既存不適格建築物(きぞんふてきかくけんちくぶつ)は、建てたときは法律に合っていたのに、その後に法律や都市計画が変わって、今の規定に合わなくなった建物です。建築基準法3条2項は、規定ができたり変わったりした時に現に存在していて、その規定に合わない建物には、その規定は適用しないと決めています。だから既存不適格建築物は違反建築物ではなく、そのまま使い続けられます。
ただし、ずっと守られるわけではありません。規定が変わった後に増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をすると、原則として今の規定がかかります(3条3項3号・4号)。取り壊して建て直すときも同じです。用途を変えるときは、用途制限などが準用されます(87条3項)。一方、政令で決めた範囲の増築などは、一部の規定がかからない緩和もあります(86条の7)。
この記事では、既存不適格と違反建築物の違い、どんな工事や変更で今の規定がかかるかを、例と条文で確かめます。建築確認の手続は建築確認の記事、用途地域ごとに建てられる建物は用途地域の記事で扱います。条文は令和8年4月1日時点のものです。
身近な例で考えると:祖父の家と、裏の作業場
登場人物を紹介します。
| 人物 | 立場 | 建物 |
|---|---|---|
| はるとさん | 祖父の家を相続した会社員 | 昭和の時代に建った木造の家 |
| ふじいさん | はるとさんの近所で作業場を営む人 | 用途地域が変わる前に建てた作業場 |
| まつださん | 同じ町内の住人 | 確認を受けずに、決まりより大きく建てた家 |
- はるとさんの祖父の家は、建てた当時、その地域が都市計画区域ではありませんでした。敷地は、細い通路で道路に1.5メートルだけ接しています。
- その後、地域が都市計画区域に指定されました。道路に2メートル以上接しなければならないという接道義務(43条1項)は、都市計画区域の中で適用される規定です(41条の2)。
- 祖父の家は、規定が適用されるようになった時にすでに建っていたので、43条1項は適用されません(3条2項)。はるとさんは、相続した家にそのまま住めます。
- 近所のふじいさんの作業場は、建てた後の用途地域の変更で、今の用途制限(48条)では建てられない用途になりました。これも既存不適格で、そのまま使えます。
- まつださんの家は、建てた当時の建蔽率の制限をすでに超えていました。これは既存不適格ではなく、違反建築物です。その後に規定が変わっても、守られる扱いは受けません(3条3項1号・2号)。
たとえるなら、既存不適格は「入学した後に校則が変わったけれど、前から使っているかばんはそのまま使ってよい」という扱いです。ただし本物のルールでは、かばんを大きく作り直したり(増築・改築)、別の用途に使い始めたり(用途の変更)すると、新しい校則がかかります。最初から校則違反だったかばんは、この扱いを受けません。
条文ではこう決まっている
既存不適格の扱い(3条2項)
- 建築基準法やそれにもとづく命令・条例の規定が施行・適用される際に、現に存する建物やその敷地がその規定に合わないときは、その建物などには、その規定は適用しない。
- 合わない規定だけが外れます。ほかの規定まで外れるわけではありません。
今の規定がかかる場合(3条3項)
3条2項の扱いは、次の建物などには使えません。
- 法令の改正の後の規定が適用される際に、それに相当する前の規定に違反している建物(1号)。もともと違反していた建物です。
- 都市計画区域の指定や用途地域などの都市計画の変更で制限が変わった際に、変更後の制限に相当する前の制限に違反している建物(2号)。
- 規定の施行・適用の後に工事に着手した、増築・改築・移転・大規模の修繕・大規模の模様替をする建物や敷地(3号)と、その部分(4号)。
- いったん規定に合うようになった建物(5号)。
増築などの緩和(86条の7)
- 3条2項で一部の規定の適用を受けない建物について、政令で定める範囲内で増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合は、3条3項(3号・4号)にかかわらず、86条の7第1項に並べた規定(接道義務の43条1項、用途制限の48条、容積率の52条、建蔽率の53条など)は適用しない。
- 範囲は政令で決まっています。たとえば用途制限に合わない建物の増築・改築では、増築後の床面積の合計が基準時(規定の適用を受けない状態が始まった時)の1.2倍を超えないこと、用途の変更を伴わないことなどの条件があります(建築基準法施行令137条の7)。
- 接道義務(43条1項)に合わない建物で政令が決めている範囲は、大規模の修繕・大規模の模様替だけです。利用者が増える用途の変更を伴わず、特定行政庁が交通上・安全上・防火上・衛生上支障がないと認めるものに限られます(施行令137条の12第11項)。増築・改築は、この範囲に入っていません。
用途を変えるとき(87条3項)
- 3条2項で用途制限(48条)などの適用を受けない建物の用途を変えるときは、原則としてそれらの規定を準用する。
