農地の賃貸借:引渡しで対抗できる・解約や更新しないときに知事の許可がいる

農地を借りて耕す人は、民法や借地借家法よりも、農地法で手厚く守られています。農地の賃貸借は、登記がなくても、農地の引渡しを受けていれば、後から農地を買った人に対抗できます(農地法16条)。期間の定めがあるときは、期間満了の1年前から6か月前までに「更新しない」と通知しなければ、同じ条件で更新されます(17条)。

ひとことで言うと、「借りるときは農業委員会の許可、やめるときは知事の許可」です。賃貸借の解除・解約の申入れ・合意による解約・更新しない旨の通知は、原則として都道府県知事の許可がないとできず、許可なしでしたものは効力を生じません(18条1項・5項)。ただし、一定の合意解約や、10年以上の期間の賃貸借の更新拒絶などは許可がいらず、その代わりに農業委員会への通知がいります(18条1項ただし書・6項)。

当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、農地法が主な論点の問題は40問で、全40回すべてに出ていました。直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月と12月の2回ずつ)でも毎回1問で、9回は問21、平成30年度は問22です(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。賃貸借の肢がいくつ出たかまでは数えていません)。

農地法の3条・4条・5条の許可の違いは農地法をわかりやすくで扱っています。この記事は、その記事で扱っていない「借りた後」のルール(16条〜18条・21条)に絞ります。

身近な例で考えると

人物立場したこと
よしえさん田んぼの持ち主(貸す人)田んぼを5年の約束で貸す
こうたさん農家(借りる人)田んぼを借りて米を作る
まさきさんよしえさんから田んぼを買う人貸したままの田んぼを買う
  1. よしえさんとこうたさんは、田んぼの賃貸借を5年の約束で結んだ。農地のまま賃借権を設定するので、2人は農業委員会の許可を受けた(3条1項)。期間・借賃・支払の条件などを書面にした(21条)。
  2. よしえさんは田んぼをこうたさんに引き渡した。賃借権の登記はしていない。
  3. 3年後、よしえさんは田んぼをまさきさんに売った。こうたさんは引渡しを受けているので、登記がなくても、まさきさんに「この田んぼを借りている」と対抗できる(16条)。まさきさんが新しい貸す人になる。
  4. 5年の期間が近づいた。まさきさんは自分で耕したいので、期間満了の1年前から6か月前までの間に「更新しない」と通知しようと考えた。この通知には、知事の許可がいる(18条1項)。許可を受けずに通知しても、効力を生じない(18条5項)。
  5. 結局、まさきさんは通知をしなかった。期間が満了すると、前と同じ条件で、さらに賃貸借をしたものとみなされる(17条)。

たとえるなら、農地の賃貸借は「途中で勝手に降ろされない貸しボート」です。乗っている人がいれば持ち主が替わっても降ろされず、返してもらうには役所の許可がいります。ただし本物のルールでは、借りる人の側からやめる場合も、解約の申入れなどには知事の許可がいります。守られているのは「貸し借りの関係」で、借りる人が一方的に有利になるわけではありません。

条文ではこう決まっている

借りるとき(3条・21条)

  • 許可(3条1項):農地・採草放牧地に賃借権などを設定したり移したりするときは、当事者が農業委員会の許可を受ける。許可を受けないでした行為は、効力を生じない(3条6項)。
  • 書面(21条):農地・採草放牧地の賃貸借契約は、当事者が、書面で、存続期間、借賃等の額と支払条件、その他の契約の内容を明らかにしなければならない。

対抗力(16条)

  • 「農地又は採草放牧地の賃貸借は、その登記がなくても、農地又は採草放牧地の引渡があつたときは、これをもつてその後その農地又は採草放牧地について物権を取得した第三者に対抗することができる。」
  • 民法では、不動産の賃貸借を第三者に対抗するには登記がいる(民法605条)。農地はその特別ルールで、引渡しで足りる。

法定更新(17条)

  • 期間の定めがある賃貸借で、当事者が、期間満了の1年前から6か月前までの間に、相手方に更新しない旨の通知をしないときは、従前の賃貸借と同一の条件で、さらに賃貸借をしたものとみなす。
  • 貸す人やその世帯員の死亡などで耕作できないため、一時的に貸したことが明らかな場合は、通知の期間が「満了の6か月前から1か月前まで」になる。
  • 法定更新しないもの(17条ただし書):水田裏作(冬の間だけ田んぼを畑として使うなど)を目的とする期間1年未満の賃貸借、農地中間管理権にかかる賃貸借など。

