試験が近づいて不安が強く、勉強が手につかないときは、不安が消えるのを待たずに、不安の置き場所を作ってから小さく勉強に戻ります。手順は4つです。①10分、心配を紙に書き出す。②書いたものを「変えられること」と「変えられないこと」に分ける。③心配する時間を1日のどこかに決め、それ以外の時間に浮かんだ心配はそこへ先送りする。④5分でできる最小の一歩から勉強を再開する。
目標は不安をなくすことではなく、同じ心配を頭の中で回し続けて机の前で時間だけが過ぎる、という状態を止めることです。手順は、宅建・行政書士のどちらを受ける人にも、試験までの時期に関係なく使えます。
不安で勉強が手につかないのは、どんな状態か
働きながら受ける人の場合、不安が強くなる場面はだいたい決まっています。残業から帰って机に座ったのに、テキストの同じ行を何度も目で追っている。模試や問題集の点が悪かった日に、「このままでは間に合わない」と考えて手が止まる。ネットで他の人の点数や勉強時間を見て、自分と比べてしまう。家族の予定が重なる週に、勉強の時間が取れないことに焦る。
どの場面でも起きているのは、「心配を考えること」と「勉強すること」が同時に頭の中にあり、心配のほうが場所を取っている状態です。気合いで心配を押し込めようとしても、なかなかうまくいきません。そこで、心配をいったん頭の外に出し、考える時間を別に決めて、勉強の時間を空ける、という順番で動きます。
まず10分、心配を紙に書き出す
最初にやるのは、頭の中の心配を紙に書き出すことです。根拠になる研究があります。Ramirez と Beilock(2011年)は、試験の直前に10分間、その試験についての気持ちや心配を書いてもらう実験をしました。大学生の数学のテストと、高校生の生物の期末試験で調べ、書いたグループは、書かなかったグループより成績が下がりにくいという結果でした。高校生の実験では、もともと試験への不安が強い生徒ほど差がはっきりしました。また、試験と関係のないことを書いても同じ効果は出ず、「試験についての心配」を書くことが大事だったと報告しています。
ただし、この研究で書いたのは試験の直前です。ふだんの勉強の前に書いて勉強がはかどるかを確かめたものではありません。このサイトでは、この研究を「心配を頭の外に出してから取りかかる」やり方の手がかりとして使います。
書き方は次のとおりです。
- タイマーを10分にして、紙かノートを1枚出す。
- 「何が心配か」「そうなったら何が困るか」を、思いつくまま書く。文章が整っていなくてかまいません。人に見せるものではありません。
- 10分たったら、書くのをやめる。途中でも終わりにします。
架空の例で見てみます。宅建を受ける会社員のまゆさんは、残業のあと、こう書きました。「民法が全然覚えられない。権利関係で点が取れなかったら落ちる。今週は月末で残業が多い。模試が28点だった。周りに受けると言ってしまったので、落ちたら恥ずかしい。去年も途中でやめた」。書いてみると、頭の中では一つの大きな不安だったものが、6つの別々の心配だったと分かります。
書いた心配を「変えられること」と「変えられないこと」に分ける
次に、書いた心配を一つずつ、自分の行動で変えられるかどうかで分けます。変えられるものには「次にやること」を1行つけます。変えられないものには、何もつけません。まゆさんの例なら、次のようになります。
| 心配 | 分け方 | 次にやること |
|---|---|---|
| 民法が覚えられない | 変えられる | ✕を付けた肢を明日の昼に5つ解き直す |
| 権利関係で点が取れないと落ちる | 一部変えられる | 分野ごとの目標点を確かめる |
| 今週は残業が多い | 一部変えられる | 今週は5分の日を3日と決める |
| 模試が28点だった | 結果は変えられない | 落とし方だけを見る |
| 落ちたら恥ずかしい | 変えられない | (なし) |
| 去年も途中でやめた | 変えられない | (なし) |
分けるときのこつは3つです。
- 結果と行動を切り分ける:「受かるかどうか」「合格基準点が何点になるか」「試験にどんな問題が出るか」は、自分では変えられません。変えられるのは、今日どの問題を何問解くか、です。
