行政不服審査法と行政事件訴訟法の違い一覧:期間・執行停止・教示・裁決と判決を1枚で比べる

審査請求(行政不服審査法)と取消訴訟(行政事件訴訟法)は、どちらも処分に不服があるときの道ですが、判断する人・争える中身・期間・止め方が違います。いちばん大きな違いは、審査請求は行政の中の見直しなので、違法だけでなく不当(法律の範囲内だが、より良い判断があった)も争えることです。取消訴訟は裁判所の判断なので、違法だけを扱います。

試験で取り違えやすいのは、期間の数字と起算点、執行停止の職権・義務の有無、内閣総理大臣の異議、事情裁決と事情判決です。この記事は、令和8年4月1日時点の両法の条文をe-Govで確かめて、1枚の表にまとめます。それぞれの流れは審査請求の記事と取消訴訟の要件の記事で説明しています。

まず1枚で比べる

比べる点審査請求(行政不服審査法)取消訴訟(行政事件訴訟法)
判断する人審査庁(行政の機関)裁判所
争える中身違法または不当(1条1項)違法だけ。裁量処分は範囲をこえるか濫用の場合に限る(30条)
期間(知ったとき)知った日の翌日から起算して3月(18条1項)知った日から6箇月(14条1項)
期間(処分のとき)処分の日の翌日から起算して1年(18条2項)処分の日から1年(14条2項)
期間の例外正当な理由があるとき正当な理由があるとき
処分の効力止まらない(25条1項)止まらない(25条1項)
職権での執行停止審査庁が処分庁か上級行政庁ならできる(25条2項)できない。申立てが必要(25条2項)
執行停止の義務重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、しなければならない(25条4項)要件を満たせば「できる」(25条2項)
内閣総理大臣の異議なしあり(27条)
教示不服申立てができる処分を書面でするとき(82条)取消訴訟を起こせる処分を書面でするとき(46条)
違法・不当でも棄却事情裁決(45条3項)事情判決(31条1項)
処分の変更審査庁が処分庁か上級行政庁ならできる。不利益な変更は禁止(46条1項・48条)取り消すかどうかを判断する

身近な例で考えると

登場人物は、飲食店を営むななみさんと、県知事です。

  1. 県知事が、ななみさんの店に、7日間の営業停止を命じました。ななみさんは「処分が重すぎる」と考えています。
  2. ななみさんは、審査請求と取消訴訟のどちらを使うか考えます。原則として、どちらを選んでもかまいません(行政事件訴訟法8条1項。法律に「裁決を経てから」と定めがある場合は別)。
  3. 「重すぎる」という不服は、違法とまではいえなくても、不当として審査請求なら争えます。取消訴訟では、裁量の範囲をこえるか濫用といえる程度でないと取り消されません。
  4. 停止の期間は短いので、ななみさんは止めてもらうことも考えます。審査請求なら、審査庁が処分庁自身や上級行政庁であれば、職権でも止められます。取消訴訟では、ななみさんの申立てが必要です。
  5. 期間も違います。審査請求は、処分を知った日の翌日から数えて3月。取消訴訟は、知った日から6箇月です。

たとえると、審査請求は「お店の本部へのクレーム」、取消訴訟は「裁判所への訴え」です。本部は、ルール違反でなくても「対応が適切でなかった」と見直せます。ただし本物の審査請求には、審理員による審理などの手続があり、思いつきの見直しではありません。

項目ごとの違いを条文で確かめる

争える中身:違法と不当

  • 行政不服審査法1条1項は、目的を「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為」についての不服申立ての制度としています。
  • 行政事件訴訟法30条は、裁量処分は「裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り」裁判所が取り消せるとしています。裁量の範囲の中での当不当は、裁判所の判断の外です。

期間:数字と起算点の両方が違う

比べる点審査請求取消訴訟
知ったときから翌日から起算して3月知った日から6箇月
処分のときから翌日から起算して1年処分の日から1年
先に別の手続をしたとき再調査の請求の決定を知った日の翌日から起算して1月審査請求の裁決を知った日から6箇月・裁決の日から1年(14条3項)

取り違えやすいのは、「3月」と「6箇月」の入れ替えと、取消訴訟の期間に「翌日から起算して」を付けてしまうことの2つです。期間の数字は期間・数字の一覧にもまとめています。

執行停止:職権・義務・内閣総理大臣の異議

審査請求の執行停止は、審査庁がどの機関かで変わります。

審査庁申立て職権できる措置
処分庁か、その上級行政庁できるできる停止その他の措置
それ以外できる(処分庁の意見を聴く)できない停止だけ
  • 義務的な執行停止:審査請求人の申立てがあり、重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるときは、審査庁は執行停止を「しなければならない」。公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときや、本案に理由がないとみえるときは別です(行政不服審査法25条4項)。
  • 取消訴訟の執行停止:重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき、裁判所は「申立てにより」執行停止を「することができる」。公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、本案に理由がないとみえるときはできません(行政事件訴訟法25条2項・4項)。
  • 内閣総理大臣の異議:取消訴訟の執行停止にだけあります。申立てがあったときも、執行停止の決定のあとも述べられます。やむをえない場合でなければ述べてはならず、述べたときは次の常会で国会に報告します(27条1項・6項)。