解約などの制限(18条)

  • 許可がいる行為(18条1項):「農地又は採草放牧地の賃貸借の当事者は」、都道府県知事の許可を受けなければ、賃貸借の解除、解約の申入れ、合意による解約、更新しない旨の通知をしてはならない。
  • 許可がいらない主な場合(18条1項ただし書):
  • 合意による解約が、農地を引き渡す期限前6か月以内に成立した合意で、その旨が書面で明らかなものにもとづく場合。民事調停法の農事調停による場合(2号)。
  • 更新しない旨の通知が、10年以上の期間の定めがある賃貸借(解約する権利を留保しているものなどを除く)や、水田裏作を目的とする賃貸借について行われる場合(3号)。
  • このほか、信託事業にかかる場合(1号)、3条3項の適用を受けた賃借権で借りる人が農地を適正に使っていない場合の解除(4号)、農地中間管理機構の賃貸借で知事の承認を受けた解除(5号)。
  • 許可の基準(18条2項):借りる人が信義に反した行為をした場合、農地以外にすることが相当な場合、貸す人が自分で耕作することが相当な場合、その他正当の事由がある場合など。
  • 許可なしの行為(18条5項):「第一項の許可を受けないでした行為は、その効力を生じない。」
  • 通知(18条6項):許可がいらない場合に解約の申入れなどをした人は、省令の定めにより、農業委員会にその旨を通知する。
  • 不利な特約(18条7項):17条や、民法617条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)・618条(解約する権利の留保)と異なる条件で、借りる人に不利なものは、定めないものとみなす。

借賃の増減(20条)

  • 借賃等の額が、農産物の価格や生産費の上がり下がりなどの経済事情の変動で、または近くの似た農地の借賃等と比べて不相当になったときは、当事者は、契約の条件にかかわらず、将来に向かって増額か減額を請求できる。一定の期間増額しない特約があれば、その定めに従う。

民法・借地借家法と比べると

農地の賃貸借は、民法の賃貸借の特別ルールです。家を建てるための土地の賃貸借(借地)ではないので、借地借家法は使いません(借地権は「建物の所有を目的とする」地上権・土地の賃借権。借地借家法2条1号)。

比べる点農地の賃貸借民法の土地の賃貸借借地借家法の借地
対抗要件引渡し(16条)登記(605条)登記した建物(10条)
期間50年まで(民法604条)50年まで30年以上
期間が終わるとき通知がなければ更新。通知に知事の許可異議なく使い続ければ更新と推定(619条)地主の異議に正当の事由
解約・解除当事者が知事の許可を受ける特別の制限なし借地借家法が借りる人を守る

民法604条の50年の上限は、農地の賃貸借にもそのまま使われます。民法の賃貸借の全体は賃貸借をわかりやすく、借地の期間と更新は借地借家法をわかりやすくで扱っています。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる(引渡しで対抗):こうたさんは、登記をしていないが田んぼの引渡しを受けている。後から田んぼを買ったまさきさんに、賃借権を対抗できる(16条)。
  2. 当てはまらない(引渡し前):契約して許可も受けたが、まだ田んぼの引渡しを受けていない間に、よしえさんが田んぼを売った。引渡しも登記もないので、こうたさんは買った人に対抗できない。
  3. ひっかけやすい(借りる人からの解約):こうたさんが、期間の途中で「来年からやめたい」と解約を申し入れる。借りる人からの解約の申入れも、知事の許可がいる(18条1項は「当事者は」としている)。
  4. 当てはまる(合意解約で許可がいらない):よしえさんとこうたさんが、田んぼを引き渡す期限の3か月前に、書面で合意解約した。期限前6か月以内に成立し書面で明らかな合意なので、知事の許可はいらない。ただし、農業委員会への通知がいる(18条1項2号・6項)。
  5. ひっかけやすい(10年以上の賃貸借):期間12年の賃貸借で、貸す人が期間満了の8か月前に更新しない旨を通知した。10年以上の期間の賃貸借の更新拒絶なので、知事の許可はいらない(18条1項3号)。農業委員会への通知はいる(18条6項)。通知は1年前から6か月前の間に行っているので、法定更新もされない。
  6. 当てはまらない(借地借家法の正当事由):よしえさんが更新を断るときに、借地借家法の「正当の事由」を持ち出す必要はない。農地の賃貸借は借地ではないからである。代わりに、知事が18条2項の基準で許可するかどうかを判断する。

