自ら貸主をわかりやすく:宅建業法がかからない取引の見分け方

自ら貸主(みずからかしぬし)とは、自分の土地や建物を、自分が貸主になって人に貸すことです。宅建業法では、自ら貸主は宅建業にあたりません。宅建業の定義(2条2号)に、「自分で貸すこと」が入っていないからです。

そのため、自ら貸主には、宅建業の免許がいりません。重要事項の説明(35条)も、37条書面も、報酬の上限もかかりません。宅建業者が自分のビルを自分で貸すときも同じで、その取引には宅建業法のルールがかかりません。借り上げた建物を貸す転貸(てんたい=また貸し)も、自ら貸主の一種です。一方、他人の物件の貸し借りの「代理」や「媒介」は宅建業です。この記事では、どの場面で宅建業法がかかるかを表で見分けます。

身近な例で考えると:アパートの大家・サブリース会社・仲介会社

登場人物を紹介します。

人物立場したこと
たけしさんアパートの持ち主(大家)部屋を貸して家賃を受け取りたい
そらまめ住宅借り上げ会社(宅建業者ではない)アパートを一括で借りて、各部屋をまた貸しする
こはる不動産宅建業者入居者探しを頼まれる会社
みさきさん会社員(借りる人)部屋を探している

たけしさんは、10部屋のアパートを持っています。部屋の貸し方は、次の3通りが考えられます。

  1. たけしさんが、自分でみさきさんに部屋を貸す。→ たけしさんは自ら貸主です。何部屋貸しても、何年続けても、宅建業ではありません。免許はいりません。
  2. たけしさんが、そらまめ住宅にアパートを一括で貸し、そらまめ住宅がみさきさんに部屋をまた貸しする。→ そらまめ住宅も、みさきさんとの関係では自分が貸主です。これも自ら貸主で、宅建業ではありません。
  3. たけしさんが、こはる不動産に「入居者を探して、契約をまとめて」と頼む。→ こはる不動産がしているのは貸借の媒介(ばいかい=間に入って契約をまとめること)です。これは宅建業です。こはる不動産は免許が必要で、みさきさんへの重要事項の説明や37条書面もいります。

1と2が宅建業にならないのは、宅建業の定義が、貸し借りについては「代理」と「媒介」だけを挙げているからです。自分で売ることは定義に入っているので、同じたけしさんでも、部屋を売り出すなら話が変わります。なお、宅建業法がかからなくても、部屋を貸すルールがないわけではありません。借りる人を守るルールは、借地借家法や民法が決めています。

条文ではこう決まっている(2条2号)

宅建業の定義は、宅建業法2条2号です。

  • 原文:「宅地若しくは建物(建物の一部を含む。以下同じ。)の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為で業として行うものをいう。」
  • 自分で行うと宅建業になるもの:売買・交換。
  • 代理・媒介をすると宅建業になるもの:売買・交換・貸借。
  • 入っていないもの:自分で貸すこと(自ら貸借)。転貸も、転貸する人が自分で貸すので、ここに入りません。

この定義から、次のことがつながって決まります。

  • 免許(3条1項):免許がいるのは「宅地建物取引業を営もうとする者」です。自ら貸主だけをする人は、宅建業を営んでいないので免許はいりません。
  • 37条書面(37条2項):貸借で37条書面を渡す義務があるのは、業者が「当事者を代理して契約を締結したとき」と「その媒介により契約が成立したとき」です。自分が貸主になる場合は書かれていません。
  • 重要事項の説明(35条):35条は、業者が取引の相手方や媒介の当事者に、契約が成立するまでに説明するルールです。自ら貸主の取引は宅建業の取引ではないので、この説明の場面になりません。
  • 報酬(46条):報酬の上限は、代理・媒介の報酬についてのルールです。自ら貸主が受け取るのは家賃で、報酬ではありません。

