宅建の民法の判例まとめ:権利関係で押さえる判例を論点ごとに一覧(結論と、何条の話か)

宅建の権利関係の判例は、「何条の話か」で分けると、覚える範囲が見えてきます。民法94条2項・96条3項(意思表示と第三者)、113条・117条(無権代理と相続)、162条と177条(時効と登記)、177条の第三者、抵当権(304条・372条・388条)、手付(557条)、賃貸借と借地借家法、使用者責任(715条)、債権と相続の9つです。

この記事は、当サイトの権利関係・民法の記事に出てくる判例のうち、宅建の権利関係で使うものを論点ごとの表にした索引です。どの判例も、裁判所ウェブサイトで裁判所・年月日・事件番号・判示事項と裁判要旨を確かめ直した最高裁判所のものです(大審院の判例は、裁判所ウェブサイトで確かめられないので載せていません)。判例ごとに「事案の一行・結論・まちがえやすい所」をそろえ、何条の話かを左の列に書きます。判決文を読ませる問題の解き方は、別の記事(この記事の最後で案内します)で扱っています。

この一覧の使い方

  1. 左の列で「何条の話か」を確かめる。条文を開いて、判例がその条文のどの言葉を説明しているかを見る。
  2. 「事案の一行」だけを見て、結論を口に出す。
  3. 言えなかった判例に印をつけ、条文と並べて覚え直す。表の下に記事を案内している論点は、その記事で事例を確かめる。
  4. 結論が逆になる組(時効完成の前と後、単独相続と共同相続など)を、並べて言えるようにする。

判例の欄の「最一小」は最高裁判所第一小法廷、「最大」は大法廷の略です。結論は、裁判要旨の言葉をかみくだいたものです。法改正で条文に取り込まれた判例は、まちがえやすい所の欄にそう書きました。

論点別の判例一覧

意思表示と第三者(民法94条2項・96条3項)

判例(何条)事案の一行結論まちがえやすい所
最二小 昭和29年8月20日(94条2項類推)買った不動産を、移す気がないのに他人名義で登記させた善意の第三者に、名義人が所有者でないと主張できない示し合わせ(通謀)がなくても類推する
最三小 昭和45年9月22日(94条2項類推)勝手にされた不実の登記を、知りながら4年余り放置善意の第三者に主張できない勝手な登記でも、承認して残せば類推
最一小 平成18年2月23日(94条2項・110条類推)任せた人に登記済証や印鑑証明書を渡し、不実の登記をされた善意無過失の第三者に主張できない「重い帰責性」が要る。第三者は無過失まで求められた
最一小 昭和49年9月26日(96条3項)詐欺で農地を買った人から、仮登記の権利を譲り受けた96条3項の第三者に当たる本登記がなくてよい。今の96条3項は善意無過失
  • 94条2項の類推は、本人の関わり方(自分で名義を作った、知って放置した、重い帰責性)で範囲が分かれます。平成18年の判決は、110条もあわせて類推し、第三者に善意だけでなく無過失を求めました。
  • 詐欺の取消しと第三者の関係は第三者の記事で、取消しの前と後に分けて扱っています。

無権代理と相続(民法113条・117条)

判例(何条)事案の一行結論まちがえやすい所
最二小 昭和40年6月18日(113条)無権代理人が本人を単独で相続本人が自分でしたのと同じ地位になる(有効)追認を拒んで無効を主張できない
最二小 昭和37年4月20日(113条)本人が無権代理人を相続当然には有効にならない相続の向きが逆だと結論も逆
最三小 昭和48年7月3日(117条)無権代理人を相続した本人に、相手方が117条の責任を求めた本人は117条の債務を免れない追認は拒めても、責任は相続で引き継ぐ
最一小 平成5年1月21日(113条)無権代理人が、ほかの相続人と一緒に本人を相続全員で追認しない限り、無権代理人の相続分でも当然には有効にならない単独相続(昭和40年)との違い
  • 「だれがだれを相続したか」と「単独か共同か」の2点で結論が分かれます。図を描いて、無権代理人と本人のどちらが亡くなったかを先に確かめます。昭和37年の判決は、旧民法の家督相続の事案です。
  • 本人が追認を拒絶した後に無権代理人が相続した場合などは、無権代理と相続の記事で場合分けしています。