試験ではここをまちがえやすい

  • 対抗要件の入れ替え:農地の賃貸借は「引渡し」で対抗できます。「登記がなければ対抗できない」とする形は、民法605条の原則のままの誤りです。借家の引渡し(借地借家法31条)と同じ考え方だと覚えると混ざりにくくなります。
  • 許可権者の入れ替え:借りるとき(3条)は農業委員会の許可、解約や更新拒絶(18条)は都道府県知事の許可です。
  • 許可がいる人:18条の許可は「当事者」が受けます。貸す人からの解約だけでなく、借りる人からの解約の申入れも対象です。
  • 許可がいらない合意解約:引渡しの期限前6か月以内に成立し、書面で明らかな合意解約は許可がいりません。「合意解約はすべて許可がいる」とする形も、「合意解約なら許可はいらない」とする形も誤りです。
  • 通知の期間:更新しない旨の通知は、期間満了の1年前から6か月前まで。借地借家法の借家(1年前から6か月前の通知)と同じ数字ですが、農地では通知に知事の許可がいる点が違います。
  • 許可なしの効果:18条の許可を受けないでした解約などは、効力を生じません(18条5項)。

宅建試験では、農地法は毎回1問出ていて、3条・4条・5条の許可の区別が中心です。直近10回の農地法の問は、6回が「正しいもの」、4回が「誤っているもの」を選ぶ形でした。賃貸借の肢を見たら、許可権者(3条は農業委員会、18条は知事)と、許可がいらない場合の農業委員会への通知を確かめます。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
Aが所有する農地について、農地法3条の許可を受けてBのために賃借権を設定し、Bに引き渡した。賃借権の登記をしていなくても、Bは、その後Aからこの農地を買い受けたCに対し、賃借権を対抗することができる。

答え:○ 分かれ目は、農地の賃貸借の対抗要件です。農地法16条は、農地の賃貸借は「その登記がなくても」引渡しがあったときは、その後に物権を取得した第三者に対抗できるとしています。民法では不動産の賃貸借の対抗に登記がいる(民法605条)ので、その原則で考えると✕にしてしまいます。引渡しの前に売られた場合は、登記もなければ対抗できません。

問2(このサイトのオリジナル問題)
期間5年の農地の賃貸借で、賃貸人Aが、期間満了の1年前から6か月前までの間に、賃借人Bに対して更新をしない旨の通知をした。この通知は、都道府県知事の許可を受けていなくても効力を生じる。

答え:✕ 分かれ目は、更新しない旨の通知に知事の許可がいるかどうかです。農地法18条1項は、賃貸借の当事者は知事の許可を受けなければ更新しない旨の通知をしてはならないとし、許可なしの行為は効力を生じません(18条5項)。正しくは、期間5年の賃貸借では許可がいり、許可のない通知は効力を生じません。許可がいらないのは、10年以上の期間の定めがある賃貸借(18条1項3号)などで、その場合と取り違えた文です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
農地の賃貸人Aと賃借人Bが、農地を引き渡す期限の3か月前に、書面で賃貸借を合意解約した。この合意解約には都道府県知事の許可はいらないが、合意解約をした者は、農業委員会にその旨を通知しなければならない。

答え:○ 分かれ目は、許可がいらない合意解約と、その後の手続です。農地法18条1項2号は、引き渡す期限前6か月以内に成立した合意で、その旨が書面で明らかなものにもとづく合意解約を、許可の例外にしています。そのうえで18条6項は、許可がいらない場合に解約などをした者は、農業委員会に通知しなければならないとしています。許可がいらないなら何もしなくてよい、と考えると✕にしてしまいます。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「法令上の制限」で続けて解けます。

まとめ

  • 農地を借りるときは、農業委員会の許可(3条)。契約の内容は書面で明らかにする(21条)。
  • 農地の賃貸借は、登記がなくても、引渡しで第三者に対抗できる(16条)。
  • 期間の定めがあれば、満了の1年前から6か月前までに更新しない旨を通知しないと、同じ条件で更新される(17条)。
  • 解除・解約の申入れ・合意解約・更新拒絶は、当事者が知事の許可を受ける。許可なしは効力を生じない(18条)。
  • 期限前6か月以内の書面の合意解約や、10年以上の賃貸借の更新拒絶などは許可不要。その代わり農業委員会に通知する。

次に読むなら、農地法をわかりやすくがおすすめです。この記事の「借りるときの3条の許可」が、売買や転用の4条・5条の許可とどう違うかを、同じ表で確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(API。基準日2026-04-01)で確かめています。

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