無権代理と相続:本人が亡くなったとき・無権代理人が亡くなったときで結論が違う理由

無権代理(むけんだいり=頼まれていないのに代理人として契約すること)をした人と本人のどちらかが亡くなり、もう一方が相続すると、「本人の立場」と「無権代理人の立場」が1人に集まります。このとき売買が有効になるかは、だれがだれを相続したかで結論が分かれます。

ひとことで言うと、無権代理人が本人を1人で相続したら、追認を拒めない。本人が無権代理人を相続したら、追認は拒めるが、無権代理人が負っていた責任(117条)は受け継ぐ。この2つを軸に、共同相続と、本人が追認を拒絶した後の相続を加えた4つの場面を、最高裁判所の判例で確かめます。

この記事は、相続の場面だけを扱います。無権代理の基本(追認・催告・取消し・117条の要件)と表見代理は、代理をわかりやすくで説明しています。

身近な例で考えると

登場人物は4人です。

人物立場したこと
しげるさん本人(父)畑の横の土地の持ち主
たかしさん無権代理人(長男)頼まれずに土地を売った
ゆうじさん次男しげるさんの相続人の1人
みさきさん買主たかしさんから土地を買った
  1. たかしさんは、父のしげるさんに頼まれていないのに、「父の代理です」と言って、しげるさんの土地をみさきさんに売る契約をした。
  2. しげるさんは、追認(ついにん=あとから「その契約を認める」と言うこと)も、拒絶もしないうちに亡くなった。
  3. 相続人がたかしさん1人なら、たかしさんは「本人の立場」も受け継ぐ。自分で勝手に売っておいて、本人の立場で「追認しません」と言えるだろうか。

判例は、これを認めません。自分でした契約を、相続した立場を使ってひっくり返すのは筋が通らないからです。逆に、本人のしげるさんが先に亡くなったのではなく、たかしさんが先に亡くなり、しげるさんがたかしさんを相続した場合は、しげるさんに落ち度はありません。だから追認を拒めます。どちらが「契約をした人」かで、結論が変わるのです。

たとえるなら、自分で勝手に友だちの自転車を貸す約束をした人が、あとでその自転車の持ち主になったのに「貸さない」と言うようなものです。ただし本物のルールでは、無権代理人が相続人の1人にすぎないとき(共同相続)は、また別の結論になります。

条文ではこう決まっている

民法には「無権代理と相続」を直接決めた条文はありません。次の条文の組み合わせを、判例が場面ごとに当てはめています。

  • 113条1項:代理権がない人がした契約は、本人が追認しなければ、本人に効力を生じない。
  • 116条:追認すると、別の意思表示がなければ、契約の時にさかのぼって効力を生じる。ただし第三者の権利を害することはできない。
  • 117条:代理権を証明できず、本人の追認も得られないとき、無権代理人は、相手方の選択で「履行又は損害賠償」の責任を負う。相手方が代理権がないと知っていたとき、過失で知らなかったとき(無権代理人自身が知っていた場合を除く)、無権代理人が制限行為能力者だったときは、この責任はない。
  • 896条:相続人は、相続開始の時から、亡くなった人の財産に属した「一切の権利義務」を受け継ぐ(一身に専属したものを除く)。追認・追認拒絶ができる立場も、117条の責任も、この中に入ります。

判例は次の5つです。どれも裁判所のウェブサイトで、判示事項と裁判要旨を確かめました。

場面結論判例
無権代理人が本人を単独で相続本人が自ら契約したのと同じ地位になる(追認を拒めない)最高裁第二小法廷 昭和40年6月18日判決
本人が無権代理人を相続契約は当然には有効にならない(追認を拒める)最高裁第二小法廷 昭和37年4月20日判決
本人が無権代理人を相続(117条)117条の債務は、追認を拒める立場を理由に免れない最高裁第三小法廷 昭和48年7月3日判決
無権代理人が本人を共同相続全員で追認しない限り、無権代理人の相続分でも当然には有効にならない最高裁第一小法廷 平成5年1月21日判決
本人が追認を拒絶した後に死亡無権代理人が相続しても、有効にならない最高裁第二小法廷 平成10年7月17日判決

昭和37年の判決は、旧民法の家督相続(かとくそうぞく)の事案です。裁判要旨は「家督を相続した場合」と書いています。この記事では、本人が無権代理人を相続した場面の判例として、この結論で整理します。

