行政書士試験の肢別過去問(肢別問題集)は、過去の試験問題の肢(し=選択肢)を1つずつに分け、分野ごとに並べて「正しいか・誤りか」で答える形の問題集です。基本書と並行して、条文の知識を固める道具として使います。年度別の過去問は、本番と同じ形で解いて3時間の配分を練習する道具で、役割が違います。
使う順番は、肢別(基本書と並行)→ 分野ごとの5肢の問題 → 年度別の通し練習(試験の2〜3か月前から)です。肢別は、1周目は全部を解き、2周目からは△と✕の印が付いた肢だけを、日をあけて回します。法改正で答えが変わった肢は、消さずに今の条文で書き直します。ただ、肢別だけでは5つの肢を比べて選ぶ力と、多肢選択式・記述式の練習が抜けるので、それだけで受かる準備にはなりません。
肢別・分野別・年度別は、何が違うのか
過去問を使う問題集には、並べ方で3つの種類があります。
| 種類 | 形 | 練習できること | 練習できないこと |
|---|---|---|---|
| 肢別 | 肢1つずつ、分野ごと | 条文の要件・期間を思い出す | 5肢を比べる、時間配分 |
| 分野別 | 5肢の問題を、分野ごと | 単元の中で5肢を比べて選ぶ | 科目をまたぐ切り替え、3時間 |
| 年度別 | 本番1回分を、そのまま | 3時間の配分、3つの合格基準 | 単元ごとの穴の発見 |
肢別のよい所は、1肢が短く、通勤や昼休みでも区切れることと、「どの肢が分かっていないか」が1肢ずつ見えることです。5肢の問題を1問として正解・不正解で記録すると、たまたま正解の肢だけ分かっていた問題も「できた」に入ってしまいます。肢別なら、その穴が最初から見えます。
なお、「肢別問題集」と呼ばれる本の中には、過去問の肢だけでなく、編集者が作った肢を混ぜたものもあります。過去問の肢は本試験の言い回しに慣れるのに、作った肢は過去問にない所を埋めるのに向きます。どちらかを見分けたいときは、肢ごとに出題年度が書いてあるかを見ます。
どの順番で使うか
当サイトがすすめる順番です。
- 基本書と並行して肢別:基本書で1単元を読んだら、その日か翌日に、同じ単元の肢別を解きます。読んだ直後に解くと、どこまで覚えればよいかが分かります。
- 単元ごとに5肢の問題:肢別で○が増えてきた単元から、分野別の5肢の問題で「比べて選ぶ」練習をします。民法は、ここで人物の図を描いて当てはめる練習をします。
- 試験の2〜3か月前から年度別:全科目に一度手が付いたら、公式の過去問で3時間通しの練習をします。年度別の使い方と、通し練習の判定のしかたは過去問の記事にまとめています。
1と2は、科目ごとに進み具合が違ってかまいません。行政法の手続の法律で2に進みながら、民法の債権は1を続ける、という形です。
肢別はどう回すか:○△✕の印と、間違えた肢だけ回す方法
1周目:全部の肢に、日付つきの印を付ける
肢を読んだら、答えを見る前に正誤と理由を一言で決めます。答え合わせのあと、肢番号の横に日付と印を書きます。
- ○:正誤と、その根拠を言えた。
- △:当たったが、根拠があいまい。勘や消去で当たった。
- ✕:間違えた、分からなかった。
正解でも根拠を言えなかった肢は△にします。ここを甘くすると、2周目から回す肢が減りすぎます。印の付け方の基準と、その裏づけになる研究は「できたつもり」を防ぐでくわしく書いています。
2周目から:△と✕の肢だけを、日をあけて出す
2周目からは、全部を解き直しません。△と✕の肢だけを、2〜3日後・約1週間後・3〜4週間後のように、間をあけて出します。日をあけて2回続けて○になった肢は外し、試験の直前にまとめて一度見るだけにします。間の取り方と、試験が近いときの縮め方は復習の間隔の決め方で説明しています。
✕の肢には、間違えた理由を1行だけ書きます。「起算点を『処分の日』と取り違えた」のように、条文のどの言葉でずれたかを書きます。長いまとめは作りません。1行の書き方は間違いノートの作り方と同じです。
平日60分なら、こう回す
| 順番 | やること | 時間の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 予定日が来た△と✕の肢 | 15分 |
| 2 | 基本書で新しい単元を読む | 20分 |
| 3 | 同じ単元の肢別を解き、印を付ける | 25分 |
復習を先にするのがコツです。新しい単元を先にすると、疲れて復習が後回しになり、△と✕がたまっていきます。復習が15分で終わらないほどたまったら、新しい単元を1〜2日止めて片づけます。肢を判断する時間は、1肢10〜20秒を目安にします。それ以上考えないと出てこない肢は△にして先へ進みます。
2周目から「答えを覚えてしまった」ときは
同じ肢を何度も解くと、肢の文を見ただけで答えが分かるようになります。これは「この文は○だった」という見覚えで、根拠を覚えたとは限りません。次の2つで確かめます。
答えより先に根拠を言う:○か✕かではなく、根拠の言葉を先に言います。言えなければ、答えが合っていても△に戻します。
自分で肢を1か所ずらしてみる:○の肢を、主語・数字・起算点・例外のどれかを変えて、誤りの肢に作り替えます。作れれば、その肢は本当に分かっています。たとえば、行政事件訴訟法14条1項の内容で試してみます(このサイトのオリジナル問題)。
もとの肢:「取消訴訟は、処分があったことを知った日から6か月を経過したときは、原則として提起することができない。」(正しい。14条1項)
