行政指導をわかりやすく:任意の協力と、中止などを求める申出

行政指導(ぎょうせいしどう)とは、役所が人や会社に「〜してください」「〜はやめてください」とお願いすることです。命令ではないので、従うかどうかは相手の自由です。行政手続法は、従わなかったことを理由に不利益な扱いをしてはいけないと決めています(32条2項)。

そのうえで、法律に根拠のある「法令違反を直して」という指導を受けた人は、「その指導はおかしい」と役所に中止を求める申出ができます(36条の2)。この記事では、行政手続法の第4章(行政指導)と第4章の2(処分等の求め)を扱います。許可の申請や不利益処分の手続は行政手続法をわかりやすくで、聴聞・弁明は聴聞と弁明の機会の付与で説明しています。

身近な例で考えると

登場人物は3人です。パン工場を経営する=ゆいさん、国の役所(ある省の地方の出先機関)の担当者=もりたさん、工場の近所に住む=こうへいさんです。場面は架空のものです。

  1. もりたさんが、ゆいさんに「夜の配送トラックの台数を減らしてもらえませんか」と頼んだ。法律で決まった義務ではなく、お願いです。これが行政指導です。
  2. ゆいさんは「今は難しいです」と断った。もりたさんは、断ったことを理由に、ゆいさんの別の手続を後回しにするなどの不利益な扱いはできません(32条2項)。
  3. ゆいさんが新しい工場の許可を申請した。もりたさんは「申請を取り下げてほしい」と指導した。ゆいさんが「取り下げません」とはっきり伝えたのに、指導を続けて申請の審査を止めることは許されません(33条)。
  4. もりたさんが、口頭で「法律違反なので直してください」と指導した。ゆいさんが「書面でください」と求めたら、特別の支障がない限り、書面を渡さなければなりません(35条3項)。
  5. ゆいさんは「法律の要件に当たっていない」と考えた。この指導が法律に根拠のあるものなら、役所に指導の中止を求める申出ができます(36条の2)。
  6. 逆に、近所のこうへいさんは「工場が法律違反をしているのに、役所が何もしない」と感じた。こうへいさんは、役所に処分や行政指導をするよう求める申出ができます(36条の3)。

たとえるなら、行政指導は「先生のお願い」に近いものです。断ったからといって成績を下げてはいけない、というルールが付いています。ただし本物の行政指導は、役所の仕事の範囲内でしかできず、従う義務がないことが条文で決まっている点が違います。

条文ではこう決まっている

行政指導とは何か(2条6号)

  • 行政機関が、任務や所掌事務(しょしょうじむ=受け持ちの仕事)の範囲内で、ある行政の目的のために行う。
  • 特定の者に、何かをすること(作為)や、しないこと(不作為)を求める。
  • 形は「指導、勧告、助言その他の行為」。そして「処分に該当しないもの」に限られる。

行政指導の一般原則(32条)

  • 任務・所掌事務の範囲をはみ出してはいけない。
  • 内容は「あくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現される」ことに留意する(1項)。任意=本人が自分で決めること。
  • 相手が従わなかったことを理由に、不利益な取扱いをしてはならない(2項)。

申請・権限と結びついた指導(33条・34条)

  • 33条:申請の取下げや内容の変更を求める指導で、申請者が「従う意思がない」と表明したのに指導を続けるなどして、申請者の権利の行使を妨げてはならない。
  • 34条:許認可などの権限を持つ役所が、その権限を使えない・使う気がない場面で、「権限を使えますよ」とことさらに示して、従わざるをえなくしてはならない。

指導のやり方(35条・36条)

