教示をわかりやすく:不服申立てと取消訴訟で「教える」決まり

教示(きょうじ)とは、役所が処分をするときに「この処分に不服があれば、ここに、いつまでに申し立てられます」と相手に教える決まりです。行政不服審査法82条は審査請求などの申立ての方法を、行政事件訴訟法46条は取消訴訟の起こし方を、書面で教えるよう役所に義務づけています。

ひとことで言うと、「教示がなかった」「教示がまちがっていた」ために、救済の道が閉ざされないようにする仕組みです。教示がないときは処分をした役所に書面を出せばよく(83条)、まちがった役所を教えられても、正しい役所に出したものとして扱われます(22条)。

この記事では、教示の中身と、教示がない・誤っていたときの扱いを扱います。審査請求そのものの流れや期間は審査請求の記事、取消訴訟の要件は取消訴訟の要件の記事にまとめています。

身近な例で考えると

登場人物は3人です。キッチンカーでお弁当を売るみさきさん、さくら市の市長(公園の使用を許可する役所)、公園のとなりに住むけんたさんです。

  1. みさきさんは、市の公園でキッチンカーを出すため、市長に使用の許可を申請しました。
  2. 市長は「許可しません」と決め、書面で通知しました。この通知の最後に、次のような案内が書いてありました。
  3. 「この処分に不服があるときは、処分を知った日の翌日から3か月以内に、さくら市長に審査請求ができます」「取消しの訴えは、さくら市を被告として、処分を知った日から6か月以内に起こせます」。

この3番目の案内が教示です。みさきさんは法律にくわしくありません。教示がなければ、どこに何を出せばよいか分からず、期間を過ぎてしまうかもしれません。役所の側から道順を教えることで、争う機会を守っているわけです。

一方、けんたさんは「キッチンカーが来ると、音やにおいが気になる」と心配しています。別の店に出店の許可が出たと聞き、市に「この許可に不服を申し立てられますか」とたずねました。けんたさんは処分の相手ではありません。それでも、たずねられた市長は、申し立てられる処分かどうか、できるならどこに・いつまでに出すかを答える必要があります。けんたさんが「書面でください」と言えば、書面で答えます(82条2項・3項)。

ただし、教示は「申立ての道順」を教えるだけです。けんたさんの申立てが認められるかどうかは、別の問題です。たとえ話でいう「道案内」は、目的地に着けると約束するものではありません。

条文ではこう決まっている

行政不服審査法の教示(82条)

  • どんなとき(1項):審査請求・再調査の請求・ほかの法令による不服申立てができる処分をするとき。
  • 誰に(1項):処分の相手方に。求められなくても教える。
  • 何を(1項):①不服申立てができること、②出す先の役所、③申し立てられる期間、の3つ。
  • どうやって(1項):書面で。ただし、処分を口頭でするときは教示しなくてよい(ただし書)。
  • 利害関係人(2項):利害関係人(りがいかんけいにん=処分で影響を受ける人)から求められたら、①不服申立てができる処分かどうか、②できるなら出す先と期間を教える。
  • 書面の求め(3項):2項で教示を求めた人が書面を求めたら、書面で教える。

教示がなかったとき(83条)

  • 教示をしなかったときは、処分に不服がある人は、処分をした役所(処分庁)に不服申立書を出せる(1項)。
  • 本来の出す先が処分庁以外の役所なら、処分庁はすみやかにそこへ送る(3項)。送られたら、初めからその役所に申し立てたものとみなす(4項)。
  • それ以外のときは、初めから処分庁に申し立てたものとみなす(5項)。

教示がまちがっていたとき(22条・55条)