時効と登記(民法162条・177条)

判例(何条)事案の一行結論まちがえやすい所
最三小 昭和41年11月22日(162条・177条)時効の進行中に元の所有者から買い、登記した人時効取得者は登記なしで対抗できる時効完成「前」の第三者
最一小 昭和33年8月28日(162条・177条)時効完成の後に元の所有者から買い、登記した人登記がなければ対抗できない(善意・悪意を問わない)完成「後」は二重譲渡と同じ扱い
最一小 昭和36年7月20日(162条・177条)第三者の登記の後も、時効に要る期間占有を続けた登記なしでその第三者に対抗できる第三者の登記の時から数え直す
最一小 昭和35年7月27日(162条)時効の起算点を後ろにずらして主張起算点は占有を始めた時で、選べない完成時期を動かして「前の第三者」にはできない

177条の第三者:二重譲渡・解除・相続(民法177条)

判例(何条)事案の一行結論まちがえやすい所
最二小 昭和43年8月2日(177条)先の買主の長い占有を知り、高値で売りつける目的で買って登記背信的悪意者は177条の第三者に当たらない知っていた(悪意)だけでは外れない
最三小 平成8年10月29日(177条)背信的悪意者から買って登記した転得者転得者自身が背信的悪意者でない限り対抗できる前の人の事情は引き継がない
最三小 昭和35年11月29日(177条・545条)売買の解除の後に、買主から買った第三者売主は登記がなければ対抗できない解除「後」の第三者は登記の先後
最二小 昭和38年2月22日(177条)共同相続人の一人が勝手に単独の登記をして売ったほかの相続人は自分の持分を登記なしで対抗できる取り戻せるのは自分の持分だけ
最二小 昭和42年1月20日(939条)相続放棄の後、放棄した人の債権者が持分を仮差押えした放棄の効力は登記なしでだれにでも主張できる遺産分割の後の第三者とは逆
最三小 昭和46年1月26日(177条)遺産分割で取得した後に、ほかの相続人から持分を得た第三者法定相続分を超える部分は登記がなければ対抗できない今は民法899条の2の条文になっている
  • 背信的悪意者は「知っていた」だけでなく、信義に反する事情(高値で売りつける目的など)があるときです。くわしい事例は背信的悪意者の記事にあります。
  • 相続と登記は、放棄(登記なしで主張できる)と遺産分割(法定相続分を超える部分は登記が要る)で結論が逆です。遺産分割の判例の考え方は、今は899条の2の条文になっています。

抵当権(民法304条・372条・388条)

判例(何条)事案の一行結論まちがえやすい所
最二小 平成元年10月27日(372条・304条)抵当不動産の賃料(供託された賃料の還付請求権)賃料に物上代位できる差押えは要る(304条1項ただし書)
最二小 平成12年4月14日 決定(372条・304条)抵当不動産の賃借人が受け取る転貸賃料原則として物上代位できない賃借人を所有者と同視できる場合は別
最二小 平成10年1月30日(372条・304条)賃料債権が譲渡され、対抗要件も備えた後自ら差し押さえて物上代位できる譲渡されても物上代位は止まらない
最二小 昭和36年2月10日(388条)更地として評価して抵当権を設定し、後で建物が建った法定地上権は成立しない抵当権者が建築を承認していても同じ
最三小 平成9年2月14日(388条)土地と建物に共同抵当、建物を取り壊して新築特段の事情がない限り、新建物に法定地上権は成立しない建物があった時の設定でも、再築で変わる
最大 平成11年11月24日(423条)不法占有者がいて競売が進まない抵当権者は所有者の妨害排除請求権を代位行使でき、自分への明渡しも求められる抵当権は占有しない権利だが、妨害は排除できる
  • 物上代位は「賃料はできる、転貸賃料は原則できない、譲渡後もできる」の3つを組で覚えます。順番と理由は物上代位の記事にあります。
  • 法定地上権は、388条の「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合」に抵当権が設定されたときの定めです。2つの判例は、どんな建物があればこの言葉に当たるかの当てはめです。

