個人情報保護法の「行政機関等」のルール:民間との違いと、開示・訂正・利用停止の請求

個人情報保護法は、民間の会社などのルール(第4章)と、国の行政機関や地方公共団体の機関などのルール(第5章)を分けて定めています。第5章の対象は「行政機関等」です。ひとことで言うと、だれでも、行政機関等が持っている自分の情報(保有個人情報)の開示を請求でき、開示を受けた情報について訂正や利用停止も請求できる仕組みです。期限は、開示の決定が30日以内、訂正・利用停止の請求が開示を受けた日から90日以内です。

この記事は第5章の、①行政機関等とだれか、②情報の扱いの決まり、③開示・訂正・利用停止の請求、④不服があるときの審査請求、⑤職員の罰則を扱います。民間のルール(定義・第三者提供・漏えい等の報告)と、個人情報保護委員会の組織は、個人情報保護法の記事で扱っています。

条文は令和8年4月1日時点のもの(令和7年6月1日施行の版)です。令和8年7月17日に公布された「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」(令和8年法律第56号)は、令和8年4月1日の時点では施行されていないので、令和8年度試験の範囲外です。改正の一覧は上の記事にまとめています。

身近な例で考えると:みずきさんと市役所

会社員のみずきさんは、子どもの保育所の入所をA市に申し込みました。申込書には、勤務先や勤務時間を書きました。A市(地方公共団体の機関)は、その情報を記録して保有しています。

  1. みずきさんは、入所の審査がどう行われたか気になり、A市長に、自分の情報の開示を請求した(76条1項)。
  2. 開示請求書の書き方に不備があったので、A市長は期間を決めて補正を求めた(77条3項)。
  3. A市長は、請求の日から30日以内に開示の決定をした。補正にかかった日数は数えない(83条1項)。
  4. 開示された記録を見ると、勤務時間がまちがって記録されていた。みずきさんは、開示を受けた日から90日以内に訂正を請求した(90条1項・3項)。
  5. さらに、A市が自分の情報を、法律の根拠なく民間の業者に渡していたことが分かった。みずきさんは、提供の停止を請求した(98条1項2号)。
  6. A市長が訂正を認めない決定をしたので、みずきさんは審査請求をした。A市長は、原則として、行政不服審査法81条の機関(審査会など)に諮問する(105条3項)。

民間の会社に対しても、本人は保有個人データの開示などを請求できます(33条など)。ただし、手続の決まり方がかなり違います。違いは下の表で比べます。

条文ではこう決まっている

だれのルールか・何の情報か(2条11項・60条)

  • 2条11項:「行政機関等」は、①行政機関、②地方公共団体の機関(議会を除く)、③独立行政法人等(一部を除く)、④地方独立行政法人(一部を除く)。
  • 60条1項:「保有個人情報」は、職員が職務上作ったり取得したりした個人情報で、組織的に利用するものとして保有しているもの。ただし、行政文書など(行政文書等)に記録されているものに限る。

情報の扱い(61条〜69条)

  • 61条:法令(条例を含む)の定める事務の遂行に必要な場合に限り保有し、利用目的をできる限り特定する。目的の達成に必要な範囲を超えて保有しない。
  • 62条:本人から直接、書面で本人の情報を取るときは、原則として、あらかじめ利用目的を明示する。
  • 64条:うそその他不正の手段で個人情報を取得してはならない。
  • 65条:保有個人情報が事実と合うように「努めなければならない」(努力義務)。
  • 66条1項:漏えいなどを防ぐ安全管理のための措置を講じる(義務)。
  • 68条1項:個人の権利利益を害するおそれが大きい漏えいなどが起きたら、個人情報保護委員会に報告する。
  • 69条:法令に基づく場合を除き、利用目的以外のために利用・提供してはならない。例外は、本人の同意があるときや本人に提供するとき、内部で相当の理由があるとき、ほかの行政機関等に提供して相当の理由があるとき、統計・学術研究、明らかに本人の利益になるときなど。ただし、本人や第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあれば、例外でも利用・提供できない。

個人情報ファイル(74条・75条)

  • 74条1項:行政機関(会計検査院を除く)が個人情報ファイルを持とうとするときは、あらかじめ個人情報保護委員会に通知する。
  • 75条1項:行政機関の長等は、持っている個人情報ファイルについて、個人情報ファイル簿を作って公表する。