  • 出す先をまちがえた(22条1項):審査請求の出す先でない役所を教え、その役所に書面で審査請求がされたら、その役所は処分庁か本来の審査庁へすみやかに送り、本人に知らせる。
  • できない再調査の請求を「できる」と教えた(22条3項):処分庁に再調査の請求がされたら、処分庁は本来の審査庁へ書類を送る。
  • 審査請求もできると教えなかった(22条4項):再調査の請求ができる処分で、審査請求ができることを教えなかった場合です。再調査の請求をした人から申立てがあれば、処分庁は本来の審査庁へ書類を送る。
  • 22条で送られたときは、「初めから審査庁となるべき行政庁に審査請求がされたものとみなす」(22条5項)。
  • 再調査の請求ができると教えなかった(55条):審査請求がされ、本人から申立てがあれば、審査庁は書類を処分庁へ送る。初めから処分庁に再調査の請求がされたものとみなす。ただし、本人に弁明書が送られた後は送らない。

処分のあとの教示(50条3項・60条2項)

  • 再審査請求ができる裁決をするとき、審査庁は裁決書に、再審査請求ができること・出す先・期間を書いて教示する(50条3項)。
  • 再調査の請求への決定書には、審査請求ができること・出す先・期間を書く。却下の決定なら、決定が違法なときに限り審査請求できる、と書く。処分を全部取り消す決定には書かなくてよい(60条2項)。

行政事件訴訟法の教示(46条)

  • どんなとき・誰に(1項):取消訴訟を起こせる処分や裁決をするとき、その相手方に書面で教示する。口頭でするときは不要。
  • 何を(1項):①被告にすべき者、②出訴期間(しゅっそきかん=訴えを起こせる期間)、③法律で「審査請求の裁決を経なければ訴えられない」と決まっているときは、その旨(審査請求前置=しんさせいきゅうぜんち、と呼びます)。
  • 裁決主義(2項):法律で「裁決にだけ取消訴訟を起こせる」と決まっている処分なら、その旨を書面で教示する。
  • 形式的当事者訴訟(3項):処分で決まった関係について、当事者の一方を被告に訴える場合です。被告にすべき者と出訴期間を書面で教示する。

3項の訴えは、土地の収用で補償の額を争う訴えなどが当たります。くわしくは当事者訴訟の記事と損失補償の記事で扱います。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 書面で「許可しません」と通知 → 教示が要る(当てはまる例)。みさきさんの場面です。審査請求の教示(82条1項)と、取消訴訟の教示(46条1項)の両方が要ります。
  • その場で口頭で処分をした → 教示は要らない(当てはまらない例)。82条1項・46条1項のどちらにも、口頭の処分を除くただし書があります。
  • となりのけんたさん → 求めなければ教示されない(ひっかけやすい例)。自動で教えてもらえるのは処分の相手方だけです。利害関係人は「求めたとき」に限られます。書面になるのも、書面を求めたときです。
  • 通知に教示が書いていなかった → 処分庁に出せばよい。83条1項です。「教示がないので申立てはできない」「却下される」とするのはひっかけです。
  • 「県知事に審査請求できる」と誤って教えられ、知事に書面を出した → 救われる。知事は書類を市長などへ送り、初めから正しい先に出したものとみなされます(22条1項・5項)。ただし22条1項は「書面で」審査請求した場合の決まりです。
  • 期間を本来より長く教えられた → 22条の対象ではない。22条は出す先や申立ての種類の誤りについての決まりで、期間の誤りは書いてありません。期間を過ぎても「正当な理由があるとき」は申し立てられるので(18条1項・2項ただし書)、その当てはめで考えることになります。
  • 審査請求できないのに「できる」と教えられ、審査請求した → 取消訴訟の期間は裁決から数える。行政事件訴訟法14条3項は、「行政庁が誤って審査請求をすることができる旨を教示した場合」にも、裁決を知った日から6か月・裁決の日から1年としています。

似ているルールとの違い

同じ「教示」でも、行政不服審査法と行政事件訴訟法では、教える相手と中身が違います。

くらべる点行政不服審査法82条行政事件訴訟法46条
教える相手相手方。求めがあれば利害関係人も相手方だけ
教える中身申し立てられること・出す先・期間被告・出訴期間・審査請求が先に要る定め
方法書面(口頭の処分は除く)書面(口頭の処分は除く)
教示がないとき処分庁に出せる(83条)83条のような送付の定めはない