売買と手付(民法557条1項)

判例(何条)事案の一行結論まちがえやすい所
最大 昭和40年11月24日(557条1項)他人の不動産を売る売主が、所有権を取得して自分名義の登記をした履行の着手に当たる。自分が着手していても、相手方が着手するまでは手付解除できる今の557条1項ただし書は「相手方が」履行に着手した後と書いている

賃貸借と借地借家法(民法621条、借地借家法13条・32条・40条)

判例(何条)事案の一行結論まちがえやすい所
最二小 平成17年12月16日(621条)通常損耗の補修費を借主に負わせる契約範囲が具体的に明記されるなど、明確な合意がなければ負わない今は621条のかっこ書が通常損耗と経年変化を除いている
最三小 平成15年10月21日(借地借家法32条)サブリース(一括借り上げ)の賃料減額請求32条1項が適用される自動増額の特約があっても減額請求できる
最三小 昭和35年2月9日(借地借家法13条)借地人の債務不履行で借地契約を解除建物買取請求権はない旧借地法の事件。13条は期間満了で更新がないとき
最三小 昭和36年10月10日(借地借家法40条)3年後に自分で店を出すまで、期間を3年に限って貸した一時使用の賃貸借に当たる期間1年未満に限られない(旧借家法の事件)。定期借家とは別の制度

使用者責任(民法715条)

判例(何条)事案の一行結論まちがえやすい所
最一小 昭和51年7月8日(715条3項)業務中の事故の損害を、使用者が被用者に請求信義則上、損害の4分の1を限度とした715条3項の求償は全額とは限らない
最二小 令和2年2月28日(715条)被害者に賠償した被用者が、使用者に請求(逆求償)相当と認められる額を使用者に求償できる使用者から被用者への求償の制限と対になる

債権譲渡と相続(民法467条・909条の2)

判例(何条)事案の一行結論まちがえやすい所
最一小 昭和49年3月7日(467条2項)債権が二重に譲渡され、どちらも確定日付のある通知通知が債務者に到達した日時の先後で決める確定日付の日付の先後ではない
最大 平成28年12月19日 決定(907条)共同相続された預貯金当然には分けられず、遺産分割の対象になる今は909条の2で、分割前に一部を払い戻せる

判例はどこまで覚えればよいか

宅建の権利関係は、条文で答えが決まる所が中心で、判例はその条文の言葉の当てはめとして出てきます。たとえば「第三者」(94条2項・96条3項・177条)、「履行に着手」(557条1項)、「建物が存する」(388条)です。そこで、この一覧は次の順で使うと、覚える量が増えすぎません。

  1. 先に条文の要件を言えるようにする(権利関係の優先順位は権利関係の勉強法の記事)。
  2. この一覧で、その条文の言葉の意味を決めた判例の結論を一行で言えるようにする。
  3. 問題集の解説に、この一覧にない判例が出てきたら、その判例だけを足す。

判決文そのものを読ませる問題は、知らない判例でも、判決文の結論を一行にまとめて肢と照らせば解けます。こちらは知識の一覧ではなく読み方の練習なので、判決文問題の解き方の記事で手順を練習してください。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが不動産適正取引推進機構の公開問題(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、権利関係の分野の問題は585問でした。判決文を示して問う形の問題は、副の論点として17問、直近10回では7問ありました(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。判例の結論で取り違えやすいのは次の形です。

