ひとことで言うと、法人になっていない団体でも、団体としての組織が整っていれば、団体の財産と会員一人ひとりの財産を分けて扱う、という判例のルールです。こうした団体を「権利能力なき社団(けんりのうりょくなきしゃだん)」と呼びます。町内会、同窓会、法人になっていない労働組合などが例です。
民法には、権利能力なき社団の条文がありません。成り立つ条件も、財産や借金の扱いも、最高裁判所の判例で決まっています。この記事では、判例を一つずつ確かめながら、①成り立つ条件、②財産はだれのものか、③借金はだれが払うか、④不動産の登記の名義、⑤裁判の当事者になれるか、の5つを扱います。
身近な例で考えると
舞台は、法人の登記をしていない「みどり町内会」です。登場人物は次の3人です。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| はるきさん | 町内会の会長(代表者) | 町内会の名前で集会所の修理を頼んだ |
| ゆいさん | 町内会の会員 | 毎年の会費を払っている |
| たけるさん | 工務店の店主 | 修理をしたが、代金をまだもらっていない |
- みどり町内会には規約があり、会長の選び方、総会の開き方、会費の管理のしかたが決まっている。会員は毎年入れかわるが、町内会はずっと続いている。
- 会長のはるきさんが、町内会の名前で、たけるさんに集会所の屋根の修理を頼んだ。
- 修理は終わったが、町内会のお金が足りず、代金の一部が払われていない。
- たけるさんは「会員のゆいさんの家は近いし、ゆいさんに残りを払ってもらおう」と考えた。
判例によれば、たけるさんは、ゆいさんに個人として払えとは言えません。町内会の名前でした取引の借金は、会員全員に「一つの義務」として帰属し、払うのに使えるのは町内会の財産だけだからです。会員は、取引の相手に対して個人の責任を負いません。
たとえるなら、町内会の金庫は、会員それぞれの財布とは別の箱です。修理代は、その箱の中から払います。ただし本物のルールでは、箱そのものが法律上の「人」になるわけではありません。財産は、会員全員がまとめて持っている(総有=そうゆう)と考えます。この点が法人と違います。
条文と判例ではこう決まっている
まず、条文から確かめます。民法33条1項は「法人は、この法律その他の法律の規定によらなければ、成立しない。」と定めています。法律の手続(たとえば設立の登記)をしていない団体は、どれほど組織が整っていても法人ではありません。権利能力(けんりのうりょく=自分の名前で権利を持ち、義務を負える資格)がない、という意味で「権利能力なき社団」と呼ばれます。
一方、民事訴訟法29条は「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。」と定めています。権利は持てなくても、裁判の当事者にはなれる、ということです。
成り立つ4つの条件(最高裁昭和39年10月15日判決)
最高裁判所第一小法廷昭和39年10月15日判決は、法人でない社団が成り立つには、次の4つがそろうことを要するとしました。
- 団体としての組織をそなえている。
- 多数決の原則が行われている。
- 構成員(会員)が変わっても、団体が続いていく。
- 代表の方法、総会の運営、財産の管理など、団体としての主な点が決まっている。
同じ判決は、社団の名で代表者が取得した財産は、構成員に「総有的に帰属する」としました。総有とは、会員全員がまとめて持ち、一人ひとりの持分(もちぶん=自分の取り分の割合)がない持ち方です。
判例で決まっていること
| 判例 | 場面 | 結論 |
|---|---|---|
| 最一小 昭和39年10月15日 | 社団が成り立つ条件と、財産の持ち方 | 上の4条件。財産は構成員の総有 |
| 最三小 昭和48年10月9日 | 代表者が社団の名でした取引の借金 | 社団の総有財産だけが責任財産。構成員は個人の責任を負わない |
| 最二小 昭和47年6月2日 | 社団の不動産の登記のしかた | 代表者個人の名義でしか登記できない。社団名義・肩書付きは不可 |
| 同じ判決 | 登記名義人の代表者が交替した | 新代表者は旧代表者に、自分個人の名義への移転登記を求められる |
| 最一小 平成26年2月27日 | 社団自身が登記を求めて訴える | 社団は、代表者個人名義への移転登記を求める訴えの原告になれる |
| 最一小 昭和32年11月14日 | 法人でない労働組合から脱退した組合員 | 当然には、組合に財産の分割を請求できない |
