共同不法行為(きょうどうふほうこうい)とは、何人かがかかわって、他人に損害を与えることです。このとき加害者は「各自が連帯して」損害を賠償する責任を負います(民法719条1項)。つまり被害者は、加害者のだれに対しても、損害の全額を請求できます。
ひとことで言うと、被害者に対しては「全員が全額」、加害者どうしでは「過失の割合で分ける」というルールです。全額を払った加害者は、ほかの加害者に対して、その人の負担部分を求めること(求償=きゅうしょう)ができます。
この記事では、719条の3つの型、交通事故と医療事故が重なった場合、過失相殺(被害者の落ち度で賠償額を減らすこと)のやり方、加害者どうしの求償を扱います。不法行為の基本(709条の要件、損害賠償の時効)は不法行為をわかりやすくで説明しています。
身近な例で考えるとどうなるか
登場人物は次のとおりです。被害者は、自転車で通勤するみさきさん。加害者は、配送トラックを運転するけんじさんと、乗用車を運転するりょうさんです。けがの治療をした病院の医師をたかはし医師とします。
- 交差点で、けんじさんのトラックとりょうさんの車が、どちらも前をよく見ずに進み、出会いがしらにぶつかった。
- はね飛ばされた車が、歩道のみさきさんの自転車に当たり、みさきさんは足を骨折した。損害は合計600万円と認められた。
- けんじさんとりょうさんの過失(落ち度)の割合は、けんじさん2対りょうさん1だった。
このとき、みさきさんは、けんじさんにもりょうさんにも、600万円の全額を請求できます。「りょうさんの責任は3分の1だから200万円だけ」とは言えません。どちらかが600万円を払えば、みさきさんの損害は埋まり、もう一人に請求することはできなくなります。
けんじさんが600万円を全部払ったとします。けんじさんの負担部分は、過失の割合で決まる400万円です。そこで、けんじさんは、りょうさんに200万円を求償できます。被害者に対する関係と、加害者どうしの関係を分けて考えるのがポイントです。
ただし本物のルールでは、被害者のみさきさんにも落ち度があれば、賠償額が減ります(過失相殺)。そのやり方は、後の「判例」の節で見ます。
条文ではどう決まっているか
719条は3つの型を決めています。
- 1項前段(共同行為者):「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。」何人かの行為が合わさって一つの損害を生んだ場合です。
- 1項後段(加害者が分からない):「共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。」何人かが危ないことをして、そのうちだれの行為で損害が出たのか分からない場合も、全員が連帯して責任を負います。
- 2項(そそのかした人・手助けした人):「行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。」教唆(きょうさ)はそそのかすこと、幇助(ほうじょ)は手助けすることです。自分では手を出していなくても、実行した人と同じ責任を負います。
あわせて、次の条文も使います。
- 過失相殺(722条2項):「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」
- 連帯債務の求償(442条1項):払った連帯債務者は、ほかの連帯債務者に、それぞれの負担部分に応じた額を求償できる。
- 相対的効力(441条):連帯債務者の一人に生じたことは、更改・相殺・混同を除き、原則としてほかの人に効力を生じない(当事者が別の意思を表示したときはそれに従う)。
- 使用者の求償(715条3項):使用者責任を負った会社は、働く人に求償できる。
連帯債務の仕組み(請求・免除・時効の扱い)は連帯債務をわかりやすくでくわしく扱っています。
判例では何が決まっているか
719条は短い条文なので、くわしいルールの多くは最高裁判所の判例で決まっています。判例ごとに、事案・結論・理由の要点・まちがえやすい所を並べます。
| 判例 | 事案(一行) | 結論 |
|---|---|---|
| — | — | — |
| 最判平成13年3月13日 | 交通事故のあと医療事故が重なり、被害者が死亡 | 運転者も病院も全額について連帯責任 |
| 最判平成15年7月11日 | 3台がからむ一つの交通事故で、被害者にも落ち度 | 全体の過失割合で減らした額を、加害者らが連帯して負う |
