議会と長の関係をわかりやすく:再議・不信任議決・専決処分の数字と流れ

ひとことで言うと、知事や市町村長(条文では「長(ちょう)」)と議会は、どちらも住民が直接選ぶ対等な機関です(憲法93条2項)。意見がぶつかったときのために、地方自治法は3つの道具を用意しています。長が議決をやり直させる再議(さいぎ)、議会が長をやめさせようとする不信任議決と、それに対する長の議会の解散、そして議会の代わりに長が決める専決処分(せんけつしょぶん)です。

この記事では、令和8年4月1日時点の地方自治法176条〜180条を中心に、日数と議決の要件を整理します。住民が署名を集めて長や議員をやめさせる解職請求は直接請求の記事で扱います。

身近な例で考えるとどうなるか

架空の「ひばり町」で考えます。登場するのは、町長のもりたさんと、町議会の議長のいしかわさんです。町議会の議員は全部で12人とします。

場面1:町長が反対する条例が可決された(再議)

  1. 町議会が「町営プールを無料にする条例」を可決した。もりた町長は、お金が足りなくなると考えて反対だった。
  2. いしかわ議長が条例を町長に送る。町長は、送られた日から10日以内に、理由を示して再議に付した(176条1項)。
  3. 議会がもう一度話し合う。条例の議決なので、出席議員の3分の2以上が賛成すれば、同じ議決が確定する(176条2項・3項)。

場面2:議会が町長の不信任を議決した(不信任と解散)

  1. 議員12人のうち10人が出席し、8人が町長の不信任に賛成した。議員数の3分の2以上(8人以上)が出席し、出席者の4分の3以上が同意したので、不信任議決が成り立つ(178条3項)。
  2. 議長は、すぐに町長に知らせる。もりた町長は、知らせを受けた日から10日以内なら、議会を解散できる(178条1項)。
  3. 町長が10日以内に解散しなければ、10日が過ぎた日に町長は職を失う(178条2項)。
  4. 町長が解散したので、議員の選挙が行われた。選挙のあと初めて開かれた議会で、議員数の3分の2以上が出席し、その過半数が再び不信任に賛成した。議長から知らせがあった日に、町長は職を失う(178条2項・3項)。

場面3:台風で急ぎの予算が必要になった(専決処分)

  1. 台風で町道が崩れ、すぐに工事のお金が必要になった。議会を開く時間がないことが明らかだった。
  2. もりた町長は、議会の代わりに補正予算を決めた(179条1項)。
  3. 町長は、次の議会でこのことを報告し、承認を求めた(179条3項)。

人数の例は、計算を分かりやすくするためのものです。本物のルールでは「議員数」「出席議員」のどちらを基準にするかが条文ごとに違うので、次の章で確かめます。

条文ではどう決まっているか

再議(176条・177条)

  • 異議があるときの再議(176条1項〜3項):長は、議決に異議があれば、議決の日から10日以内に、理由を示して再議に付すことができる。条例の制定・改廃と予算の議決は、議決の日ではなく「送付を受けた日」から10日以内。同じ議決がされると確定する。条例・予算の場合は、出席議員の3分の2以上の同意が必要。
  • 違法な議決・選挙の再議(176条4項〜8項):議決や選挙が権限をこえる、または法令・会議規則に違反すると認めるときは、長は再議に付すか再選挙をさせなければならない。それでも直らないときは、議決・選挙の日から21日以内に、知事は総務大臣に、市町村長は知事に審査を申し立てられる。裁定に不服があれば、裁定の日から60日以内に裁判所に訴えられる。
  • お金を削った議決の再議(177条):議会が次の経費を削ったり減らしたりしたら、長は再議に付さなければならない。①法令で負担する経費など義務の経費、②非常の災害の応急・復旧や感染症予防のための経費。①なら、それでも削られたとき長は予算に計上して支出できる。②なら、長はその議決を不信任議決とみなすことができる。

