行政行為(役所が法律にもとづいて特定の人の権利や義務を決めること)は、学問上、中身によって種類に分けられます。中でも取り違えやすいのが許可・特許・認可です。見分けの決め手は、それを受けずにした取引が有効かどうかです。
附款(ふかん)は、行政行為に付け加える条件・期限・負担などのことです。どれも学問上の言葉で、法律の条文は「許可」「免許」「条件」と書いても、学問上の分類と一致しないことがあります。この記事では、条文の呼び名に引きずられずに見分ける方法を、条文と判例で確かめます。公定力や取消しと撤回の違いは行政行為の記事で扱っています。
身近な例で考えると
| 人物 | やりたいこと | 必要な行政行為 |
|---|---|---|
| さとみさん | 食品を扱う店を開く | 食品衛生法の営業の許可(55条1項) |
| こうへいさん | 農家から田んぼを買う | 農地法の農業委員会の許可(3条1項) |
| かずやさん | 店の前の道路に広告塔を置き続ける | 道路法の道路の占用の許可(32条1項) |
三つとも条文の言葉は「許可」です。しかし、学問上はそれぞれ別の種類に分けられます。
- さとみさんの営業:食品を扱う店を開くこと自体は、本来だれでもできる自由な行為です。ただ、食中毒を防ぐために一般に禁止し、基準を満たした人だけ禁止を解く。これが学問上の許可です。
- こうへいさんの売買:田んぼの売買は、こうへいさんと農家の間の契約(私人どうしの法律行為)です。農業委員会の許可は、その契約の効力を補って完成させるものです。これが学問上の認可です。
- かずやさんの占用:道路は本来みんなのもので、一人がずっと使い続ける権利はありません。道路の占用の許可は、特定の人に、ふつうは持てない権利を与えるものです。これが学問上の特許です。
条文と判例で確かめる見分けの決め手
許可:受けずにした取引は、原則として有効
- 最高裁昭和35年3月18日判決(第二小法廷):食品衛生法(当時の21条)の食肉販売の営業許可を受けていない人がした食肉の買入れの契約は、無効ではない。
- 許可がないまま営業すること自体は、法律違反として処罰の対象です。今の食品衛生法では、55条1項の許可を受けずに営業すると、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金です(82条1項)。
- まとめると、許可は「してはいけない営業を罰で止める」仕組みで、取引の効力までは当然には否定しない、と整理されます。
認可:受けずにした行為は、効力を生じない
- 農地法3条1項:農地の所有権を移すときなどは、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。
- 農地法3条6項:「第一項の許可を受けないでした行為は、その効力を生じない。」
- 条文の言葉は「許可」でも、受けなければ売買の効力そのものが生じないので、学問上は認可に当たります。
特許:受けなければ権利が生じない
- 道路法32条1項:道路に広告塔や電柱などを設け、継続して道路を使用しようとするときは、道路管理者の許可を受けなければならない。
- 道路を使い続ける権利は、この許可によって初めて生まれる、と説明されます。
| 種類 | 何をするか | 例 | 受けずにしたら |
|---|---|---|---|
| 許可 | 一般的な禁止を特定の場合に解く | 食品を扱う営業 | 罰の対象。取引は原則有効 |
| 特許 | ふつうは持てない権利を与える | 道路の占用 | 権利が生じない |
| 認可 | 私人の契約などの効力を完成させる | 農地の売買 | 効力を生じない |
このほか学問上は、義務を課す「下命」、義務を解く「免除」、事実や法律関係を確かめる「確認」、公に証明する「公証」などの分類もあります。見分けるときは、名前より「受けずにした行為の効力」を先に考えます。
附款の種類
附款は、行政行為の効果を制限したり、特別の義務を付け加えたりするために付けるものです。学問上、次のように分けられます。
| 種類 | 中身 | 例(学問上の説明) |
|---|---|---|
| 条件 | 起こるかどうか分からない事実に効力をかからせる | 工事が終わったら営業してよい |
| 期限 | 来ることが決まっている日に効力をかからせる | 許可の有効期間 |
| 負担 | 許可などに特別の義務を付け加える | 占用の後に道路を元に戻す義務 |
| 撤回権の留保 | 一定の場合に撤回できることを示しておく | 違反があれば許可を取り消す(学問上は撤回)ことがあると書いておく |
| 法律効果の一部除外 | 法律が認める効果の一部を出さない | 公務員に出張を命じるが、旅費は支給しないとする |
条文に附款の例を探すと、次のものがあります。
- 食品衛生法55条3項:都道府県知事は、営業の許可に「五年を下らない有効期間その他の必要な条件」を付けることができる。有効期間は、学問上は期限です。条文は「条件」とまとめて呼んでいますが、学問上の条件(起こるか分からない事実)とは違います。
- 道路交通法91条:公安委員会は、交通の安全のため必要があると認めるときは、必要な限度で、免許に、運転できる自動車の種類の限定その他の必要な条件を付け、これを変更することができる。眼鏡の使用を求めるような条件は、免許の効力はそのままに特別の義務を付け加えるもので、負担の例として挙げられます。
条件と負担の見分け
- 条件:その事実が起こらなければ、そもそも効力が生じない(または、起これば効力が消える)。
- 負担:行政行為の効力はすでに生じている。義務を守らなくても、効力が当然に消えるわけではない。守らないことは、撤回の理由になりうる。道路法71条1項2号も、許可に付した条件に違反している者に対し、道路管理者が許可を取り消すなどの処分をできると定めている。条文が「条件」と呼ぶ義務を守らなくても、許可は当然には消えず、取消し(学問上の撤回)を待つ作りになっている。
たとえば、かずやさんの占用許可に「占用の後に道路を元に戻すこと」と付けた場合、元に戻さなくても許可が当然に消えるわけではありません。これは負担です。「道路の工事が終わったら占用できる」なら、工事が終わるまで効力が生じないので条件です。
附款を付けられる限界
附款を付けられる場面と限度は、学問上、次のように整理されます。
- 法律が附款を認めているとき(食品衛生法55条3項、道路交通法91条など)か、行政庁に裁量(判断の幅)があるときに付けられる。
- 付けられるのは、その行政行為の目的に沿うものだけ。法律の目的と関係のない義務は付けられない。
