採草放牧地と農地法:3条・4条・5条で農地と何が違うか、採草放牧地を農地にするとき

ひとことで言うと、採草放牧地(さいそうほうぼくち)は、農地以外の土地で、主に耕作や養畜(ようちく=家畜を育てること)の事業のために、草を刈ったり家畜を放したりするのに使う土地です(農地法2条1項)。農地法では、売ったり貸したりする3条と、転用のために権利を移す5条は農地と同じく対象ですが、持ち主が自分で転用する4条は、農地だけが対象です。採草放牧地を畑にするために買うときは、5条ではなく3条の許可です。

この記事では、採草放牧地が農地とどこで違う扱いになるかに絞ります。農地法の全体の流れは農地法の記事、農地・採草放牧地の賃貸借の決まりは農地の賃貸借の記事に任せます。条文は、令和8年4月1日時点の農地法を e-Gov 法令検索で確かめています。

身近な例で考えると

登場人物は、牛を育てる牧場を営むそうたさん、となりの牧場のれんさん、畑で野菜を作るみおさん、建設会社のひかり社です。そうたさんの土地は、牛のえさにする草を刈る草地で、市街化区域の外にあるとします(架空の話です)。

人物立場したいこと
そうたさん採草放牧地の持ち主貸す・売る・自分で使い道を変える
れんさんとなりの牧場主牛を放すため借りる
みおさん野菜の農家買って畑にする
ひかり社建設会社買って資材置場にする
  1. れんさんが、牛を放すために、そうたさんの草地を借りる。→ 採草放牧地に賃借権を設定するので、3条の許可(農業委員会)が要る。
  2. そうたさんが、草地の一部を、自分で資材置場に変える。→ 4条は「農地を農地以外のものにする者」が対象。採草放牧地は入らないので、農地法の許可は要らない。
  3. ひかり社が、草地を買って資材置場にする。→ 採草放牧地を採草放牧地以外のもの(農地を除く)にするための権利の移転なので、5条の許可(都道府県知事等)が要る。
  4. みおさんが、草地を買って畑にする。→ 5条は農地にする場合を除いているので、5条ではなく、採草放牧地の権利の移転として3条の許可が要る。
  5. そうたさん自身が、草地を耕して畑にする。→ 権利は動かず、4条の対象でもないので、農地法の許可は要らない。

たとえると、農地法は「田畑を守る」法律で、採草放牧地は「田畑の仲間として、持ち主が替わるときだけ見張られる土地」です。ただし本物のルールでは、農地以外のものにするために権利を移すときは5条でも見張られます。見張りが外れるのは、持ち主が自分で使い道を変える4条の場面です。

条文ではこう決まっている

採草放牧地とは(2条1項)

  • 農地:「耕作の目的に供される土地」。
  • 採草放牧地:「農地以外の土地で、主として耕作又は養畜の事業のための採草又は家畜の放牧の目的に供されるもの」。

農林水産省の「農地法関係事務に係る処理基準」は、「耕作」を「土地に労費を加え肥培管理を行って作物を栽培すること」と説明し、農地や採草放牧地に当たるかは「その土地の現況によって判断するのであって、土地の登記簿の地目によって判断してはならない」としています。牧草でも、土地に手を加え肥料をやって育てているなら、この意味の耕作に当たるかを考えます。当たれば、その土地は採草放牧地ではなく農地として扱われます。

3条(権利の移動)

  • 「農地又は採草放牧地について」所有権を移転し、または地上権・永小作権・質権・使用貸借による権利・賃借権などを設定・移転する場合は、当事者が農業委員会の許可を受ける(3条1項)。
  • 許可を受けないでした行為は、効力を生じない(3条6項)。

4条(自分で転用する)

  • 「農地を農地以外のものにする者」は、都道府県知事等の許可を受ける(4条1項)。
  • 採草放牧地を採草放牧地以外のものにすることは、4条の対象になっていない。

5条(転用のために権利を移す)

  • 「農地を農地以外のものにするため又は採草放牧地を採草放牧地以外のもの(農地を除く。)にするため」、3条1項本文の権利を設定・移転する場合は、当事者が都道府県知事等の許可を受ける(5条1項)。
  • 市街化区域内の農地または採草放牧地について、あらかじめ農業委員会に届け出て、農地・採草放牧地以外のものにするために権利を取得する場合は、許可は要らない(5条1項6号)。
  • 許可を受けない行為は効力を生じない、という3条6項が準用されている(5条3項)。

3条・4条・5条を1枚で比べる

条文農地採草放牧地
3条(権利の移動)許可(農業委員会)許可(農業委員会)
4条(自分で転用)許可(知事等)対象外。許可は要らない
5条(転用のための権利の移動)許可(知事等)農地以外にするなら許可(知事等)。農地にするなら3条
市街化区域の特例4条・5条とも、あらかじめ農業委員会に届出5条は届出で足りる。4条はもともと対象外

表の右の列を上から読むと、採草放牧地の扱いは「権利が動けば許可、動かなければ不要」とまとめられます(市街化区域の届出の特例を除く)。権利が動く場面のうち、行き先が農地なら3条、農地以外なら5条です。

当てはまる例・当てはまらない例

特に書いていないときは、土地は市街化区域の外にあるものとします。

例1:放牧のための賃貸(当てはまる例)

そうたさんが、れんさんに草地を賃貸する。採草放牧地に賃借権を設定するので、3条の許可が要ります。使い道が変わらなくても、権利が動けば許可の対象です。

例2:自分で資材置場にする(当てはまらない例)

