するときは、前もって内閣総理大臣と協議する。知事には協議の定めがない。
- 所在不明の免許取消しは、聴聞などの手続きを使わず、公告から30日で取り消すことができる。
次に読むなら、監督処分と罰則の記事がおすすめです。この記事の手続きの前提になる「どんな違反で、どの処分ができるか」がつながります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(16条の15、31条1項、35条1項14号、65条、66条、68条、68条の2、69条、70条、71条の2、72条を、令和8年4月1日時点の条文で確認)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(29条:監督処分の公告の方法)
- e-Gov法令検索「行政手続法」(13条1項:聴聞と弁明の機会の付与の区分、15条1項:聴聞の通知、20条6項:審理の公開)
- 不動産適正取引推進機構「試験概要」(出題の根拠となる法令は、試験を行う年度の4月1日現在施行のもの)
- 不動産適正取引推進機構(宅建試験の問題と正解の公開。出題数は当サイトが数えたもの)
働く人の法律試験ノート