4つの場面を事例で当てはめる

同じ土地の売買(たかしさんがみさきさんに無断で売った)で、だれが先に亡くなったかだけを変えます。

場面1:しげるさんが亡くなり、たかしさんが1人で相続した

本人と無権代理人の立場が、契約をしたたかしさん1人に集まります。昭和40年の判決は、この場合「本人がみずから法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じた」としました。たかしさんは追認を拒めません。みさきさんは、土地の引渡しと登記を求めることができます。

場面2:たかしさんが亡くなり、しげるさんが相続した

昭和37年の判決は、本人が無権代理人を相続しても、契約は「当然には有効となるものではない」としました。しげるさんは本人として追認を拒めます。勝手に売られた側なので、拒んでも筋は通ります。

ただし、しげるさんは、たかしさんの「117条の責任」も相続しています。昭和48年の判決は、無権代理人が117条の債務を負っていたときは、相続した本人は、追認を拒絶できる地位にあったことを理由にその債務を免れることはできない、としました。みさきさんが、代理権がないことを知らず、知らないことに過失もなかったなら、みさきさんはしげるさんに117条の責任(履行か損害賠償のどちらかを、みさきさんが選ぶ)を求められます。

場面3:しげるさんが亡くなり、たかしさんと次男ゆうじさんが相続した

相続人が2人いる共同相続です。平成5年の判決は、共同相続人「全員が共同して」追認しない限り、無権代理人の相続分に当たる部分でも、契約は当然には有効にならないとしました。ゆうじさんが追認に反対すれば、たかしさんの持分(2分の1)の分だけ有効になる、ということにもなりません。

みさきさんが何もできないわけではありません。売買が有効にならなければ、たかしさん自身の117条の責任が問題になります(117条の要件を満たす場合)。

場面4:しげるさんが追認を拒絶してから亡くなり、たかしさんが1人で相続した

しげるさんは生きているうちに、みさきさんに「追認しません」と伝えていました。平成10年の判決は、本人が追認を拒絶した場合は、その後に無権代理人が本人を相続しても、契約が有効になるものではない、としました。追認拒絶で、契約が本人に効かないことが確定しているからです。場面1と違い、たかしさんが単独で相続しても結論は「有効にならない」です。

おまけ:たかしさんを相続した人が、さらにしげるさんを相続した

たかしさんが先に亡くなり、たかしさんの子が、祖父のしげるさんと一緒にたかしさんを相続した。その後しげるさんも亡くなり、その子がしげるさんを相続した、という順番です。昭和63年3月1日の最高裁第三小法廷の判決は、この場合も、本人が自ら法律行為をしたのと同様の地位ないし効果を生じるとしました。先に「無権代理人の立場」を受け継いだ人が、あとで「本人の立場」を受け継ぐので、場面1と同じ扱いになります。

結論が分かれる理由を表で比べる

だれがだれを相続追認を拒めるか理由の筋
無権代理人→本人(1人で)拒めない自分でした契約を自分で否定することになる
本人→無権代理人拒める(117条の責任は残る)本人に落ち度はない。ただし相続した債務は消えない
無権代理人+他の相続人→本人全員で追認しなければ有効にならない追認する権利は相続人全員に分けられずに帰属する
追認拒絶の後に無権代理人→本人(すでに拒絶で確定)拒絶で本人に効かないことが決まっている

表の3行目は、平成5年の判決の理由にある「無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属する」を短く言ったものです。判決の理由は、ほかの共同相続人全員が追認しているのに無権代理人だけが追認を拒むことは信義則上許されない、という見方にも触れています。試験で覚えるのは、結論の「全員で追認しない限り、無権代理人の相続分でも当然には有効にならない」の方です。

相続で何を受け継ぐか、相続人がだれになるかは、相続をわかりやすくで整理しています。共同相続人どうしの分け方は遺産分割の話になります。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の宅建試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、代理が主な論点の問は28問(26回)、直近10回では主な論点で4問、ほかの論点の問の中に2問でした(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。無権代理と相続だけを数えた数ではありません)。無権代理と相続は、判例の結論の向きを取り違えないよう、区別して覚えます。