不信任議決と解散(178条)

  • 1回目の不信任:議員数の3分の2以上が出席し、その4分の3以上の同意。
  • 長は、通知を受けた日から10日以内に議会を解散できる。解散しなければ、10日を過ぎた日に失職。
  • 解散後に初めて招集された議会での2回目の不信任:議員数の3分の2以上が出席し、その過半数の同意。議長から通知があった日に失職。

専決処分(179条・180条)

  • 179条の専決処分:次のどれかのとき、長は議会が議決すべき事件を処分できる。議会が成立しないとき。定足数の例外(113条ただし書)を使ってもなお会議を開けないとき。特に急ぐため議会を招集する時間がないことが明らかだと長が認めるとき。議会が議決すべき事件を議決しないとき。
  • ただし、副知事・副市町村長の選任の同意(162条)などは、専決処分できない(179条1項ただし書)。
  • 長は、次の会議で議会に報告し、承認を求めなければならない(179条3項)。条例・予算の専決処分の承認が否決されたら、長は速やかに必要と認める措置をとり、議会に報告する(179条4項)。
  • 180条の専決処分:議会の権限のうち軽い事項で、議会が議決で特に指定したものは、長が専決処分できる。この場合は議会に報告すればよく、承認はいらない。

議会を開く権限(101条)

議会を招集(しょうしゅう=集めて開くこと)するのは長です(101条1項)。議長(議会運営委員会の議決を経る)や、議員定数の4分の1以上の議員は、長に臨時会の招集を請求できます。長は請求の日から20日以内に招集しなければなりません(101条2項〜4項)。それでも長が招集しないときの扱いは、請求した人で分かれます。議長の請求なら、議長が臨時会を招集できます(101条5項)。議員の請求なら、請求した議員の申出によって、議長が招集しなければなりません。期限は申出の日から、都道府県と市は10日以内、町村は6日以内です(101条6項)。長が議会を開かないままにしておけないようにする仕組みです。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:予算の議決への再議

ひばり町議会が、町長の出した予算を大きく修正して可決しました。町長は、予算の送付を受けた日から10日以内なら、異議を理由に再議に付せます。同じ議決を確定させるには、出席議員の3分の2以上の同意がいります(176条1項〜3項)。

当てはまらない例:不信任議決がないのに解散する

もりた町長が「議会と気が合わない」というだけで議会を解散することはできません。地方自治法で長が議会を解散できるのは、不信任議決を受けたとき(178条1項)と、それとみなせる場合(177条3項)です。国の内閣が衆議院を解散する場面とは仕組みが違います。

ひっかけやすい例1:違法な議決なのに「再議できる」

議会が法令に違反する議決をしたと町長が認めたとき、再議は「できる」ではなく「しなければならない」です(176条4項)。ふつうの異議(1項)は任意、違法な議決(4項)と義務の経費の削減(177条)は義務、と分けて覚えます。

ひっかけやすい例2:180条の専決処分なのに「承認」

議会があらかじめ指定した軽い事項(180条)は、あとで報告すれば足ります。承認を求めるのは、緊急などの理由で行う179条の専決処分です。「承認」と「報告」の入れかえは典型的なひっかけです。

ひっかけやすい例3:災害の経費を削られたら

台風の復旧工事の経費を議会が削り、再議でも削ったままだったとします。このとき町長は、その議決を不信任議決とみなすことができる(177条3項)。みなせば、10日以内に議会を解散できる流れにつながります。「予算に計上して支出できる」のは、法令で負担する義務の経費のほう(177条2項)です。

似ているルールとどう違うか

再議は4種類あり、「任意か義務か」と「そのあとどうなるか」で区別します。

場面再議はそのあと
議決に異議(176条1項)できる同じ議決で確定。条例・予算は出席議員の3分の2以上
違法な議決・選挙(176条4項)しなければならない21日以内に審査申立て→60日以内に出訴
義務の経費の削減(177条1項1号)しなければならない長が予算に計上して支出できる
災害・感染症の経費の削減(177条1項2号)しなければならない不信任議決とみなせる