取引の種類と業者の立場の組み合わせは、広告の「取引態様の明示」とも結びつきます。この点は宅建業の広告のルールの記事で扱っています。

当てはめの表:どの場面で宅建業法がかかるか

場面ごとに並べます。「35条・37条」は、重要事項の説明と37条書面のことです。

場面宅建業にあたるか免許35条・37条
たけしさんが自分で部屋を貸すあたらないいらないかからない
そらまめ住宅が借り上げて転貸するあたらないいらないかからない
こはる不動産が入居者探しを媒介するあたるいるかかる
こはる不動産が、たけしさんの代わりに契約を結ぶ(代理)あたるいるかかる
宅建業者のこはる不動産が、自社ビルを自分で貸すその取引はあたらないもともと持っているかからない
たけしさんが、アパートを1部屋ずつ反復して売るあたるいるかかる(売主として)

5行目に注意します。こはる不動産は宅建業者ですが、自社ビルを自分で貸すことは宅建業の取引ではありません。だから、その借主に35条の説明や37条書面はいりません。「業者がする取引には全部ルールがかかる」と考えると、ここで落とします。

6行目は、同じたけしさんでも、貸すのではなく売るなら話が変わる、という例です。自分で売ることは2条2号に入っているので、反復継続して売るなら宅建業です。免許の要る・要らないの全体は宅建業の免許の記事で確かめてください。「宅地」「建物」「取引」「業として」の4つを順に当てはめて宅建業に当たるかを判定する練習は、宅建業に当たるかの記事にあります。

ルールごとにも並べておきます。

ルール自ら貸主(転貸も)貸借の媒介・代理
免許(3条)いらないいる
重要事項の説明(35条)かからない借りる人に説明
37条書面(37条2項)かからない各当事者などに交付
報酬の上限(46条)関係ない(家賃)かかる
広告の規制(32条・33条)かからないかかる

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例(自ら貸主なので宅建業法はかからない)

  • たけしさんが、駐車場付きのアパートを50人に貸している。→ 人数や期間に関係なく、自分で貸すだけなら宅建業ではありません。
  • そらまめ住宅が、何棟ものアパートを借り上げて、毎月たくさんの人にまた貸ししている。→ 転貸も自ら貸主です。反復継続していても、宅建業にはなりません。

当てはまらない例(宅建業にあたる)

  • こはる不動産が、そらまめ住宅から頼まれて、また貸しの入居者を探して契約をまとめた。→ 転貸借の媒介は、貸借の媒介です。こはる不動産の仕事は宅建業で、35条・37条がかかります。そらまめ住宅が自ら貸主だからといって、媒介した業者まで外れるわけではありません。
  • たけしさんが、アパートを建てる土地を区画に分けて、何人にも売り出した。→ 自分で売ることは宅建業の定義に入るので、免許が要ります。

ひっかけやすい例

  • 宅建業者が自ら貸主になるときも、37条書面がいる。→ 誤りです。37条2項が求めるのは、代理と媒介の場合だけです。
  • 転貸は「貸借の媒介」にあたる。→ 誤りです。転貸する人は、転借人(また借りする人)との関係で自分が貸主です。媒介は、他人どうしの契約の間に入ることです。
  • アパートの管理(家賃の集金や修理の手配)を頼まれた会社は宅建業者である。→ 管理だけなら2条2号のどれにもあたりません。ただし、その会社が入居者探しの媒介もするなら、その部分は宅建業です。

サブリース(借り上げて転貸する事業)には、宅建業法とは別に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」という法律があります。宅建業法の論点とは別なので、混ぜないようにします。

似ているルールとの違い:「自ら売主」と「自ら貸主」

同じ「自ら」でも、売主と貸主では扱いが正反対です。

立場宅建業にあたるか主なルール
自ら売主あたる(反復継続なら)免許、35条、37条、8種制限
自ら貸主あたらない宅建業法はかからない
貸借の媒介・代理あたる免許、35条、37条、報酬