- 「一部変えられる」を見のがさない:残業や家族の予定はなくせなくても、その週の勉強の量を前もって下げることはできます。点数への心配も、分野ごとの目標を決め直すことはできます(目標点の置き方は宅建の得点戦略・行政書士の得点戦略)。
- 「次にやること」は5分以内で終わる大きさにする:「民法を全部やり直す」では大きすぎて、また不安になります。「✕の肢を5つ」のように、すぐ始められる大きさまで小さくします。
変えられない心配は、消そうとしなくてかまいません。紙に書いてあるので、忘れる心配もありません。ここでやるのは、その心配のために勉強の時間を使わないと決めることだけです。点数が伸びないこと自体が心配の中心なら、やり方の点検のしかたを受かる気がしないときで説明しています。
心配する時間を決めて、それ以外は先送りする
書き出して分けても、勉強中にまた心配が浮かぶことはあります。そのときのために、「心配する時間」を1日のうちに決めておき、それ以外の時間に浮かんだ心配は、その時間まで先送りします。
このやり方は、心理学で「刺激統制」と呼ばれる方法を心配に使ったものです。Borkovec ら(1983年)は、自分を心配性だと感じている人に、毎日決まった時間と場所で心配し、それ以外の時間は先送りしてもらいました。2つの実験で、4週間続けた人は、何もしなかった人に比べて、毎日の心配の量が減ったと報告しています。McGowan と Behar(2013年)も、心配の強い53人を2つに分け、一方には毎日30分、決まった時間と場所でだけ心配してもらいました(もう一方は、心配を避けずにそのつど向き合うよう案内されたグループです)。2週間後、決まった時間に心配したグループのほうが、心配・不安・寝つきの悪さの点で上回る改善を示しました。ただし、どちらも人数が少なく、試験の受験生で確かめたものではありません。McGowan と Behar も題名で「予備的な調査」としています。
試験勉強では、次のように使います。
- 時間と場所を決める:例として「毎日19時30分から15分、台所のテーブルで」。勉強する机とは別の場所にします。寝る直前は避けます。
- 勉強中に浮かんだら、一言だけメモする:「模試の点」「残業」と、手元の紙に一言書きます。書いたら「19時30分に考える」と心の中で言い、問題に戻ります。
- 決めた時間になったら、メモを見て考える:このとき、上の「変えられる・変えられない」の分け方を使います。変えられるものは次にやることを決め、変えられないものはそのままにします。
- 時間が来たら終える:考えがまとまらなくても、時間が来たら終わりにします。続きは翌日の同じ時間です。
ネットで他の人の点数や勉強時間を見て不安になる人は、それを見るのもこの時間の中だけにすると決めておくと、勉強中に見にいくことが減ります。
5分でできる最小の一歩から、勉強に戻る
不安が強い日に、いつもどおりの60分をこなそうとすると、始めること自体が重くなります。不安の強い日は、「5分で終わる、答えやすい作業」から戻ります。最初の5分にやることは、前もって決めておきます。
- 宅建の例:前日に✕を付けた宅建業法の肢を5つ解き直す。報酬の計算を1問だけ解く。
- 行政書士の例:前日に✕を付けた行政手続法の肢を5つ解き直す。行政不服審査法の審査請求の期間を、本を閉じて書き出してから確かめる。
選ぶ基準は、「新しい範囲ではない」「難しすぎない」「終わりがはっきりしている」の3つです。不安な日に初めての論点や難しい問題に当たると、「やっぱり分からない」が増えて、不安が強くなります。一度解いたことのある問題の解き直しなら、手を動かすうちに注意が問題のほうへ移っていきます。
5分やって続けられそうなら、そのままいつもの勉強に移ります。続けられなければ、その日は5分で終えてかまいません。5分で終える日の決め方や、そのあとの戻り方は疲れた日・残業の日の最低ラインで、「いつ・どこで・何を」を前もって決める方法はやる気に頼らない勉強の続け方で説明しています。休む日があっても、試験を軽く見ているわけではありません。翌日に戻れる形で休むことが大事です。
不安が強くなる場面ごとに、何をするか
同じ場面で何度も不安が強くなるなら、その場面のための手順を一つずつ決めておきます。
