取消訴訟以外の抗告訴訟をわかりやすく:無効等確認・不作為の違法確認・義務付け・差止め

抗告訴訟(こうこくそしょう)とは、役所の処分などに不服を言う裁判です。行政事件訴訟法は6つの種類を決めています。取消訴訟以外の4つは、ひとことで言うと次のとおりです。

  • 無効等確認の訴え:処分が「はじめから無効だ」と確かめてもらう。
  • 不作為の違法確認の訴え:申請したのに返事がないのは違法だ、と確かめてもらう。
  • 義務付けの訴え:役所に「処分をしなさい」と命じてもらう。
  • 差止めの訴え:役所に「処分をしてはいけない」と命じてもらう。

4つは、誰が起こせるか、どんな条件がいるかがそれぞれ違います。この記事は令和8年4月1日時点の行政事件訴訟法で書いています。取消訴訟の要件(処分性・原告適格など)は取消訴訟の要件をわかりやすくで、裁判の間の仮の救済は執行停止の記事で扱います。

身近な例で考えると

同じ市に住む3人の話です。

人物立場困っていること
ゆうきさんカフェを開きたい人市に許可を申請したが返事がない
みおさん工場の近所の住民工場の排水で井戸水がにごる
りょうたさんタクシー会社の社長営業停止の処分を予告された

ゆうきさん:申請したのに返事がない

  1. ゆうきさんは、法律にもとづいて市に許可を申請しました。
  2. ふつうなら返事が出るころを大きく過ぎても、市は何もしません。
  3. ゆうきさんは「返事をしないのは違法だ」と確かめる不作為(ふさくい=やるべきことをしないこと)の違法確認の訴えを起こせます。
  4. 「許可を出しなさい」まで求めたいときは、義務付けの訴えを、不作為の違法確認の訴えと一緒に起こします。

みおさん:役所に動いてほしい

みおさんは工場に何かを申請したわけではありません。それでも、市が工場に改善の命令を出すべきなのに出さないなら、「命令を出しなさい」と求める義務付けの訴えを考えられます。ただし、申請していない人の訴えなので、重大な損害などの厳しい条件がつきます。

りょうたさん:処分が出る前に止めたい

りょうたさんの会社は、まだ処分を受けていません。処分が出てから取消訴訟を起こすのが基本です。それでは間に合わない重大な損害があるときに、処分の前に「してはいけない」と命じてもらうのが差止めの訴えです。

たとえると、取消訴訟は「出された判定をくつがえす」裁判です。義務付けは「判定を出させる」、差止めは「判定を出させない」、不作為の違法確認は「判定を出さないのはおかしいと確かめる」裁判です。ただし本物の裁判では、どれも条文の条件をみたさないと、中身を見てもらえず却下されます。

条文ではこう決まっている

抗告訴訟の6種類は、3条2項から7項に並んでいます。

訴え求めること定義
処分の取消し処分をなかったことに3条2項
裁決の取消し審査請求の答えを取消し3条3項
無効等確認無効・不存在などの確認3条4項
不作為の違法確認返事がないことの違法確認3条5項
義務付け処分をせよと命じる3条6項
差止め処分をするなと命じる3条7項

無効等確認の訴え(3条4項・36条)

  • 処分や裁決が「あるかないか」、または「効力があるかないか」の確認を求める訴えです。
  • 起こせる人:その処分に続く処分で損害を受けるおそれのある人や、無効の確認を求めることに法律上の利益がある人(36条)。
  • さらに、処分の効力を前提にした「現在の法律関係に関する訴え」で目的を達することができない、という条件があります(36条)。たとえば「払ったお金を返せ」という訴えで足りるなら、そちらを使うのが原則です。
  • この条件が「続く処分で損害を受けるおそれのある人」にもかかるかは、条文の読み方が分かれます。かからないと読む説明が一般的ですが、試験では条文の言葉どおりに覚えておけば足ります。

不作為の違法確認の訴え(3条5項・37条)

  • 法令にもとづく申請に対し、役所が相当の期間内に「何らかの処分」をすべきなのにしないことの違法の確認を求めます。
  • 起こせる人:「処分又は裁決についての申請をした者に限り」起こせます(37条)。
  • 求められるのは「何らかの処分」なので、勝っても許可が出るとは限りません。役所が不許可の返事をしても、条文の求めには応えたことになります。

