抵当権(ていとうけん)と、同じ不動産を借りる権利(賃借権)のどちらが優先するかは、どちらが先に対抗要件をそなえたかで決まります。借主が、抵当権の登記より前に、賃借権の登記、借地なら本人名義で登記した建物、借家なら建物の引渡しのどれかをそなえていれば、競売で建物や土地を買った人にも「借り続けます」と言えます。抵当権の登記より後なら、抵当権に負け、競売の後は買った人に明け渡すことになります。
後から借りた人を守る仕組みは2つです。①賃貸借を登記し、先に登記した抵当権者全員が同意して、その同意も登記すれば、同意した抵当権者に対抗できます(民法387条)。②建物を借りていた人で、競売の手続が始まる前から使っていた人は、競売で買った人が買った時から6か月は、建物を明け渡さなくてよい(395条)。ただし、その間の使用の対価は払います。
抵当権者が家賃をつかまえる物上代位は物上代位の記事、競売を邪魔する目的の占有者を追い出す話は抵当権に基づく妨害排除請求の記事、抵当権の付いた不動産を買った人の手段は抵当権消滅請求と代価弁済の記事で扱います。この記事は「借りている人は競売のあとどうなるか」に絞ります。条文は令和8年4月1日時点のものです。
身近な例で考えると:ほしのさんのアパートが競売になった
登場人物を紹介します。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| ほしのさん | アパートの持ち主 | アパートを担保にお金を借りた |
| あさひ銀行 | 抵当権者 | ほしのさんにお金を貸し、抵当権を登記した |
| ゆうなさん | 101号室の借主 | 抵当権の登記より前から住んでいる |
| けいごさん | 102号室の借主 | 抵当権の登記より後に借りた |
| たかぎさん | 競売で買った人(買受人) | 競売でアパートを買った |
- ゆうなさんが、101号室を借りて引渡しを受け、住み始めました。
- その後、ほしのさんがあさひ銀行からお金を借り、アパートに抵当権を設定して登記しました。
- さらにその後、けいごさんが102号室を借りて住み始めました。
- ほしのさんが返済できなくなり、あさひ銀行が抵当権を実行しました。競売でたかぎさんがアパートを買いました。
ゆうなさんは、抵当権の登記より前に引渡しを受けています。建物の賃貸借は、引渡しがあれば登記がなくても対抗できます(借地借家法31条)。順番で抵当権より先なので、たかぎさんにも借り続けると言えます。大家はほしのさんからたかぎさんに代わります。
けいごさんは、抵当権の登記より後に借りています。抵当権に負けるので、たかぎさんに借りる権利を主張できません。ただし、競売の手続が始まる前から住んでいたので、たかぎさんが買った時から6か月は、部屋を明け渡さなくてよいことになります(395条)。
たとえるなら、抵当権と賃借権は「受付の順番」で勝ち負けが決まる関係です。先に受付を済ませた(対抗要件をそなえた)ほうが勝ちます。ただし本物のルールでは、後から来た人にも、387条の同意の登記と、395条の6か月の猶予という例外があります。
条文ではこう決まっている
順番を決めるもの
- 抵当権の側:抵当権は登記をしなければ第三者に対抗できません(民法177条)。抵当権の登記の時が、抵当権の「受付の時」です。
- 借主の側:賃貸借の登記(民法605条)、借地上の本人名義で登記された建物(借地借家法10条1項)、建物の引渡し(31条)のどれか。
- 競売のとき:抵当権は売却で消えます(民事執行法59条1項)。そして、消える抵当権を持つ人に対抗できない権利の取得は、売却で効力を失います(同条2項)。59条は強制競売の条文ですが、抵当権の実行としての競売(担保不動産競売)にも188条で準用されます。抵当権の登記より後の賃借権は、競売で効力を失う、ということです。
後から借りた人の例外
- 抵当権者の同意(387条1項):登記をした賃貸借は、その登記より前に登記をした抵当権者の全員が同意し、かつ、その同意の登記があるときは、同意をした抵当権者に対抗できる。
- 同意に要る承諾(387条2項):抵当権者が同意するには、その抵当権を目的とする権利を持つ人など、同意によって不利益を受ける人の承諾が要る。
- 建物の明渡しの猶予(395条1項):抵当権者に対抗できない賃貸借で建物を使う人のうち、①競売の手続の開始前から使っている人、②強制管理・担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借で使っている人は、買受人の買受けの時から6か月を過ぎるまでは、建物を買受人に引き渡さなくてよい。
