宅建試験の計算は、5種類に分けられます。報酬の上限、建ぺい率と容積率、手付金等の保全の額、法定相続分、税額です。どれも、難しい数学ではなく、決まった手順に数字を入れる作業です。かけ算と割り算と分数ができれば足ります。
捨てていいかの答えは、種類によって違います。報酬の上限と、建ぺい率・容積率は、手順が短く、知識の問題とつながっているので、捨てると損が大きい計算です。税額の細かい計算は、税の問題の中心が要件のほうなので、後回しにしてよい計算です。この記事では、5種類をオリジナルの例題で1回ずつ確かめ、そのうえで優先順位を決めます。
宅建の計算問題は何が出るか
宅建試験は50問すべてが4つの選択肢から選ぶ形で、計算の答えを書かせる問題はありません。計算は、選択肢の中に「上限は○○円である」「容積率の上限は○○である」という形で出てきます。肢の正誤を決めるために、頭の中か余白で計算します。
| 種類 | 分野 | 何を計算するか | 捨てると |
|---|---|---|---|
| 報酬の上限 | 宅建業法 | 業者が受け取れる額 | 損が大きい |
| 建ぺい率・容積率 | 法令上の制限 | 建てられる面積 | 損が大きい |
| 手付金等の保全 | 宅建業法 | 保全措置がいる額か | 損が大きい |
| 法定相続分 | 権利関係 | だれがどれだけ受け継ぐか | 基本形は解く |
| 税額 | 税・その他 | 税金の額 | 後回しでよい |
令和3年度(10月)の問題冊子で当サイトが確かめた並びでは、報酬を扱う問題が問44に置かれていました(公式の内訳ではありません)。どの年に、どの計算が、何問出るかの公式の発表はありません。だからこそ、5種類とも「手順を一度は自分でやった」状態にしておき、そのうえで深さに差を付けます。
例題1:報酬の上限(宅建業法)
例題(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが、土地(代金1,000万円)と建物(代金1,100万円、消費税込み)の売買を媒介し、売主から報酬を受け取る。Aは消費税の課税事業者である。売主から受け取れる報酬の上限はいくらか。
手順は3つです。
- 税抜きの代金を出す:土地には消費税がかからない。建物は1,100万円÷1.1=1,000万円。合計2,000万円。
- 速算式にあてはめる:400万円を超えるので、2,000万円×3%+6万円=66万円。
- 消費税を足す:66万円×1.1=72万6,000円。
答えは72万6,000円です。告示は、代金を200万円以下(5.5%)、200万円超400万円以下(4.4%)、400万円超(3.3%)の部分に分けて合計するしくみで、速算式はそれをまとめたものです。代理なら、この額の2倍以内です(告示第三)。代金800万円以下の物件には、依頼者1人から33万円まで受け取れる特例もあります(告示第七)。くわしい手順とひっかけは報酬の上限をわかりやすくへ。
まちがえやすいのは、建物の代金の消費税を抜き忘れることと、最後の1.1倍を忘れることです。
例題2:建ぺい率と容積率(法令上の制限)
例題(このサイトのオリジナル問題)
第一種住居地域にある敷地200平方メートル。都市計画で定められた建ぺい率は6/10、容積率は30/10。敷地は幅6メートルの道路にだけ接し、特定行政庁が指定した角地である。防火地域ではない。建築面積と延べ面積の上限はいくらか。
- 建ぺい率:角地の指定があるので、6/10に1/10を足して7/10(建築基準法53条3項2号)。200平方メートル×7/10=140平方メートル。
- 容積率:前面道路が12メートル未満なので、道路の幅に4/10をかけた数字と比べる(52条2項2号。第一種住居地域は住居系)。6×4/10=24/10。都市計画の30/10より小さいので、24/10が上限。
- 延べ面積:200平方メートル×24/10=480平方メートル。
答えは、建築面積140平方メートル、延べ面積480平方メートルです。容積率の計算で、商業系などの「6/10」をかけて36/10とし、都市計画の30/10を上限にしてしまうのが典型のまちがいです。計算の続き(緩和や、敷地が2つの地域にまたがる場合)は建ぺい率と容積率をわかりやすくで扱っています。
例題3:手付金等の保全(宅建業法)
