ひとことで言うと、争点訴訟(そうてんそしょう)は、ある処分が無効であることを前提にして、私人どうしが所有権などの私法上の権利を争う民事訴訟です。処分の存否や効力が争点(争いの中心)になるので、行政事件訴訟法45条が、行政庁への通知や訴訟への参加などの規定を当てはめています。
争点訴訟は、行政事件訴訟法2条の4つの類型(抗告訴訟・当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟)のどれにも入りません。あくまで民事訴訟で、45条はそのうち一部の手続を整える条文です。この記事では、争点訴訟を、同じく処分の無効を争う無効等確認の訴え(36条)と、当事者訴訟(4条)と比べます。無効等確認の訴えの全体は取消訴訟以外の抗告訴訟の記事、当事者訴訟は当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟の記事で扱っています。
身近な例で考えると
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| まさひろさん | 元の土地の持ち主 | 公売は無効だと考えている |
| 税務署長 | 処分をした行政庁 | まさひろさんの土地を公売した |
| あやのさん | 買受人(私人) | 公売で土地を買い、登記をした |
- 税務署長は、まさひろさんが国税を滞納したとして、まさひろさんの土地を差し押さえ、公売にかけた。
- あやのさんが公売で土地を買い受け、所有権移転の登記を受けた。
- 1年後、まさひろさんは、公売には重大で明らかな誤りがあり無効だと気づいた。取消訴訟の出訴期間(処分を知った日から6か月など)は過ぎている。
- まさひろさんの本当の目的は、土地を取り戻すこと。そこで、あやのさんを相手に「土地は自分のものだ」という所有権の確認と、登記の抹消を求める民事訴訟を起こす。
この訴えでは、まさひろさんの所有権が残っているかどうかを決めるために、「公売処分は無効か」が争点になります。これが争点訴訟です。被告は、処分をした国ではなく、土地の登記を持つあやのさんです。裁判所は、処分をした税務署長に訴えがあったことを知らせ、必要なら行政庁を訴訟に参加させることができます(45条1項で39条・23条を準用)。
たとえるなら、学校のくじ引きで決まった係を、別の生徒から返してもらおうとする話し合いです。話し合いの相手は係を持っている生徒ですが、「そもそもくじ引きが無効だったか」が中心になるので、くじを担当した先生にも知らせて意見を聞きます。ただし本物の争点訴訟では、無効と言えるほどの誤りが必要で、取り消せる程度の誤りなら、取消訴訟などで先に処分をなくさなければなりません。
条文ではこう決まっている
争点訴訟(45条)
- 場面(1項):「私法上の法律関係に関する訴訟において、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無が争われている場合」。
- 準用(1項):行政庁の訴訟参加(23条1項・2項)と、処分をした行政庁への出訴の通知(39条)。
- 参加した行政庁(2項):民事訴訟法の補助参加の規定の一部を準用する。ただし、攻撃または防御の方法は、処分や裁決の存否・効力に関するものに限り提出できる。
- 参加の取消し(3項):処分の存否・効力についての争いがなくなったときは、裁判所は参加の決定を取り消すことができる。
- そのほかの準用(4項):その争点について、職権証拠調べ(24条)などの規定を準用する。
45条が準用しない規定も大事です。取消訴訟の出訴期間(14条)や被告適格(11条)は準用されません。争点訴訟は民事訴訟なので、被告は私法上の法律関係の相手方で、取消訴訟のような期間の制限もありません。
無効等確認の訴えと補充性(36条)
無効等確認の訴えを起こせるのは、次のどちらかに当たる人です(36条)。
- その処分に続く処分によって損害を受けるおそれのある者。
- その他、無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、処分の存否・効力を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないもの。
