処分等の求め(行政手続法36条の3):法令違反を見つけた人が、処分や行政指導を求める手続

ひとことで言うと、処分等の求めは「法令に違反している事実があるのに、それを正すための処分や行政指導がされていない」と考えた人が、権限のある行政庁や行政機関に「処分(行政指導)をしてください」と申し出る手続です(行政手続法36条の3)。申し出られるのは「何人も」で、違反した人の近所に住んでいるかなど、利害関係は問われません。

ただし、求められるのは根拠が法律に置かれている処分・行政指導だけです。申出を受けた行政庁は、必要な調査をし、必要があると認めるときに処分等をします。この記事は、令和8年4月1日時点の行政手続法で、要件と効果を確かめ、似た制度と比べます。36条の2(行政指導の中止等の求め)までの行政指導の決まりは行政指導をわかりやすくで扱っています。

身近な例で考えると

人物立場したこと
りょうさん川沿いに住む会社員工場の排水が法律の基準をこえていると気づいた
D社工場を営む会社基準をこえる排水を流している
B県知事権限を持つ行政庁法律にもとづき改善を命じることができる
  1. りょうさんは、D社の工場から、法律の基準をこえる排水が流れていることに気づいた。
  2. その法律は、基準に違反した事業者に、知事が改善を命じる処分ができると定めている(処分の根拠が法律にある)。
  3. りょうさんは、知事に申出書を出した。書いたのは、自分の氏名・住所、違反の事実の内容、求める処分の内容、根拠の法令の条項、処分がされるべきと考える理由、その他参考になる事項である(36条の3第2項)。
  4. 知事は必要な調査をした。その結果にもとづき、必要があると認めれば、D社に改善命令をする(36条の3第3項)。
  5. 調査の結果をりょうさんに知らせる決まりは、行政手続法にはない。

たとえるなら、処分等の求めは「ルール違反を見つけた人が、審判に『反則を取ってください』と知らせる仕組み」です。審判は確かめて、必要なら反則を取ります。ただし本物のルールでは、知らせた人が審判に結論を出させたり、返事を求めたりする権利までは定められていません。

条文ではこう決まっている

要件(36条の3第1項)

  • だれが:「何人も」。違反の相手方でも、近所の人でも、遠くの人でもかまいません。
  • どんなとき:「法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導」がされていないと思料する(考える)とき。
  • 何を:処分又は行政指導。ただし「その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る」。
  • どこへ:その処分をする権限を持つ行政庁、またはその行政指導をする権限を持つ行政機関。

言葉の使い分けに注意します。違反の事実のほうは「法令」(法律・命令・条例・規則。2条1号)で、求める処分・行政指導の根拠のほうは「法律」です。

申出のしかた(36条の3第2項)

次の事項を書いた申出書を出してします。①申出をする人の氏名・名称と住所・居所、②法令に違反する事実の内容、③求める処分・行政指導の内容、④その根拠となる法令の条項、⑤処分・行政指導がされるべきと考える理由、⑥その他参考となる事項。

行政庁の義務(36条の3第3項)

「当該行政庁又は行政機関は、第一項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その結果に基づき必要があると認めるときは、当該処分又は行政指導をしなければならない。」申出のとおりの処分をする義務ではなく、調べて必要と認めたときに処分等をする、という義務です。

使えない場合(3条)

  • 3条1項の各号に当たる処分・行政指導(試験の結果、刑務所での処分など)には、第4章の2(36条の3)を含む第2章から第4章の2までが適用されません。
  • 地方公共団体の機関がする行政指導と、地方公共団体の機関が条例・規則にもとづいてする処分には、第2章から第6章までが適用されません(3条3項)。法律にもとづいて市長や知事がする処分は、除外されません。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる:りょうさんが、法律にもとづく改善命令を求めて、権限を持つ知事に申出書を出す。工場の近くに住んでいなくても、「何人も」なので申し出られます。
  • 当てはまる(市長の処分):法律が市長に是正命令の権限を与えている場合。地方公共団体の機関の処分でも、根拠が法律なので36条の3が使えます。
  • 当てはまらない(条例の処分):町の条例だけを根拠とする是正命令を求める。根拠が法律に置かれていないので対象外です。
  • 当てはまらない(市の行政指導):市の職員に、法律にもとづく事務の中で行政指導をするよう求める。地方公共団体の機関の行政指導は、3条3項で除外されています。
  • ひっかけやすい(結果の通知):申出をしたのに返事がない。36条の3には、申出をした人に結果を知らせる定めがありません。申請(2条3号の「諾否の応答をすべきこととされているもの」)とは扱いが違います。

