役所が返事をしないときの3つの手段:不作為についての審査請求・不作為の違法確認・義務付け訴訟

ひとことで言うと、申請したのに役所が何の処分もしないとき、使える手段は3つです。役所に見直しを求める不作為についての審査請求、裁判所に違法を確かめてもらう不作為の違法確認の訴え、裁判所に「処分をしなさい」と命じてもらう申請型の義務付けの訴えです。

3つとも、使えるのは申請をした人だけです。いちばん違うのは得られる結果で、不作為の違法確認の判決は違法を確かめるだけ、審査請求の裁決と義務付けの判決は処分まで進められます。この記事は、令和8年4月1日時点の行政不服審査法と行政事件訴訟法で、返事がない場面だけを取り出して比べます。

身近な例で考えると

人物立場したこと
まことさんキッチンカーで開業したい人市長に法令にもとづく許可を申請した
市長許可をする行政庁何の返事もしていない
近所の店主開業されると客が減る人申請はしていない
  1. まことさんは、法令にもとづいて市長に許可を申請しました。
  2. 市が公にしている標準処理期間(ひょうじゅんしょりきかん=ふつう結論が出るまでの目安の期間)を大きく過ぎても、返事がありません。
  3. まことさんは、まず市長に不作為についての審査請求をすることも、いきなり裁判所に訴えることもできます。
  4. 裁判所に訴えるなら、許可を命じてもらうために、義務付けの訴えを不作為の違法確認の訴えと一緒に起こします。
  5. 近所の店主は申請をしていないので、この3つのどれも使えません。

たとえると、審査請求は「店長への苦情」、不作為の違法確認は「審判に、対応が遅いのは反則だと認めてもらう」こと、義務付けは「審判に、対応しなさいと命じてもらう」ことです。ただし本物のルールでは、どれも「相当の期間」が過ぎていることが前提です。

条文ではこう決まっている

不作為についての審査請求(行政不服審査法)

  • 法令にもとづき行政庁に処分の申請をした人は、申請から相当の期間が過ぎても行政庁の不作為がある場合、審査請求ができます(3条)。不作為とは「法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないこと」です。
  • 審査請求先は、不作為庁に上級行政庁がなければ不作為庁、主任の大臣などが上級行政庁ならその大臣など、それ以外は最上級行政庁です(4条)。
  • 審査請求の期間(3か月・1年)を定めた18条は「処分についての審査請求」の規定で、不作為についての審査請求に期間の定めはありません。
  • 相当の期間が過ぎないうちにした審査請求は、不適法として却下されます(49条1項)。理由がなければ棄却です(同条2項)。
  • 理由があるときは、裁決で不作為が違法または不当であると宣言します。さらに、申請に対して一定の処分をすべきと認めるときは、審査庁が不作為庁の上級行政庁なら不作為庁に処分を命じ、審査庁が不作為庁なら自らその処分をします(49条3項)。
  • 不作為に係る処分に関与し、または関与することとなる人は、審理員になれません(9条2項1号)。

不作為の違法確認の訴え・申請型の義務付けの訴え(行政事件訴訟法)

  • 不作為の違法確認の訴えは、法令にもとづく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分をすべきなのにしないことの違法の確認を求める訴えです(3条5項)。「処分又は裁決についての申請をした者に限り」起こせます(37条)。
  • 申請型の義務付けの訴えは、申請に相当の期間内に何の処分もされないときに使えます(37条の3第1項1号)。起こせるのは申請をした人に限られ(同条2項)、不作為の違法確認の訴えを一緒に起こさなければなりません(同条3項1号)。
  • 義務付けの判決が出るのは、一緒に起こした訴えに理由があり、かつ、処分をすべきことが法令から明らかか、処分をしないことが裁量権の範囲を超えるか濫用になるときです(37条の3第5項)。
  • 取消訴訟の出訴期間(14条)は、取消訴訟以外の抗告訴訟に準用されていません(38条1項に14条がない)。
  • 審査請求と訴えのどちらを先にするかは、原則として自由です(8条1項。不作為の違法確認の訴えに38条4項で準用)。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例(審査請求で処分まで進む):まことさんが市長に審査請求し、市長が理由があり許可をすべきと認めれば、市長は裁決で不作為の違法・不当を宣言し、自ら許可をします(49条3項2号)。
  • 当てはまる例(裁判で処分を命じてもらう):まことさんが不作為の違法確認の訴えと義務付けの訴えを一緒に起こし、許可をすべきことが法令から明らかなら、裁判所は許可をするよう命じる判決をします。
  • 当てはまらない例(申請をしていない人):近所の店主は申請をしていないので、不作為についての審査請求も、不作為の違法確認の訴えも使えません。申請をしていない人が行政庁に一定の処分をさせたいときの訴えは、重大な損害などの要件がある非申請型の義務付けの訴えで、別の制度です(くわしくは取消訴訟以外の抗告訴訟をわかりやすく)。
  • 当てはまらない例(再調査の請求):再調査の請求は「行政庁の処分につき」できる手続で(行政不服審査法5条1項)、不作為には使えません。
  • ひっかけやすい例(途中で返事が出た):市長が不許可の処分をしたら、もう「何の処分もしない」状態ではありません。争う相手は不許可の処分になり、処分についての審査請求や取消訴訟を考えます。