- 目的に沿う場合でも、必要な限度を超えてはいけない。道路交通法91条も「必要な限度において」と書いている。
- 行政庁の意思でなく法律が効果を決める行為(確認・公証など)には付けられない、と説明されることがある。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例:許可なしで仕入れた食肉
さとみさんが、食肉を売る店の営業の許可を受ける前に、業者から食肉を仕入れる契約をしました。無許可で営業すれば処罰の対象ですが、仕入れの契約そのものは、昭和35年判決の考え方では無効になりません。
当てはまらない例:許可なしの農地の売買
こうへいさんが、農業委員会の許可を受けずに田んぼを買いました。条文の言葉は「許可」でも、この売買は効力を生じません(農地法3条6項)。
ひっかけやすい例:条文が「条件」と書いている
食品衛生法55条3項の「有効期間その他の必要な条件」の有効期間は、学問上は期限です。条文の言葉で附款の種類を決めると、まちがえます。
似ているルールとの違い
附款の「撤回権の留保」と、撤回そのものは別のものです。撤回は、あとの事情を理由に、将来に向かって効力をなくすことです。撤回権を留保していなくても撤回が認められる場合があり、反対に、留保していても自由に撤回できるわけではない、と説明されます。撤回の判例は行政行為の記事で、処分をする前の手続は行政手続法の記事で確かめられます。
試験ではここをまちがえやすい
- 許可・特許・認可は学問上の分類:条文の呼び名(許可・免許)では決まらない。
- 許可を受けずにした取引は原則有効:処罰の対象にはなる(食肉の買入契約の判例)。
- 認可を受けずにした行為は効力を生じない:農地法3条6項。
- 条件と負担の違い:負担は守らなくても効力が当然には消えない。
- 附款の限界:法律の認めか裁量があること、目的に沿うこと、必要な限度。
どれも、条文の言葉ではなく、効力が生じるか・消えるかで見分けます。例を一つ読んだら「受けずにしたら」「守らなかったら」どうなるかを言えるか、確かめておきます。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
さとみさんは、食肉を販売する店に必要な食品衛生法の営業の許可を受けないまま、業者から食肉を買い入れる契約を結んだ。この契約は、許可を受けていない者がした以上、無効である。
答え:✕ 分かれ目は、許可を受けずにした取引の効力です。最高裁昭和35年3月18日判決は、食品衛生法の食肉販売の営業許可を受けていない人がした食肉の買入契約は無効ではないとしました。正しくは、契約は無効になりません。ただし、許可なしの営業は処罰の対象です(食品衛生法82条1項)。受けずにした行為の効力が生じないのは、農地法3条6項のような学問上の認可の場面です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
こうへいさんは、農家のまさおさんから田んぼを買う契約を結んだが、農地法3条1項の農業委員会の許可を受けていない。この場合、田んぼの所有権を移す効力は生じない。
答え:○ 分かれ目は、条文の呼び名ではなく、受けずにした行為の効力です。農地法3条6項は、同条1項の許可を受けないでした行為は効力を生じないと定めています。条文の言葉が「許可」なので、取引は有効で処罰だけが問題になる学問上の許可と考えると✕に見えます。私人の契約の効力を完成させるので、学問上は認可に当たります。
問3(このサイトのオリジナル問題)
かずやさんは、道路の占用の許可を受けたが、その許可に「広告塔を年に1回点検し、結果を報告すること」という義務が付けられた。かずやさんがこの義務を守らなかった場合、占用の許可は、そのときに当然に効力を失う。
答え:✕ 分かれ目は、付けられた義務が負担か条件かです。点検と報告は、許可の効力をかからせる事実ではなく、許可に付け加えた特別の義務なので、学問上は負担です。正しくは、守らなくても許可は当然には失効せず、道路管理者が、許可に付した条件に違反している者として許可を取り消す(学問上は撤回)などの処分をすることになります(道路法71条1項2号)。ある事実が起これば効力が消える解除条件と取り違えないようにします。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。
まとめ
- 許可・特許・認可は学問上の分類。決め手は、受けずにした行為の効力。
- 許可を受けずにした取引は原則有効(処罰はある)。認可を受けずにした行為は効力を生じない(農地法3条6項)。特許は権利を与える。
- 附款は条件・期限・負担・撤回権の留保・法律効果の一部除外。
- 負担は守らなくても効力が当然には消えない。条件は事実にかからせる。
- 附款は、法律の認めか裁量があるときに、目的に沿い必要な限度で付ける。
次に読むなら、行政上の強制の記事がおすすめです。負担などの義務を守らない人に、役所がどう実現させるかがつながります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年度試験の出題の基準日である令和8年4月1日時点の内容を、e-Gov法令検索で確かめています。
- e-Gov法令検索「食品衛生法」(55条、82条):https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000233
- e-Gov法令検索「農地法」(3条):https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC0000000229
- e-Gov法令検索「道路法」(32条、71条):https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000180
- e-Gov法令検索「道路交通法」(91条):https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000105
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 昭和35年3月18日判決(昭和33(オ)61)」:https://www.courts.go.jp/hanrei/54892/detail2/index.html
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