行政事件訴訟法には、83条や22条のように書類を送る仕組みはありません。そのかわり、出訴期間には「正当な理由があるとき」のただし書があります(14条1項・2項)。被告をまちがえたときは、故意または重大な過失がなければ、申立てにより裁判所が被告の変更を許すことができます(15条1項)。許されたら、期間は最初に訴えた時を基準にします(15条3項)。

行政手続法の「理由の提示」とも混ざりやすいところです。理由の提示は「なぜこの処分をしたか」を示すもの、教示は「不服ならどう争えるか」を教えるものです。理由の提示は申請に対する処分と不利益処分の記事で扱っています。

試験ではここをまちがえやすい

行政書士試験では、条文の細かい言葉を入れかえる形で問われやすい論点です。行政不服審査法と行政事件訴訟法の教示を、混ぜて出す形も考えられます。

  • 「利害関係人にも、求めがなくても教示しなければならない」→ 誤り。求められたときだけです(82条2項)。
  • 「利害関係人への教示は、いつも書面でする」→ 誤り。書面になるのは、本人が書面を求めたときです(82条3項)。
  • 「口頭でした処分にも書面で教示する」→ 誤り。82条1項・46条1項とも、口頭の処分は除かれます。
  • 「教示がなかったときは、本来の審査庁に出さなければならない」→ 誤り。処分庁に出せます(83条1項)。
  • 「誤った教示で別の役所に出した審査請求は、送られた日に出したものとみなす」→ 誤り。「初めから」本来の審査庁に出したものとみなします(22条5項)。
  • 「取消訴訟の教示には、管轄裁判所を書く」→ 誤り。46条1項の中身は、被告・出訴期間・審査請求前置の定めの3つです。
  • 「取消訴訟の教示は、利害関係人から求められたらしなければならない」→ 誤り。46条には利害関係人の定めがありません。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
さくら市長は、みさきさんへの不許可処分を書面でした。この処分について、公園のとなりに住むけんたさん(利害関係人)から何の求めもない場合でも、市長はけんたさんに、不服申立てができる旨・出す先・期間を教示しなければならない。

答え:✕ 求めがなくても教示が要るのは、処分の相手方です(82条1項)。利害関係人には、求められたときに教示します(82条2項)。

問2(このサイトのオリジナル問題)
処分庁が教示をしなかったため、処分に不服がある人が処分庁に不服申立書を出した。この処分の審査請求の出す先が処分庁以外の行政庁である場合、処分庁はその行政庁に申立書を送らなければならず、送られたときは、初めからその行政庁に審査請求がされたものとみなされる。

答え:○ 83条3項・4項のとおりです。処分庁以外に出す処分でなければ、初めから処分庁に申し立てたものとみなします(83条5項)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
行政庁は、取消訴訟を起こせる処分を書面でするとき、相手方に、被告にすべき者・出訴期間・管轄する裁判所を書面で教示しなければならない。

答え:✕ 46条1項の教示の中身は、被告にすべき者、出訴期間、審査請求の裁決を経なければ訴えられない定めがあるときはその旨、の3つです。管轄裁判所は入っていません。

まとめ

  • 行政不服審査法82条:相手方に、申し立てられること・出す先・期間を書面で。口頭の処分は除く。
  • 利害関係人は、求めたときだけ教示。書面は、書面を求めたときだけ。
  • 教示がない → 処分庁に出せる(83条)。誤った先を教えた → 送られて「初めから」正しい先に出したことになる(22条)。
  • 行政事件訴訟法46条:相手方だけに、被告・出訴期間・審査請求前置の定めを書面で。

次に読むなら、審査請求をわかりやすくがおすすめです。教示で案内された「出す先」と「期間」が、実際の手続きでどう使われるかがつながります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。