土地や建物を売ってもうけ(譲渡益=じょうとえき)が出ると、所得税と住民税がかかります。給料などとは分けて計算します。売った年の1月1日の時点で、持っていた期間が5年を超えていれば「長期」で所得税15%、5年以下なら「短期」で所得税30%です(住民税は長期5%、短期9%)。
自分が住んでいた家を売ったときは、税を軽くする特例があります。もうけから3,000万円を引ける特例、10年を超えて持っていた家の税率を下げる特例、買い換えたときに税金を先に送る特例です。ただし、特例どうしや、家を買うときの住宅ローン控除とは、いっしょに使えない組み合わせがあります。
この記事では、所得税の「譲渡所得(じょうとしょとく)」と、自宅を売ったときの主な特例を扱います。不動産取得税・固定資産税は不動産の税金をわかりやすく、印紙税・登録免許税は印紙税と登録免許税をわかりやすくで説明しています。数字は、令和8年度の宅建試験の基準となる令和8年4月1日時点の法令で確かめました(国税庁の「令和8年4月1日現在法令等」の説明と、e-Gov の条文)。
身近な例で考えると
登場人物は2人です。12年住んだマンションを売って買い換える会社員のまさるさんと、3年前に買った土地を売ろうか迷っているあやかさんです。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| まさるさん | 自宅の持ち主 | 自宅を売って、新しい家を買う |
| あやかさん | 土地の持ち主 | 買った土地をいつ売るか考える |
まさるさんが自宅を売ったとき
- 平成25年10月:まさるさんが中古マンションを買って住み始める。
- 令和8年5月:家族が増えたので、そのマンションを5,500万円で売る。不動産屋さんへの仲介手数料など、売るためにかかったお金(譲渡費用)は200万円。
- 同じ年に、住宅ローンを組んで新しいマンションを買い、住み始める。
税金のもとになるもうけは、ざっくり言うと「売った値段−(買ったときのお金+売るためのお金)」です。買ったときのお金を取得費(しゅとくひ)といいます。建物は年がたつと傷むので、その分(減価償却費=げんかしょうきゃくひ相当額)を引いて計算します。ここでは、取得費が3,200万円になったとします(このサイトで作った計算例です)。
もうけは、5,500万円−(3,200万円+200万円)=2,100万円です。まさるさんは自分が住んでいた家を売ったので、3,000万円の特別控除が使えます。2,100万円から3,000万円を引くとゼロ以下になるので、この売却には所得税がかかりません。
ところが、まさるさんは同じ年に新しい家に住み始めています。3,000万円控除を使うと、新しい家の住宅ローン控除は使えません。どちらか一方を選ぶことになります。
あやかさんが土地を売るとき
- 令和5年3月10日:あやかさんが土地を買う。
- 令和10年5月:売ろうかと考える。この時点で、実際に持っていた期間は5年2か月。
あやかさんは「5年を超えたから長期だ」と思いました。ところが、長期か短期かは、売った年の1月1日で数えます。令和10年1月1日の時点では4年9か月しかたっていません。今のルールのままなら、令和10年に売ると短期(所得税30%)です。令和11年に売れば、1月1日の時点で5年9か月なので長期(所得税15%)になります。
たとえるなら、毎年1月1日にだけ「何年持っているか」の名札を付け替えるイメージです。年の途中で5年を過ぎても、名札は次の1月1日まで変わりません。ただし本物のルールでは、名札を見るのは「売った年の1月1日」の一回だけです。
条文ではこう決まっている
譲渡所得とは(所得税法33条)
- 譲渡所得:資産を売るなどして手放したことによる所得(33条1項)。
- 入らないもの:商品として売る土地(たな卸資産)など、もうけるためにくり返し売ることによる所得は、譲渡所得に入らない(33条2項1号)。
- 計算:その年の収入金額から、取得費と譲渡費用の合計を引く(33条3項)。
- 取得費が分からないとき:昔から持っている土地などで買った値段が分からなければ、売った金額の5%を取得費にできる(国税庁の説明)。
長期と短期(租税特別措置法31条・32条)
土地や建物の譲渡所得は、ほかの所得と分けて税額を出します(分離課税)。
- 長期譲渡所得:売った年の「一月一日において」所有期間が5年を超える土地・建物。所得税は15%(31条1項)。
- 短期譲渡所得:売った年の1月1日に所有期間が5年以下。所得税は30%(32条1項)。
- 住民税:国税庁の説明では、長期は5%、短期は9%。所得税には、このほかに復興特別所得税もかかります。
自宅を売ったときの3,000万円控除(35条)
- 自分が住んでいる家と、その敷地を売ったとき、もうけから最高3,000万円を引ける(35条1項・2項)。
- 住まなくなった家でも、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売れば対象(35条2項)。