後半の「現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない」という条件を、補充性といいます。「現在の法律関係に関する訴え」の代表が、争点訴訟と当事者訴訟です。まさひろさんのように、所有権の確認と登記の抹消で目的(土地を取り戻すこと)を達せるなら、原則として、無効確認の訴えではなく争点訴訟を使う、という関係になります。
補充性を広く認めた判例(最高裁昭和62年4月17日)
最高裁判所第二小法廷昭和62年4月17日判決(昭和57年(行ツ)第97号)は、土地改良区が土地改良事業でした換地処分(かんちしょぶん=もとの土地の代わりに新しい土地を割り当てる処分)について、照応の原則(もとの土地と新しい土地が見合っていること)違反を理由とする換地処分の無効確認の訴えは、適法としました。
- 照応の原則違反を主張するのは、より有利な換地を求めることにほかならず、もとの土地の権利を守ることが目的ではない。
- 施行地域内の多くの権利者に対する換地処分は、通常、互いに連鎖し関連し合っている。無効を前提に、もとの土地の所有権確認などを個別に争っても、紛争の解決にふさわしくない。
- 換地処分の無効確認の訴えのほうが「より直截的で適切な争訟形態」であり、36条の「目的を達することができない」場合に当たる。
つまり補充性は、「民事訴訟が形の上で起こせるか」ではなく、「その訴えで紛争を適切に解決できるか」で判断されます。原子炉の設置許可の無効確認について同じ考え方を示した平成4年9月22日判決は、抗告訴訟の種類の記事で紹介しています。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:まさひろさんが、公売処分の無効を前提に、買受人のあやのさんに所有権の確認と登記の抹消を求める訴え。私法上の法律関係(土地の所有権)の訴えで、処分の効力が争点なので争点訴訟です。
- 当てはまる例:土地収用の裁決が無効だとして、もとの持ち主が起業者に土地の所有権の確認と登記の抹消を求める訴え。所有権という私法上の権利を争い、裁決の効力が争点になります。
- 当てはまらない例:公務員が免職処分は無効だとして、国を相手に公務員の地位の確認を求める訴え。争うのは公法上の法律関係なので、教科書では争点訴訟ではなく実質的当事者訴訟(4条後段)の例とされます。
- 当てはまらない例:収用の補償金の額だけを争う訴え。法令の定めで起業者などを被告とする形式的当事者訴訟(4条前段)です。
- ひっかけやすい例:公売処分に、取り消せる程度の誤りしかない場合。処分は取り消されるまで有効として扱われるので、民事訴訟の中で効力を否定することはできません。期間内に取消訴訟などで争う必要があります。考え方は行政行為の瑕疵の記事にまとめています。
似ているルールとの違い
| 比べる点 | 争点訴訟 | 無効等確認の訴え | 当事者訴訟 |
|---|---|---|---|
| 種類 | 民事訴訟(45条) | 抗告訴訟(3条4項) | 行政事件訴訟(4条) |
| 争う相手 | 私法上の法律関係の相手方 | 国・公共団体(38条1項で11条を準用) | 法令で定める当事者、または公法上の法律関係の相手方 |
| 求めること | 所有権の確認など私法上の権利 | 処分が無効であることの確認 | 補償金の額、公法上の地位の確認など |
| 出訴期間 | なし | なし(14条は準用しない) | 個別の法律に定めがあることがある |
3つとも、取消訴訟の6か月の出訴期間に縛られない点で似ています。分かれ目は、①争う法律関係が私法上か公法上か、②処分そのものの無効の確認を求めるのか、処分を前提にした今の権利を求めるのか、の2点です。①で争点訴訟と当事者訴訟が分かれ、②で無効等確認の訴えとほかの2つが分かれます。取消訴訟の出訴期間と被告の決まりは取消訴訟の記事で確かめられます。
試験ではここをまちがえやすい
- 被告:争点訴訟の被告を「処分をした行政庁の属する国」とする形。被告は私法上の法律関係の相手方(買受人など)です。国が被告になるのは無効等確認の訴えです。
- 訴えの種類:争点訴訟を当事者訴訟や抗告訴訟の一種とする形。争点訴訟は民事訴訟で、45条は一部の規定を準用するだけです。
- 参加した行政庁の主張:参加した行政庁が、処分の効力と関係のない点についても攻撃防御方法を出せるとする形。処分の存否・効力に関するものに限られます(45条2項ただし書)。