  • 相続の向きを入れ替える型:「本人が無権代理人を相続したら、追認を拒めない」は誤り。拒めないのは、無権代理人が本人を相続したほうです。
  • 117条の責任まで消す型:本人が無権代理人を相続して追認を拒んでも、117条の責任は免れません(昭和48年判決)。「追認を拒めるから何の責任もない」は誤り。
  • 共同相続で「相続分だけ有効」とする型:全員で追認しない限り、無権代理人の相続分でも当然には有効になりません(平成5年判決)。
  • 追認拒絶の後なのに有効とする型:本人が生前に追認を拒絶していれば、無権代理人が単独で相続しても有効になりません(平成10年判決)。
  • 117条の要件を落とす型:相手方が代理権のないことを知っていた、または過失で知らなかったとき(無権代理人自身が知っていた場合を除く)は、そもそも117条の責任がありません。相続しても、ない責任は生まれません。

宅建試験の判決文問題では、知らない判例の一部を読ませて、結論の向きを問う形があります。判決文の読み方は宅建の判決文問題の解き方にまとめています。代理人がさらに代理人を選ぶ場面や、代理権が消える場面は、復代理と代理権の消滅で扱っています。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
たかしさんは代理権がないのに父しげるさんの代理人として、しげるさんの土地をみさきさんに売った。みさきさんは代理権がないことを知らず、過失もなかった。その後たかしさんが死亡し、しげるさんが単独で相続した。しげるさんは追認を拒絶できるが、たかしさんが負っていた117条の責任は免れない。

答え:○ 分かれ目は、本人が無権代理人を相続したときに、追認拒絶と117条の責任がどう扱われるかです。本人が無権代理人を相続しても契約は当然には有効にならず(最高裁第二小法廷 昭和37年4月20日判決)、しげるさんは追認を拒めます。一方で、無権代理人が117条の債務を負っていたときは、追認を拒絶できる地位を理由にその債務を免れることはできません(最高裁第三小法廷 昭和48年7月3日判決)。「本人なのだから責任はない」と考えると✕にしてしまいます。みさきさんが善意無過失なので、117条の要件も満たしています。

問2(このサイトのオリジナル問題)
問1と同じ売買の後、たかしさんではなく、しげるさんが追認も拒絶もしないまま死亡し、たかしさんと弟ゆうじさんが2分の1ずつ相続した。ゆうじさんが追認に反対しても、たかしさんの相続分2分の1については、売買は当然に有効となる。

答え:✕ 分かれ目は、無権代理人が単独で相続したか、共同で相続したかです。無権代理人が本人を共同相続した場合は、共同相続人全員が共同して追認しない限り、無権代理人の相続分に当たる部分でも、当然には有効になりません(最高裁第一小法廷 平成5年1月21日判決)。正しくは、ゆうじさんが反対している以上、売買は2分の1の部分も有効になりません。「本人が自ら契約したのと同じ地位になる」のは、無権代理人が単独で相続した場合(最高裁第二小法廷 昭和40年6月18日判決)で、それと取り違えた形です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
問1と同じ売買の後、しげるさんは、みさきさんに対して追認を拒絶した。その後しげるさんが死亡し、たかしさんが単独で相続した。この場合、売買は、たかしさんの相続によって有効になるものではない。

答え:○ 分かれ目は、本人が生前に追認を拒絶していたかどうかです。本人が追認を拒絶した場合は、その後に無権代理人が本人を相続しても、無権代理行為は有効になりません(最高裁第二小法廷 平成10年7月17日判決)。無権代理人が本人を単独で相続すると追認を拒めない(昭和40年判決)と覚えていると、✕に見えます。拒絶によって、契約が本人に効かないことがすでに決まっているので、相続で結論は変わりません。みさきさんは、要件を満たせば、たかしさんに117条の責任を求めることになります。

まとめ

  • 無権代理人が本人を単独で相続:本人が自ら契約したのと同じ。追認を拒めない(昭和40年)。
  • 本人が無権代理人を相続:当然には有効にならず、追認を拒める(昭和37年)。ただし117条の責任は免れない(昭和48年)。
  • 無権代理人が本人を共同相続:全員で追認しない限り、無権代理人の相続分でも当然には有効にならない(平成5年)。
  • 本人が追認を拒絶した後の相続:無権代理人が相続しても有効にならない(平成10年)。

権利関係の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。次に読むなら、代理をわかりやすくで、117条の要件(相手方の善意・無過失)と表見代理を確かめておくのがおすすめです。相続の場面の結論は、117条の責任があるかどうかと組み合わせて考えるからです。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(API。基準日2026-04-01)で確かめています。判例は、裁判所ウェブサイトの裁判例検索で、判示事項と裁判要旨を確かめました。

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