抵当権の処分をわかりやすく:抵当権・順位の譲渡と放棄、配当の計算

抵当権の処分は、抵当権を持つ人(抵当権者)が、自分の抵当権や順位の「取り分」を、ほかの債権者に回すしくみです(民法376条1項)。①抵当権の譲渡・放棄は、同じ債務者にお金を貸している無担保の債権者のためにします。②抵当権の順位の譲渡・放棄は、後の順位の抵当権者のためにします。どちらも、「譲渡」なら受けた人が先に取り、「放棄」なら二人の債権額の割合で分けます。処分に関係しない抵当権者の配当は変わりません。これとは別に、抵当権者全員の合意で順位そのものを入れかえる「順位の変更」があり、登記をしないと効力が生じません(374条)。

この記事では、同じ競売の例で5通りの配当を計算し、検算しながら違いを確かめます。抵当権の基本(順位、効力の及ぶ範囲、法定地上権など)は抵当権の記事で扱っています。

身近な例で考えると:ゆうきさんの土地が6,000万円で競売された

登場人物を紹介します。お金を借りたのは全員、土地の持ち主のゆうきさんです。

人物立場ゆうきさんへの債権
あおば銀行1番抵当権者2,000万円
みどり信金2番抵当権者3,000万円
さくらローン3番抵当権者4,000万円
たけるさん一般債権者(抵当権なし)3,000万円

ゆうきさんが返せなくなり、土地が競売で6,000万円になりました(費用や利息は考えません)。何も処分をしていないときの配当は、順位の順に取っていきます。

  1. あおば銀行(1番):2,000万円を全額。残り4,000万円。
  2. みどり信金(2番):3,000万円を全額。残り1,000万円。
  3. さくらローン(3番):残りの1,000万円だけ(債権4,000万円のうち)。
  4. たけるさん:抵当権がないので、この土地の代金からは受け取れない。

検算:2,000+3,000+1,000=6,000万円。これが計算の出発点です。処分をしても、変わるのは処分をした人と受けた人の分だけです。

たとえると、配当は「順番に並んで、前の人から決まった量を受け取る列」です。抵当権の処分は、列の自分の場所の「取り分」を、ほかの人と分け合ったり譲ったりすること。ただし本物のルールでは、間に並んでいる人(ここではみどり信金)の取り分には手を付けられません。

条文ではこう決まっている

  • 376条1項:抵当権者は、①その抵当権をほかの債権の担保にできます(転抵当)。②同じ債務者に対するほかの債権者のために、その抵当権を譲渡・放棄できます。③同じく、その抵当権の順位を譲渡・放棄できます。
  • 376条2項:数人のために処分をしたときは、処分を受けた人どうしの順位は、抵当権の登記にした付記の前後で決まります。
  • 377条1項:処分は、民法467条に従って主たる債務者に通知するか、主たる債務者が承諾しなければ、主たる債務者・保証人・抵当権設定者とその承継人に主張(対抗)できません。
  • 377条2項:主たる債務者が通知を受けたり承諾したりした後は、処分を受けた人の承諾なしにした弁済は、その人に主張できません。
  • 374条1項:抵当権の順位は、各抵当権者の合意で変更できます。利害関係を持つ人がいるときは、その承諾が要ります。
  • 374条2項:順位の変更は、登記をしなければ効力を生じません。

5通りの配当を計算する

前提は同じです。競売代金6,000万円、あおば銀行(1番)2,000万円、みどり信金(2番)3,000万円、さくらローン(3番)4,000万円、たけるさん(無担保)3,000万円。処分がないときの配当は、あおば2,000・みどり3,000・さくら1,000・たける0(万円)でした。

1.順位の譲渡(あおば→さくら)

あおばとさくらの取り分を合わせると、2,000+1,000=3,000万円。順位を譲り受けたさくらが先に取ります。さくらの債権は4,000万円なので、3,000万円を全部取り、あおばは0円です。みどりは3,000万円のままです。

検算:0+3,000+3,000=6,000万円。

2.順位の放棄(あおば→さくら)