- 猶予がなくなるとき(395条2項):買受けの後に建物を使った対価について、買受人が相当の期間を定めて1か月分以上の支払を催告し、その期間内に払わなければ、猶予はなくなる。
抵当権が付いても、貸すことはできる
抵当権は、持ち主が不動産を使い続けたまま付ける担保です。ほしのさんは、抵当権を付けた後も、部屋を人に貸すことができます。けいごさんとの賃貸借も、ほしのさんとけいごさんの間では有効です。問題になるのは、競売で抵当権が実行されたときに、買受人に対して借り続けられるかどうかです。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例
- ゆうなさんは抵当権の登記より前に引渡しを受けていた。→ たかぎさんに賃借権を対抗できます。賃貸人の地位はたかぎさんに移り、敷金を返す義務もたかぎさんに移ります(民法605条の2第1項・4項)。
- けいごさんは抵当権の登記より後に借りたが、競売の手続が始まる前から住んでいた。→ 買受けの時から6か月は明け渡さなくてよい(395条1項1号)。
当てはまらない例
- 抵当権の付いた土地を借りて、そこに倉庫を建てた。倉庫の登記は抵当権の登記より後だった。→ 395条の猶予は「建物」の使用についての規定で、土地を借りた人には使えません。
- けいごさんが102号室に入ったのが、競売の手続が始まった後だった。→ 395条1項1号の「競売手続の開始前から」に当たりません。2号(管理人がした賃貸借)でもなければ、6か月の猶予はありません。
ひっかけやすい例
- 抵当権の登記より後に借りたけいごさんの賃貸借に、あさひ銀行が同意し、同意の登記もした。ただし賃貸借の登記はしていない。→ 387条1項は「登記をした賃貸借」が対象です。引渡しだけでは、この例外は使えません。
- アパートに1番抵当権(あさひ銀行)と2番抵当権があり、1番の同意だけ登記した。→ 同意が要るのは、賃貸借の登記より前に登記した抵当権者の「全員」です。
似ているルールとの違い
借りた時期ごとに、競売のあとどうなるかを並べます。
| 借主の状態 | 競売のあと | 根拠 |
|---|---|---|
| 抵当権の登記より前に対抗要件 | 買受人に対抗できる | 民法177条・605条、借地借家法10条・31条 |
| 抵当権の登記より後(原則) | 対抗できず、売却で効力を失う | 民事執行法59条2項・188条 |
| 後でも、賃貸借の登記と全員の同意の登記 | 同意した抵当権者に対抗できる | 民法387条 |
| 後で、建物を競売開始前から使用 | 6か月は明け渡し不要(対価は払う) | 民法395条 |
395条の猶予は、借りる権利が続くことではありません。明け渡しを6か月待ってもらえるだけで、その間の対価は払います。387条は、借りる権利そのものを抵当権者に対抗できるようにする仕組みです。この2つは、効果の大きさが違います。
抵当権者が家賃から回収する方法(物上代位)は、借主がだれに家賃を払うかの話で、借り続けられるかとは別の問題です。抵当権の基本のしくみは抵当権の記事で確かめてください。借地の対抗要件の名義の問題は借地権の対抗要件の記事にあります。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、抵当権が主な論点の問題は29問(26回)、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では5問でした。そのうち、賃貸借や借地借家法を副の論点に含む問題は7問で、直近10回では1問です(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 先後の物差し:比べるのは、借主の対抗要件をそなえた時と、抵当権の登記の時です。賃貸借の契約日や、競売の申立ての日ではありません。
- 借家の対抗要件:建物の引渡しで足ります(31条)。「登記がないので競売で負ける」は、引渡しが抵当権の登記より前なら誤りです。
- 387条の要件:賃貸借の登記、先に登記した抵当権者全員の同意、その同意の登記の3つ。引渡しだけ、同意だけでは足りません。
- 395条の範囲:建物だけ。競売手続の開始前から使っている人など。期間は買受けの時から6か月。
- 395条の対価:猶予中も使った分の対価は払います。1か月分以上の催告を受けて払わなければ、猶予はなくなります。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
