相続と登記の判例:共同相続・遺産分割・相続放棄・遺贈で、登記がいる場合といらない場合

ひとことで言うと、相続で受け継いだ不動産は、法定相続分までなら登記がなくても第三者に「自分のものだ」と言えます。遺産分割や遺言で法定相続分を超えて受け継いだ部分は、登記がないと第三者に言えません(民法899条の2第1項)。

例外として、相続放棄は登記がなくても誰に対しても効力があり、遺贈(いぞう=遺言で財産をあげること)は登記がいります。この記事は、場面ごとの判例と今の条文を並べ、どこが改正で変わったかを確かめます。条文は令和8年4月1日時点の民法です。

身近な例で考えると

人物立場したこと
健一さん亡くなった父土地を1つ残した
大輝さん兄(相続人)土地を受け継ぎたい
翔太さん弟(相続人)自分の持分を売ったり、放棄したりする
中島さん第三者翔太さんから持分を買った
村田さん翔太さんの債権者翔太さんの持分を差し押さえた

健一さんの相続人は、大輝さんと翔太さんの2人で、法定相続分は2分の1ずつです。

  1. 大輝さんと翔太さんは、遺産分割で、土地を大輝さんがすべて受け継ぐと決めました。
  2. 大輝さんが登記をしないうちに、翔太さんは自分の法定相続分(2分の1)の持分を中島さんに売り、中島さんが先に登記しました。
  3. 大輝さんは、自分の法定相続分の2分の1は登記がなくても中島さんに言えます。でも、それを超える2分の1は、登記がないと中島さんに言えません。

たとえると、法定相続分は「法律が最初から配ったチケット」で、これは見せなくても通用します。分割や遺言で増えた分は「あとから追加されたチケット」で、登記という受付を済ませないと他人には通用しません。ただし本物のルールでは、相続放棄のように、最初から相続人でなかったことになる場面は別に扱います。

条文ではこう決まっている

  • 177条:不動産の物権の得喪・変更は、登記をしなければ第三者に対抗できない。
  • 899条の2第1項:相続による権利の承継は、遺産の分割によるかどうかにかかわらず、法定相続分(900条・901条で計算した相続分)を超える部分については、登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗できない。平成30年の相続法改正で新しくでき、令和元年7月1日から施行されています。それより前に開始した相続には、原則として改正前のルール(判例)が使われます(改正法の附則。法務省の説明による)。
  • 909条:遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼって効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
  • 939条:相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

899条の2は、遺産分割だけでなく、遺言で特定の財産を特定の相続人に受け継がせる場合(いわゆる「相続させる」遺言)のように、分割によらない相続の承継にもかかります。「遺産の分割によるものかどうかにかかわらず」という言葉がその意味です。

判例で確かめる:場面ごとの一覧

場面判例結論今の条文との関係
共同相続人の1人が勝手に単独登記し第三者へ最判昭和38年2月22日自分の持分は登記なしで言える法定相続分の範囲なので899条の2でも同じ
遺産分割の後の第三者最判昭和46年1月26日法定相続分を超える部分は登記がいる899条の2が条文にした
相続放棄最判昭和42年1月20日登記なしで誰にでも言える放棄後の法定相続分で考える
遺贈最判昭和39年3月6日登記がいる相続ではないので177条
「相続させる」遺言最判平成14年6月10日登記なしで言える(当時)899条の2で、超える部分は登記がいる
  • 共同相続(昭和38年):相続人の1人が勝手に単独名義の登記をし、第三者に移転登記をしても、ほかの相続人は自分の持分を登記なしでその第三者に言えるとしました。求められるのは、自分の持分についての一部抹消(更正)登記で、登記全部の抹消ではありません。
  • 遺産分割の後(昭和46年):遺産分割で法定相続分と異なる権利を得た相続人は、登記をしなければ、分割の後に権利を得た第三者に、法定相続分を超える権利の取得を対抗できないとしました。
  • 相続放棄(昭和42年):相続放棄の効力は、登記などの有無を問わず、何人に対しても生ずるとしました。放棄した相続人の債権者が、放棄の後に代位による登記をして持分を仮に差し押さえても、その仮差押えは無効とされました。
  • 遺贈(昭和39年):不動産の遺贈を受けた人が登記をしないうちに、相続人の債権者が相続登記をして差押え(強制競売の申立ての記入)をした場合、その債権者は177条の第三者に当たるとしました。
  • 相続させる遺言(平成14年):「相続させる」趣旨の遺言による不動産の取得は、登記なしで第三者に対抗できるとしました。これは899条の2ができる前の判例で、今は、法定相続分を超える部分は登記がいります。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例(法定相続分の範囲):翔太さんが勝手に土地全部を自分の名義にして中島さんに売っても、大輝さんは自分の2分の1を登記なしで中島さんに言えます(昭和38年判決)。
  • 当てはまる例(相続放棄):翔太さんが相続放棄をすると、初めから相続人でなかったことになり(939条)、大輝さんの法定相続分は土地全部になります。翔太さんの債権者の村田さんが翔太さんの持分を差し押さえても、大輝さんは登記なしで放棄の効力を言えます(昭和42年判決)。
  • 当てはまらない例(遺産分割の後):最初の例のとおり、分割で増えた2分の1は、登記がないと中島さんに言えません(899条の2、昭和46年判決)。
  • ひっかけやすい例(遺産分割の前の第三者):分割の前に翔太さんの持分を買って登記した人がいると、分割の効力がさかのぼっても、その人の権利は害せません(909条ただし書)。前後での違いは遺産分割をわかりやすくで表にしています。