合わせた3,000万円を、二人の債権額の割合(2,000万円:4,000万円=1:2)で分けます。あおば1,000万円、さくら2,000万円。みどりは3,000万円のままです。

検算:1,000+3,000+2,000=6,000万円。

3.抵当権の譲渡(あおば→たける)

あおばの取り分2,000万円を、たけるさんが先に取ります。たけるさんの債権は3,000万円なので、2,000万円を全部取り、あおばは0円です。みどり3,000万円、さくら1,000万円は変わりません。

検算:0+3,000+1,000+2,000=6,000万円。

4.抵当権の放棄(あおば→たける)

あおばの取り分2,000万円を、二人の債権額の割合(2,000万円:3,000万円=2:3)で分けます。あおば800万円、たけるさん1,200万円です。

検算:800+3,000+1,000+1,200=6,000万円。

5.順位の変更(さくらを1番、あおばを3番に)

順位そのものが、さくら・みどり・あおばの順に入れかわります。さくら4,000万円を全額、みどりは残り2,000万円(債権3,000万円のうち)、あおばは0円です。

検算:4,000+2,000+0=6,000万円。

1の順位の譲渡では、みどりは3,000万円のままでした。5の順位の変更では、みどりは2,000万円に減ります。間にいる人の取り分まで変わるので、順位の変更は関係する抵当権者全員の合意が要り、登記をして初めて効力が生じます(374条)。

計算結果を並べると(万円)

処分あおば(1番)みどり(2番)さくら(3番)・たける
処分なし2,0003,000さくら1,000・たける0
順位の譲渡→さくら03,000さくら3,000
順位の放棄→さくら1,0003,000さくら2,000
抵当権の譲渡→たける03,000さくら1,000・たける2,000
抵当権の放棄→たける8003,000さくら1,000・たける1,200
順位の変更02,000さくら4,000

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例

  • 転抵当:あおば銀行が、ひかり銀行からお金を借りるときに、ゆうきさんの土地の1番抵当権を担保にした。→ 抵当権をほかの債権の担保にする転抵当です(376条1項)。
  • 処分の通知:あおば銀行がさくらローンに順位を譲渡し、ゆうきさんに通知した。→ これで、ゆうきさんや保証人などに主張できます(377条1項)。

当てはまらない例

  • あおば銀行が、ゆうきさんではなく、ゆうきさんの兄にお金を貸している人に抵当権を譲渡した。→ 抵当権の譲渡・放棄の相手は「同一の債務者に対する他の債権者」です(376条1項)。
  • あおば銀行とさくらローンだけの合意で、順位を入れかえる登記をした。→ 順位の変更で、間にいるみどり信金の順位も実質的に変わるときは、みどり信金も合意に加わる必要があります(374条1項)。

ひっかけやすい例

  • 通知の後の弁済:あおば銀行がたけるさんに抵当権を譲渡し、ゆうきさんに通知した。その後、ゆうきさんが、たけるさんの承諾なしに、あおば銀行に借金を返した。→ この弁済は、たけるさんに主張できません(377条2項)。たけるさんの取り分が勝手に消えないようにするためです。
  • みどり信金の配当:順位の譲渡・放棄は、あおばとさくらの二人の取り分の中で動かすだけです。みどり信金の配当は変わりません。

似ているルールとの違い

項目抵当権の処分(譲渡・放棄)順位の変更
相手一般債権者か、後の順位の抵当権者関係する抵当権者全員
ほかの抵当権者への影響なし間の順位の人も変わりうる
登記付記登記でする。数人に処分したときの順位は付記の前後(376条2項)登記しないと効力なし(374条2項)
債務者などへの対抗主たる債務者への通知・承諾(377条1項)―