- 所有期間の条件はない。国税庁も「所有期間の長短に関係なく」使えると説明しています。
- 使えないとき:前年か前々年に、この控除などを受けている場合。売った年・前年・前々年に買換え特例(36条の2)などを受けている場合。配偶者など「特別の関係がある人」への売却(35条2項)。国税庁は、親子・夫婦などへの売却を例にあげています。
10年超の自宅の軽減税率(31条の3)
- 売った年の1月1日で、家と敷地の所有期間がどちらも10年を超える自宅を売ったとき(31条の3第1項、国税庁の説明)。
- 所得税の税率:課税される長期譲渡所得のうち、6,000万円以下の部分は10%、6,000万円を超える部分は15%。
- 前年か前々年にこの特例を受けていると使えない。特別の関係がある人への売却も対象外。
- 3,000万円控除と重ねて使える(国税庁の説明)。
特定の居住用財産の買換え特例(36条の2)
- 売る家の条件:売った年の1月1日で所有期間が10年超、住んでいた期間が10年以上、売った値段が1億円以下。
- 令和8年4月1日時点では、令和9年12月31日までの売却が対象(国税庁の説明と e-Gov の現行の条文)。
- 買う家の条件:売った年の前年から翌年までの3年の間に買う。床面積50㎡以上、敷地500㎡以下など(国税庁の説明)。
- 効果:売った値段が買った値段以下なら、売ったことがなかったものとして、そのときは課税しない。上回れば、その差の部分だけ課税する。税金が消えるのではなく、先に送られる(繰延べ=くりのべ)しくみです。
住宅ローン控除(41条)
正式には「住宅借入金等特別控除」といいます。家を買う側の特例です。
- 年末の借入残高の0.7%を、所得税から差し引く(41条、国税庁の説明)。令和12年12月31日までに住み始めた場合が対象。
- 主な条件:新築や取得から6か月以内に住む。床面積50㎡以上で、半分以上を自分が住むために使う。返済期間が10年以上の借入れ。合計所得金額が2,000万円以下の年に使える。
- 40㎡以上50㎡未満の家は、一定の住宅で、合計所得金額が1,000万円以下の年に限る。
- 控除の期間は、住宅の省エネ性能と住み始めた年で変わります。新築の認定住宅などは13年です。国税庁の表では、令和6年以後に住み始めた新築の「その他の住宅」は、原則として対象外です(一定の条件を満たせば10年)。
- 住み始めた年と、その前2年・後3年の合わせて6年間に、3,000万円控除などの譲渡の特例を受けると、住宅ローン控除は使えない(国税庁の説明)。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例
- 3年しか住んでいない自宅を売った:3,000万円控除には所有期間の条件がないので、使えます。ただし所有5年以下なら、残ったもうけは短期の税率です。10年超の軽減税率は使えません。
- 転勤で空き家にした自宅を、2年後に売った:住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までなら、3,000万円控除の対象です。
当てはまらない例
- まさるさんが自宅を息子に売った:親子は「特別の関係がある人」の例です。3,000万円控除も軽減税率も使えません。
- 週末だけ使う別荘を売った:国税庁は、主として趣味や保養のための家屋は対象外としています。
- 宅建業者が商品として持つ土地を売った:もうけるためにくり返し売る土地(たな卸資産)の所得は、譲渡所得に入りません(所得税法33条2項1号)。
ひっかけやすい例
- 1月1日の数え方:あやかさんのように、実際に5年を超えて持っていても、売った年の1月1日で5年以下なら短期です。
- 3,000万円控除と買換え特例:同じ家の売却で、両方は使えません。3,000万円控除で税金をゼロにするか、買換え特例で先に送るかを選びます。
- 3,000万円控除と軽減税率:こちらは重ねて使えます。3,000万円を引いて残ったもうけに、軽い税率をかけます。
似ているルールとの違い
自宅を売ったときの特例と、買ったときの住宅ローン控除をまとめると、次のとおりです。
| 特例 | 持っていた期間 | 中身 |
|---|---|---|
| 3,000万円控除 | 条件なし | もうけから3,000万円を引く |
| 軽減税率 | 10年超 | 6,000万円以下の部分は所得税10% |
| 買換え特例 | 10年超(住んだのも10年以上) | 課税を先に送る |
| 住宅ローン控除 | (買う側の特例) | 年末残高の0.7%を税額から引く |
組み合わせは次の3つを押さえます。①3,000万円控除と軽減税率は併用できる。②3,000万円控除と買換え特例は併用できない。③譲渡の特例を受けると、前後の決まった期間は住宅ローン控除が使えない。
もう一つ、税の種類の違いです。この記事の譲渡所得は所得税(国の税)と住民税です。家を買ったときに1回だけ都道府県に納める不動産取得税や、毎年市町村に納める固定資産税は、地方税法のルールです。混ぜないようにしてください。