似ているルールとの違い

比べる点中止等の求め(36条の2)処分等の求め(36条の3)非申請型の義務付けの訴え
できる人行政指導の相手方何人も法律上の利益を有する者
対象法律に根拠のある是正の行政指導法律に根拠のある是正の処分・行政指導一定の処分
申し出る先指導をした行政機関権限を持つ行政庁・行政機関裁判所(訴え)
結論調査し、要件に合わなければ中止など調査し、必要なら処分等要件を満たし、処分すべきことが明らかなときなどに命じる判決
  • 中止等の求めは、その行政指導が弁明その他の意見陳述の手続を経てされたものであるときは、できません(36条の2第1項ただし書)。処分等の求めには、このただし書はありません。
  • 非申請型の義務付けの訴えは、一定の処分がされないことで重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、ほかに適当な方法がないときに限り起こせ(行政事件訴訟法37条の2第1項)、処分を命じることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限られます(同条3項)。処分等の求めのような「何人も」ではありません。訴えの全体は取消訴訟以外の抗告訴訟で確かめられます。

申請をした人が返事をもらえないときの手段(不作為の審査請求など)は、役所が返事をしないときの3つの手段で扱っています。処分等の求めは申請ではないので、それらの手段とは別の仕組みです。

試験ではここをまちがえやすい

  • 主体の入れ替え:「何人も」は36条の3。36条の2の中止等の求めは、行政指導の相手方だけです。
  • 根拠の範囲:求める処分・行政指導の根拠は「法律」。条例・規則だけを根拠とするものは対象外です。違反の事実の側は「法令」です。
  • 行政庁の義務の中身:調査をし、必要があると認めるときに処分等をする義務。申出どおりにする義務や、結果を知らせる義務は定められていません。
  • 地方公共団体:法律にもとづく処分なら対象。地方公共団体の機関の行政指導は除外(3条3項)。
  • 訴訟との混同:裁判所に処分を命じてもらうのは非申請型の義務付けの訴えで、重大な損害・補充性・法律上の利益の要件があります。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
B市長は、法律にもとづいて事業者に改善を命じる権限を持っている。工場の法令違反に気づいた住民Aは、この改善命令がされていないと考え、行政手続法36条の3にもとづいて、B市長に命令をするよう求めることができる。

答え:○ 分かれ目は、地方公共団体の機関が相手でも処分等の求めができるかです。行政手続法3条3項が地方公共団体の機関について除外しているのは、条例・規則にもとづく処分と、行政指導などです。法律にもとづく市長の処分は除外されず、36条の3の対象になります。市が相手なら行政手続法は使えない、と考えると✕にしてしまいます。同じ市でも、職員の行政指導を求める申出は、3条3項により36条の3の対象外です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
C町の条例は、条例に違反した者に町長が是正を命じることができると定めている。この条例に違反する事実を見つけたDさんは、行政手続法36条の3にもとづいて、町長に是正の命令をするよう求めることができる。

答え:✕ 分かれ目は、求める処分の根拠が法律か条例かです。行政手続法36条の3第1項は、求められる処分又は行政指導を「その根拠となる規定が法律に置かれているもの」に限っています。正しくは、条例だけを根拠とする是正命令は、処分等の求めの対象になりません。条例にもとづく地方公共団体の機関の処分は、3条3項でも同法の手続から外されています。違反の事実の側は「法令」(2条1号で条例を含む)で足りるので、根拠の「法律」と取り違えないようにします。

問3(このサイトのオリジナル問題)
Eさんが、法律に根拠のある是正命令を求めて処分等の求めの申出をした。申出を受けた行政庁は、必要な調査を行い、処分をするかどうかにかかわらず、その結果をEさんに通知しなければならない。

答え:✕ 分かれ目は、申出を受けた行政庁に何が義務づけられているかです。36条の3第3項は「必要な調査を行い、その結果に基づき必要があると認めるときは、当該処分又は行政指導をしなければならない」としていますが、申出をした人に結果を通知する定めはありません。正しくは、調査と、必要と認めたときの処分等が義務です。行政庁が諾否の応答をすべきとされている申請(2条3号)と取り違えると○にしてしまいます。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。

まとめ

  • 処分等の求め(36条の3):何人も、法令違反の是正のための処分・行政指導がされていないと考えるとき、権限のある行政庁・行政機関に求められる。
  • 対象は、根拠が法律に置かれている処分・行政指導だけ。違反の事実は「法令」、根拠は「法律」。
  • 申出書に、違反の事実、求める処分等、根拠の条項、理由などを書く。
  • 行政庁は必要な調査をし、必要と認めれば処分等をする。結果を通知する定めはない。
  • 地方公共団体の機関の行政指導は対象外。法律にもとづく市長・知事の処分は対象。

このサイトで次に読むなら、行政手続法をわかりやすくです。処分等の求めのあとに行政庁が不利益処分をするとき、相手方にどんな手続(聴聞・弁明、理由の提示)がとられるかを確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。

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