義務付けの訴え:2つの型(3条6項)

非申請型(1号・37条の2):みおさんのように、申請をしていない人が求める型です。

  • 一定の処分がされないことで重大な損害を生ずるおそれがあること(37条の2第1項)。
  • その損害を避けるため他に適当な方法がないこと(同項)。
  • 処分を命じることを求めるにつき法律上の利益がある人に限ること(同条3項)。判断には取消訴訟の9条2項が準用されます(同条4項)。

申請型(2号・37条の3):ゆうきさんのように、申請をした人が求める型です。

  • 使える場面は2つです。①申請に相当の期間内に何の処分もされない(37条の3第1項1号)。②申請を却下・棄却する処分がされ、その処分が取り消されるべきか、無効・不存在である(同項2号)。
  • 起こせるのは、申請をした人だけです(同条2項)。
  • 単独では起こせません。①なら不作為の違法確認の訴えを、②なら取消訴訟か無効等確認の訴えを、一緒に起こさなければなりません(同条3項)。
  • 重大な損害の条件はありません。

差止めの訴え(3条7項・37条の4)

  • 処分がされることで重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り起こせます(37条の4第1項)。
  • ただし、損害を避けるため他に適当な方法があるときは起こせません(同項ただし書)。
  • 処分をしてはならないと命じることを求めるにつき法律上の利益がある人に限ります(同条3項)。

勝てるのはどんなときか

義務付けと差止めで、裁判所が役所に命じる判決をするのは、次のどちらかのときです(37条の2第5項、37条の3第5項、37条の4第5項)。申請型の義務付けでは、これに加えて、一緒に起こした訴え(不作為の違法確認・取消訴訟など)の請求に理由があることも必要です(37条の3第5項)。

  • 根拠になる法令の規定から、処分をすべき(またはすべきでない)ことが明らかなとき。
  • 処分をしない(またはする)ことが、裁量権(さいりょうけん=役所に任された判断の幅)の範囲を超え、またはその濫用(らんよう)になるとき。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例(無効等確認):原子炉の設置許可について、周辺の住民が無効確認を求めた事件があります。最高裁判所第三小法廷の平成4年9月22日判決(平成1(行ツ)131)は、36条の「目的を達することができない」場合には、無効確認の訴えのほうが、民事訴訟などと比べて、より直接的で適切な争い方といえる場合も含むとしました。住民が設置者に民事の差止めの裁判を起こしていても、無効確認の訴えは適法とされました。
  • 当てはまる例(差止め):学校の式典での国歌斉唱をめぐる職務命令に従わない教職員が、懲戒処分の差止めを求めた事件です。最高裁判所第一小法廷の平成24年2月9日判決は、「重大な損害」とは、処分の後に取消訴訟と執行停止などで争っても簡単には救済されず、処分の前に差し止めないと救済が難しい損害だとしました。違反のたびに処分が重くなっていく運用があったことなどから、この条件をみたすとしました(ただし、結論として教職員側の請求は認められていません)。
  • 当てはまらない例(不作為の違法確認):みおさんは工場について何も申請していません。だから、市が動かないことを不作為の違法確認の訴えで争うことはできません。使えるとすれば、非申請型の義務付けの訴えです。
  • ひっかけやすい例(返事が出た後):ゆうきさんの申請に、市が不許可の返事を出しました。もう「何もしない」状態ではないので、不作為の違法確認は使えません。不許可の取消訴訟と、申請型の義務付けの訴え(2号)を一緒に起こすことを考えます。
  • ひっかけやすい例(期間):取消訴訟の出訴期間(知った日から6箇月など・14条)は、ほかの抗告訴訟には準用されていません(38条1項に14条がない)。ただし、申請型の義務付けで取消訴訟を一緒に起こすときは、その取消訴訟は14条の期間内に起こす必要があります。

無効と取消しの違いそのもの(重大で明らかな欠陥か、など)は、行政行為をわかりやすくで整理しています。

似ているルールとの違い

義務付けの2つの型と差止めを比べます。条件の言葉が少しずつ違うところが、いちばん問われやすい点です。

比べる点非申請型の義務付け申請型の義務付け差止め
重大な損害いるいらないいる
他の方法ないときに限る条件なしあるときは不可
起こせる人法律上の利益がある人申請した人法律上の利益がある人
一緒に起こす訴え不要必要不要