宅建試験ではここをまちがえやすい
宅建試験の出題範囲には「宅地及び建物についての税に関する法令」が入っています(宅建業法施行規則8条4号)。行政書士試験の中心となる範囲ではありません。宅建では、次のような入れ替えの形で問われやすいといえます。
- 長期・短期の基準日:「売った日」や「契約した日」で5年を数える形。正しくは売った年の1月1日です。
- 3,000万円控除に所有期間を付け足す:「10年を超えて持っていた場合に限る」とする形。10年超が条件なのは軽減税率と買換え特例です。
- 併用の可否の入れ替え:3,000万円控除と軽減税率は併用できる。3,000万円控除と買換え特例は併用できない。
- 特別の関係:配偶者や親子への売却でも使えるかのように書く形。
- 買換え特例の効果:「課税されない(免除)」とする形。正しくは課税の繰延べです。売った値段が買った値段を上回れば、その部分には課税されます。
- 住宅ローン控除の数字:控除率0.7%、合計所得金額2,000万円以下、床面積50㎡以上、返済期間10年以上、6か月以内に住む。
- 住宅ローン控除との組み合わせ:住み始めた年の前2年・後3年に3,000万円控除などを受けると使えない。
特例の期限や数字は、毎年の税制改正で変わることがあります。古い問題集の数字は、令和8年4月1日時点のものか確かめてください。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題) 令和5年3月10日に取得した土地を令和10年5月に売った場合、売った日に所有期間が5年を超えているので、長期譲渡所得になる。
答え:✕ 長期か短期かは、売った年の1月1日の所有期間で判定します(租税特別措置法31条1項・32条1項)。令和10年1月1日の時点では5年以下なので、短期譲渡所得です。
問2(このサイトのオリジナル問題) 自分が住んでいる家を売ったときの3,000万円の特別控除は、その家の所有期間が10年を超えていなければ使えない。
答え:✕ 3,000万円控除(35条)には所有期間の条件がありません。所有期間10年超が条件なのは、軽減税率の特例(31条の3)や買換え特例(36条の2)です。
問3(このサイトのオリジナル問題) 自宅を売って3,000万円の特別控除を受けた人は、同じ年の売却について、所有期間10年超の軽減税率の特例を重ねて受けることはできない。
答え:✕ 国税庁は、3,000万円控除と軽減税率の特例は重ねて受けられると説明しています。3,000万円を引いたあとに残ったもうけに、軽い税率をかけます。
まとめ
- 土地・建物の譲渡所得は分離課税。売った年の1月1日で所有5年超なら長期(所得税15%)、5年以下なら短期(所得税30%)。
- 自宅を売ったら3,000万円控除。所有期間の条件はない。配偶者・親子などへの売却や、前年・前々年に受けた場合は使えない。
- 10年超の自宅は軽減税率(6,000万円以下の部分は所得税10%)。3,000万円控除と併用できる。
- 買換え特例は「10年超・住んで10年以上・1億円以下」で、課税の繰延べ。3,000万円控除とは併用できない。
- 住宅ローン控除は0.7%・所得2,000万円以下・50㎡以上。譲渡の特例と前後の期間で重なると使えない。
このサイトで次に読むなら、家を買うときのお金の仕組みを扱う住宅金融支援機構をわかりやすくがおすすめです。住宅ローンの話と税の話を続けて読むと、「売る・買う」の流れがつながります。税の分野をどこまで深くやるか迷うなら、宅建試験で捨ててもいい所・意外と捨てないほうがいい所も参考になります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「所得税法」(33条)
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」(31条・31条の3・32条・35条・36条の2・41条)
- 国税庁 タックスアンサーNo.3208 長期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 タックスアンサーNo.3211 短期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 タックスアンサーNo.3258 取得費が分からないとき
- 国税庁 タックスアンサーNo.3302 マイホームを売ったときの特例
- 国税庁 タックスアンサーNo.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例
- 国税庁 タックスアンサーNo.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例
- 国税庁 タックスアンサーNo.1211-1 住宅借入金等特別控除(新築住宅等)
働く人の法律試験ノート