地代・家賃の増減額請求をわかりやすく:増額しない特約は有効、減額しない特約では請求を止められない

地代(ちだい=土地の借り賃)や家賃が、税金や物価の変化、周りの相場と比べて不相当(ふそうとう=つり合わない)になったら、貸す人も借りる人も、将来に向かって増額・減額を請求できます。地代は借地借家法11条、家賃は32条で、中身はほぼ同じです。

ひとことで言うと、「一定の期間は増額しない」という特約は有効ですが、「減額しない」という特約では減額の請求を止められません。話し合いがまとまらない間は、請求を受けた側が「相当と思う額」で払ったり受け取ったりし、裁判で額が決まったら、差額に年1割の利息を付けて精算します。定期建物賃貸借で賃料改定の特約があるときだけは、32条が使われません。

当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、借地借家法が主な論点の問題は、借地が37問、借家が40問で、直近10回ではどちらも10回すべてに1問ずつ出ていました。賃料の増減は、この借地・借家の問題の中の肢として出る論点です(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。

この記事では、地代・家賃の増減額請求を扱います。借地借家法の全体は借地借家法の記事、民法の賃貸借の基本(敷金・転貸・修繕)は賃貸借の記事にあります。借家の更新を断る通知や解約の申入れ、法定更新は借家の更新と終わり方の記事で扱っています。

身近な例で考えると

登場人物は2人です。店舗を貸している家主=こうじさんと、その店舗でパン屋を開いている借主=さやかさんです。契約はふつうの建物賃貸借(定期建物賃貸借ではない)で、家賃は月20万円です。

  1. 契約書には「家賃は減額しない」という特約がある。
  2. その後、周りの相場が下がり、近くの同じような店舗は月15万円ほどになった。
  3. さやかさんは、こうじさんに「来月分から月16万円にしてほしい」と請求した。特約があっても、請求はできる。
  4. こうじさんは応じず、話し合い(協議)がまとまらない。裁判で決めることになった。
  5. 裁判が終わるまでの間、こうじさんは、自分が相当と思う額(たとえば今までどおりの20万円)を請求でき、さやかさんはそれを払う。
  6. 裁判で「正しい額は月18万円」と決まった。こうじさんは、受け取りすぎた月2万円ずつに、受け取った時から年1割の利息を付けて、さやかさんに返す。

反対に、こうじさんが増額を請求した場合は、立場が入れかわります。さやかさんは、裁判が終わるまで、自分が相当と思う額を払えばよく、決まった額に足りなかった分は、支払期の後の年1割の利息を付けて払います。

たとえるなら、裁判中の家賃は「仮の値段」で、あとで正しい値段との差を利息つきで精算します。ただし本物のルールでは、仮の値段を決めるのは請求した側ではなく、請求を受けた側です。増額か減額かで、借主と貸主のどちらが決めるかが入れかわります。

条文ではこう決まっている

  • 増減を請求できるとき(11条1項・32条1項):租税その他の公課(税金など)の増減、土地や建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動、近くの同じような土地の地代や建物の家賃と比べて、不相当になったとき。当事者は、契約の条件にかかわらず、将来に向かって増額・減額を請求できる。
  • 増額しない特約(11条1項ただし書・32条1項ただし書):一定の期間は増額しない旨の特約があるときは、その定めに従う。条文の例外は「増額しない」だけで、「減額しない」は挙がっていない。
  • 強行法規とした判例:最高裁判所第三小法廷平成15年10月21日判決(平成12(受)573、いわゆるサブリース契約の事案)は、32条1項の規定は強行法規であって、賃料自動増額特約によってもその適用を排除できないとした。11条・32条は、借地借家法が借主に不利な特約を無効とする一覧(16条・37条)には挙がっていない。それでも、上の判例は32条1項を強行法規としている。地代についても、条文の例外は「増額しない」特約だけで、11条1項は「契約の条件にかかわらず」請求できるとしている。
  • 増額を請求されたとき(11条2項・32条2項):協議が調わないときは、請求を受けた者(借主)は、増額を正当とする裁判が確定するまで、相当と認める額を払えばよい。確定した額に足りないときは、不足額に、支払期の後の年1割の利息を付けて払う。
  • 減額を請求されたとき(11条3項・32条3項):協議が調わないときは、請求を受けた者(貸主)は、減額を正当とする裁判が確定するまで、相当と認める額の支払を請求できる。確定した額を超えて受け取っていたときは、超えた額に、受け取った時からの年1割の利息を付けて返す。
  • 定期建物賃貸借の例外(38条9項):定期建物賃貸借で、借賃の改定に係る特約があるときは、32条は適用しない。国土交通省の定期借家制度の案内も、定期借家では「借賃の増減は特約の定めに従う」と説明している。
  • 使い始める前の請求:最高裁判所第三小法廷平成15年10月21日判決(平成12(受)123)は、建物賃貸借の当事者は、契約にもとづく使用収益の開始前に、32条1項にもとづいて賃料の増減を求めることはできないとした。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる(減額しない特約があっても請求):さやかさんの例。「減額しない」特約があっても、32条1項の減額請求はできる。
  2. 当てはまらない(増額しない特約):「3年間は家賃を上げない」という特約がある。その3年の間は、こうじさんは増額を請求できない(32条1項ただし書)。
  3. 当てはまらない(定期建物賃貸借の改定特約):定期建物賃貸借で「家賃は毎年2%ずつ上げる」と特約した。相場が下がっても、借主は32条の減額請求ができない(38条9項)。特約どおりになる。
  4. ひっかけやすい(だれが仮の額を決めるか):さやかさんが減額を請求した場面で、裁判中に「相当と認める額」を決めるのは、請求を受けたこうじさん。さやかさんが自分で決めた額だけを払えばよい、ではない。
  5. ひっかけやすい(地代も同じ):借地の地代も、11条で同じしくみ。「借地の地代は契約で決めた額から動かせない」とする選択肢は誤り。

