建物状況調査(たてものじょうきょうちょうさ)は、中古の建物(既存の建物)の傷みぐあいを、決まった講習を終えた建築士が調べるものです。宅建業法は、業者に調査そのものを義務づけてはいません。そのかわり、取引の3つの場面で、調査について書くことや説明することを求めています。
3つの場面は、①媒介契約の書面(調査をする人のあっせんに関する事項)、②35条の重要事項説明(調査を実施しているかどうかと結果の概要)、③37条書面(建物の状況について当事者の双方が確認した事項)です。①と③は売買・交換だけ、②の実施の有無と結果の概要は貸借でも説明します。この記事では、3つの場面を売買と貸借に分けて表で当てはめます。
身近な例で考えると:築20年の家を売るまさるさん
登場人物を紹介します。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| まさるさん | 売主(会社員) | 築20年の木造一戸建てを売りたい |
| つばめ不動産 | 宅建業者 | まさるさんから売却の媒介を頼まれた |
| はなさん | 買主(会社員) | 中古の一戸建てを探している |
| よしえさん | 貸主(会社員) | 別の中古住宅を貸したい |
まさるさんは、つばめ不動産に家の売却を頼みました。家は中古なので、建物状況調査の話が3回出てきます。
- 媒介契約を結ぶとき:つばめ不動産は、媒介契約の書面に「建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項」を書いて、まさるさんに渡します。あっせんとは、調査をしてくれる建築士を紹介することです。
- はなさんとの契約の前:つばめ不動産は、はなさんに重要事項を説明するとき、建物状況調査を実施しているかどうか、しているなら結果の概要を説明します。あわせて、設計図書や点検記録などの書類が保存されているかも説明します。
- 契約が決まったら:37条書面に、建物の構造耐力上主要な部分等の状況について、まさるさんとはなさんの双方が確認した事項を書きます。
一方、よしえさんが中古住宅を貸すために、つばめ不動産に入居者探しを頼んだとします。このときは、2のうち「調査を実施しているかどうかと結果の概要」だけを借りる人に説明します。媒介契約の書面(1)も、37条書面の確認事項(3)も、貸借の場面ではかかりません。
条文ではこう決まっている
建物状況調査とは(34条の2第1項4号・施行規則15条の8)
- 調べる部分:「建物の構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として国土交通省令で定めるもの」の状況です。柱や基礎など建物を支える部分と、屋根や外壁など雨が入るのを防ぐ部分、と考えると分かりやすいです。
- 調べる人:建築士で、かつ国土交通大臣が定める講習を修了した人です(施行規則15条の8第1項。両方に該当することが必要)。調査は大臣が定める基準に従って行います(同条2項)。
- 対象:既存の建物だけです。新築の建物の取引では、この3つの決まりは出てきません。
媒介契約の書面(34条の2第1項4号)
- 既存の建物の売買・交換の媒介契約では、書面に「建物状況調査…を実施する者のあつせんに関する事項」を書きます。
- 34条の2は、売買・交換の媒介(と代理)のルールです。貸借の媒介には、書面を渡す義務そのものがありません。
35条の重要事項説明(35条1項6号の2)
- イ:建物状況調査を実施しているかどうか、実施しているならその結果の概要。ただし、実施後、国土交通省令で定める期間を過ぎていないものに限ります。
- 期間(施行規則16条の2の2):原則1年。鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等は2年です。
- ロ:設計図書、点検記録など、建物の建築と維持保全の状況に関する書類の保存の状況。対象の書類は、施行規則16条の2の3で「売買又は交換の契約に係る住宅に関する書類」とされています。だから貸借では説明しません。
- イには売買・貸借の区別がないので、貸借でも説明します。
37条書面(37条1項2号の2)
- 既存の建物の売買・交換では、「建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項」を書きます。
- 貸借の37条書面(37条2項)は、1項の一部の号だけを使っていて、2号の2は入っていません。
3か所の比べ方:売買と貸借で要る・要らない
| 場面 | 中身 | 売買・交換 | 貸借 |
|---|---|---|---|
| 媒介契約の書面 | 調査をする者のあっせんに関する事項 | 書く | 対象外 |
| 35条(イ) | 実施の有無と結果の概要(1年・RC共同住宅等は2年) | 説明する | 説明する |
| 35条(ロ) | 設計図書・点検記録などの保存の状況 | 説明する | 説明しない |
| 37条書面 | 構造耐力上主要な部分等について双方が確認した事項 | 書く | 書かない |
覚え方は、時間の流れにそって「頼むとき(あっせん)→決める前(説明)→決めた後(確認)」の順に並べることです。貸借で残るのは、真ん中の「実施の有無と結果の概要」だけです。
それぞれの書面の全体像は、媒介契約の記事、重要事項説明の記事、37条書面の記事で確かめてください。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例
- まさるさんの家(木造)で、契約の8か月前に建物状況調査をしていた。→ 1年以内なので、はなさんに実施したことと結果の概要を説明します。
- 鉄筋コンクリート造のマンション(共同住宅)の一室の売買で、1年6か月前に調査をしていた。→ 期間は2年なので、結果の概要を説明します。
- よしえさんの中古住宅の貸借で、半年前に調査をしていた。→ 貸借でも、調査の実施と結果の概要は説明します。
当てはまらない例
- 新築の建売住宅の売買。→ 既存の建物ではないので、この記事の3つの決まりはかかりません。
- まさるさんの家(木造)で、調査は1年3か月前だった。→ 木造の一戸建ては1年なので、35条イの「建物状況調査」として説明する対象に入りません。
- よしえさんが貸主として、つばめ不動産と入居者探しの媒介契約を結んだ。→ 貸借の媒介なので、34条の2の書面の義務がなく、あっせんの記載もありません。