- 起算点をずらす:「処分の日から6か月」→誤り。処分の日から数えるのは1年(14条2項)。
- 数字をずらす:「知った日から3か月」→誤り。3か月は、行政不服審査法の審査請求の期間(知った日の翌日から起算。18条1項)。
- 例外を消す:「正当な理由があっても提起できない」→誤り。どちらの期間にも「正当な理由があるときは、この限りでない」とある。
1つの肢から3つの誤りの肢が作れるなら、本番で言い回しが変わっても迷いにくくなります。作れない所が、条文に戻って読む所です。条文の前後の項まで読む方法は、先に挙げた過去問の記事の「条文に戻る」の章にあります。
法改正で答えが変わる肢は、どう扱うか
試験は、その年度の4月1日現在施行されている法令から出ます。令和8年度は、令和8年4月1日現在の法令です。過去問の肢は、それぞれの年度の法令で作られているので、その後の改正で答えが変わったものがあります。
e-Gov法令検索で、2026年に施行された改正の前と後を比べた例です。
| 条文 | 改正前 | 今(令和8年度の範囲) |
|---|---|---|
| 民法819条1項(協議離婚のときの親権者) | 「その一方を親権者と定めなければならない」 | 「その双方又は一方を親権者と定める」(2026年4月1日施行) |
| 行政書士法19条1項(業務の制限) | 「業として第一条の二に規定する業務」 | 「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」が加わり、参照先も第一条の三に(2026年1月1日施行) |
たとえば「協議上の離婚では、父母の一方を親権者と定めなければならない」という肢は、改正前の条文なら正しく、今は誤りです。
扱い方は次のとおりです。
- 版を確かめる:令和8年度試験向けの版か、表紙と奥付で見ます。前の年の版を使っているなら、出版社が法改正の案内や正誤表を出していないか確かめます。
- 答えが変わった肢は、消さずに書き直す:肢の横に「改」と書き、今の条文での正誤と、改正前と後の違いを1行で書きます。改正された所は、今の条文がどうなっているかを言えるようにしておく所です。
- 古い言葉は今の言葉で覚える:たとえば罰則の「懲役」は、今の行政書士法では「拘禁刑」です(21条の2など)。肢の言葉が古くても、覚えるのは今の条文の言葉です。
迷ったら、e-Gov法令検索で今の条文を開き、肢と見比べます。e-Govには施行日ごとの版があるので、改正前と後を並べて確かめられます。
肢別だけで受かるか
当サイトの答えは、「肢別は土台として要るが、それだけでは足りない」です。
- 5肢を比べる力が残る:本試験は「妥当なものはどれか」のように5つの中から選ぶ形です。当サイトが令和3年度の問題冊子で確かめたところ、正しいものの組合せを選ぶ形や、当てはまる記述の数を答える形もありました。数を答える形では、肢別で鍛えた「1肢ずつ正誤を判断する力」がそのまま効きます。一方、民法の5肢択一式9問のうち6問は人物が出てくる事例の形で、肢別の短い文とは読み方が違います(どちらも当サイトが数えたもので、公式の内訳ではありません)。
- 多肢選択式・記述式・文章理解は練習できない:令和7年度の配点では、多肢選択式が24点、記述式が60点です。この形の練習は別に入れます。理由と練習の分け方は一問一答・アプリの使い方で書いています。
- 過去に出ていない所は入っていない:肢別は過去に出た所の集まりです。条文の前後や、新しい改正の所は、基本書と条文で補います。
肢別問題集を選ぶとき、何を確かめるか
- 令和8年度試験向け(令和8年4月1日現在の法令)の版か。
- 肢ごとに出題年度が書いてあるか。古い年度の肢は改正の確認が要るので、年度が見えると判断しやすくなります。
- 解説に根拠の条文が書いてあるか。
- 使っている基本書と、分野の並びが近いか。読んだ単元をすぐ引けると、並行して回しやすくなります。
具体的な本の組み合わせは教材の選び方にまとめています。
今日からやること
- 今週読む単元の肢別を、読んだ日か翌日に解く。肢番号の横に日付と○△✕を書く。
- 2周目からは△と✕の肢だけを、2〜3日後・約1週間後・3〜4週間後に出し直す。
- 平日の勉強は、予定日が来た△と✕の肢から始める。
- 使っている肢別の版を確かめ、民法819条1項と行政書士法19条1項の肢があれば、今の条文で答えを確かめる。
- ○の肢を1つ選び、主語・数字・起算点・例外のどれかをずらして、誤りの肢を作ってみる。
このサイトで次に読むなら、過去問の記事がおすすめです。肢別で固めたあとに進む、年度別の3時間通しの練習と、その後の点の読み方を書いています。判例の肢で迷うことが多い人は、判例の覚え方も参考にしてください。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- 行政書士試験研究センター「過去の試験問題と正解」(令和3年度の問題冊子で、出題の形を確認)
- 行政書士試験研究センター「試験の概要」(出題の基準日)
- 行政書士試験研究センター「合否判定基準」(令和7年度、PDF)(多肢選択式・記述式の配点)
- e-Gov法令検索:行政事件訴訟法14条1項・2項、行政不服審査法18条1項、民法819条1項(2026年3月31日時点と4月1日時点の版を比較)、行政書士法19条1項・21条の2(2025年12月31日時点と2026年4月1日時点の版を比較)
働く人の法律試験ノート