  • 35条1項:相手に、指導の趣旨・内容・責任者をはっきり示す。
  • 35条2項:「許認可の権限を使える」と示すときは、①根拠になる法令の条項、②その要件、③要件に当てはまる理由、を示す。
  • 35条3項:口頭の指導で、相手から1項・2項の事項を書いた書面を求められたら、行政上特別の支障がない限り交付する。
  • 35条4項:その場で終わる行為を求めるもの、すでに文書などで通知した内容と同じことを求めるものは、3項の書面交付の対象外。
  • 36条:同じ目的で、条件に当てはまる複数の人に指導するときは、あらかじめ行政指導指針(共通の中身)を定め、行政上特別の支障がない限り公表する。

行政指導の中止等の求め(36条の2)

  • 対象:法令に違反する行為の是正を求める行政指導で、根拠となる規定が法律に置かれているものだけ。
  • できる人:その指導の相手方。
  • 中身:指導が法律の要件に合わないと考えるとき、指導をした行政機関に申し出て、中止その他必要な措置を求める。
  • できない場合:その指導が、相手方について弁明その他意見陳述の手続を経てされたものであるとき(1項ただし書)。
  • 方法:申出書を出す。氏名・住所、指導の内容、根拠の法律の条項、その要件、要件に合わないと考える理由などを書く(2項)。
  • 役所がすること:必要な調査をし、要件に合わないと認めるときは、中止その他必要な措置をとらなければならない(3項)。

地方公共団体の行政指導は対象外(3条3項・46条)

地方公共団体の機関がする行政指導には、行政手続法の第2章から第6章までが適用されません(3条3項)。処分とちがい、根拠が法律か条例かを問わず外れます。そのかわり、地方公共団体は法律の趣旨にのっとって必要な措置を講ずるよう努めなければならない、とされています(46条)。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる(36条の2):もりたさんが、法律の規定にもとづいて「排水の基準違反を直してください」とゆいさんに勧告した。ゆいさんは基準を守っていると考えている。勧告の前に弁明の手続はなかった。ゆいさんは申出書を出して、中止を求められます。
  2. 当てはまらない(根拠が法律にない):もりたさんの「夜のトラックを減らして」は、法律に根拠のない一般的なお願いだった。これは36条の2の対象外です。ただし、従わなくても不利益に扱われない(32条2項)ことに変わりはありません。
  3. 当てはまらない(市役所の指導):指導したのが市役所の職員だった。地方公共団体の機関の行政指導なので、行政手続法の32条〜36条の2は適用されません(3条3項)。市の行政手続条例などに同じような定めがあるかを見ることになります。
  4. ひっかけやすい(何人も):近所のこうへいさんは、指導の相手方ではない。それでも36条の3の「処分等の求め」なら、「何人も」申し出られます。36条の2の「中止等の求め」は相手方だけです。
  5. ひっかけやすい(書面の求め):もりたさんが窓口で「この用紙のここに記入してください」とだけ言った。その場で終わる行為を求めるものなので、35条3項の書面交付の対象外です(35条4項1号)。

似ているルールとの違い

いちばん混ざりやすいのは、36条の2と36条の3です。どちらも「申出」ですが、向きが逆です。

比べる点中止等の求め(36条の2)処分等の求め(36条の3)
求めること指導をやめて処分・指導をして
できる人指導の相手方何人も
対象法律に根拠のある是正の指導法律に根拠のある是正の処分・指導
役所の対応調査し、必要なら中止など調査し、必要なら処分・指導

行政指導と処分の違いも押さえます。処分は、従う義務を一方的に生じさせます。行政指導は、従うかどうかが相手の自由です。そのため、行政指導はふつう取消訴訟(処分の取消しを求める裁判)の対象になりません。取消訴訟で争えるものの範囲(処分性)は取消訴訟の要件で扱っています。

ただし、名前が「勧告」でも争える場合があります。最高裁判所第二小法廷の平成17年7月15日判決は、医療法(平成9年改正前)30条の7にもとづく都道府県知事の病院開設中止の勧告は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる、としました。名前だけで決めず、仕組みで判断されるということです。