昭和47年の判決は、代表者が「社団の構成員全員の受託者たる地位」で個人名義の登記をする、という言い方をしています。受託者(じゅたくしゃ=ほかの人のために財産を預かる人)として、会長個人の名前を借りて登記する、というイメージです。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる(規約のある町内会):みどり町内会は、会長の選び方・総会・会費の管理が規約で決まり、会員が入れかわっても続いています。4条件がそろうので、権利能力なき社団として扱われます。
- 当てはまらない(友人どうしの旅行の積立て):友人3人がお金を出し合って旅行の費用を積み立てているだけで、代表者や多数決の決まりがない。団体としての組織がないので、社団には当たりません。お金は3人の共有などとして考えます。
- 当てはまらない(法人になった団体):同窓会が一般社団法人として設立の登記をした。一般社団法人は設立の登記で成立する(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律22条)ので、法人そのものが権利を持ちます。権利能力なき社団の話ではなくなります。
- ひっかけやすい(肩書付きの登記):集会所の登記を「みどり町内会 会長 はるき」とした。団体の財産だと分かりやすいように見えますが、判例は、社団の代表者である旨の肩書を付けた登記は許されないとしています。登記は「はるき」個人の名義です。
- ひっかけやすい(会長が替わった):はるきさんが会長を退き、新しい会長が選ばれた。新会長は、はるきさんに対し、集会所の登記を自分個人の名義に移すよう求めることができます(昭和47年判決)。町内会自身が原告となって同じ登記を求めて訴えることもできます(平成26年判決)。
似ているルールとの違い
いちばん取り違えやすいのは、民法上の組合(くみあい=何人かが出資して共同の事業をする契約、667条以下)です。組合には条文があり、財産も借金も、権利能力なき社団とは違う扱いになります。
| 項目 | 権利能力なき社団(判例) | 民法上の組合(条文) |
|---|---|---|
| 財産の持ち方 | 構成員の総有。持分はない | 総組合員の共有(668条) |
| 取引の債権者 | 社団の財産からだけ回収。構成員個人には請求できない | 組合財産のほか、各組合員にも請求できる(675条) |
| 財産の分割 | 脱退しても当然には請求できない(労働組合の判例) | 清算の前は分割を求められない(676条3項)。脱退した組合員は持分の払戻しを受けられる(681条) |
組合の債権者は、各組合員に対し、損失分担の割合か等しい割合で請求できます(675条2項)。ただし、債権が生じた時に損失分担の割合を知っていたときは、その割合によります。「会員にも払ってもらえる」のは組合の話で、社団では判例が否定しています。
総有は、ふつうの共有とも違います。共有では、共有者それぞれに持分があり、分割を請求できるのが原則です。共有の決まり(管理・変更の多数決など)は共有の記事で扱っています。社団の財産には持分がないので、共有の分割のルールをそのまま当てはめないようにします。
試験ではここをまちがえやすい
- 組合の675条を社団に当てはめる形:「債権者は構成員に分担の割合で請求できる」は組合の条文です。社団では、構成員は取引の相手に個人の責任を負いません(昭和48年判決)。
- 登記の名義:社団名義・肩書付きの代表者名義は不可。代表者個人の名義だけです(昭和47年判決)。「法人と同じように団体名で登記できる」とする形は誤りです。
- 権利能力と当事者能力の取り違え:権利能力がないことから「裁判もできない」と考えると誤ります。代表者の定めがあれば、社団の名で訴え、訴えられます(民訴法29条)。登記を求める訴えの原告にもなれます(平成26年判決)。
- 成り立つ条件の言葉:「構成員の変更にかかわらず団体が存続」「多数決の原則」。全員一致でしか決められない、会員が抜けると解散する、という団体は条件を欠きます。
- 総有と共有の取り違え:社団の財産に持分はありません。脱退した人が持分に応じた分割を当然に求められる、とする形は判例と違います。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
権利能力なき社団にあたる町内会Aの会長Bが、Aの名で工務店Cに集会所の修理を頼んだが、代金が払われていない。この場合、Cは、Aの会員Dに対し、個人として代金の支払を求めることはできない。