- 補充性の判断:「民事訴訟を起こせる以上、無効確認の訴えは起こせない」と言い切る形。換地処分の判例は、無効確認の訴えのほうが直截的で適切なら、36条の要件を満たすとしました。
- 出訴期間:争点訴訟にも6か月の出訴期間があるとする形。45条は14条を準用していません。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
税務署長の公売処分によって、Aの土地をBが買い受け、登記を受けた。処分から1年後、Aは、公売処分は無効であるとして、Bを被告として土地の所有権の確認を求める訴えを起こした。この訴えは、取消訴訟の出訴期間を過ぎていても起こすことができる。
答え:○ 分かれ目は、この訴えの種類です。処分の無効を前提に私法上の法律関係(所有権)を争う訴えは民事訴訟で、処分の効力が争点になる争点訴訟です(行政事件訴訟法45条1項)。45条が準用するのは、行政庁の参加(23条)や出訴の通知(39条)などで、取消訴訟の出訴期間(14条)は準用されません。処分の効力を争う以上、取消訴訟と同じ期間の制限がかかると考えると✕に見えます。なお、無効とまでは言えない誤りなら、この訴えの中で処分の効力を否定することはできません。
問2(このサイトのオリジナル問題)
問1の場面で、Aが公売処分の無効を前提に土地の所有権の確認を求めるときは、Aは、公売処分をした税務署長の属する国を被告としなければならない。
答え:✕ 分かれ目は、争点訴訟の被告です。争点訴訟は「私法上の法律関係に関する訴訟」で(行政事件訴訟法45条1項)、取消訴訟の被告の規定(11条)は準用されていません。正しくは、Aは、土地の所有権を争う相手である買受人Bを被告とします。処分をした税務署長には、裁判所から出訴の通知がされ(39条の準用)、行政庁が訴訟に参加することもあります(23条の準用)。国を被告とするのは、処分の無効そのものの確認を求める無効等確認の訴え(38条1項で11条を準用)で、それと取り違えると○に見えます。
問3(このサイトのオリジナル問題)
土地改良区から土地改良事業の換地処分を受けたCが、照応の原則に反するとして換地処分の無効を主張する場合、判例によれば、Cは、もとの土地の所有権の確認などの民事訴訟によらず、換地処分の無効確認の訴えを起こすことができる。
答え:○ 分かれ目は、36条の補充性の判断のしかたです。最高裁判所第二小法廷昭和62年4月17日判決は、照応の原則違反の主張は、より有利な換地を求めるもので、もとの土地の所有権確認などの訴えは紛争を解決する形として適切ではなく、換地処分の無効確認の訴えのほうが「より直截的で適切な争訟形態」だとして、この訴えを適法としました(行政事件訴訟法36条)。もとの土地の所有権確認の民事訴訟を形の上で起こせる以上、補充性の条件を満たさないと考えると✕に見えます。問1・問2の公売のように、私法上の権利の訴えで目的を達せる場面とは分けて考えます。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。
まとめ
- 争点訴訟は、処分の無効を前提に私法上の権利を争う民事訴訟。被告は私人などの相手方。
- 45条は、行政庁の参加(23条)・出訴の通知(39条)などを準用。参加した行政庁の主張は処分の存否・効力に限る。
- 無効等確認の訴えは、現在の法律関係に関する訴えで目的を達せない場合に起こせる(36条の補充性)。
- 土地改良事業の換地処分の無効確認は適法(昭和62年4月17日)。補充性は、紛争を適切に解決できるかで判断する。
次に読むなら、当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟の記事がおすすめです。この記事の表の「当事者訴訟」の列を、補償金の訴えや地位の確認の訴えの例で広げています。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨と判決全文を確かめました。
- e-Gov法令検索「行政事件訴訟法」(第3条第4項、第4条、第11条、第14条、第23条、第36条、第38条第1項、第39条、第45条)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 昭和62年4月17日判決(昭和57年(行ツ)第97号)」(照応の原則違反を理由とする換地処分無効確認の訴えの適法性)
働く人の法律試験ノート