根抵当権(決めた上限額まで、まとめて担保する抵当権)にも「全部譲渡」「分割譲渡」などの独自の処分があり、ここで扱った376条の処分とは別の決まりです。根抵当権の側は根抵当権の記事で確かめてください。抵当権の処分は、登記の上では付記登記で表されます。登記の種類は不動産登記法の記事へ。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、抵当権が主な論点の問題は29問(26回)、ほかの論点の問題の中に7問でした。直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では、主な論点として5問、ほかの論点の中に1問です。抵当権の処分は、この抵当権の問題の中の肢や計算として出る論点で、肢ごとの数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • 譲渡と放棄の入れかえ:譲渡は「受けた人が先に取る」、放棄は「債権額の割合で分ける」。
  • 相手の取り違え:抵当権の譲渡・放棄は無担保の債権者のため、順位の譲渡・放棄は後の順位の抵当権者のため。
  • 間の抵当権者:処分では配当が変わらない。順位の変更では変わりうるので、その人の合意が要る。
  • 登記の意味:順位の変更は登記が効力の要件。「登記は第三者への対抗要件にとどまる」は誤り。
  • 通知の後の弁済:処分を受けた人の承諾なしの弁済は、その人に主張できない(377条2項)。

計算問題の進め方(式を書いて検算する)は、宅建の計算問題の記事でほかの計算と並べています。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
土地が4,800万円で競売された。1番抵当権者Aの債権は1,200万円、2番抵当権者Bは2,400万円、3番抵当権者Cは2,400万円である。AがCのために抵当権の順位を放棄していたとき、Cが受ける配当は2,400万円である。

答え:✕ 分かれ目は、順位の放棄と順位の譲渡の配当のしかたです。処分がなければAは1,200万円、Cは残りの1,200万円で、二人の取り分は合わせて2,400万円です。放棄では、これを債権額の割合(1,200:2,400=1:2)で分けるので、正しくは、Cは1,600万円、Aは800万円です。2,400万円は、Cが先に全部を取る順位の譲渡(民法376条1項)の場合の額です。Bの2,400万円は、どちらでも変わりません。

問2(このサイトのオリジナル問題)
抵当権の順位の変更は、各抵当権者の合意によって効力を生じ、その登記は、順位の変更を第三者に対抗するための要件である。

答え:✕ 分かれ目は、登記が効力の要件か対抗の要件かです。順位の変更は、登記をしなければ効力を生じません(374条2項)。正しくは、合意だけでは順位は変わらず、登記をして初めて変更の効力が生じます。物権の変動は原則として登記が第三者への対抗要件(177条)なので、これと同じだと考えると取り違えます。

問3(このサイトのオリジナル問題)
1番抵当権者Aは、債務者Eに対して無担保の債権を持つDのために、抵当権を譲渡し、Eに通知した。その後、EがDの承諾を得ないでAに債務を弁済したときは、Eは、その弁済をDに対抗することができない。

答え:○ 分かれ目は、処分の通知の後の弁済です。主たる債務者が抵当権の処分の通知を受けた後は、処分を受けた人の承諾なしにした弁済は、その人に対抗できません(377条2項)。✕に見えるのは「本来の債権者Aに返したのだから有効」と考えやすいからです。勝手な弁済でDの取り分が消えるのを防ぐ定めです。通知も承諾もない段階なら、Eなどに処分を主張できない(377条1項)点とあわせて覚えます。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 抵当権の譲渡・放棄は無担保の債権者のため、順位の譲渡・放棄は後の順位の抵当権者のため(376条1項)。転抵当は抵当権をほかの債権の担保にすること。
  • 譲渡は受けた人が先に取り、放棄は二人の債権額の割合で分ける。どちらも、処分した人と受けた人の取り分の中で動かす。
  • 間にいる抵当権者の配当は、処分では変わらない。順位の変更では変わりうる。
  • 処分は主たる債務者への通知か承諾で、債務者・保証人などに対抗できる。通知の後の勝手な弁済は、処分を受けた人に対抗できない(377条)。
  • 順位の変更は関係する抵当権者全員の合意と、利害関係人の承諾。登記が効力の要件(374条)。

次に読むなら、根抵当権の記事がおすすめです。ふつうの抵当権の処分と比べると、根抵当権の譲渡や元本の確定の決まりが覚えやすくなります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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