| 最判昭和41年11月18日 | 会社の運転手と第三者の過失で事故。会社が賠償 | 会社は第三者に求償できる。負担は過失割合で決める |
| 最判昭和63年7月1日 | 同じく運転手と第三者の事故。第三者が多く払った | 第三者は運転手の負担部分を会社に求償できる |
| 最判平成3年10月25日 | 加害者に使用者が2人いる | 使用者どうしの負担は、事業との関連の程度などで決める |
| 最判平成10年9月10日 | 加害者の一人と被害者が和解し、残りを免除 | 免除がほかの加害者に及ぶのは、そういう意思と認められるとき |
交通事故と医療事故が重なった場合(最高裁判所第三小法廷 平成13年3月13日判決)
- 事案:交通事故でけがをした被害者が、その後の医療事故とあいまって死亡した。交通事故と医療事故が順に重なり、運転行為と医療行為が、分けられない一つの結果(死亡)を招いていた。
- 結論:運転者の行為と医療行為は共同不法行為にあたり、それぞれが「被害者の被った損害の全額について連帯責任を負うべき」とした。自分の行為が結果にどれだけ寄与したか(寄与度)で、責任の額を一部に限ることはできない。
- 過失相殺のやり方:この事案では、過失相殺は、加害者ごとに、その加害者と被害者との間の過失の割合で行う。ほかの加害者と被害者の間の過失の割合をしんしゃく(考えに入れること)することは許されない、とした。
- まちがえやすい所:交通事故と医療事故は時間も場所も別ですが、それでも共同不法行為になります。「別々の事故だから寄与度で分ける」は誤りです。
一つの交通事故に加害者が何人もいる場合(最高裁判所第二小法廷 平成15年7月11日判決)
- 事案:複数の車がからむ一つの交通事故で、被害者にも過失があった。事故全体について、だれにどれだけ過失があるか(事故全体の過失割合)を決めることができた。
- 結論:そのような場合は、被害者の過失割合で損害額を減らし、その残りについて、加害者らが連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負う。
- まちがえやすい所:平成13年判決(加害者ごとに過失相殺)とやり方が違います。平成15年判決は、一つの事故で全体の過失割合を決められる場合の判断です。二つの判決を「事故の形」で区別して覚えます。
加害者どうしの求償(最高裁判所第二小法廷 昭和41年11月18日判決、昭和63年7月1日判決)
- 事案:会社の運転手(被用者)と、ほかの車の運転者(第三者)の過失で交通事故が起きた。
- 結論:昭和41年判決は、被害者に賠償した会社(使用者)は、第三者に求償でき、第三者の負担部分は「被用者と第三者との過失の割合」で決めるとした。昭和63年判決は逆向きで、自分の負担部分を超えて賠償した第三者は、被用者の負担部分について会社に求償できるとした。
- まちがえやすい所:求償の物差しは「過失の割合」です。「頭数で等分」ではありません。会社と運転手の間の求償(715条3項)の制限は、別の判例の話です。こちらは使用者責任の判例で扱っています。
使用者が2人いる場合(最高裁判所第二小法廷 平成3年10月25日判決)
- 結論:加害者に使用者が2人いて、どちらも使用者責任を負う場合、使用者どうしの負担部分は、加害行為の態様と、それぞれの事業の執行との関連性の程度などを考えて決める。自分の負担部分を超えて払った使用者は、超えた分について、相手の負担部分の限度で求償できる。
- まちがえやすい所:使用者どうしの負担は「過失の割合」ではなく、加害行為と事業との結びつきの強さで決まります。
一人と和解して残りを免除した場合(最高裁判所第一小法廷 平成10年9月10日判決)
- 結論:加害者の一人と被害者が訴訟上の和解をし、和解金を払う代わりに残りの債務を免除した。被害者が、ほかの加害者の残りの債務も免除する意思だったと認められるときは、ほかの加害者にも免除の効力が及ぶ。そのときの求償の額は、和解で払った額を基準に、責任の割合で負担部分を決めて計算する。
- まちがえやすい所:免除がほかの加害者に及ぶかは、被害者の意思で決まります。今の民法でも、連帯債務者の一人への免除は、原則としてほかの人に効力を生じません(441条)。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる(1項前段):けんじさんとりょうさんの車の衝突で、みさきさんがけがをした。二人の行為が合わさって一つの損害を生んでいるので、二人は連帯して全額の責任を負います。