例題(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Bが自ら売主となり、宅建業者ではない買主Cに、代金5,000万円のマンションを売る。手付金は500万円。(1)工事の完了前の物件の場合と、(2)完了後の物件の場合で、Bは手付金を受け取る前に保全措置をとる必要があるか。
- 手付の上限を確かめる:代金の2割は1,000万円。500万円はその範囲内(宅建業法39条1項)。
- 保全がいらない線を出す:完了前は「代金の5%以下で、かつ1,000万円以下」(41条1項ただし書、施行令3条の5)。完了後は「代金の10%以下で、かつ1,000万円以下」(41条の2第1項ただし書)。
- 比べる:(1)完了前の5%は250万円。500万円は超えるので、保全措置がいる。(2)完了後の10%は500万円。500万円は「以下」に入り、1,000万円以下でもあるので、保全措置はいらない。
同じ500万円でも、物件が完成しているかどうかで答えが変わります。「以下」と「超える」の境目に置かれた数字は、ちょうどの値がどちらに入るかを確かめます。くわしくは手付金等の保全措置をわかりやすくへ。
例題4:法定相続分(権利関係)
例題(このサイトのオリジナル問題)
Dが亡くなった。家族は、妻E、子F、子G。Gは、Dより先に亡くなっており、Gには子HとIがいる。それぞれの法定相続分はいくらか。
- 相続人を決める:配偶者Eと、子F。先に亡くなったGの分は、Gの子HとIが代わりに受け継ぐ(代襲相続。民法887条2項)。
- 配偶者と子の割合:配偶者と子が相続人なら、各2分の1(900条1号)。
- 子の分を分ける:子の2分の1を、FとGの2人で等しく分ける(900条4号)。F=4分の1、Gの分=4分の1。
- 代襲の分を分ける:HとIは、Gが受けるはずだった4分の1を等しく分ける(901条1項)。H=8分の1、I=8分の1。
答えは、E=2分の1、F=4分の1、H=8分の1、I=8分の1です。合計が1になるかで検算します。
もう1つ、兄弟姉妹の形も確かめます。子も親もいない人が亡くなり、配偶者と、父母が同じ兄と、父だけが同じ弟がいる場合。配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1(900条3号)。父母の一方だけが同じ兄弟姉妹は、父母が同じ兄弟姉妹の2分の1(900条4号ただし書)なので、兄:弟=2:1。兄=4分の1×3分の2=6分の1、弟=4分の1×3分の1=12分の1です。相続のルールそのものは相続をわかりやすくで説明しています。
養子・相続放棄・内縁の配偶者・胎児などを含めた10通りの家族の形での練習は、相続分の計算の記事にあります。
例題5:税額(税・その他)
例題(このサイトのオリジナル問題)
(令和8年4月1日現在の法令による)次の3つの税額を求める。(1)価格1,500万円の新築住宅を取得したときの不動産取得税(新築住宅の1,200万円控除の要件を満たす)。(2)固定資産課税台帳の価格2,000万円の土地を売買で取得したときの所有権の移転登記の登録免許税。(3)価格1,800万円の、面積200平方メートル以下の住宅用地(住宅1戸)の固定資産税(標準税率で計算)。
- 不動産取得税:(1,500万円−1,200万円)×3%=9万円。住宅の税率3%は特例(地方税法附則11条の2)、本則は4%(73条の15)。
- 登録免許税:2,000万円×15/1,000=30万円。土地の売買の軽減税率(租税特別措置法72条1項)。本則は20/1,000。
- 固定資産税:小規模住宅用地なので、課税標準は価格の6分の1で300万円(地方税法349条の3の2第2項)。300万円×1.4%=4万2,000円(350条)。
税の問題は、計算そのものより、「控除を引くのは価格からか税額からか」「6分の1か3分の1か」のような要件の取り違えで正誤が決まることが多い作りです。税額まで計算させる肢は手間のわりに1点で、要件を覚えていれば計算しなくても判断できることがあります。数字の整理は不動産の税金をわかりやすくにまとめています。
捨てていいか:損が大きいもの・小さいもの
5種類を1回ずつやってみると、手間と点の関係が見えてきます。当サイトの考えは次のとおりです。
- 捨てると損が大きい:報酬の上限と、建ぺい率・容積率。手順が3つほどで終わり、知識の問題(消費税の扱い、前面道路の4/10と6/10)と直結しています。計算を捨てると、その知識の問題まで落としやすくなります。手付金等の保全も、5%・10%・1,000万円の3つの数字で解けるので、捨てる理由がありません。
