取消訴訟の審理と判決:職権証拠調べ・主張の制限・事情判決・第三者効・拘束力

ひとことで言うと、取消訴訟の審理は基本的に民事訴訟と同じ進め方ですが、裁判所が自分で証拠を調べられる(職権証拠調べ)などの特則があります。判決には、第三者効(第三者にも効力が及ぶ)と拘束力(行政庁が判決に従う義務)という、民事訴訟にない効力があります。

処分が違法でも、取り消すと公の利益に著しい障害が出るときは、主文で違法を宣言したうえで請求を棄却できます(事情判決)。この記事は、訴えが入口の要件を通ったあとの「審理」と「判決」を、令和8年4月1日時点の行政事件訴訟法で整理します。入口の要件(処分性・原告適格・訴えの利益など)は取消訴訟の要件をわかりやすくで扱っています。

身近な例で考えると

人物立場したこと
ななみさんマンション予定地の隣の住民建築確認の取消訴訟を起こした
大和建設マンションを建てる会社建築確認を受けた(訴訟の当事者ではない)
市の建築主事処分をした行政庁建築確認をした
  1. ななみさんは、市を被告に、大和建設への建築確認の取消しを求めて訴えました。
  2. 裁判所は、必要があると考え、職権で証拠を調べました。調べた結果について、ななみさんと市の意見を聞きました。
  3. 判決は建築確認を取り消すものでした。この判決の効力は、訴訟の当事者でない大和建設にも及びます。
  4. 市の建築主事は、判決に拘束され、同じ事件で同じ理由の確認をし直すことはできません。

たとえると、取消判決は「試合の結果を、観客席にいた人にも有効にする判定」です。ただし本物のルールでは、知らないうちに権利を害された第三者のために、後から争い直す道(第三者の再審の訴え)も用意されています。

条文ではこう決まっている

審理のルール

  • 民事訴訟の例による(7条):行政事件訴訟法に定めがない事項は、民事訴訟の例によります。
  • 主張の制限(10条1項):取消訴訟では、「自己の法律上の利益に関係のない違法」を理由に取消しを求めることはできません。
  • 原処分主義(10条2項):処分の取消しの訴えと、審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えの両方を起こせるとき、裁決の取消しの訴えでは、処分の違法を理由にできません。処分の違法は処分の取消しの訴えで争います。
  • 訴訟参加(22条・23条):訴訟の結果で権利を害される第三者や、処分をした行政庁以外の行政庁を、申立てまたは職権で、決定により訴訟に参加させられます。
  • 釈明処分の特則(23条の2):裁判所は、訴訟関係を明らかにするため必要があるときは、行政庁に、処分の理由を明らかにする資料や、審査請求の事件記録を出させることができます。
  • 職権証拠調べ(24条):「裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、証拠調べをすることができる」。ただし、結果について当事者の意見をきかなければなりません。

判決のルール

  • 事情判決(31条1項):処分が違法でも、取り消すと公の利益に著しい障害を生ずる場合に、原告の損害の程度や賠償・防止の方法など一切の事情を考えて、取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、請求を棄却できます。この場合、「判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない」とされています。
  • 違法の宣言の中間判決(31条2項):相当と認めるときは、終局判決の前に、判決で違法を宣言できます。
  • 第三者効(32条1項):「処分又は裁決を取り消す判決は、第三者に対しても効力を有する」。執行停止の決定とその取消しの決定にも準用されます(2項)。
  • 拘束力(33条1項):取消判決は、その事件について、処分庁その他の関係行政庁を拘束します。
  • やり直しの義務(33条2項・3項):申請を却下・棄却した処分が取り消されたときは、行政庁は判決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければなりません。申請に基づく処分が手続の違法で取り消された場合も同じです。
  • 第三者の再審(34条):取消判決で権利を害された第三者が、自分の責めによらない理由で訴訟に参加できず、判決に影響する主張を出せなかったときは、再審の訴えを起こせます。確定判決を知った日から30日以内、判決の確定から1年を過ぎると起こせません。

どの規定がほかの抗告訴訟に準用されるか

38条は、取消訴訟の規定のうち、ほかの抗告訴訟にも使うものを並べています。準用されない規定を中心に見ます。

規定取消訴訟無効等確認不作為の違法確認・義務付け・差止め
主張の制限(10条1項)ある準用なし準用なし
釈明処分の特則(23条の2)ある準用あり準用なし
職権証拠調べ(24条)ある準用あり準用あり
事情判決(31条)ある準用なし準用なし
第三者効(32条1項)ある準用なし準用なし
拘束力(33条)ある準用あり準用あり
  • 38条1項は、11条〜13条、16条〜19条、21条〜23条、24条、33条、35条を取消訴訟以外の抗告訴訟に準用します。
  • 38条3項は、23条の2、25条〜29条(執行停止など)、32条2項を無効等確認の訴えに準用します。32条1項(第三者効)は入っていません。
  • 原処分主義(10条2項)は、無効等確認の訴え(38条2項)と不作為の違法確認の訴え(38条4項)に準用されます。