また、行政指導を理由にした扱いが違法とされ、損害賠償が問題になることもあります。最高裁判所第三小法廷の昭和60年7月16日判決は、建築主が付近住民との紛争について行政指導を受けていた事案です。建築主が「指導には協力できない」と明確に示し、すぐ応答するよう求めたのに、指導中であることだけを理由に建築確認を留保(保留)した。これは、特段の事情がない限り国家賠償法1条1項の違法になる、としました。33条の考え方と同じ方向です。国家賠償の仕組みは国家賠償法をわかりやすくで説明しています。

なお、36条の「行政指導指針」は、行政手続法でいう「命令等」の一つです。定めるときは意見公募手続(パブリックコメント)の対象になります。くわしくは意見公募手続をわかりやすくへ。

試験ではここをまちがえやすい

  • 「処分に該当しない」を落とす型:行政指導の定義には「処分に該当しないもの」が入っています。「処分を含む」とする肢は誤りです。
  • 中止等の求めの「できる人」を広げる型:36条の2は相手方だけ。「何人も」は36条の3です。
  • 根拠を「法令」に広げる型:36条の2・36条の3の対象は、根拠規定が「法律」に置かれているものに限られます。
  • ただし書を落とす型:弁明その他意見陳述の手続を経てされた指導には、中止等の求めはできません。
  • 書面交付を「いつでも」とする型:35条3項は、相手から求められたとき、かつ行政上特別の支障がない限り、です。4項の例外もあります。
  • 地方公共団体の扱いを処分と同じにする型:処分は「根拠が条例・規則なら」適用除外。行政指導は、地方公共団体の機関のものなら根拠を問わず適用除外です。
  • 行政指導指針を「公表に努める」とする型:36条は、定めて、行政上特別の支障がない限り公表「しなければならない」です。

行政書士試験では、5肢択一式で32条〜36条の3の文言を少しずつずらす形が考えられます。条文が短いので、主語(誰が)と対象(どんな指導か)を正確に覚えるのが近道です。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
国の行政機関の職員から、法律の規定にもとづき法令違反の是正を求める行政指導を受けた会社の近所に住む人は、その行政指導が法律の要件に適合しないと考えるとき、行政手続法にもとづいてその行政指導の中止を求めることができる。

答え:✕ 中止等の求め(36条の2)ができるのは、その行政指導の相手方だけです。近所の人のように「何人も」できるのは、処分や行政指導を求める36条の3です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
市役所の職員が、市民に対して、法律にもとづく行政指導をした。この行政指導には、行政手続法32条(行政指導の一般原則)の規定が適用される。

答え:✕ 地方公共団体の機関がする行政指導には、根拠が法律でも、行政手続法の第2章から第6章までは適用されません(3条3項)。地方公共団体には、必要な措置を講ずる努力義務があります(46条)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
国の行政機関の職員が口頭で行政指導をし、相手方から指導の趣旨・内容・責任者を記載した書面の交付を求められた。この場合、行政上特別の支障がない限り、職員は書面を交付しなければならない。

答え:○ 35条3項のとおりです。ただし、その場で完了する行為を求めるものや、すでに文書などで通知した内容と同じものを求める指導は対象外です(35条4項)。

まとめ

  • 行政指導は、特定の者への指導・勧告・助言などで「処分に該当しないもの」。従うかは任意。
  • 従わないことを理由に不利益に扱ってはならない。申請の取下げ指導を続けて権利行使を妨げてはならない。
  • 口頭の指導は、求められれば原則として書面を交付する。複数の人への指導は行政指導指針を定めて公表する。
  • 中止等の求めは相手方だけ・法律に根拠のある是正指導だけ・弁明などを経たものは除く。処分等の求めは何人も。
  • 地方公共団体の機関の行政指導は、根拠を問わず行政手続法の対象外(努力義務あり)。

次に読むなら、意見公募手続をわかりやすくがおすすめです。行政手続法の残りの章で、「命令等」の範囲に行政指導指針が入ることも一緒に確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。