- 当てはまる(1項後段):3人の学生が、ふざけて駐車場で小石を投げ合い、そのうち1つが止めてあった車のガラスを割った。だれの石か分からなくても、3人は連帯して責任を負います。
- 当てはまる(2項):あおいさんが、友人に「あの家の塀に落書きしてこい」とそそのかした。実行したのは友人だけでも、あおいさんは共同行為者とみなされます。
- ひっかけやすい(時間・場所が別):事故でけがをしたあと、病院の医療ミスで症状が重くなった。原因が順に重なっただけに見えても、判例は共同不法行為にあたるとしました(平成13年判決)。
- 当てはまらない例(求償の物差し):全額を払ったけんじさんが、りょうさんに「半分の300万円」を請求する。求償できるのは、過失の割合で決まるりょうさんの負担部分(例では200万円)です。等分ではありません。
似ているルールとどう違うか
共同不法行為と、まぎらわしい場面を比べます。
| 場面 | 被害者への責任 | 加害者どうし |
|---|---|---|
| — | — | — |
| 共同不法行為(719条) | 各自が全額を連帯して負う | 過失の割合で負担部分を決めて求償 |
| 使用者責任(715条) | 会社と働く人がそれぞれ全額を負う | 会社から働く人への求償は信義則で制限されうる |
| 約束による連帯債務(436条) | 債権者はだれにでも全額を請求できる | 負担部分に応じて求償(442条) |
| 加害者が一人 | その人が全額 | 求償の問題は出ない |
覚え方は、「外(被害者)に向けては全員が全額、内(加害者どうし)では割合で分ける」です。どの場面でも、まず被害者に対する関係を決め、次に払った人がだれに、いくら求償できるかを考えます。
試験ではここをまちがえやすい
- 「寄与度に応じて責任を分ける」型:被害者に対しては、各自が全額について連帯責任を負います(平成13年判決)。寄与度で減らすのは誤りです。
- 過失相殺のやり方を入れ替える型:交通事故と医療事故が順に重なった平成13年判決は、加害者ごとの過失割合で過失相殺します。一つの交通事故で全体の過失割合が決まる平成15年判決は、全体の割合で減らします。
- 求償の物差しを入れ替える型:加害者どうしは「過失の割合」。使用者が2人いるときは「加害行為の態様と事業の執行との関連性の程度」。等分にする肢は誤りです。
- 2項を落とす型:そそのかした人・手助けした人は「共同行為者とみなして」責任を負います。「実行していないので責任を負わない」は誤りです。
- 免除の効力を言い切る型:一人への免除は、原則としてほかの加害者に及びません。及ぶのは、被害者にそういう意思があると認められるときです。
行政書士試験では、5肢択一式で判例の結論(全額の連帯責任、求償の割合)を入れ替える形が考えられます。記述式(40字程度)では、「被害者はだれに、いくら請求できるか」に「各自に対し、損害の全額の賠償を請求できる」と書ける形にしておきます。
宅建試験では、使用者責任と組み合わせ、「会社の従業員とほかの運転者の事故で、会社が賠償した場合に、だれにいくら求償できるか」を問う形が考えられます。
なお、改正後の442条1項は、連帯債務者は「その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず」求償できるとしています。上の昭和63年判決・平成3年判決は改正前のもので、「負担部分を超えて」払った場合の求償を扱いました。共同不法行為者どうしの求償にこの条文がそのまま当てはまるかは考え方が分かれるため、この記事では判例の結論を示すにとどめます。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
交通事故で負傷したみさきさんが、搬送先の病院で医師の過失ある処置を受け、死亡した。運転行為と医療行為が共同不法行為にあたる場合、運転者と病院は、それぞれの行為が死亡に寄与した割合に応じた額についてだけ、遺族に賠償する責任を負う。
答え:✕ 分かれ目は、被害者に対する責任の範囲です。最高裁判所第三小法廷平成13年3月13日判決は、この場合、各不法行為者は損害の全額について連帯責任を負うとし、寄与度で責任を一部に限ることはできないとしました(民法719条1項)。正しくは、運転者も病院も、損害の全額について連帯して責任を負います。寄与度や過失の割合が問題になるのは、加害者どうしの求償の場面です。被害者に対する関係と、加害者どうしの関係を取り違えると○にしてしまいます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