答え:○ 分かれ目は、社団の取引の借金を、会員が個人で負うかどうかです。最高裁判所第三小法廷昭和48年10月9日判決は、代表者が社団の名でした取引上の債務は構成員全員に一個の義務として総有的に帰属し、社団の総有財産だけが責任財産となり、構成員各自は相手方に個人的な債務や責任を負わないとしました。会員に請求できないのは不公平に見えるので、✕にしやすい問題です。各組合員に請求できるのは、民法上の組合(675条2項)の規定です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
権利能力なき社団にあたる町内会Aが、会費で集会所の土地を買った。Aの代表者Bは、この土地について「A町内会代表者B」という肩書を付けた名義で、所有権の登記をすることができる。
答え:✕ 分かれ目は、登記の名義です。最高裁判所第二小法廷昭和47年6月2日判決は、権利能力なき社団の不動産は、代表者が構成員全員の受託者の立場で個人の名義で登記できるにすぎず、社団を権利者とする登記や、代表者である旨の肩書を付けた代表者個人名義の登記は許されないとしました。正しくは、B個人の名義で登記します。団体の名前で登記できるのは、設立の登記をした法人の場合です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
権利能力なき社団にあたる町内会Aの土地は、前の代表者Bの個人名義で登記されている。Bが代表者を退き、Cが新しい代表者に選ばれた。この場合、A自身が原告となって、Bに対し、C個人の名義への所有権移転登記を求める訴えを起こすことができる。
答え:○ 分かれ目は、法人でない社団が原告になれるかです。最高裁判所第一小法廷平成26年2月27日判決は、権利能力のない社団は、構成員全員に総有的に帰属する不動産について、登記名義人に対し代表者個人の名義への移転登記を求める訴訟の原告適格を有するとしました。「権利能力がないから原告にもなれない」と考えると✕にしてしまいます。権利を持つ資格(権利能力)と、裁判の当事者になる資格(民事訴訟法29条の当事者能力)は別で、登記の名義が代表者個人に限られることとも分けて覚えます。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「民法」で続けて解けます。民法の判例を事例の形で20問確かめたい人は、民法の一問一答も使えます。
まとめ
- 成り立つ条件は、組織・多数決・構成員が変わっても存続・代表や総会や財産管理の決まり(昭和39年判決)。
- 財産は構成員の総有で、持分はない。
- 取引の借金は社団の財産だけで払う。構成員は個人の責任を負わない(昭和48年判決)。組合(675条)と逆。
- 不動産は代表者個人の名義で登記する。社団名義・肩書付きは不可(昭和47年判決)。
- 代表者の定めがあれば、社団の名で訴え・訴えられる(民訴法29条)。登記を求める訴えの原告にもなれる(平成26年判決)。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(33条1項、668条、675条、676条、681条)
- e-Gov法令検索「民事訴訟法」(29条)
- e-Gov法令検索「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(22条)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和39年10月15日判決(昭和35年(オ)第1029号)」(成立要件と資産の帰属)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 昭和48年10月9日判決(昭和45年(オ)第1038号)」(取引上の債務と構成員の責任)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 昭和47年6月2日判決(昭和45年(オ)第232号)」(不動産の登記方法、新代表者の登記請求権)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 平成26年2月27日判決(平成23年(受)第2196号)」(登記請求訴訟と社団の原告適格)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和32年11月14日判決(昭和27年(オ)第96号)」(法人でない労働組合からの脱退と財産分割請求権)
このサイトで次に読むなら、民法の勉強法です。権利能力なき社団のように条文がなく判例で決まる論点を、条文の論点とどう分けて回すかを確かめられます。
働く人の法律試験ノート