取消し・解除と登記:取り消す前・後、解除する前・後に買った人との関係

ひとことで言うと、「取消しと登記」「解除と登記」は、第三者がいつ現れたかで使う条文が変わる論点です。取り消す前・解除する前に買った人は、96条3項や545条1項ただし書で守られるかを考えます。取り消した後・解除した後に買った人とは、177条の「先に登記をしたほうが勝つ」問題になります。

この記事は、詐欺・強迫による取消しと、代金不払いなどによる解除を扱います。うその売買(虚偽表示)のような「無効」の場面は扱いません。無効と取消しで守られる第三者の条件の一覧は、民法の第三者の記事にまとめています。この記事は、その記事で「後」の第三者として残した部分を、時間の順に並べて説明します。

身近な例で考えると:同じ土地をめぐる4人

登場人物は次の4人です。

人物立場したこと
———
はるかさん最初の売主自分の土地をそうたさんに売った
そうたさん最初の買主はるかさんをだまして買い、登記を自分の名義にした
あおいさん前の第三者はるかさんが取り消す前に、そうたさんから土地を買った
れんさん後の第三者はるかさんが取り消した後に、そうたさんから土地を買った

時間の流れは次のとおりです。

  1. 4月1日:はるかさんが、そうたさんにだまされて土地を売る。登記はそうたさんの名義になる。
  2. 5月1日:そうたさんが、土地をあおいさんに売る(取消しの前)。
  3. 6月1日:だまされたことに気づいたはるかさんが、売買を取り消す。
  4. 7月1日:登記がまだそうたさんの名義なので、そうたさんが土地をれんさんにも売る(取消しの後)。

あおいさんとれんさんは、どちらも「そうたさんから買った人」です。それでも、はるかさんとの関係を決める条文は違います。

  • あおいさん(取り消す前に買った人):96条3項で、詐欺を知らず、知らないことに過失もなければ守られます。
  • れんさん(取り消した後に買った人):はるかさんとれんさんのうち、先に登記をしたほうが優先する、という177条の形で考えます。

たとえるなら、「前」の人は、すでに売り買いが終わったところに取消しが割り込んできた人です。条文が特別に守るかどうかを決めています。「後」の人は、取消しの後で、はるかさんと同じ土地の取り合いになった人です。こちらは早い者勝ちのルールで決めます。ただし本物のルールでは、「後」の人を守る特別の条文はありません。177条という一般のルールを当てはめて考えます。

条文ではこう決まっている

  • 96条1項:詐欺または強迫による意思表示は、取り消すことができる。
  • 96条3項:詐欺による意思表示の取消しは、「善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」。強迫は書かれていません。
  • 121条:取り消された行為は、「初めから無効であったものとみなす」。
  • 545条1項:解除すると、各当事者は相手を元の状態に戻す義務を負う。ただし「第三者の権利を害することはできない」。善意・悪意の条件はありません。
  • 177条:不動産の物権の変動は、登記をしなければ「第三者に対抗することができない」。

対抗(たいこう)できない=その人に向かって「取り消したから土地は私のものだ」と言い張れない、という意味です。

「後」の第三者について、民法に直接の条文はありません。取消しや解除で土地がはるかさんに戻る動きと、そうたさんかられんさんへの売買を、同じ土地の二重譲渡(にじゅうじょうと=同じ物を二人に売ること)のように見るのが、試験で使う基本の型です。解除の後に現れた人については、次の判例がこの形をとっています。

  • 最高裁判所第三小法廷昭和35年11月29日判決:不動産の売買が解除されて所有権が売主に戻った場合、売主はその登記をしなければ、契約解除の後に買主から不動産を取得した第三者に対抗できない。

取消しの後に現れた人も、同じく177条で考えるのが試験の基本の型です。学説には、94条2項(うその登記を信じた人を守る条文)を当てはめて考える見方もあります。その考え方は94条2項の類推適用の記事で扱います。