宅建業者が自ら売主になると、8種制限(手付の上限など、業者が売主のときだけのルール)までかかります。自ら貸主になると、宅建業法そのものがかかりません。この差は、売買と貸借の違いからきています。8種制限の中身は8種制限の記事にまとめています。

試験ではここをまちがえやすい

自ら貸主は宅建試験の宅建業法の論点です(行政書士試験の範囲ではありません)。宅建試験では、次のような形で取り違えやすい論点です。

  • 主語が業者だと全部かかると思う:「宅建業者Aが自ら貸主として」と書かれていても、その取引に35条・37条はかかりません。主語ではなく、取引の種類で決めます。
  • 転貸と媒介の取り違え:「一括で借り上げて転貸する」は自ら貸主です。「転貸の入居者探しを頼まれた」は媒介です。
  • 反復継続・規模で宅建業にする:「多数の人に反復継続して貸すので免許が要る」は誤り。貸すことはそもそも定義に入らないので、規模は関係ありません。
  • 売るときと混ぜる:同じ人が、貸すのをやめて分譲(反復して売る)を始めたら、宅建業になります。
  • 媒介した業者まで外す:貸主が自ら貸主でも、間に入った業者には35条・37条・報酬の上限がかかります。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの宅建業法(宅建業の定義と適用除外)で続けて解けます。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが、自ら所有するアパートの一室を、宅建業者でないBに賃貸した。Aが、宅建士に重要事項の説明をさせずにBと賃貸借契約を結んでも、宅建業法に違反しない。

答え:○ 分かれ目は、Aの取引が宅建業にあたるかどうかです。自分で貸すことは宅建業の定義(2条2号)に入っていないので、Aが宅建業者でも、この取引は35条の説明の場面になりません。主語が宅建業者なので✕に見えますが、ルールは主語ではなく取引の種類で決まります。宅建業者が自ら「売主」になる場合なら、35条の説明が必要です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Cが、Dから一括で借り上げたマンションの一室を、Eに転貸した。この転貸は貸借の媒介にあたるので、CはEに37条書面を交付しなければならない。

答え:✕ 分かれ目は、転貸と媒介の区別です。Cは、Eとの関係では自分が貸主(自ら貸主)なので、37条書面を交付する義務はありません。正しくは、37条2項が交付を求めるのは、業者が貸借の代理で契約を結んだときと、媒介で契約が成立したときだけです。媒介は他人どうしの契約の間に入ることで、自分が貸す転貸とは違います。

問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者でないFが所有するビルの空室について、宅建業者Gが入居者Hを見つけ、賃貸借契約を媒介した。Gは、Hには宅建士に重要事項の説明をさせなければならないが、貸主Fに説明する必要はない。

答え:○ 分かれ目は、35条の説明の相手です。35条1項は、相手方等に対し、「その者が取得し、又は借りようとしている」物件について説明させるルールなので、説明を受けるのは借りる側のHです。貸主Fも媒介の当事者なので✕に見えますが、Fは借りようとしている人ではありません。これに対して37条書面は、媒介のときは「各当事者」に交付するので、FとHの両方に渡します(37条2項)。

まとめ

  • 自ら貸主(自分で貸す)は、宅建業の定義(2条2号)に入っていない。免許はいらない。
  • 自ら貸主の取引には、35条の説明・37条書面・報酬の上限・広告の規制がかからない。宅建業者が自分で貸すときも同じ。
  • 借り上げて貸す転貸も自ら貸主。規模や反復継続は関係ない。
  • 貸借の代理・媒介は宅建業。転貸の入居者探しを媒介した業者には35条・37条がかかる。
  • 同じ「自ら」でも、自ら売主は宅建業で、8種制限までかかる。

次に読むなら、宅建業の免許の記事がおすすめです。「宅地」「業として」の意味や、免許がいらない国・地方公共団体の扱いまで押さえると、免許の問題を一つの流れで判断できます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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