開示・訂正・利用停止(76条〜102条)

  • 76条:何人も、自己を本人とする保有個人情報の開示を請求できる。未成年者・成年被後見人の法定代理人、本人の委任による代理人も請求できる。
  • 78条1項:不開示情報が含まれる場合を除き、開示しなければならない。不開示情報には、開示請求者本人の生命・健康・生活・財産を害するおそれがある情報(1号)、開示請求者以外の個人に関する情報(2号)などがある。
  • 79条〜81条:不開示の部分を容易に区分して除けるなら残りを開示する(部分開示)。特に必要なら不開示情報でも開示できる(裁量的開示)。あるかないかを答えるだけで不開示情報が分かるときは、あるかないかを言わずに拒否できる(存否応答拒否)。
  • 83条・84条:開示決定等は、請求の日から30日以内(補正の日数は数えない)。正当な理由があれば30日以内に限り延長できる。著しく大量なら、相当の部分を60日以内に決め、残りは相当の期間内に。
  • 90条:開示を受けた保有個人情報の内容が事実でないと思うときは、訂正(追加・削除を含む)を請求できる。開示を受けた日から90日以内。
  • 94条:訂正の決定は、請求の日から30日以内。30日以内に限り延長できる。
  • 98条:違法に保有・取得・利用されているときは利用の停止または消去を、違法に提供されているときは提供の停止を請求できる。開示を受けた日から90日以内。決定の期限は30日以内(延長30日以内。102条)。

審査請求(104条〜106条)

  • 104条1項:国の行政機関の長などへの開示決定等についての審査請求には、行政不服審査法の審理員の規定(9条)などを適用しない。
  • 105条1項:審査請求があったときは、原則として、情報公開・個人情報保護審査会に諮問する。不適法で却下するとき、全部を認めて全部を開示する(反対意見書がない)・訂正する・利用停止するときは、諮問は要らない。
  • 105条3項・106条1項:地方公共団体の機関も同じく審理員の規定(9条1項〜3項)を適用せず、行政不服審査法81条の機関に諮問する。

職員の罰則(176条・180条・181条)

行為条文罰
———
正当な理由なく、個人の秘密が記録された個人情報ファイルを提供176条2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
業務で知った保有個人情報を、不正な利益を図る目的で提供・盗用180条1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
職権を濫用し、職務以外の目的で個人の秘密が記録された文書などを収集181条1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金

「拘禁刑」は、令和7年6月1日に施行された刑法などの改正にあわせて、この法律でも使われるようになった刑の名前です。令和8年4月1日時点の条文はこの言葉になっています。

民間のルール・情報公開法との違い

比べる点民間(第4章)行政機関等(第5章)
———
開示の対象保有個人データ保有個人情報(行政文書等に記録)
開示の期限遅滞なく(33条2項)30日以内、延長30日以内(83条)
訂正・利用停止の前提開示を受けていることは求めない開示を受けたもの、開示から90日以内
不服の手段訴えの前に請求し、届いてから2週間待つ(39条1項)審査請求→審査会に諮問、取消訴訟

民間の会社に対して裁判で開示などを求めるには、先に会社に請求し、それが届いた日から2週間たってからでないと訴えを起こせません(39条1項。会社が請求を拒んだときを除く)。行政機関等の決定は行政処分なので、審査請求や取消訴訟で争います。審査請求の一般の流れは審査請求の記事で確かめてください。

情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)も「何人も」請求でき、決定の期限は30日以内・延長30日以内で、数字は同じです。違いは対象です。情報公開法は、だれの情報かを問わず行政文書の開示を請求する制度で、個人に関する情報は原則として不開示情報です(情報公開法5条1号)。自分の情報を見たいときは、個人情報保護法の開示請求を使います。情報公開法の流れは情報公開法の記事で扱っています。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例(地方公共団体の機関):みずきさんがA市長に開示を請求する。地方公共団体の機関は行政機関等に入るので、第5章のルールで請求できます(2条11項2号)。
  • 当てはまらない例(地方議会):A市議会が持つ情報について、この法律の開示請求をすることはできません。行政機関等の定義から「議会を除く」とされているからです。
  • 当てはまらない例(いきなり訂正):開示を受けていない情報について、いきなり訂正を請求することはできません。訂正請求の対象は、開示決定に基づいて開示を受けた保有個人情報などに限られます(90条1項)。
  • ひっかけやすい例(本人の情報でも不開示):みずきさん本人の情報でも、開示すると本人の生命・健康などを害するおそれがあれば、不開示情報に当たります(78条1項1号)。
  • ひっかけやすい例(事前の通知):個人情報ファイルを持つ前に個人情報保護委員会に通知するのは「行政機関」(会計検査院を除く)です(74条1項)。個人情報ファイル簿を作って公表するのは「行政機関の長等」で、地方公共団体の機関も入ります(75条)。主語の範囲が違います。