次に、数字の要件です。基準が「議員数」か「出席議員」かに注意します。

議決出席同意
1回目の不信任議員数の3分の2以上4分の3以上
解散後の不信任議員数の3分の2以上過半数
再議で条例・予算を確定定足数(定数の半数以上)出席議員の3分の2以上
ふつうの議決定足数(定数の半数以上)出席議員の過半数

定足数(ていそくすう=会議を開くのに必要な出席者の数)は、議員定数の半数以上です(113条)。ふつうの議決は出席議員の過半数で、同数なら議長が決めます(116条1項)。

176条の違法な議決をめぐる裁判は、議会と長という役所の機関どうしの争いです。こうした訴えの種類は当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟の記事で整理しています。国の国会と内閣の関係(内閣不信任と衆議院の解散)とのちがいは、三権分立の記事とあわせて読むと区別しやすくなります。

試験ではここをまちがえやすい

行政書士試験の地方自治法で問われやすい形です(宅建試験の範囲ではありません)。

  • 再議の起算点:ふつうは議決の日から10日以内。条例・予算は送付を受けた日から10日以内。
  • 3分の2の基準:再議で条例・予算を確定させるのは「出席議員」の3分の2以上。不信任の3分の2は「議員数」の3分の2以上の出席。
  • 不信任の同意の割合:1回目は4分の3以上、解散後の2回目は過半数。逆にした選択肢に注意。
  • 審査の申立て先と日数:知事は総務大臣、市町村長は知事へ、議決・選挙の日から21日以内。出訴は裁定の日から60日以内。
  • 承認と報告:179条(緊急など)は次の会議で承認を求める。180条(議会が指定した軽い事項)は報告。
  • 専決処分できないもの:副知事・副市町村長の選任の同意は179条の専決処分の対象外。
  • 議案を出せる人:長は議案を出せる(149条1号)。議員も出せるが、予算は出せない(112条1項ただし書)。議員の提出には定数の12分の1以上の賛成がいる(112条2項)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
ひばり町議会が町長の不信任を議決し、町長が通知を受けた日から10日以内に議会を解散しなかった場合、町長はその期間が経過した日に職を失う。

答え:○ 178条2項のとおりです。解散しなければ、10日を過ぎた日に失職します。

問2(このサイトのオリジナル問題)
ひばり町長は、議会が議決した条例に異議があるときは、その条例の送付を受けた日から10日以内に再議に付さなければならない。

答え:✕ 異議を理由とする再議は「付すことができる」で、義務ではありません(176条1項)。義務になるのは、違法な議決・選挙(176条4項)や、義務の経費・災害などの経費を削った議決(177条1項)です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
議会の権限に属する軽易な事項で、議会の議決により特に指定したものを町長が専決処分したときは、次の会議で議会の承認を求めなければならない。

答え:✕ これは180条の専決処分なので、議会に報告すれば足ります(180条2項)。承認を求めるのは179条の専決処分です。

まとめ

  • 異議の再議は任意で10日以内(条例・予算は送付を受けた日から)。確定には、条例・予算なら出席議員の3分の2以上。
  • 違法な議決・選挙は再議が義務。21日以内に審査申立て(知事→総務大臣、市町村長→知事)、60日以内に出訴。
  • 不信任は議員数の3分の2以上の出席で、1回目は4分の3以上、解散後は過半数。長は10日以内に解散できる。
  • 179条の専決処分は次の会議で承認を求める。180条の専決処分は報告。

次に読むなら、条例と規則の記事がおすすめです。再議や専決処分の対象になる「条例」が、どうやって作られ、公布されるかが分かります。議会と長の関係を、ルールづくりの流れの中で確かめられるからです。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)