贈与をわかりやすく:書面によらない贈与の解除と、負担付贈与・死因贈与

贈与(ぞうよ)は、ひとことで言うと「ある財産を、ただで相手にあげる約束」です(民法549条)。あげる人が「あげます」と言い、もらう人が「もらいます」と受け入れれば成り立ちます。書類はいりません。

そのかわり、書面によらない贈与(口約束の贈与)は、あげる側ももらう側も解除できます。ただし、履行が終わった部分は解除できません(550条)。土地や建物なら、引渡しか登記のどちらかが済めば、履行が終わったと判断されています。この記事では、解除できるかどうかの当てはめを中心に、負担付贈与・定期贈与・死因贈与の違いまで整理します。贈与にかかる税金は贈与税の記事で扱います。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。

身近な例で考えると:孫に土地をあげるしげるさん

人物立場したこと
しげるさんあげる人(贈与者)持っている土地を、孫にあげると言った
あおいさんもらう人(受贈者)「ありがとう、もらいます」と答えた
  1. 4月:しげるさんは、家族の集まりで「この土地はあおいにあげる」と言いました。あおいさんは「もらいます」と答えました。書類は作っていません。
  2. 5月:しげるさんは、土地の名義をあおいさんに移す登記だけを済ませました。土地はまだしげるさんが畑として使っています。
  3. 6月:しげるさんは気が変わり、「書類も作っていないのだから、あげるのはやめる」と言い出しました。

しげるさんは、この贈与を解除できません。口約束の贈与でも、登記を移した時点で「履行が終わった」とされるからです(最高裁判所第二小法廷 昭和40年3月26日判決)。

もし5月に済ませたのが登記ではなく、土地をあおいさんに引き渡して使わせることだけだったとしても、やはり解除はできません。不動産の引渡し(占有の移転)があったときも履行が終わった、とする判例があるからです(最高裁判所第二小法廷 昭和31年1月27日判決)。反対に、4月の口約束のあと、引渡しも登記もしていなければ、しげるさんは解除できます。

たとえで言うと、口約束の贈与は「まだ箱を渡していないプレゼントの約束」です。箱を渡せば取り消せません。ただし本物のルールでは、もらう側のあおいさんも、履行が終わる前なら解除できる点が、プレゼントのたとえとは違います。

条文ではこう決まっている

贈与の条文は549条から554条までの6つです。

  • 549条(贈与):当事者の一方が「ある財産」を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾すると効力が生じる。令和2年4月1日に施行された改正の前は「自己の財産」と書かれていました。
  • 550条(書面によらない贈与の解除):書面によらない贈与は、各当事者が解除できる。ただし、履行の終わった部分については解除できない。改正の前は「撤回」という言葉でした。
  • 551条1項(贈与者の引渡義務等):あげる人は、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡す(移転する)ことを約束したものと推定される。
  • 551条2項:負担付贈与では、あげる人は、その負担の限度で、売主と同じく担保の責任を負う。
  • 552条(定期贈与):定期の給付を目的とする贈与は、あげる人かもらう人が死亡すると効力を失う。
  • 553条(負担付贈与):負担付贈与には、この節に定めるもののほか、性質に反しない限り、双務契約の規定を準用する。
  • 554条(死因贈与):あげる人の死亡によって効力が生じる贈与には、性質に反しない限り、遺贈の規定を準用する。

「書面」について、最高裁判所第二小法廷の昭和60年11月29日判決は、もらう人にあてた書面でなくても550条の書面に当たる場合があるとしました。不動産をもらった人に直接登記を移すよう、あげる人が司法書士に頼んで、登記の名義人に内容証明郵便を出したなどの事情がある事例です。贈与の意思がはっきり書かれていれば、宛先がもらう人でなくても「書面による贈与」になりうる、ということです。