試験ではここをまちがえやすい

第5章で取り違えやすいのは、期限の数字と、主語・義務の強さです。

  • 期限の数字:開示・訂正・利用停止の決定は30日以内(延長30日以内)。訂正・利用停止の請求は、開示を受けた日から90日以内。大量の特例は60日。
  • 請求できる人:開示請求は「何人も」。ただし対象は自己を本人とする保有個人情報です。
  • 開示の前置:訂正・利用停止の請求の前に、開示を受けている必要があります。
  • 義務の強さ:正確性の確保(65条)は努力義務、安全管理措置(66条1項)は義務です。
  • 審理員:開示決定等への審査請求では、行政不服審査法の審理員の規定は適用されません。審査会への諮問が原則です。
  • 諮問が要らない場合:却下するとき、全部を認めて全部開示(反対意見書がない)・訂正・利用停止するとき。一部だけ認めるときは諮問が要ります。
  • 地方議会:行政機関等から除かれています。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
みずきさんは、A市長から自分の保有個人情報の開示を受けた。その内容に事実と違う点があったので、訂正を請求したい。この訂正の請求は、開示を受けた日から30日以内にしなければならない。

答え:✕ 分かれ目は、請求する側の期間と、決定する側の期限の取り違えです。90条3項は、訂正請求は「保有個人情報の開示を受けた日から九十日以内」にしなければならないとしています。正しくは90日以内です。30日は、行政機関の長等が開示決定等や訂正決定等をする期限(83条1項・94条1項)のほうです。

問2(このサイトのオリジナル問題)
国の行政機関の長がした保有個人情報の不開示決定に対し、審査請求があった。この審査請求では、行政不服審査法の審理員による審理は行われず、行政機関の長は、原則として情報公開・個人情報保護審査会に諮問しなければならない。

答え:○ 分かれ目は、審理員の規定がかかるかどうかです。104条1項は、行政機関の長等に対する開示決定等についての審査請求には、審理員を定めた行政不服審査法9条などを適用しないとし、105条1項は、却下する場合や全部を認める場合などを除き、情報公開・個人情報保護審査会に諮問するとしています。審査請求なら審理員が置かれる、と覚えていると✕に見えます。不開示決定を維持するときは、諮問を省けません。

問3(このサイトのオリジナル問題)
みずきさんが、A市長に自分の保有個人情報の開示を請求した。請求された情報が、開示するとみずきさん本人の健康を害するおそれがある情報に当たるときは、本人の情報であっても開示されないことがある。

答え:○ 分かれ目は、本人の情報にも不開示情報があることです。78条1項1号は、「開示請求者」の生命、健康、生活または財産を害するおそれがある情報を不開示情報としています。自分の情報ならいつでも見られる、と考えると✕に見えます。2号の不開示情報は、開示請求者以外の個人に関する情報で、こちらは他人の情報を守る定めです。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。

まとめ

  • 第5章の対象は行政機関等=行政機関、地方公共団体の機関(議会を除く)、独立行政法人等、地方独立行政法人。
  • 保有個人情報は、職員が職務上作成・取得し組織的に利用するもので、行政文書等に記録されたもの。目的外の利用・提供は原則禁止、例外あり。
  • 開示請求は何人も、自己の情報について。決定は30日以内(延長30日以内)。訂正・利用停止は開示を受けた日から90日以内に請求。
  • 審査請求では審理員の規定を適用せず、原則として審査会(地方は行政不服審査法81条の機関)に諮問。
  • 職員が個人の秘密の記録されたファイルを提供すると2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。

次に読むなら、情報公開法の記事がおすすめです。同じ「何人も」で始まる開示請求でも、対象と不開示情報の作りが違うので、並べると両方の条文の問題を見分けやすくなります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)