りょうさんは、あさひ銀行の抵当権の登記より前に103号室の賃貸借契約を結んだが、引渡しを受けて住み始めたのは登記の後で、賃借権の登記もない。競売の手続の開始前から住んでいたりょうさんは、賃借権を買受人のたかぎさんに対抗できないが、買受けの時から6か月は明け渡さなくてよい。
答え:○ 分かれ目は、先後を比べる時点です。建物の賃借人が対抗要件をそなえるのは引渡しの時で(借地借家法31条)、契約を結んだ日ではないので、りょうさんの賃借権は抵当権者に対抗できず、売却で効力を失います(民事執行法59条2項・188条)。それでも、競売手続の開始前から住んでいた人は、買受けの時から6か月は明け渡さなくてよいとされています(民法395条1項1号)。「契約が抵当権の登記より先なら勝つ」と考えると✕にしやすい肢で、賃貸借の契約日を対抗要件の時と取り違えた形です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
けいごさんは、あさひ銀行の抵当権の登記の後に102号室を借り、競売の手続が始まる前から住んでいた。たかぎさんが競売でアパートを買った場合、けいごさんは、買受けの時から6か月間は明け渡さなくてよく、その間の使用の対価も払う必要はない。
答え:✕ 分かれ目は、猶予の間の対価です。けいごさんは、買受けの時から6か月は明け渡さなくてよい立場ですが(民法395条1項1号)、使った分の対価は払う必要があります。正しくは、たかぎさんが相当の期間を定めて1か月分以上の支払を催告し、その期間内に払わなければ、猶予はなくなります(同条2項)。明け渡しの猶予を、借りる権利が続くこと(ただで住み続けられること)と取り違えた形です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
けいごさんは、あさひ銀行の抵当権の登記の後に102号室を借りて引渡しを受けた。あさひ銀行がこの賃貸借に同意し、その同意の登記もされたが、賃貸借そのものの登記はしていない。この場合でも、けいごさんは、賃借権をあさひ銀行に対抗できる。
答え:✕ 分かれ目は、387条の対象が「登記をした賃貸借」かどうかです。抵当権の登記の後の賃貸借が抵当権者に対抗できるのは、賃貸借が登記され、先に登記した抵当権者全員が同意し、その同意が登記されたときに限られます(民法387条1項)。正しくは、賃貸借の登記がなければこの例外は使えません。建物の賃貸借なら引渡しで対抗できる(借地借家法31条)というルールを、387条の場面にも広げて取り違えた形です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 抵当権と賃借権の優劣は、借主の対抗要件と抵当権の登記の先後で決まる。
- 借主の対抗要件は、賃貸借の登記・借地上の本人名義の建物の登記・建物の引渡し。
- 抵当権の登記より後の賃借権は、競売で効力を失う(民事執行法59条2項。担保不動産競売には188条で準用)。
- 例外1:賃貸借の登記+先に登記した抵当権者全員の同意+同意の登記で、同意した抵当権者に対抗できる(387条)。
- 例外2:建物を競売開始前から使う人は、買受けから6か月は明け渡し不要。対価は払う(395条)。
次に読むなら、物上代位の記事がおすすめです。抵当権者が、借主の払う家賃からどう回収するかを扱っています。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
宅建試験の出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているものです(不動産適正取引推進機構)。条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を e-Gov 法令検索(法令API)で確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(177条、387条、395条、605条、605条の2)
- e-Gov法令検索「借地借家法」(10条、31条)
- e-Gov法令検索「民事執行法」(59条、188条)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の概要」(法令の基準日)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(出題数を数えた元の問題)
働く人の法律試験ノート