似ているルールとの違い

特約の例ふつうの借地・借家定期建物賃貸借
一定の期間は増額しない有効(その間は増額請求できない)特約どおり(38条9項)
減額しない減額請求は止められない改定の特約なら特約どおり
毎年○%ずつ上げる増減請求は止められない(平成15年判決)特約どおり(38条9項)

国土交通省の案内は、定期借家の賃料改定の特約として、「契約期間中は賃料改定しない方式」と「一定の算定式により改定する方式」を挙げています。普通の借家では、特約にかかわらず増減を請求できる(増額しない特約は除く)、という違いになります。

協議がまとまらない間の払い方を、増額と減額で並べると次のとおりです。

比べる点増額の請求(2項)減額の請求(3項)
仮の額を決める人請求を受けた借主請求を受けた貸主
確定後の精算借主が不足分を払う貸主が超過分を返す
利息支払期の後の年1割受け取った時からの年1割

試験ではここをまちがえやすい

  • 特約の向きの入れかえ:有効なのは「一定の期間は増額しない」特約です。「減額しない」特約や「自動で増やす」特約があっても、ふつうの借地・借家では増減請求ができます。
  • 仮の額を決める人:増額でも減額でも、仮の額を決めるのは「請求を受けた側」です。請求した側ではありません。
  • 利息の数字と起算:年1割。増額は支払期の後から、減額は受け取った時から。
  • 定期建物賃貸借の例外:借賃の改定に係る特約があると32条は使われません。ふつうの借家の話と混ぜた選択肢に注意します。
  • 将来に向かって:請求の効果は将来に向かってのものです。過去にさかのぼって全部の家賃を下げる請求ではありません。

宅建試験では、借家(または借地)の問題の肢の一つとして、特約の有効・無効や、裁判中の払い方を確かめておく範囲です。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
AがBから店舗を借りるふつうの建物賃貸借(定期建物賃貸借ではない)に、「賃料は減額しない」との特約がある。近くの同じような店舗の賃料と比べて不相当になったときは、Aは、Bに賃料の減額を請求できる。

答え:○ 分かれ目は、条文が例外にしている特約の向きです。32条1項は、契約の条件にかかわらず増減を請求できるとし、例外は「一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約」だけです。最高裁判所第三小法廷平成15年10月21日判決も、32条1項は強行法規で、賃料を自動で増額する特約によってもその適用を排除できないとしています。特約があるので請求できないと考えると✕にしてしまいます。定期建物賃貸借で賃料改定の特約がある場合(38条9項)は、結論が変わります。

問2(このサイトのオリジナル問題)
借主Aが、ふつうの建物賃貸借の貸主Bに賃料の減額を請求したが、協議が調わない。Aは、減額を正当とする裁判が確定するまでの間、自らが相当と認める額を支払えばよい。

答え:✕ 分かれ目は、仮の額を決めるのがだれかです。減額の請求で協議が調わないときは、請求を受けたBが、裁判が確定するまで相当と認める額の支払を請求できます(32条3項)。正しくは、Aは、Bが相当と認める額を払い、確定後にBが超えた分を年1割の利息を付けて返します。「請求を受けた借主が相当と認める額を払えばよい」のは、増額を請求された場合(32条2項)で、その場面と取り違えた文です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
AとBが、書面による定期建物賃貸借で「賃料は毎年2%ずつ増額する」と特約した。その後、近くの家賃相場が大きく下がった場合、借主Aは、借地借家法32条にもとづいて賃料の減額を請求できる。

答え:✕ 分かれ目は、定期建物賃貸借かどうかです。定期建物賃貸借で借賃の改定に係る特約があるときは、32条は適用されません(38条9項)。正しくは、Aは32条の減額請求ができず、特約どおりになります。ふつうの建物賃貸借なら、自動で増額する特約があっても32条の請求は止められない(最高裁判所第三小法廷平成15年10月21日判決)ので、その結論と取り違えた文です。

まとめ

  • 地代(11条)も家賃(32条)も、不相当になれば、当事者は将来に向かって増額・減額を請求できる。
  • 有効なのは「一定の期間は増額しない」特約。「減額しない」「自動で増やす」特約では、ふつうの借地・借家の増減請求は止められない。
  • 協議が調わない間は、請求を受けた側が相当と認める額で払う・受け取る。確定後の差額は年1割の利息を付けて精算。
  • 定期建物賃貸借で借賃の改定に係る特約があれば、32条は適用されない(38条9項)。
  • 使用収益の開始前には、32条1項の増減請求はできない(平成15年10月21日判決)。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。借地借家法の肢をまとめて解くと、ふつうの借家と定期借家の違いが見えてきます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめています。判例は裁判所ウェブサイトで確かめました。

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