- 模試や問題集の点が悪かった日:点数の合計は見ずに、落とした問題を「知らなかった」「知っていたが間違えた」「時間が足りなかった」に分けるところまでで、その日は終えます。分けた結果が、次の週の「変えられること」になります。
- 「もう間に合わない」と感じた日:試験日までに勉強できる日を、カレンダーで数えます。残業や家族の予定で使えない日を先に消し、残った日に何をするかを1日1行で割り当てます。不安が「間に合わない気がする」から「この日にこれをやる」に変わります。
- 家族の予定と重なる週:その週は、平日をすべて5分の日にすると先に決め、休日のどこか1回だけ長めの時間を取ります。家族への頼み方や気持ちの整え方は仕事・家族と両立しながら勉強する人の気持ちの整え方で扱っています。
- 夜、布団に入ってから心配が浮かぶ日:枕元の紙に一言書いて、「明日の19時30分に考える」と決めます。夜中に勉強を始めて取り返そうとはしません。
試験の当日に緊張して頭が真っ白になるのが心配な人は、本番の形での練習と当日の手順を試験本番で緊張しない方法にまとめています。不安とは別に、やる気が出ない・続かない日のしんどさが中心なら、社会人の資格勉強がしんどいときが近い内容です。
2週間続けたら、書き出した紙をどう見直すか
手順を2週間ほど続けたら、書き出した紙を並べて見返します。見るのは、同じ心配が何度出ているかです。くり返し出ている心配は、「変えられること」に分け直せないかを考えます。たとえば「民法が覚えられない」が毎日出てくるなら、民法の解き直しを毎日の最初の5分に固定する、という形です。
反対に、「変えられない」に入れた心配(落ちたら恥ずかしい、など)は、出てくる回数が減っていれば、それで十分です。不安がゼロになるのを待つ必要はありません。不安があっても、その日の5つの肢を解き直せたかどうかで、その日を数えます。
ただし、眠れない日が長く続く、体に強い症状が出る、気分の落ち込みが何週間も続く、というときは、勉強で乗り切ろうとせず、医療機関や相談窓口に相談してかまいません。
今日からやること
- 今夜、タイマーを10分にして、試験についての心配を紙に書き出す。
- 書いた心配を「変えられる・一部変えられる・変えられない」に分け、変えられるものに5分で終わる「次にやること」を1行ずつつける。
- 明日からの「心配する時間」(15分)と場所を決め、手帳かスマホの予定に入れる。
- 不安の強い日の「最初の5分」にやることを1つ決め、手順のメモに書いておく。
このサイトで次に読むなら、書き出した心配の中に「点が伸びない」「受かる気がしない」が多かった人は受かる気がしないときがおすすめです。気持ちではなく勉強のやり方を点検する手順なので、「変えられること」をはっきりさせるのに役立ちます。
参考にした研究・資料(2026年10月確認)
- Ramirez, G., & Beilock, S. L. (2011). Writing about testing worries boosts exam performance in the classroom. Science, 331(6014), 211–213. https://doi.org/10.1126/science.1199427
- Borkovec, T. D., Wilkinson, L., Folensbee, R., & Lerman, C. (1983). Stimulus control applications to the treatment of worry. Behaviour Research and Therapy, 21(3), 247–251. https://doi.org/10.1016/0005-7967(83)90206-1
- McGowan, S. K., & Behar, E. (2013). A preliminary investigation of stimulus control training for worry: Effects on anxiety and insomnia. Behavior Modification, 37(1), 90–112. https://doi.org/10.1177/0145445512455661
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