当てはまる例・当てはまらない例

しげるさんの土地の例で、「書面がない」ことを理由に解除できるかを当てはめます。

場面解除できるか理由
口約束だけ。引渡しも登記もまだできる550条本文
口約束。登記だけ移したできない昭和40年3月26日判決(引渡しの有無を問わない)
口約束。引渡しだけ済んだできない昭和31年1月27日判決(占有の移転)
贈与の契約書を作っていたできない書面による贈与は550条の外
口約束。もらう側のあおいさんが解除したい履行前ならできる550条「各当事者」

ひっかけやすい例①:もらう側も解除できる。550条は「各当事者が」と書いています。あげる側だけの権利ではありません。

ひっかけやすい例②:登記と引渡しの「両方」はいらない。どちらか一方が済めば、履行が終わったと判断されています。「登記はしたが引渡しがまだだから解除できる」は誤りです。

当てはまらない例:渡した分と、まだの分。550条ただし書は「履行の終わった部分」と書いています。たとえば、土地と軽トラックをあげる口約束で、軽トラックだけを先に渡したときは、軽トラックの分は解除できず、まだ引渡しも登記もしていない土地の分は解除できる、という分かれ方になります。

似ているルールとの違い

贈与には、形の違うものがいくつかあります。

種類中身ポイント
ふつうの贈与生きているうちに、ただであげる口約束なら履行前は解除できる(550条)
負担付贈与もらう人にも一定の負担を負わせる双務契約の規定を準用(553条)。あげる人は負担の限度で売主と同じ担保の責任(551条2項)
定期贈与毎月・毎年などくり返しあげるどちらかが死亡すると効力を失う(552条)
死因贈与あげる人が死んだら効力が生じる遺贈の規定を準用(554条)

負担付贈与。たとえば「土地をあげる代わりに、毎週の通院の送り迎えをしてほしい」という約束です。もらう人も義務を負うので、性質に反しない限り、売買のような双務契約の規定が準用されます(553条)。同時履行の考え方もその一つです(同時履行の抗弁権の記事)。また、あげた物に不具合があったとき、あげる人は、負担の限度で売主と同じ担保の責任を負います(551条2項)。

定期贈与。「毎月3万円を仕送りする」という約束は、あげる人かもらう人が亡くなると終わります(552条)。相続人に引き継がれません。

死因贈与と遺贈。死因贈与は「私が死んだらこの土地をあげる」「もらいます」という2人の約束です。遺贈は、遺言で一人で決めます。死亡で効力が生じる点が似ているので、死因贈与には遺贈の規定が準用されます(554条)。遺贈との細かい比べは遺言の記事で扱っています。

使用貸借との違い。ただで「貸す」のが使用貸借、ただで「あげる」のが贈与です。使用貸借の貸主の引渡しの義務には、贈与の551条が準用されます(596条)。どちらも、特定した時の状態で渡すと約束したものと推定されます(使用貸借の記事)。

ほかの分野とのつながり

宅建試験では、贈与が民法以外の分野の肢に出てくることがあります。

  • 宅建業法:宅建業になるのは、宅地・建物の売買・交換と、売買・交換・貸借の代理・媒介を業として行うことです(宅建業法2条2号)。自分の土地を贈与することは、この定義に入っていません。
  • 農地法:農地を農地のまま使う人に所有権を移すときは、農業委員会の許可がいります(農地法3条1項)。売買だけでなく、贈与で移すときも所有権の移転です(宅地などに転用するために移すときは、3条ではなく5条の許可の問題になります)。
  • 国土利用計画法:事後届出の対象になる「土地売買等の契約」は、対価を得て行う権利の移転・設定に限られます(国土利用計画法14条1項、23条)。ただであげる贈与は、対価がないので当たりません。
  • 税:贈与税のほか、贈与の契約書の印紙税は印紙税・登録免許税の記事で扱っています。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが宅建試験の過去40回(昭和63年度〜令和7年度、2,000問)を数えたところ、贈与が主な論点になった問は3問(平成21年度・平成10年度・平成3年度)で、ほかの問の中の副の論点として2問(令和2年度の10月試験と平成30年度)ありました。直近10回では主な論点としては出ていません。数十年に1回の論点なので、次の型を押さえる所までで足ります。