出訴期間と、裁判の間に使える仮の救済も、訴えごとに違います。

訴え14条の出訴期間使える仮の救済
取消訴訟ある執行停止
無効等確認ない執行停止(38条3項)
不作為の違法確認ない規定なし
義務付けない仮の義務付け
差止めない仮の差止め

仮の義務付け・仮の差止め(37条の5)の要件は「償うことのできない損害」など、執行停止より厳しくなっています。比べ方は執行停止と仮の救済をわかりやすくで表にしています。また、返事がないときに役所へ見直しを求める方法として、行政不服審査法の不作為についての審査請求もあります。流れは審査請求をわかりやすくで確かめられます。

試験ではここをまちがえやすい

  • 起こせる人を広げる型:「不作為の違法確認の訴えは、法律上の利益があれば誰でも起こせる」は誤り。申請をした人に限られます(37条)。
  • 重大な損害を入れかえる型:「申請型の義務付けにも重大な損害が必要」は誤り。重大な損害がいるのは、非申請型と差止めです。
  • 単独で起こせるとする型:申請型の義務付けは、不作為の違法確認・取消訴訟・無効等確認のどれかと一緒に起こします(37条の3第3項)。
  • 期間を全部に当てはめる型:14条の出訴期間は取消訴訟の決まりです。無効等確認には準用されません。
  • 36条の後半を落とす型:36条には「現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない」という条件があります。この部分を落とした肢に注意します。
  • 判決の中身をずらす型:不作為の違法確認の判決は「違法の確認」です。役所に許可を命じるものではありません。

行政書士試験では、5肢択一式で、4つの訴えの「起こせる人」「条件」「一緒に起こす訴え」を入れかえる形が考えられます。記述式(40字程度)では、場面を示して「どの訴えを、何と一緒に起こすか」を書かせる形が考えられます。たとえば、申請を断られた人が許可を求めるなら「取消訴訟と申請型の義務付けの訴えを併合して提起する」と書けるようにしておくと安心です。この論点は宅建試験の範囲ではありません。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
ゆうきさんの近所に住む人は、ゆうきさんの店が開くと自分の店の客が減るので、市が早く不許可の返事をすべきだと考えた。この近所の人は、市が返事をしないことについて、不作為の違法確認の訴えを起こすことができる。

答え:✕ 不作為の違法確認の訴えは、処分または裁決についての申請をした者に限り起こせます(37条)。申請していない近所の人は起こせません。

問2(このサイトのオリジナル問題)
ゆうきさんの申請に対し、市は不許可の処分をした。ゆうきさんが許可をするよう命じる判決を求めるときは、義務付けの訴えだけを起こせばよく、不許可の取消訴訟などを一緒に起こす必要はない。

答え:✕ 申請を棄却する処分がされた場合の義務付けの訴えは、その処分の取消訴訟または無効等確認の訴えと一緒に起こさなければなりません(37条の3第3項2号)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
りょうたさんの会社が、予告された営業停止処分の差止めの訴えを起こす場合、処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあることが必要であり、損害を避けるため他に適当な方法があるときは起こすことができない。

答え:○ 37条の4第1項のとおりです。重大な損害かどうかは、損害の回復の難しさの程度を考え、損害の性質・程度や処分の内容・性質も勘案して判断します(同条2項)。

まとめ

  • 抗告訴訟は6種類。取消訴訟以外は、無効等確認・不作為の違法確認・義務付け・差止め。
  • 無効等確認には、現在の法律関係の訴えで目的を達せないこと、という条件がある(36条)。
  • 不作為の違法確認と申請型の義務付けは、申請した人だけ。申請型は他の訴えと一緒に起こす。
  • 重大な損害がいるのは、非申請型の義務付けと差止め。
  • 14条の出訴期間は取消訴訟だけ。ほかの4つには準用されない。

次に読むなら、当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟をわかりやすくがおすすめです。抗告訴訟以外の3つの訴えを知ると、行政事件訴訟法2条の4つの類型がそろい、「この場面はどの訴えか」を見分けやすくなります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。