それぞれの訴えの要件は取消訴訟以外の抗告訴訟をわかりやすくで確かめられます。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例(主張の制限):ななみさんは、自分の日照や安全に関係する違法を主張できます。マンションの別の側に住む人の利益だけにかかわる違法を理由に、取消しを求めることはできません(10条1項)。
  • 当てはまる例(事情判決):違法な処分にもとづく大規模な工事がすでに終わり、取り消すと公の利益に著しい障害が出る場合です。判決は請求を棄却しますが、主文で違法を宣言します。裁判所は、原告の損害の程度や、賠償・防止の方法も考えに入れて判断します(31条1項)。
  • 当てはまらない例(事情判決の準用):31条は38条で準用されていないので、無効等確認の訴えで事情判決をする定めはありません。
  • ひっかけやすい例(やり直しの中身):営業許可の申請を拒否した処分が取り消されても、判決は許可を命じるものではありません。行政庁は判決の趣旨に従って改めて処分をします。許可を命じる判決がほしいときは、申請型の義務付けの訴えを一緒に起こします。

似ているルールとの違い

行政不服審査法にも、事情判決とよく似た事情裁決があります(行政不服審査法45条3項)。

比べる点事情判決事情裁決
根拠行政事件訴訟法31条行政不服審査法45条3項
するのはだれか裁判所審査庁
宣言する中身違法違法又は不当
宣言する場所判決の主文裁決の主文

審査請求と取消訴訟のほかの違い(期間・執行停止・教示など)は行政不服審査法と行政事件訴訟法の違い一覧で、執行停止の要件は執行停止と仮の救済をわかりやすくで確かめられます。

試験ではここをまちがえやすい

  • 宣言の場所:事情判決の違法の宣言は、判決の「主文」です。理由の中に書けば足りる、とする肢は誤り。
  • 事情判決と事情裁決の入れ替え:事情裁決は「違法又は不当」、事情判決は「違法」。
  • 第三者効の準用:第三者効(32条1項)は、取消訴訟以外の抗告訴訟に準用されていません。拘束力(33条)は準用されています。
  • 職権の範囲:職権でできるのは証拠調べです。当事者が主張していない事実まで裁判所が探し出す職権探知を定めた規定ではありません。
  • 拘束力の中身:拒否処分が取り消されたら、行政庁は「改めて処分」をします。許可が出たものとみなされる、許可を命じられる、という肢は誤り。
  • 第三者の再審の期間:知った日から30日、確定から1年。

記述式の練習なら、「事情判決」の名前と「判決の主文で処分が違法であることを宣言する」までを一続きで書けるようにしておきます。この論点は宅建試験の範囲ではありません。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
市の処分にもとづく大規模な工事が終わったあと、その処分の取消訴訟で、処分は違法だが取り消すと公の利益に著しい障害が生ずると認められた。裁判所は、判決の理由の中で処分が違法であることを示せば、請求を棄却することができる。

答え:✕ 分かれ目は、違法を宣言する場所です。事情判決では、「判決の主文において」処分が違法であることを宣言しなければなりません(行政事件訴訟法31条1項)。正しくは、理由の中で触れるだけでは足りず、主文で宣言します。審査庁が裁決の主文で「違法又は不当」を宣言する事情裁決(行政不服審査法45条3項)と、宣言の中身も取り違えないようにします。

問2(このサイトのオリジナル問題)
隣に住むななみさんが、大和建設への建築確認の取消訴訟で勝訴し、取消判決が確定した。大和建設がこの訴訟に参加していなかったとしても、取消判決の効力は大和建設にも及ぶ。

答え:○ 民事訴訟の判決は原則として当事者の間でしか効力がないので、✕に見えます。しかし取消判決は「第三者に対しても効力を有する」とされています(行政事件訴訟法32条1項)。そのかわり、自分の責めによらない理由で参加できなかった第三者は、確定判決を知った日から30日以内に再審の訴えを起こせます(34条)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
レストランを開きたいゆうとさんの営業許可の申請を、市長が拒否した。この拒否処分を取り消す判決が確定したときは、市長は、判決に従い、ゆうとさんに営業許可をしなければならない。

答え:✕ 分かれ目は、拘束力で行政庁がしなければならないことです。申請を拒否した処分が取り消されたときは、行政庁は判決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければなりません(行政事件訴訟法33条2項)。正しくは、判決が違法とした理由で再び拒否することはできませんが、許可そのものまでは命じられていません。許可を命じる判決は、申請型の義務付けの訴え(37条の3)で求めるものです。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。

まとめ

  • 審理は民事訴訟の例によるが、職権証拠調べ(結果は当事者の意見をきく)と釈明処分の特則がある。
  • 自己の法律上の利益に関係のない違法は主張できない。裁決の取消しの訴えでは処分の違法を主張できない。
  • 事情判決は請求棄却+主文で違法を宣言。事情裁決は「違法又は不当」を宣言。
  • 取消判決には第三者効と拘束力。拒否処分が取り消されたら、行政庁は改めて処分をする。
  • 拘束力・職権証拠調べはほかの抗告訴訟に準用、第三者効・事情判決・主張の制限は準用なし。

次に読むなら、当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟をわかりやすくがおすすめです。抗告訴訟の判決のルールが、ほかの訴訟の類型でどう使われるかを並べて確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。