似ているルールとの違い

比べる点不作為についての審査請求不作為の違法確認の訴え申請型の義務付けの訴え
できる人申請をした人申請をした人申請をした人
期間定めなし出訴期間の定めなし出訴期間の定めなし
得られる結果違法・不当の宣言と処分違法の確認だけ処分を命じる判決
単独でできるかできるできる違法確認と併合が必要
  • 審査請求では「不当」も判断されますが、訴えで判断されるのは「違法」だけです。
  • 不作為の違法確認の判決は、許可を命じるものではありません。返事として不許可の処分をしても、判決の求めには応えたことになります。

審査請求そのものの流れは審査請求をわかりやすくで、申請を受けた役所がすべきこと(遅滞なく審査を開始する、標準処理期間を定めるよう努める)は行政手続法をわかりやすくで確かめられます。

試験ではここをまちがえやすい

  • できる人を広げる型:「法律上の利益があれば、申請していなくても不作為についての審査請求ができる」は誤り。3つとも申請をした人だけです。
  • 期間を持ち込む型:処分についての審査請求の3か月、取消訴訟の6か月を、不作為の場面に当てはめる肢は誤り。
  • 再調査の請求を足す型:不作為には再調査の請求はありません。
  • 結果を取り違える型:不作為の違法確認の判決は違法の確認だけ。処分を命じるのは義務付けの判決と、審査請求の裁決(上級行政庁が命じる・不作為庁が自ら処分する)です。
  • 併合を落とす型:申請に返事がない場面の義務付けの訴えは、不作為の違法確認の訴えとの併合が必要です。
  • 標準処理期間の誤解:標準処理期間を過ぎたら申請を拒否したとみなす、という規定はありません。

記述式の練習なら、「不作為の違法確認の訴えと併合して、申請型の義務付けの訴えを提起する」という組み合わせを一文で書けるようにしておきます。審理員の役割は審理員と聴聞の主宰者の違いで扱っています。この論点は宅建試験の範囲ではありません。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
まことさんは市長に許可を申請したが、相当の期間が過ぎても返事がないので、上級行政庁のない市長に不作為についての審査請求をした。市長は、審査請求に理由があり許可をすべきと認めるときは、裁決で不作為が違法または不当である旨を宣言し、自ら許可をする。

答え:○ 審査請求では違法を宣言するだけだと考えると✕にしてしまいます。不作為についての審査請求に理由があるときは、裁決で違法または不当を宣言し、申請に対して一定の処分をすべきと認めるときは、審査庁が不作為庁であれば自らその処分をします(行政不服審査法49条3項2号)。上級行政庁が審査庁なら、不作為庁に処分を命じます(同項1号)。違法の確認しかできない不作為の違法確認の判決とは、ここが違います。

問2(このサイトのオリジナル問題)
まことさんが申請した許可には、法律で再調査の請求ができる旨の定めがある。市長が相当の期間を過ぎても返事をしないとき、まことさんは、この不作為について再調査の請求をすることができる。

答え:✕ 分かれ目は、再調査の請求の対象です。再調査の請求は「行政庁の処分につき」法律に定めがあるときにできる手続です(行政不服審査法5条1項)。正しくは、不作為について使えるのは審査請求で(3条)、再調査の請求はできません。処分について再調査の請求ができる場面と、不作為の場面を取り違えないようにします。

問3(このサイトのオリジナル問題)
まことさんが不作為の違法確認の訴えを起こすには、申請をした日から6か月以内に起こさなければならない。

答え:✕ 分かれ目は、出訴期間の定めがあるかです。6か月は取消訴訟の出訴期間(行政事件訴訟法14条1項)で、14条は取消訴訟以外の抗告訴訟に準用されていません(38条1項)。正しくは、不作為の違法確認の訴えに出訴期間の定めはなく、返事がない状態が続く限り起こせます。不作為についての審査請求にも、審査請求の期間を定めた18条はかかりません。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。

まとめ

  • 返事がないときの手段は、不作為についての審査請求・不作為の違法確認の訴え・申請型の義務付けの訴えの3つ。
  • 3つとも申請をした人だけが使える。再調査の請求は不作為には使えない。
  • 審査請求の裁決は、違法・不当の宣言に加え、上級行政庁は処分を命じ、不作為庁は自ら処分する。
  • 不作為の違法確認の判決は違法の確認だけ。処分を命じてもらうには義務付けの訴えを併合する。
  • 不作為の場面には、審査請求の期間(18条)も取消訴訟の出訴期間(14条)もかからない。

次に読むなら、行政不服審査法と行政事件訴訟法の違い一覧がおすすめです。返事がない場面以外も含めて、期間・執行停止・教示の違いを1枚で見比べられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。