配偶者居住権(はいぐうしゃきょじゅうけん)は、亡くなった人の家に住んでいた妻や夫が、その家の持ち主が別の相続人になっても、ただで住み続けられる権利です。遺産分割か遺言(遺贈)で取得し、期間は原則として一生です(民法1028条・1030条)。
配偶者短期居住権は、それより短い「つなぎ」の権利です。相続が始まった時にただで住んでいれば、手続なしで生まれ、遺産分割をする場合は、家の行き先が決まった日か、相続開始から6か月たった日の遅いほうまで住めます(1037条)。
2つの違いは、成立のしかた・期間・登記・使い方に出ます。この記事では、その違いを1枚の表にまとめます。相続人の範囲や相続分など、相続全体のルールは相続の記事で説明しています。
宅建試験では、令和2年4月の施行のあとに出るようになった論点です。当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、配偶者居住権が主な論点の問題は2問で、どちらも直近10回の中(令和3年度10月試験と令和5年度)でした(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。
身近な例で考えると
登場人物は3人です。亡くなった夫=しげるさん、妻=ふみえさん、長男=けんたさんです。しげるさんの財産は、自宅の一戸建て(しげるさんの単独名義)と預金です。ふみえさんとしげるさんは、その家に2人で住んでいました。
- しげるさんが亡くなり、相続が始まった。ふみえさんは、その日から配偶者短期居住権によって、家にただで住み続けられる。
- 遺産分割の話し合いで、家の持ち主(所有権)はけんたさんが受け継ぎ、ふみえさんは配偶者居住権を取得すると決めた。
- ふみえさんが配偶者居住権を取得したので、配偶者短期居住権は消えた(1039条)。
- けんたさんは、ふみえさんのために、配偶者居住権の設定の登記をする手続に協力しなければならない(1031条1項)。登記をすると、家が別の人に売られても、ふみえさんは住み続けられる。
- ふみえさんが亡くなると、配偶者居住権は消え、家はけんたさんが自由に使えるようになる。
なぜこんな権利があるのでしょうか。家の値段は高いので、ふみえさんが家の所有権を相続すると、預金をほとんど受け継げないことがあります。所有権と「住む権利」を分けることで、ふみえさんは家に住みながら、生活のお金も受け継ぎやすくなります。
たとえるなら、配偶者居住権は「一生分の無料の居住チケット」です。ただし本物のルールでは、このチケットは人に売ることも譲ることもできません。
条文ではこう決まっている
配偶者居住権(1028条〜1036条)
- 成立(1028条1項):亡くなった人(被相続人)の財産だった建物に、相続開始の時に住んでいた配偶者が、①遺産分割で取得するとされたとき、②遺贈の目的とされたとき、その建物の全部について、ただで使用・収益する権利を取得します。
- 成立しない場合(1028条1項ただし書):被相続人が、相続開始の時にその建物を配偶者以外の人と共有していたときは、成立しません。
- 審判(1029条):家庭裁判所が遺産分割の審判で取得を定められるのは、共同相続人の間で合意があるとき、または配偶者が希望し、所有者の不利益を考えても配偶者の生活のために特に必要があるときに限られます。
- 期間(1030条):配偶者の終身の間(一生)です。ただし、遺産分割の協議や遺言、審判で別に定めたときは、その期間です。
- 登記(1031条):建物の所有者は、配偶者に配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います。登記をすると、その後に建物を取得した人などの第三者に対抗できます(605条の準用)。
- 使い方(1032条):それまでの使い方に従い、注意深く使います。配偶者居住権は譲渡できません(2項)。所有者の承諾がなければ、改築・増築や、第三者に使わせること(貸すこと)はできません(3項)。
- 修繕と費用(1033条・1034条):配偶者は、必要な修繕をすることができます。建物の通常の必要費(ふだんの維持にかかる費用)は配偶者が負担します。
- 終わるとき(1036条):使用貸借の597条3項が準用され、配偶者が亡くなると消えます。期間を定めたときは、その満了で終わります(597条1項の準用)。
配偶者短期居住権(1037条〜1041条)
- 成立(1037条1項):配偶者が、被相続人の財産だった建物に、相続開始の時に無償で住んでいた場合に、当然に生まれます。遺産分割や遺言はいりません。
- 期間(1037条1項各号):家について配偶者を含む相続人で遺産分割をする場合は、遺産分割で家の行き先が決まった日か、相続開始から6か月を経過する日の、遅いほうまで。それ以外の場合(遺言で家が別の人に渡ったときなど)は、家を取得した人が消滅の申入れをした日から6か月を経過する日まで。
- 生まれない場合(1037条1項ただし書):相続開始の時に配偶者居住権を取得したときや、相続欠格・廃除で相続権を失ったとき。
- 使い方(1038条):できるのは「使用」だけで、収益(人に貸して家賃を得ること)はありません。家を取得した人の承諾がなければ、第三者に使わせることはできません。
- 準用(1041条):譲渡できないこと(1032条2項)、修繕(1033条)、通常の必要費の負担(1034条)、配偶者の死亡で終わること(597条3項)などが準用されます。登記の1031条は準用されていません。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:しげるさんが遺言で「ふみえに配偶者居住権を遺贈する」と書いていた。→ 遺贈の目的とされたので、ふみえさんは配偶者居住権を取得します(1028条1項2号)。
- 当てはまる例:家がしげるさんとふみえさんの共有だった。→ ただし書が外すのは「配偶者以外の者」と共有していた場合です。配偶者自身との共有なら、配偶者居住権は成立しえます。
- 当てはまらない例:家がしげるさんとけんたさんの共有だった。→ 配偶者以外の人と共有していたので、配偶者居住権は成立しません(1028条1項ただし書)。
- 当てはまらない例:ふみえさんが、しげるさんの家に家賃を払って住んでいた。→ 配偶者短期居住権は「無償で」住んでいた場合の権利です(1037条1項)。