運送会社Aの運転手Bと、自家用車を運転するCの双方の過失による衝突事故で、歩行者Dがけがをした。Aが使用者責任に基づいてDに損害の全額を賠償したときは、Aは、Cに対し、BとCの過失の割合に従って定まるCの負担部分について求償することができる。
答え:○ 最高裁判所第二小法廷昭和41年11月18日判決は、被用者と第三者の共同過失による事故で賠償した使用者は第三者に求償でき、第三者の負担部分は被用者と第三者の過失の割合で定めるとしました。払ったのはBではなく会社Aなので、「Aは事故を起こしていないから求償できない」と考えると✕にしてしまいます。会社Aと運転手Bの間の求償(715条3項)とは、相手も物差しも別の話です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
けんじさんは、友人のりょうさんに、隣人の車を傷つけるようそそのかした。実際に車を傷つけたのはりょうさんだけである場合、けんじさんは、自らは加害行為をしていないので、隣人に対して損害賠償の責任を負わない。
答え:✕ 分かれ目は719条2項です。「行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして」1項を適用します。正しくは、そそのかしたけんじさんも、りょうさんと連帯して損害の全額を賠償する責任を負います。手助けした人(幇助者)も同じです。709条の「自分の行為で損害を加えた人」だけが責任を負うと考え、2項を取り違えると○にしてしまいます。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「民法」で続けて解けます。判例の結論で解く民法の問題をまとめて解くなら、行政書士の民法の一問一答も使えます。
まとめ
- 共同不法行為は719条1項前段(共同行為)・1項後段(加害者不明)・2項(教唆・幇助)の3つの型。
- 被害者に対しては、各自が損害の全額について連帯して責任を負う。寄与度で減らせない。
- 過失相殺は、事故が順に重なった平成13年判決では加害者ごと、一つの事故で全体の割合が決まる平成15年判決では全体の割合で。
- 加害者どうしの求償は過失の割合で。使用者が2人なら、事業の執行との関連性の程度などで。
- 一人への免除は、原則としてほかの加害者に及ばない(被害者の意思で及ぶことがある)。
次に読むなら、使用者責任の判例がおすすめです。共同不法行為と使用者責任は同じ事故の中で組み合わさることが多く、会社と働く人の間の求償まで続けて確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。
- e-Gov法令検索「民法」(436条、441条、442条、715条、719条、722条)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 平成13年3月13日判決(平成10年(受)第168号)」(交通事故と医療事故の競合と共同不法行為・過失相殺の方法)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 平成15年7月11日判決(平成14年(オ)第1689号)」(事故全体の過失割合を認定できる場合の過失相殺)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 昭和41年11月18日判決(昭和41年(オ)第58号)」(賠償した使用者の第三者への求償と負担部分)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 昭和63年7月1日判決(昭和60年(オ)第1145号)」(第三者から使用者への求償)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 平成3年10月25日判決(昭和63年(オ)第1383号)」(加害者の複数の使用者間の求償)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 平成10年9月10日判決(平成9年(オ)第448号)」(共同不法行為者の一人との和解における免除の効力)
働く人の法律試験ノート