- 基本形は解く:法定相続分。配偶者と子、配偶者と兄弟姉妹、代襲の3つの形だけは手順で解けるようにします。半血の兄弟姉妹が何人もいるような複雑な形は、深追いしません。
- 後回しでよい:税額の細かい計算。まず要件(何を引くか、何分の1か)を覚え、計算は最後に回します。
「捨てる」は「やらない」ではなく、「深追いしない」と考えてください。計算の手順を一度も自分でやっていないと、計算を使わない知識の肢でも、数字の意味が分からず迷います。どこを削るかの全体の考え方は、宅建試験で捨ててもいい所・意外と捨てないほうがいい所で整理しています。
計算は種類を混ぜて練習する
5種類の手順は、1種類ずつまとめて練習するより、混ぜて練習するほうが、本番に近い形になります。
どんな実験か:Rohrer と Taylor(2007年)は、大学生に数学の問題の解き方を学ばせ、練習のしかたを比べました。問題を種類ごとにまとめて練習する組と、種類を混ぜて練習する組です。何が分かったか:1週間後のテストでは、混ぜて練習した組のほうが成績がよいという結果でした。ただし、実験は大学生の数学の問題で、宅建の計算で同じ差が出るかは確かめられていません。
試験勉強ではこう使う:宅建の本番では、計算の種類があらかじめ分かれて並んでいるわけではありません。どの手順を使うかを、問題文から自分で選ぶ必要があります。種類を混ぜて練習すると、「これは報酬の手順」「これは容積率の手順」と選ぶ練習もいっしょにできます。
- 5種類の例題を1枚ずつ紙に書き、シャッフルして、1日2〜3枚を解く。
- 解く前に、「どの手順か」と「境目の数字(400万円、12メートル、5%と10%など)」を先に書く。
- 手順を選びまちがえた例題は、3日後と1週間後にもう一度解く。
このやり方も、少ない時間で足りるという意味ではありません。手順を覚える時間と、混ぜて解き直す時間の両方が要ります。計算以外の肢をふくむ○✕は、このサイトの宅建の5分○✕ドリルで、宅建業法・法令上の制限・税の分野をまたいで続けて解けます。
今日からやること
- この記事の例題1〜5を、答えを隠して1回ずつ自分で計算する。
- 報酬と建ぺい率・容積率の手順(各3ステップ)を、メモに書いて持ち歩く。
- 境目の数字(400万円、12メートルと4/10・6/10、5%と10%と1,000万円、2分の1と4分の3)を1枚の表にする。
- 例題をカードにしてシャッフルし、1日2〜3枚を混ぜて解く。
- 税額の計算は、要件の表を覚えてから最後に回すと決める。
参考にした研究・資料(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令API(v2)で令和8年4月1日時点(asof=2026-04-01)の版を指定して確かめました。税の特例は令和8年4月1日現在の法令によります。
- Rohrer, D., & Taylor, K. (2007). The shuffling of mathematics problems improves learning. Instructional Science, 35(6), 481–498. https://doi.org/10.1007/s11251-007-9015-8
- 国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(令和6年7月1日施行の告示。第二・第三・第七)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(39条、41条、41条の2)、「宅地建物取引業法施行令」(3条の5)
- e-Gov法令検索「建築基準法」(52条、53条)
- e-Gov法令検索「民法」(887条、900条、901条)
- e-Gov法令検索「地方税法」(73条の14、73条の15、349条の3の2、350条、附則11条の2)
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」(72条)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(並びを確かめた令和3年度10月試験の問題冊子。公式の内訳ではない)
働く人の法律試験ノート