- 例外は、①増築・改築・大規模の修繕・模様替をする場合(このときは3条3項でかかる)、②政令で指定する類似の用途どうしの変更で、修繕・模様替をしないか大規模でない場合、③用途制限について、政令で定める範囲内の用途の変更の場合。
- 特殊建築物にする用途変更で確認がいるかは、別の規定(87条1項)で、建築確認の記事の用途変更の節で扱っています。
違反建築物への措置(9条)と、危険な既存不適格への命令(10条)
- 9条1項:特定行政庁(建築主事を置く市町村の長や、都道府県知事)は、建築基準法令の規定に違反した建物について、建築主・工事の請負人・所有者・管理者・占有者などに、工事の停止や、除却・改築・使用禁止など違反を正す措置を命ずることができる。
- 10条:建物の敷地・構造・建築設備が3条2項で第2章の規定の適用を受けない建物(既存不適格)でも、劣化が進んで放置すれば著しく保安上危険・衛生上有害となるおそれがあるときは、特殊建築物など一定の建物について、所有者などに必要な措置を勧告でき(1項)、正当な理由なく従わないときは命令できる(2項)。著しく保安上危険・衛生上有害であると認めるときは、勧告なしに命令もできる(3項)。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例
- はるとさんの祖父の家。都市計画区域になる前から建っていて、接道が1.5メートル。→ 43条1項について既存不適格で、そのまま住めます。
- 都市計画の変更で容積率の上限が下がり、前から建っていたマンションが上限を超えた。→ 容積率について既存不適格です。違反建築物ではありません。
当てはまらない例
- まつださんの家。建てた当時の建蔽率をすでに超えていた。→ 前の制限に違反していたので、3条2項の扱いを受けません(3条3項1号・2号)。違反建築物として9条の命令の対象になりえます。
- 既存不適格の建物を、規定が変わった後に、許される範囲を超えて増築した。→ 増築部分などに今の規定がかかります(3条3項3号・4号)。
ひっかけやすい例
- はるとさんが、祖父の家を取り壊して新しい家を建てる。→ 新しい家は、規定の適用の際に現に存した建物ではありません。43条1項がかかるので、道路に2メートル以上接していなければ、43条2項の認定や許可を受けない限り建てられません。
- はるとさんが、取り壊さずに屋根や壁を大きく直す(大規模の修繕・模様替)。→ 利用者が増える用途の変更を伴わず、特定行政庁が交通上・安全上・防火上・衛生上支障がないと認めれば、43条1項はかかりません(86条の7第1項、施行令137条の12第11項)。建て替えとの違いに注意します。
- ふじいさんが、作業場を店に変える。→ 用途の変更なので、類似の用途どうしなどの例外に当たらなければ、今の用途制限が準用されます(87条3項)。
- 既存不適格の古い建物が、劣化で著しく保安上危険になった。→ 違反建築物ではなくても、10条で勧告や命令を受けることがあります。
似ているルールとの違い
既存不適格建築物と違反建築物
| 比べる点 | 既存不適格建築物 | 違反建築物 |
|---|---|---|
| 建てたとき | 規定に合っていた | 規定に違反していた |
| 今の規定 | 合わない規定は適用しない(3条2項) | 違反している |
| 是正の命令 | 9条の対象外 | 9条の対象 |
| 危険なとき | 10条の勧告・命令がありうる | 9条の命令で正す |
どんなときに今の規定がかかるか
| すること | 今の規定 | 根拠 |
|---|---|---|
| そのまま使う | かからない | 3条2項 |
| 増築・改築・大規模の修繕など | かかる(政令の範囲内は一部の規定が緩和) | 3条3項3号・4号、86条の7 |
| 取り壊して建て直す | かかる | 3条2項は使えない |
| 用途の変更 | 用途制限などを準用(例外あり) | 87条3項 |
既存不適格の建物を売り買いするときは、法令上の制限の概要が、契約の前に重要事項説明で説明されます。説明する事項の範囲は重要事項説明の「物件の状態」の記事で扱っています。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、建築基準法の複数の論点を1問に混ぜた「総合」の問題が主な論点として50問(30回)、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では20問ありました。既存不適格だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 既存不適格=違反:今の規定に合わなくても、適法に建てた建物は違反建築物ではありません。9条の是正命令の対象でもありません。
- もともと違反していた建物:前の規定に違反していた建物は、規定が変わっても3条2項の扱いを受けません。