  • 「書面によらない贈与は、あげる側だけが解除できる」→誤り。各当事者(550条)。
  • 「不動産の贈与は、引渡しと登記の両方が済むまで解除できる」→誤り。どちらか一方で履行が終わる(昭和40年3月26日判決、昭和31年1月27日判決)。
  • 「書面は、もらう人にあてたものでなければならない」→誤り。宛先が別の人でも書面に当たる場合がある(昭和60年11月29日判決)。
  • 「定期贈与は、相続人に引き継がれる」→誤り。死亡で効力を失う(552条)。
  • 「負担付贈与でも、あげる人は担保の責任を一切負わない」→誤り。負担の限度で売主と同じ(551条2項)。
  • 贈与の土地の取得でも、農地を農地のまま移すなら農地法3条の許可がいる。国土利用計画法の事後届出はいらない。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
しげるさんは、孫のあおいさんに自分の土地をあげると口頭で約束し、所有権移転の登記だけを済ませた。土地はまだ引き渡していない。この場合、しげるさんは、書面がないことを理由にこの贈与を解除することはできない。

答え:○ 分かれ目は、登記だけで履行が終わったといえるかです。書面によらない贈与は履行の終わった部分は解除できず(民法550条ただし書)、不動産の所有権移転登記がされたときは、引渡しの有無を問わず履行が終わったとされます(最高裁判所第二小法廷 昭和40年3月26日判決)。「引渡しがまだだから解除できる」と考えると✕にしやすい肢です。登記がなくても、引渡し(占有の移転)があれば履行は終わります(昭和31年1月27日判決)。

問2(このサイトのオリジナル問題)
しげるさんは、あおいさんに、毎月3万円を仕送りとして贈ると約束した。その後しげるさんが亡くなった場合、この約束は相続人に引き継がれ、相続人が仕送りを続けなければならない。

答え:✕ 分かれ目は、定期贈与が死亡で終わるかどうかです。定期の給付を目的とする贈与は、あげる人かもらう人の死亡によって効力を失います(民法552条)。正しくは、しげるさんが亡くなった時点で約束は効力を失い、相続人は仕送りを続ける義務を負いません。相続では、亡くなった人の権利義務はふつう相続人に引き継がれる(896条本文)ので、それと取り違えた肢です。定期贈与は、552条が死亡で効力を失うと定めている例外です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
しげるさんは、あおいさんに、自分が使っている中古の軽トラックをあげると口頭で約束し、その日に引き渡した。あとで荷台にさびが見つかったが、さびは約束した時からあったものだった。この場合、しげるさんは、原則としてさびを直す責任を負わない。

答え:○ 分かれ目は、贈与で引き渡す物の状態の約束です。あげる人は、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡すことを約束したものと推定されます(民法551条1項)。約束した時からあったさびなら、その状態で渡せば足ります。売買の売主のように契約不適合の責任を負うと考えると✕にしやすい肢です。「推定」なので、別の約束をしていたと示されればその約束によります。また、負担付贈与なら、負担の限度で売主と同じ担保の責任を負います(551条2項)。

まとめ

  • 贈与=ある財産をただであげる約束。書面はいらない(549条)。
  • 書面によらない贈与は、あげる側ももらう側も解除できる。ただし履行が終わった部分は解除できない(550条)。
  • 不動産は、登記か引渡しのどちらかで履行が終わる(昭和40年3月26日判決、昭和31年1月27日判決)。
  • 負担付贈与は双務契約の規定を準用し、負担の限度で担保の責任(553条・551条2項)。定期贈与は死亡で終わる(552条)。死因贈与は遺贈の規定を準用(554条)。
  • 贈与でも、農地を農地のまま移すなら農地法3条の許可がいる。国土利用計画法の事後届出は対価がないのでいらない。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルで続けて解けます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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