そうたさんが、自分の草地を自分で資材置場にする。4条は農地だけが対象なので、農地法の許可は要りません。同じことを農地でするなら、4条の許可が要ります。

例3:買って資材置場にする(当てはまる例)

ひかり社が、そうたさんの草地を買って資材置場にする。採草放牧地を採草放牧地以外のものにするための権利の移転なので、5条の許可が要ります。例2との違いは、権利が動くかどうかです。

例4:買って畑にする(ひっかけやすい例)

みおさんが、草地を買って畑にする。使い道が変わるので5条に見えますが、5条は「農地を除く」としています。採草放牧地の所有権の移転として、3条の許可が要ります。

例5:自分で耕して畑にする(当てはまらない例)

そうたさん自身が草地を耕して畑にする。権利は動かず、4条は農地を農地以外にする場合だけなので、許可は要りません。畑になった後は農地なので、それを転用するなら4条の対象になります。

例6:市街化区域内の採草放牧地(当てはまる例)

市街化区域内にある採草放牧地を、ひかり社が倉庫を建てるために買う。あらかじめ農業委員会に届け出て取得すれば、5条の許可は要りません(5条1項6号)。届出の特例は、農地だけでなく採草放牧地にも使えます。

似ているルールとの違い

採草放牧地は、ほかの法律でも農地と並んで扱われることがあります。ただし、同じ扱いとは限りません。

場面農地採草放牧地
賃貸借の対抗力(16条1項)引渡しで対抗できる引渡しで対抗できる
国土法の事後届出3条の許可がいる場合は届出不要3条の許可がいる場合は届出不要
判断の基準現況(耕作の目的)現況(採草・放牧の目的)。農地に当たらないことが前提

国土法の事後届出が要らない場合は、国土利用計画法23条2項3号と施行令が、農地法3条1項の許可を受けることを要する場合を挙げています。その条文の確かめと例は、国土法の届出の記事にあります。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、農地法が主な論点の問題は40問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では10問でした。ほかの論点が主な問題に副の論点として含むものが1問あります。採草放牧地だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • 4条に採草放牧地を入れる形:4条は「農地を農地以外のものにする者」です。採草放牧地を自分で転用しても許可は要りません。
  • 畑にするための購入を5条とする形:5条は「採草放牧地以外のもの(農地を除く。)」にするためです。農地にするための権利の移転は3条です。
  • 農地でなければ権利の移動も自由とする形:3条は「農地又は採草放牧地について」の権利の移動です。放牧のための賃貸も許可が要ります。
  • 市街化区域の届出の特例を農地だけとする形:5条1項6号は、市街化区域内の農地または採草放牧地です。
  • 許可がなくても契約は有効とする形:3条の許可がない行為は効力を生じません(3条6項)。5条にも準用されています(5条3項)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
そうたさんは、市街化区域外にある自分の採草放牧地を、自分の会社の資材置場に変える。だれかに権利を移したり設定したりはしない。この場合、そうたさんは、農地法の許可を受ける必要はない。

答え:○ 分かれ目は、4条の対象に採草放牧地が入るかです。農地法4条1項は「農地を農地以外のものにする者」に許可を求めていて、採草放牧地を自分で転用する場合は挙がっていません。権利も動かないので、3条・5条も関係なく、許可は要りません。5条には採草放牧地が入っているので、4条にも入ると考えると✕に見えます。同じことを農地でするなら、4条の許可が要ります。

問2(このサイトのオリジナル問題)
そうたさんは、自分の採草放牧地に、となりの牧場主のれんさんのため、牛を放牧する目的で3年間の賃借権を設定する。この場合、農地法の許可は要らない。

答え:✕ 分かれ目は、3条の対象に採草放牧地が入るかです。3条1項は、「農地又は採草放牧地について」所有権を移転し、または賃借権などを設定・移転する場合に、当事者が農業委員会の許可を受けるとしています。正しくは、3条の許可が要り、許可がなければ賃借権の設定は効力を生じません(3条6項)。採草放牧地が4条の対象から外れていることを、権利の移動の3条にも広げた取り違えです。

問3(このサイトのオリジナル問題)
市街化区域内にある採草放牧地を、ひかり社が倉庫を建てる目的で買う。あらかじめ農業委員会に届け出て取得すれば、ひかり社は、農地法5条の許可を受けなくてよい。

答え:○ 分かれ目は、市街化区域の届出の特例に採草放牧地が入るかです。5条1項6号は、市街化区域内にある「農地又は採草放牧地」について、あらかじめ農業委員会に届け出て、農地・採草放牧地以外のものにするために権利を取得する場合を、許可の例外にしています。特例は農地だけのものと考えると✕に見えます。市街化区域の外なら、この特例はなく、5条の許可が要ります。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「法令上の制限」で続けて解けます。

まとめ

  • 採草放牧地=農地以外の土地で、主に耕作・養畜の事業のための採草や放牧に使う土地(2条1項)。登記の地目ではなく現況で判断する。
  • 3条:農地と同じく、権利の移動に農業委員会の許可が要る。許可がなければ効力を生じない。
  • 4条:農地だけが対象。採草放牧地を自分で転用しても許可は要らない。
  • 5条:採草放牧地を農地以外のものにするための権利の移動は許可。農地にするための権利の移動は3条。
  • 市街化区域内なら、5条はあらかじめ農業委員会に届け出れば許可が要らない(5条1項6号)。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の農地法を確かめました。処理基準は、農林水産省が公開している抜粋で確かめました。出題数は、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験問題を当サイトが数えたものです。

このサイトで次に読むなら、宅建の農地法の問題です。3条・4条・5条の振り分けと、許可がいらない場合を、20問で解き直せます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です