資格勉強のモチベーションが上がらないときは、気分を上げようとするより、目標の置き方を変えます。「合格する」「180点を取る」という結果の目標とは別に、「今週、行政手続法の問題を30問解いて、✕の肢を見直す」のような、自分の手で達成できて毎週数えられる行動の目標を置きます。
合格後の場面を思い描くのは、使い方しだいです。研究では、楽しい未来を思い描くだけだと、かえって努力が減ることが報告されています。思い描いたら、すぐに「それを邪魔する自分の中の障害」と並べ、「もしその障害が来たら、こうする」まで決めます。この手順は、願い・結果・障害・計画の頭文字から WOOP(ウープ)と呼ばれます。そして、進み具合を目で見える形にします。この記事では、この3つを行政書士試験・宅建試験の勉強に落として説明します。
モチベーションが上がらないのは、気合いが足りないからか
働きながら資格の勉強をしていると、モチベーションが上がらない時期は来ます。それは気合いの問題というより、試験勉強という課題の形から来る部分が大きいと当サイトは考えています。
- ゴールが遠い:宅建試験も行政書士試験も年に1回です。勉強を始めた時点では、試験日は何か月も先にあります。今夜の30分が合格にどうつながるのか、実感しにくくなります。
- 成果が見えにくい:今日がんばっても、点数として分かるのは模試や本番です。毎日の勉強に、手ごたえが返ってきません。
- 目標が大きすぎて、今日やることに落ちていない:「合格する」だけを目標にしていると、毎晩「今日は何をすればいいのか」から考えることになります。
どれも、気分を上げても変わりません。変えられるのは、目標をどう置くか、進み具合をどう見えるようにするか、です。気分が落ちた日に勉強を切らさない工夫はしんどいときの立て直し方に任せ、この記事では「下がりにくい目標の置き方」を扱います。
「結果の目標」と「行動の目標」は、どう分けるか
目標は、2つの層に分けて置きます。
| 種類 | 行政書士の例 | 宅建の例 | いつ見るか |
|---|---|---|---|
| 結果の目標 | 合格。全体・法令等・基礎知識の基準を超える | 合格。その年の合格基準点を超える | 月1回・模試のあと |
| 行動の目標 | 今週、行政手続法を30問と✕の見直し | 今週、宅建業法を40問と✕の見直し | 毎日・週末 |
結果の目標の数字は、公式の基準から置きます。行政書士試験は、令和7年度の合否判定基準では全体180点以上・法令等122点以上・基礎知識24点以上でした(補正されることがあります)。宅建試験の合格基準点は年ごとに違い、直近5年では33点(令和7年度)から37点(令和6年度)でした。その数字を分野ごとにどう取りにいくかは、行政書士の得点戦略・宅建の得点戦略で決めておくと、行動の目標に落としやすくなります。
結果の目標は大事ですが、自分だけでは決まりません。その年の問題の難しさや、当日の体調にも左右されます。一方、行動の目標は、今週の自分が手を動かせば達成できます。毎日・毎週見るのは行動の目標のほうにします。
行動の目標は、次の3つを満たす形にします。
- 自分の手で達成できる:「模試で8割」は結果です。「模試を受けて、✕の問題を全部見直す」なら行動です。
- 数えられる:「民法をがんばる」ではなく、「代理の問題を20問、✕の肢の理由を言えるまで」のように、終わったかどうかが分かる形にします。
- 1週間で区切る:月の目標は今日やることに落としにくく、1日の目標は残業1回で崩れます。働きながらなら、当サイトは1週間の区切りをすすめます。
合格後の場面を思い描くのは、効くのか
「合格した自分を思い描くと、やる気が出る」という話があります。研究の結果は、思い描き方によって分かれます。
楽しい未来を思い描くだけだと、努力が減ることがある
どんな研究か:Oettingen と Mayer(2002年)は、未来についての2種類の考え方を区別しました。1つは「期待」(その未来が実現しそうだと判断すること)、もう1つは「楽しい空想」(その未来を思い描いて、いい気分を味わうこと)です。4つの研究のうちの1つでは、心理学の授業を受ける大学生117人に、中間試験の2日前に、成績が張り出される場面を思い描いてもらい、その中身がどれだけ楽しいものだったかを調べました。そして、その後の勉強の様子と、期末までの成績の変化を追いました。
何が分かったか:「いい成績が取れそうだ」という期待が高い学生は、よく勉強し、成績も伸びていました。反対に、楽しい空想をしていた学生ほど、勉強の努力が少なく、成績の伸びも小さかったと報告されています。同じ論文の、就職活動や手術後の回復を調べた研究でも、同じ向きの結果でした。
続く研究で、Kappes と Oettingen(2011年)は、楽しい未来を思い描いてもらった人は、そうでない人に比べて、体の反応などで測った「動くためのエネルギー」が低くなることを報告しています。思い描いただけで、もう手に入れたような気分になり、動く力がわきにくくなる、という説明です。
注意すること:調べたのは大学生や求職中の人で、資格試験の勉強ではありません。また、未来を考えること自体が悪いという結果ではありません。「実現しそうだ」と判断する期待は、むしろ努力とつながっていました。問題になるのは、いい気分に浸るだけの思い描き方です。