似ているルールとの違い

「相続と登記」には、対抗の問題とは別に、相続登記の申請義務があります。混同しやすいので分けます。

比べる点対抗の問題相続登記の申請義務
根拠民法177条・899条の2不動産登記法76条の2
問われること第三者に言えるか登記を申請しなければならないか
期間期間の定めはない知った日から3年以内
登記しないと第三者に負けることがある申請義務に反する

不動産登記法76条の2は、相続で所有権を取得した人に、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内の登記の申請を義務づけています(相続人に対する遺贈も同じ)。法定相続分での登記のあとに遺産分割で法定相続分を超えて取得した人は、分割の日から3年以内です(同条2項)。宅建試験の視点での整理は宅建の各分野で「相続」はどう扱われるかにあります。

試験ではここをまちがえやすい

  • 相続ならいつも登記不要とする型:法定相続分を超える部分は、遺産分割でも遺言でも登記がいります(899条の2)。
  • 相続放棄と遺産分割の入れ替え:放棄は登記なしで誰にでも言える(昭和42年)。分割で増えた分は登記がいる(昭和46年)。
  • 古い判例のまま答える型:「相続させる」遺言で受け継いだ土地は登記なしで対抗できる、とした平成14年判決は、899条の2ができる前のものです。
  • 遺贈を相続と同じに扱う型:遺贈は相続による承継ではなく、177条の問題として登記がいります。
  • 申請義務と対抗の混同:3年以内の申請義務は不動産登記法の話で、第三者に言えるかどうかとは別です。

判断の順番は、「相続による承継か(遺贈なら177条)」「法定相続分の範囲か、超える部分か(899条の2)」「放棄なら登記はいらない(939条)」の3段階です。宅建試験の権利関係でも、同じ順番で考えます。177条の基本は不動産の二重譲渡と登記で確かめられます。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
大輝さんと翔太さんは、父の土地を大輝さんがすべて受け継ぐ遺産分割をしたが、大輝さんが登記をしないうちに、翔太さんが法定相続分の持分を中島さんに売り、中島さんが登記をした。大輝さんは、登記がなくても、土地全部の所有権を中島さんに主張できる。

答え:✕ 分かれ目は、法定相続分を超える部分かどうかです。相続による承継は、遺産分割によるかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分は登記などがなければ第三者に対抗できません(民法899条の2第1項。分割後の第三者について最高裁判所第三小法廷昭和46年1月26日判決も同じ結論)。正しくは、大輝さんが登記なしで主張できるのは自分の法定相続分の2分の1までです。分割の前に権利を得た第三者を守る909条ただし書と取り違えないようにします。

問2(このサイトのオリジナル問題)
翔太さんが相続放棄をした後、翔太さんにお金を貸していた村田さんが、翔太さんに代わって相続の登記をし、翔太さんの持分を差し押さえた。大輝さんは、登記がなくても、相続放棄によって土地全部を受け継いだことを村田さんに主張できる。

答え:○ 遺産分割の後の第三者と同じに考えると✕にしてしまいます。相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされ(民法939条)、最高裁判所第二小法廷昭和42年1月20日判決は、放棄の効力は登記などの有無を問わず何人に対しても生ずるとしました。大輝さんにとっては、放棄後の法定相続分の範囲の話なので、899条の2でも登記はいりません。

問3(このサイトのオリジナル問題)
父の健一さんは、令和7年に「土地は大輝に相続させる」という遺言を残して亡くなった。令和8年4月1日時点の民法によれば、大輝さんは、登記をしなくても、翔太さんから法定相続分の持分を買って登記をした第三者に、土地全部の所有権を主張できる。

答え:✕ 分かれ目は、令和元年7月1日より後に開始した相続(令和7年)なので899条の2が使われる点です。特定の財産を特定の相続人に受け継がせる遺言による承継も「相続による権利の承継」で、法定相続分を超える部分は登記などがなければ第三者に対抗できません(民法899条の2第1項)。正しくは、大輝さんが登記なしで主張できるのは法定相続分の2分の1までです。登記なしで対抗できるとした最高裁判所第二小法廷平成14年6月10日判決は、改正前の判例です。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「民法」で続けて解けます。

まとめ

  • 法定相続分までは、登記がなくても第三者に言える(共同相続・昭和38年)。
  • 遺産分割や遺言で法定相続分を超えた部分は、登記がいる(899条の2、昭和46年)。
  • 相続放棄は、登記がなくても誰に対しても言える(昭和42年)。
  • 遺贈は相続ではないので、177条により登記がいる(昭和39年)。
  • 「相続させる」遺言を登記不要とした平成14年判決は、899条の2で変わった。相続登記の3年以内の申請義務は別の話。

次に読むなら、相続をわかりやすくがおすすめです。法定相続分の計算と相続放棄の基本を押さえると、この記事の「法定相続分を超えるか」の判断が速くなります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。