場面ごとの見分けの表

場面使う条文第三者が守られる条件
———
詐欺の取消しの前に買った96条3項善意でかつ過失がない
強迫の取消しの前に買った守る規定がない守られない
取消しの後に買った177条の形先に登記をした
解除の前に買った545条1項ただし書善意・悪意は問わない(登記の扱いは下の判例)
解除の後に買った177条(昭和35年判決)先に登記をした

表の「後」の2行には、善意・悪意の条件がありません。177条の第三者には、事情を知っていただけの人も入るからです。ただし、登記がないことを持ち出すのが信義に反するような人(背信的悪意者)は外れます。どんな人がそれに当たるかは、記事の終わりで案内する背信的悪意者の記事で扱います。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:前の第三者が仮登記だけの場合

最高裁判所第一小法廷昭和49年9月26日判決は、次の事案です。だまして農地を買った人が、農地法の許可を条件にした所有権移転の仮登記(かりとうき=本登記の前に順番を確保する登記)をした。その後、売買契約上の権利を、事情を知らない人に譲り、仮登記の移転の附記登記をした。判決は、この譲り受けた人は96条3項の第三者に当たるとしました。

理由の中で判決は、96条3項の第三者を、物権を取得して対抗要件(登記など)を備えた人に限る理由は見出しがたい、という趣旨を述べています。前の第三者は、本登記がなくても守られうる、ということです。なお、当時の96条3項は「善意の第三者」でした。今の条文は「善意でかつ過失がない第三者」です。

当てはまらない例:強迫の取消しの前に買った

そうたさんが、だましたのではなく、おどして土地を買っていたとします。取消しの前にあおいさんが買い、あおいさんは何も知らず、落ち度もありませんでした。96条3項は詐欺だけの規定なので、はるかさんは取消しをあおいさんに対抗できます。

ひっかけやすい例1:後の第三者に「善意無過失」を求める

れんさん(取消しの後に買った人)について、「詐欺を知らず過失もなければ96条3項で守られる」と考えるのは、型の取り違えです。96条3項は取消しの前の第三者の規定です。後の第三者は、はるかさんとれんさんのどちらが先に登記をしたかで考えます。はるかさんが取り消した後、すぐに登記を自分の名義に戻していれば、はるかさんが優先します。

ひっかけやすい例2:解除の前の第三者が登記をしていない

最高裁判所第一小法廷昭和33年6月14日判決は、売買が契約の時にさかのぼって合意で解除された事案です。解除の前に買主から買っていたが、まだ所有権移転の登記をしていなかった人について、合意解除が信義則に反するなどの特段の事情がない限り、買主に代わって売主に登記を求めることはできない、としました。545条1項ただし書に善意の条件はありませんが、前の第三者でも登記の有無で結論が分かれうる、と押さえておきます。

似ているルールとの違い

「前か後か」で分ける考え方は、ほかの場面にも出てきます。

場面前に現れた人後に現れた人
———
詐欺の取消し96条3項(善意無過失)177条の形(登記)
強迫の取消し守る規定なし177条の形(登記)
解除545条1項ただし書177条(登記)

取得時効(長く使い続けて土地を手に入れること)と登記にも、時効の完成の前か後かで分ける考え方があります。こちらは取得時効の記事で説明しています。

取消しと解除の違いも確かめておきます。取消しは、だまされた・おどされたなど、契約を結んだときの問題を理由に、契約を初めからなかったことにします(121条)。解除は、代金を払わないなど、契約の後の問題を理由に、元の状態に戻させます(545条1項)。解除の要件は債務不履行の記事で扱っています。