「結果」ではなく「やり方」を思い描くと、勉強が増えた
どんな研究か:Pham と Taylor(1999年)は、中間試験を控えた大学1年生に、試験前の5〜7日間、毎日少しの時間、頭の中で場面を思い描いてもらいました。いい成績を取った場面(結果)を思い描くグループと、いつ・どこで・どう勉強するか(やり方)を思い描くグループなどに分けて比べています。
何が分かったか:やり方を思い描いたグループは、勉強の量が増え、試験の成績もよくなりました。成績がよくなったのは、計画を立てやすくなったことと、不安が小さくなったことを通じてだったと分析されています。論文の要旨で勉強と成績の伸びが示されているのは、やり方を思い描いたグループのほうです。
試験勉強ではこう使う:合格通知を受け取る場面を思い描くのは、1分で十分です。そのあとに、「明日の夜、夕食の片づけが終わって、机で宅建業法の問題集の続きを開く」ところまで、具体的に思い描きます。思い描く時間の大半は、合格の場面ではなく、明日の勉強の場面に使います。
願いと障害を並べる「WOOP」は、どうやるか
楽しい未来を思い描いたあと、それを邪魔するものと並べて考える方法を、心理対比(しんりたいひ)と呼びます。Oettingen らが研究してきた方法で、「もし〜したら、こうする」という計画(実行意図)と組み合わせた手順が WOOP です。
- Wish(願い):少し難しいけれど、自分で実現できそうな願いを1つ決めます。大きすぎるときは小さく分けます。例:「今月中に、行政手続法の問題集を1周する」。
- Outcome(いちばん良い結果):それがかなったとき、何がいちばん良いかを思い描きます。例:「行政法の土台ができて、来月から行政不服審査法に安心して進める」。
- Obstacle(障害):それを邪魔する、自分の中にある一番の障害を探します。外の事情(残業そのもの)より、自分の中のもの(帰宅後にスマホを見始めると止まらない、など)を選ぶよう案内されています。外の事情は変えにくく、自分の行動は変えられるからです。
- Plan(計画):「もし(障害)が起きたら、(行動)をする」の1文にします。例:「もし帰宅してスマホを手に取ったら、それを充電器に置いて、問題集を1問だけ開く」。
どんな研究があるか:Duckworth ら(2011年)は、アメリカの高校2年生66人を2つに分けました。一方には、夏休みの試験対策について、この心理対比と「もし〜したら」の計画を30分かけて書いてもらいました。もう一方には、別の作文を書いてもらいました。夏休みに配った問題集の解いた数を比べると、心理対比と計画を書いたグループは、もう一方のグループより60%以上多くの問題を解いていました。
注意すること:人数の少ない研究で、相手は高校生です。数えたのは解いた問題の数で、試験の点数ではありません。WOOP をすれば点が上がる、という結果として受け取らないでください。
行政書士と宅建の勉強での例を、架空の人物で示します。
| 段階 | Bさん(宅建・営業職) | Cさん(行政書士・事務職) |
|---|---|---|
| 願い | 今週、法令上の制限の問題を30問 | 今週、民法の代理を20問と✕の見直し |
| 良い結果 | 苦手意識が薄れ、週末の通しで点が拾える | 記述式の練習に進める土台ができる |
| 障害 | 数字が多い問題を見ると後回しにする | ✕が続くと「向いていない」と思って閉じる |
| 計画 | 数字の問題が出たら、まず条文を1つ確かめる | ✕が3つ続いたら、解説を読んで1問だけ解き直す |
WOOP は、週のはじめに5分で書きます。願いは、その週の行動の目標と同じものでかまいません。もし書いてみて、障害を越える手が思いつかないほど願いが大きいと感じたら、願いを小さくします。「もし〜したら」の作り方のくわしい決まりは、やる気に頼らない続け方で書いています。
進み具合は、どう見える形にするか
成果が見えにくいことが、モチベーションが下がる原因の一つでした。そこで、点数が出る前の進み具合を、目で見える形にします。
進み具合をこまめに確かめると目標に近づきやすく、とくに書いて記録したときに効果が大きかったという研究のまとめ(Harkin ら、2016年)があります。研究の中身と、毎日1行の記録のつけ方は、やる気に頼らない続け方の記事で紹介しています。この記事では、それとは別に、試験範囲のどこまで進んだかを1枚で見る方法をすすめます。
- 範囲の地図を作る:使っている問題集の目次を、科目・単元ごとに1枚の紙か表計算に書き出します。行政書士なら行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法…、宅建なら宅建業法の免許・宅建士・営業保証金…と並べます。
- 3段階で塗る:単元ごとに「1回解いた」「✕を見直した」「数日後に解き直して、理由を言えた」の3段階で色を塗ります。点数ではなく、自分の行動で塗れる段階にするのがポイントです。
- 週末に1回だけ眺める:塗れたところを確かめ、次の週の行動の目標を、塗れていない単元から選びます。