- 建て替え・増築:工事の後は、今の規定がかかるのが原則です。政令で決めた範囲の増築などだけが緩和されます。
- 用途の変更:工事をしなくても、用途を変えると用途制限などが準用されることがあります(87条3項)。
- 危険なとき:既存不適格でも、著しく保安上危険などのときは10条で命令を受けることがあります。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
Aの木造の店舗は、構造の規定の改正で今の規定に合わなくなった既存不適格建築物で、劣化が進んで著しく保安上危険になっている。特定行政庁は、Aに対し、この店舗の除却や修繕を命ずることができない。
答え:✕ 分かれ目は、既存不適格の建物に命令できる根拠があるかです。違反建築物への命令は9条ですが、敷地・構造・建築設備が3条2項で第2章の規定の適用を受けない建物でも、著しく保安上危険であると認めるときは、特定行政庁は所有者などに除却・修繕などの措置を命ずることができます(建築基準法10条3項)。正しくは、違反建築物でなくても命令を受けることがあります。違反建築物への措置(9条)だけを命令の根拠と考え、10条と取り違えた形です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
都市計画区域に指定される前から建つBの家は、敷地が道路に1.5メートルしか接していない。Bがこの家を取り壊して新しい家を建てる場合も、もとの家が既存不適格だったので、接道義務(43条1項)は適用されない。
答え:✕ 分かれ目は、3条2項で守られる建物の範囲です。3条2項が規定を適用しないのは、規定の施行・適用の際に現に存する建物です(建築基準法3条2項)。取り壊した後に建てる家はこれに当たらず、改築として扱われる場合も、規定の適用後に着手した改築には今の規定がかかります(3条3項3号)。正しくは、43条2項の認定・許可を受けない限り、2メートル以上の接道がなければ建てられません。接道義務の緩和(86条の7第1項)は、支障がないと認められた大規模の修繕・模様替だけが対象です(施行令137条の12第11項)。もとの家をそのまま使う場合の扱いと、建て替えた後の扱いを取り違えた形です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
Cが建蔽率の制限を超えて建てた家は、その後の用途地域の変更で変わった建蔽率の制限も超えている。この家は、変更後の制限について3条2項の扱いを受けず、是正の措置を命じられることがある。
答え:○ 分かれ目は、もともと違反していた建物かどうかです。都市計画の変更で制限が変わった場合、変更後の制限に相当する前の制限に違反している建物には、3条2項は適用されません(建築基準法3条3項2号)。Cの家は前の制限に違反していたので既存不適格にはならず、違反建築物として9条の命令の対象になりえます。「制限が変わった後に合わない建物はすべて既存不適格」と考えると✕にしやすい肢で、適法に建てた後に合わなくなった建物と取り違えた形です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「法令上の制限」で続けて解けます。
まとめ
- 既存不適格建築物は、規定の施行・適用の際に現に存していて、その規定に合わない建物。その規定は適用されず、違反建築物ではない(3条2項)。
- 前の規定にもともと違反していた建物は、既存不適格にならない(3条3項1号・2号)。
- 規定の後に着手した増築・改築・大規模の修繕・模様替や建て替えには、今の規定がかかる。政令の範囲内の増築などは一部が緩和される(86条の7)。
- 用途を変えると、用途制限などが準用される(87条3項。類似の用途どうしなどは例外)。
- 違反建築物には9条の命令、既存不適格でも著しく保安上危険などのときは10条の勧告・命令がある。
次に読むなら、道路と接道義務の記事がおすすめです。建て替えのときに問題になる2項道路とセットバックを扱っています。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
宅建試験の出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているものです(不動産適正取引推進機構)。条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を e-Gov 法令検索(法令API)で確かめました。
- e-Gov法令検索「建築基準法」(3条2項・3項、9条1項、10条、41条の2、42条2項、43条、86条の7、87条)
- e-Gov法令検索「建築基準法施行令」(137条、137条の7、137条の12)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の概要」(法令の基準日)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(出題数を数えた元の問題)
働く人の法律試験ノート