- ひっかけやすい例:ふみえさんが、けんたさんの承諾を得て、配偶者居住権を友人に売ろうとした。→ 承諾があっても譲渡はできません(1032条2項)。承諾で認められるのは、改築・増築や第三者に使わせることです(1032条3項)。
- ひっかけやすい例:遺産分割が相続開始から2か月でまとまり、家はけんたさんのものになった(ふみえさんは配偶者居住権を取得しない)。→ ふみえさんの配偶者短期居住権は、相続開始から6か月を経過する日まで続きます。行き先が決まった日と6か月の、遅いほうだからです。
2つの権利を1枚で比べる
| 比べる点 | 配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 |
|---|---|---|
| 生まれ方 | 遺産分割・遺贈(審判も) | 無償で住んでいれば当然に |
| 期間 | 原則として一生 | 行き先が決まった日と相続開始から6か月の遅いほう(遺産分割をする場合) |
| できること | 使用と収益 | 使用だけ |
| 登記 | 所有者に登記させる義務。登記で第三者に対抗 | 1031条の準用なし |
| 譲渡 | できない | できない |
| 人に使わせる | 所有者の承諾がいる | 取得した人の承諾がいる |
| 通常の必要費 | 配偶者が負担 | 配偶者が負担 |
| 配偶者の死亡 | 消える | 消える |
登記の点は、ほかの「住む権利」と比べると覚えやすくなります。賃借権は登記(借地借家法では建物の登記や引渡し)で対抗できます。使用貸借の借主は、登記して新しい持ち主に主張する方法がありません(使用貸借の記事)。配偶者居住権は、ただで住む権利なのに登記で対抗できる点が、使用貸借と違います。登記のしくみは不動産登記法の記事で確かめてください。
試験ではここをまちがえやすい
まちがえやすいのは次の点です。
- 取得のしかた:配偶者居住権は、遺産分割・遺贈(または審判)で取得する。「相続開始で当然に取得する」は短期居住権の話と入れ替えた誤り。
- 共有の例外:被相続人が配偶者以外と共有していた家には成立しない。
- 期間:原則は終身。「20年」「30年」のように決まった年数ではない(協議・遺言・審判で別に定めることはできる)。
- 登記:所有者は登記を備えさせる義務を負い、登記すれば第三者に対抗できる。配偶者短期居住権には、この規定がない。
- 譲渡と賃貸:譲渡は承諾があってもできない。第三者に使わせることは、所有者の承諾があればできる。
- 短期居住権の6か月:遺産分割をする場合は「行き先が決まった日」と「相続開始から6か月」の遅いほう。早いほうではない。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
しげるさんは、自宅をけんたさんと2分の1ずつ共有していた。しげるさんが亡くなり、遺産分割でふみえさんが配偶者居住権を取得すると定めても、ふみえさんは配偶者居住権を取得しない。
答え:○ 分かれ目は、被相続人が建物をだれと共有していたかです。被相続人が相続開始の時に建物を配偶者以外の者と共有していたときは、配偶者居住権は成立しません(民法1028条1項ただし書)。遺産分割で定めても同じです。「配偶者が住んでいれば成立する」と思うと✕にしてしまいます。配偶者自身と共有していた場合は、このただし書に当たりません。
問2(このサイトのオリジナル問題)
遺産分割で配偶者居住権を取得したふみえさんは、建物の所有者であるけんたさんの承諾を得れば、配偶者居住権を第三者に譲渡することができる。
答え:✕ 分かれ目は、所有者の承諾で何ができるようになるかです。配偶者居住権は譲渡することができません(1032条2項)。正しくは、承諾があっても譲渡はできず、承諾で認められるのは、改築・増築と、第三者に建物を使用・収益させることです(同条3項)。賃借権の譲渡が貸主の承諾でできること(612条1項)と取り違えた形です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
しげるさんの相続で、ふみえさんは家にただで住んでいた。相続開始から2か月で遺産分割の協議がまとまり、家はけんたさんが取得した(ふみえさんは配偶者居住権を取得しない)。この場合、ふみえさんの配偶者短期居住権は、協議がまとまった日に消滅する。
答え:✕ 分かれ目は、2つの日のうち早いほうか遅いほうかです。遺産分割をする場合の配偶者短期居住権は、家の行き先が決まった日と、相続開始から6か月を経過する日の、いずれか遅い日まで続きます(1037条1項1号)。正しくは、協議がまとまった後も、相続開始から6か月を経過する日まで住めます。遺言などで家が別の人に渡った場合の「消滅の申入れの日から6か月」(同項2号)と混ぜないようにします。
まとめ
- 配偶者居住権:遺産分割・遺贈(審判)で取得。原則一生。使用と収益。登記させる義務があり、登記で第三者に対抗。
- 被相続人が配偶者以外と共有していた家には成立しない。
- 譲渡はできない。改築・増築や人に使わせるには所有者の承諾。
- 配偶者短期居住権:無償で住んでいれば当然に生まれる。遺産分割をする場合は、行き先が決まった日と相続開始から6か月の遅いほうまで。使用だけで、登記の規定はない。
民法の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」の相続の問題で続けて解けます。次に読むなら、遺言の記事がおすすめです。配偶者居住権は遺贈でも取得できるので、遺言の方式や効力と一緒に確かめると、相続の事例問題が読みやすくなります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(API。基準日2026-04-01)で確かめています。
- e-Gov法令検索「民法」(597条、1028条、1029条、1030条、1031条、1032条、1033条、1034条、1035条、1036条、1037条、1038条、1039条、1041条)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(出題数を数えるのに使った過去の試験問題)
働く人の法律試験ノート