この地図は、模試の点が悪かった週にも役に立ちます。点数は下がっても、塗れた範囲は減りません。「何もできていない」と感じたときに、事実として積み上がっているものを確かめられます。
人に見せるのも一つの方法です。上の Harkin らのまとめでも、結果を人に伝えたり公にしたりした研究のほうが効果が大きかったとされています。家族や一緒に勉強している人に、週末に地図を見せる約束をしておくと、週の終わりに向けて手が動きやすくなります。家族に勉強を伝えるときの言い方は、仕事・家族との両立の記事で例を示しています。
それでも気持ちが上がらない週は、どうするか
目標の置き方を整えても、気持ちが上がらない週はあります。そのときは、モチベーションが戻るのを待たずに、行動の目標を小さくします。「今週30問」を「今週15問と、✕の見直し」に下げても、地図は少しずつ塗れます。
試験が近づいて、やる気が出ないというより不安で手がつかない、という状態なら、試験前の不安の記事の手順のほうが合います。
なお、気分の落ち込みや眠れない状態が何週間も続く、体に強い不調が出ている、というときは、勉強で乗り切ろうとせず、医療機関や相談窓口に相談してかまいません。
今日からやること
- 結果の目標(合格と、分野ごとの目標点)と、今週の行動の目標を、別々に1行ずつ書く。
- 今週の行動の目標で WOOP を書く。障害は自分の中のものを1つ選び、「もし〜したら」の1文にする。
- 合格後の場面を思い描くのは1分にして、そのあと明日の勉強の場面を具体的に思い描く。
- 問題集の目次から範囲の地図を作り、今週解いた単元を塗る。
- 週末に地図を眺め、次の週の行動の目標を塗れていない単元から選ぶ。
このサイトで次に読むなら、社会人の資格勉強がしんどいときの立て直し方がおすすめです。目標を置いても、崩れる週は来ます。崩れた日に全部やめてしまわない手順を先に用意しておくと、置いた目標が長持ちします。
参考にした研究・資料(2026年10月確認)
- Oettingen, G., & Mayer, D. (2002). The motivating function of thinking about the future: Expectations versus fantasies. Journal of Personality and Social Psychology, 83(5), 1198–1212. https://doi.org/10.1037/0022-3514.83.5.1198(4つの研究。試験の研究は大学生117人。ハンブルク大学のページの論文で確認)
- Kappes, H. B., & Oettingen, G. (2011). Positive fantasies about idealized futures sap energy. Journal of Experimental Social Psychology, 47(4), 719–729. https://doi.org/10.1016/j.jesp.2011.02.003(概要はLSE Research Onlineで確認)
- Pham, L. B., & Taylor, S. E. (1999). From thought to action: Effects of process- versus outcome-based mental simulations on performance. Personality and Social Psychology Bulletin, 25(2), 250–260. https://doi.org/10.1177/0146167299025002010
- Duckworth, A. L., Grant, H., Loew, B., Oettingen, G., & Gollwitzer, P. M. (2011). Self-regulation strategies improve self-discipline in adolescents: Benefits of mental contrasting and implementation intentions. Educational Psychology, 31(1), 17–26. https://doi.org/10.1080/01443410.2010.506003(高校2年生66人。コンスタンツ大学のページの論文で確認)
- Harkin, B., Webb, T. L., Chang, B. P. I., Prestwich, A., Conner, M., Kellar, I., Benn, Y., & Sheeran, P. (2016). Does monitoring goal progress promote goal attainment? A meta-analysis of the experimental evidence. Psychological Bulletin, 142(2), 198–229. https://doi.org/10.1037/bul0000025
- WOOP my life「Practice」(WOOP の4つの手順と、障害は自分の中のものを選ぶという案内)
働く人の法律試験ノート