ひっかけやすい例
- 「建物状況調査をしなければ売買の媒介ができない」。→ 誤りです。宅建業法が求めているのは、あっせんの事項を書くこと、実施の有無と結果を説明すること、双方の確認事項を書くことです。調査をすること自体は義務ではありません。
- 「調査をした建築士なら、講習を受けていなくてもよい」。→ 誤りです。建築士であることと、大臣が定める講習の修了の両方が必要です。
- 「37条書面には、建物状況調査の結果の概要を書く」。→ 37条で書くのは「当事者の双方が確認した事項」です。結果の概要を説明するのは35条のほうです。
似ているルールとの違い:35条と37条で書くことの差
35条と37条は、どちらも建物の状態にふれますが、言葉が違います。
| 書面 | 書く・説明すること | だれの視点 |
|---|---|---|
| 35条(イ) | 調査を実施しているか、結果の概要 | 調べた事実 |
| 37条(2号の2) | 構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項 | 売主と買主が確かめ合った内容 |
35条は契約の前に「調べたらこうだった」を伝えるもの、37条は契約のあとに「二人でこう確認した」を残すもの、と分けると混ざりません。また、中古住宅の欠陥をめぐる売主の責任(契約不適合責任)は民法のルールです。37条で確認した事項は、後でもめたときに「何を確認していたか」の手がかりになります。民法の側は契約不適合責任の記事で扱っています。
試験ではここをまちがえやすい
建物状況調査は宅建試験の宅建業法の論点です(行政書士試験の範囲ではありません)。宅建試験では、次のような形で取り違えやすい論点です。
- 貸借に広げる:「貸借の媒介でも、媒介契約の書面にあっせんの事項を書く」「貸借でも37条書面に確認事項を書く」は誤り。
- 貸借から外しすぎる:「貸借なら建物状況調査の説明は不要」も誤り。35条イ(実施の有無と結果の概要)は貸借でも説明します。不要なのはロ(書類の保存の状況)です。
- 期間の数字:35条イは、実施後1年(鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等は2年)を過ぎていないもの。「一律1年」「一律2年」とする形に注意します。
- 35条と37条の言葉の入れ替え:「結果の概要」は35条、「双方が確認した事項」は37条。
- 義務の中身:調査をする義務ではなく、書く・説明する義務です。調べる人は「建築士+講習修了」。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの宅建業法(媒介契約・書面の記載事項、37条書面・既存建物の確認事項)で続けて解けます。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが、宅建業者でないBから、Bの所有する中古の一戸建ての賃貸について入居者探しの媒介を頼まれ、媒介契約を結んだ。Aは、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面をBに交付しなければならない。
答え:✕ 分かれ目は、媒介契約の書面のルールがかかる取引の種類です。34条の2第1項は売買・交換の媒介契約のルールなので、貸借の媒介には書面を交付する義務がありません。正しくは「交付しなくても違反しない」です。あっせんの記載は、既存の建物の売買・交換の媒介契約で書くものです(同項4号)。35条イのように貸借でもかかる決まりと取り違えないようにします。
問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが、鉄筋コンクリート造の共同住宅の一室(既存の建物)の売買を媒介する。売買契約の1年6か月前に建物状況調査が実施されていたときは、Aは、買主にその結果の概要を説明しなければならない。
答え:○ 分かれ目は、説明の対象になる調査の期間です。35条1項6号の2イの期間は原則1年ですが、鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等は2年です(施行規則16条の2の2)。1年6か月前の調査はこの2年に入るので、結果の概要を説明します。「1年」だけを覚えていると✕にしてしまいます。
問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが、既存の木造住宅の貸借を媒介する場合、建物状況調査を実施しているかどうかも、設計図書や点検記録の保存の状況も、重要事項として説明する必要はない。
答え:✕ 分かれ目は、35条1項6号の2のイとロの違いです。ロ(書類の保存の状況)は、施行規則16条の2の3で売買・交換の契約に係る住宅の書類とされているので、貸借では説明しません。しかしイ(調査を実施しているかどうかと結果の概要)には売買・貸借の区別がないので、貸借でも説明します。正しくは「実施の有無は説明が必要、書類の保存の状況は不要」です。
まとめ
- 建物状況調査=既存の建物の、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防ぐ部分の調査。調べるのは講習を修了した建築士。
- 媒介契約の書面:調査をする者のあっせんに関する事項(売買・交換だけ)。
- 35条:イ「実施の有無と結果の概要」は売買も貸借も。期間は1年(RC・SRCの共同住宅等は2年)。ロ「書類の保存の状況」は売買・交換だけ。
- 37条:構造耐力上主要な部分等について双方が確認した事項(売買・交換だけ)。
- 調査そのものは義務ではない。義務は、書くことと説明すること。
次に読むなら、重要事項説明の記事がおすすめです。建物状況調査は35条の説明事項の一つなので、ほかの説明事項と並べると、売買と貸借の差をまとめて覚えられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条の2第1項、第35条第1項第6号の2、第37条第1項第2号の2・第2項を確認。令和8年4月1日時点の条文)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第15条の8、第16条の2の2、第16条の2の3を確認)
- 不動産適正取引推進機構「試験概要」(出題の根拠となる法令は、試験を行う年度の4月1日現在施行のもの)
働く人の法律試験ノート