くわしくは執行停止と仮の救済の記事で扱っています。

教示:何を教えるか

  • 行政不服審査法82条1項:審査請求などの不服申立てができる処分をするときは、処分の相手に、不服申立てができる旨、不服申立てをすべき行政庁、期間を書面で教えます。処分を口頭でするときは別です。
  • 同法83条:教示をしなかったときは、不服がある人は処分庁に不服申立書を出せます。それが他の行政庁への審査請求ができる処分なら、処分庁は速やかに送り、初めからその行政庁に審査請求がされたものとみなされます。
  • 行政事件訴訟法46条1項:取消訴訟を起こせる処分や裁決をするときは、相手に、被告とすべき者、出訴期間、法律に審査請求の裁決を経た後でなければ訴えを起こせない定めがあればその旨を、書面で教えます。処分を口頭でするときは別です。

教示の決まりの全体は教示の記事で確かめられます。

事情裁決と事情判決、処分の変更

比べる点事情裁決事情判決
条文行政不服審査法45条3項行政事件訴訟法31条1項
前提処分が違法または不当処分が違法
結論審査請求を棄却請求を棄却
宣言裁決の主文で違法または不当を宣言判決の主文で違法を宣言

審査請求に理由があるとき、審査庁が処分庁か上級行政庁であれば、処分を取り消すだけでなく変更もできます。それ以外の審査庁は変更できません(46条1項)。ただし、変更できる場合でも、審査請求人の不利益に処分を変更することはできません(48条)。

試験ではここをまちがえやすい

  • 不当:「取消訴訟でも、処分が不当なら取り消せる」→ ✕。不当を争えるのは審査請求。
  • 期間の入れ替え:「審査請求は知った日の翌日から6月」「取消訴訟は知った日の翌日から起算して6箇月」→ どちらも✕。
  • 職権の執行停止:「取消訴訟でも、裁判所は職権で執行停止できる」→ ✕。職権でできるのは、審査庁が処分庁か上級行政庁の審査請求。
  • 義務的な停止:「行政事件訴訟法では、要件を満たせば執行停止をしなければならない」→ ✕。義務的なのは審査請求(25条4項)。
  • 内閣総理大臣の異議:「審査請求の執行停止にも内閣総理大臣の異議がある」→ ✕。
  • 事情裁決・事情判決:「事情判決は、処分が不当なときもできる」→ ✕。事情判決の前提は違法。
  • 教示の中身:審査請求の教示は「行政庁・期間」、取消訴訟の教示は「被告・出訴期間・審査請求前置」。教示しなかったときの救済(83条)は行政不服審査法の規定です。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
営業停止の処分を受けたUさんが審査請求をし、執行停止を申し立てた。審査庁は、処分の執行で生じる重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めた。公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがなく、本案に理由がないともみえないときは、審査庁は執行停止をしなければならない。

答え:○ 分かれ目は、執行停止が「できる」か「しなければならない」かです。行政不服審査法25条4項は、審査請求人の申立てがあり、重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるときは、ただし書の場合を除き、審査庁は執行停止を「しなければならない」と定めています。行政事件訴訟法25条2項は、同じ「重大な損害」の要件で、裁判所は執行停止を「することができる」と書いているので、それと混ぜると✕にしてしまいます。義務的な執行停止は、審査請求だけの規定です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
大臣がした処分についての審査請求で、審査庁が執行停止をした。この場合、内閣総理大臣は、審査庁に対し異議を述べることができ、異議があると審査庁は執行停止を取り消さなければならない。

答え:✕ 分かれ目は、内閣総理大臣の異議の規定がどの法律にあるかです。内閣総理大臣の異議は、行政事件訴訟法27条が、取消訴訟の執行停止について裁判所に対して述べるものとして定めています。行政不服審査法には、この制度はありません。正しくは、審査請求の執行停止に内閣総理大臣の異議はありません。行政事件訴訟法の異議は、やむをえない場合でなければ述べてはならず、述べたときは次の常会で国会に報告する決まりです(27条6項)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
県知事の処分の取消訴訟で、裁判所は、処分は違法ではないが不当であると判断した。取り消すと公の利益に著しい障害が生じるので、裁判所は事情判決として請求を棄却し、判決の主文で処分が不当であることを宣言した。

答え:✕ 分かれ目は、事情判決の前提が違法か不当かです。行政事件訴訟法31条1項の事情判決は、処分が「違法ではあるが」取り消すと公の利益に著しい障害が生じる場合に、主文で違法を宣言して請求を棄却するものです。正しくは、取消訴訟は違法だけを扱い、違法でない処分は事情判決ではなく通常の棄却になります。違法または不当を宣言できるのは、審査請求の事情裁決(行政不服審査法45条3項)です。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。

まとめ

  • 審査請求は違法と不当、取消訴訟は違法だけ。
  • 期間は、審査請求が翌日から起算して3月・1年、取消訴訟が知った日から6箇月・処分の日から1年。
  • どちらも処分は止まらない。職権の執行停止と義務的な執行停止は審査請求だけ。内閣総理大臣の異議は取消訴訟だけ。
  • 教示は、審査請求が「行政庁・期間」、取消訴訟が「被告・出訴期間・審査請求前置」。
  • 事情裁決は違法または不当、事情判決は違法が前提。不利益な変更の禁止は審査請求の規定。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の版を指定して確かめました。