試験ではここをまちがえやすい

この論点で取り違えやすいのは、事例の時間の順番と、それに合わせて使う条文です。

  • 時点の取り違え:取消しの「前」か「後」かは、取消しの意思表示をした時を基準に見ます。問題文の日付に線を引き、第三者が買った日と比べます。
  • 96条3項を後の第三者に使う:後の第三者は177条の形です。「善意無過失なら守られる」とする肢に注意します。
  • 強迫に96条3項を使う:96条3項は詐欺だけです。強迫の取消しの前の第三者は守られません。
  • 解除の第三者に善意を足す:545条1項ただし書には善意・悪意の条件がありません。
  • 前の第三者に本登記を求める:昭和49年判決は、96条3項の第三者を対抗要件を備えた人に限る理由はないとしました。
  • 後の第三者から悪意の人を外す:177条では、知っていただけの人も第三者に入ります。外れるのは背信的悪意者です。

記述式(40字程度)の練習としては、「取り消した後に現れた第三者に、なぜ登記がないと主張できないか」を、177条の言葉で短くまとめてみると、理解の確認になります。条文の言葉の選び方は意思表示の記事とあわせて確かめてください。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
はるかさんは、代金不払いを理由にそうたさんとの土地の売買を解除したが、登記はそうたさん名義のままだった。その後、解除を知りながらそうたさんから土地を買ったれんさんが先に登記をした。れんさんは悪意なので、はるかさんは登記がなくても所有権を主張できる(背信的悪意者にあたる事情はない)。

答え:✕ 分かれ目は、解除の後に現れた第三者に善意が要るかです。最高裁判所第三小法廷昭和35年11月29日判決は、解除で所有権が売主に戻っても、その登記をしなければ、解除の後に買主から取得した第三者に対抗できないとしました(177条)。177条の第三者には、事情を知っていただけの人も入ります。正しくは、先に登記をしたれんさんに、はるかさんは所有権を主張できません。取消しの前の第三者の規定(96条3項の「善意でかつ過失がない」)を、解除の後の第三者に持ち込んだ取り違えで、外れるのは背信的悪意者だけです。

問2(このサイトのオリジナル問題)
そうたさんは、はるかさんをおどして土地を買った。はるかさんが取り消す前に、事情を知らず知らないことに過失もないあおいさんが、そうたさんから土地を買った。はるかさんは、強迫による取消しをあおいさんに対抗できる。

答え:○ 分かれ目は、詐欺か強迫かです。96条3項が「善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」と定めているのは、詐欺による取消しだけです。強迫には第三者を守る規定がないので、あおいさんが何も知らず落ち度がなくても、はるかさんは取消しを主張できます。あおいさんに落ち度がないので✕に見えますが、詐欺の規定と取り違えた形です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
そうたさんは、はるかさんをだまして農地を買い、農地法の許可を条件とする所有権移転の仮登記をした。取消し前に、事情を知らず過失もないあおいさんがその権利を譲り受け、仮登記の附記登記をした。判例によれば、あおいさんは本登記をしていないので96条3項の第三者に当たらない。

答え:✕ 分かれ目は、96条3項の第三者に対抗要件(本登記)が要るかです。最高裁判所第一小法廷昭和49年9月26日判決は、この事案の譲受人を96条3項の第三者に当たるとし、第三者を対抗要件を備えた人に限る理由はないと述べました。正しくは、あおいさんは第三者に当たり、はるかさんは取消しをあおいさんに対抗できません。登記で優劣を決めるのは、取消しの後の第三者(177条の形)のほうです。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「民法」で続けて解けます。

まとめ

  • 取り消す前・解除する前に買った人は、96条3項(詐欺だけ、善意無過失)や545条1項ただし書(善意・悪意を問わない)で考える。
  • 取り消した後・解除した後に買った人とは、177条の形で、先に登記をしたほうが優先する(解除の後は昭和35年11月29日判決)。
  • 強迫の取消しの前の第三者を守る規定はない。
  • 96条3項の第三者は、対抗要件を備えた人に限られない(昭和49年9月26日判決)。
  • 解除の前の第三者でも、登記がないと登記を求められない場合がある(昭和33年6月14日判決、合意解除の事案)。

次に読むなら、背信的悪意者の記事がおすすめです。「後」の第三者を177条で考えるとき、どんな人が第三者から外れるのかが分かります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)