  • 前と後の入れ替え:時効完成の前の第三者(登記なしで対抗できる)と後の第三者(登記が要る)。
  • 向きの入れ替え:無権代理人が本人を相続(有効)と、本人が無権代理人を相続(当然には有効にならない)。
  • 単独と共同:無権代理人の単独相続と共同相続。
  • 悪意と背信的悪意:知っていただけの第三者は177条の第三者に当たる。外れるのは背信的悪意者だけ。
  • 賃料と転貸賃料:賃料には物上代位できるが、転貸賃料は原則としてできない。
  • 判例と今の条文:手付解除(557条1項)、通常損耗(621条)、遺産分割と登記(899条の2)、預貯金(909条の2)は、今は条文で答える。条文の言葉で覚え直す。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
不動産会社Bは、転貸して収益を上げる目的で、Aが建てたビル1棟を一括して借りた(定期建物賃貸借ではない)。契約には、賃料を一定期間ごとに増額する特約がある。判例によれば、周辺の賃料相場が大きく下がったときは、Bは、借地借家法32条1項による賃料の減額を請求できる。

答え:○ 分かれ目は、転貸事業のための一括借上げ(サブリース)にも借地借家法32条1項が適用されるかです。最高裁判所第三小法廷平成15年10月21日判決は、この契約にも32条1項が適用されるとし、同項は強行法規なので、賃料自動増額特約によってもその適用を排除できないとしました。減額を認めるか、相当な額はいくらかは、契約の経緯や特約が付いた事情、転貸事業の収支の見込みなどを総合して判断します。事業者どうしの特殊な契約だから借地借家法は及ばない、と考えると✕にしてしまいます。定期建物賃貸借で賃料改定の特約があるときは32条が適用されない(借地借家法38条9項)ので、そちらと区別します。

問2(このサイトのオリジナル問題)
売主Aと買主B(どちらも宅建業者ではない)は、Cが所有する土地の売買契約を結び、AはBから解約手付を受け取った。その後Aは、Bに引き渡すためにCからこの土地を買い取り、A名義の登記をした。判例によれば、この後は、Bは、手付を放棄して契約を解除することができない。

答え:○ 分かれ目は、Aのしたことが「履行に着手」に当たるかです。最高裁判所大法廷昭和40年11月24日判決は、他人の不動産を売った売主が、買主に譲渡する前提として所有権を取得し、自分名義の登記を受けたときは、履行の着手に当たるとしました。相手方Aが履行に着手した後なので、Bは手付による解除ができません(民法557条1項ただし書)。Bへの引渡しや登記の移転をまだしていないから着手ではない、と狭く考えると✕にしてしまいます。同じ判決は、自分が着手していても相手方が着手するまでは解除できるとしていて、これが今のただし書の「相手方が」という言葉です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
Aが死亡し、子BとCが2分の1ずつ相続した。Aは銀行に普通預金600万円を残していた。判例によれば、Bは、遺産分割の前でも、法定相続分に当たる300万円の払戻しを、単独で銀行に求めることができる。

答え:✕ 分かれ目は、預貯金が相続で当然に分かれるかです。最高裁判所大法廷平成28年12月19日決定は、共同相続された普通預金債権などは、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象になるとしました。正しくは、Bは遺産分割の前に300万円全部の払戻しを求めることはできません。分割の前に一人で払戻しを受けられるのは、民法909条の2により、相続開始の時の額の3分の1に法定相続分を掛けた額(この例では100万円。金融機関ごとに法務省令の上限もある)までです。預金を、相続分に応じて当然に分かれる債権だと考えた取り違えで、909条の2の払戻しの額とも混ぜないようにします。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 権利関係の判例は、何条の言葉の当てはめかで9つの論点に分ける。
  • 判例ごとに「事案の一行・結論・まちがえやすい所」を言えるようにし、結論が逆になる組(前と後、向き、単独と共同、賃料と転貸賃料)を並べる。
  • 177条の第三者から外れるのは背信的悪意者。その転得者は、自分が背信的悪意者でなければ対抗できる。
  • 手付・通常損耗・遺産分割と登記・預貯金は、今は条文で答える。

次に読むなら、判決文問題の解き方の記事がおすすめです。この一覧で結論を言えるようになった判例を、判決文の言葉で読む練習につなげられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

判例は、裁判所ウェブサイトで裁判所・年月日・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめました。条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の版を指定して確かめました。