地価公示(ちかこうじ)は、国土交通省の土地鑑定委員会が、選んだ土地(標準地=ひょうじゅんち)について、毎年1月1日時点の1㎡あたりの「正常な価格」を判定し、官報で公示する仕組みです。値段は、2人以上の不動産鑑定士の鑑定評価をもとに決めます。
土地を取引する人は、この公示価格を目安(指標)にするよう努めます。不動産鑑定士が土地を評価するときや、道路などの公共事業で土地を取得するときは、公示価格を基準(規準)にしなければなりません。不動産鑑定士の評価のしかたは、国土交通省の「不動産鑑定評価基準」が定めています。
この記事では、地価公示法と、不動産鑑定評価基準の主な内容(価格の種類と3つの評価方法)を扱います。都道府県の地価調査や、相続税の路線価は扱いません。条文は e-Gov 法令検索の現行の条文で確かめました。
身近な例で考えると
登場人物は2人と、1つの市です。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| しんごさん | 土地の持ち主 | 自分の土地を売ろうとしている |
| えりこさん | 不動産鑑定士 | しんごさんの土地の価格を評価する |
| ある市 | 道路を作る側 | 道路用地として土地を買う |
- 3月:国の土地鑑定委員会が、その年の1月1日時点の標準地の価格を官報で公示する。しんごさんの土地の近くにも標準地がある。
- しんごさんは、近くの標準地の公示価格を見て、売り値の目安にする。
- しんごさんの土地の一部が、市の道路の予定地にかかった。市は、近くの標準地の公示価格を規準にして、買い取る価格を決める。
- 残りの土地について、しんごさんはえりこさんに鑑定評価を頼む。えりこさんも、公示価格を規準にして評価する。
公示価格は、たとえるなら町に何か所か置かれた「ものさし」です。しんごさんは、このものさしを参考にするよう努めればよく、ぴったり合わせる義務はありません。一方、えりこさんや市は、ものさしと比べて、つり合いがとれた価格にしなければなりません。ただし本物のルールでは、ものさしにあたる標準地は、国の委員会が条件に合う土地から選びます。
条文ではこう決まっている
地価公示法のおもなルール
- 目的:標準地の正常な価格を公示して、一般の土地取引の価格の指標とする。公共事業用地の適正な補償金の算定などにも役立てる(1条)。
- 取引する人の努力義務:土地の取引をする人は、取引する土地に似た標準地の公示価格を「指標として取引を行なうよう努めなければならない」(1条の2)。
- だれが・どこで:土地鑑定委員会が、公示区域の中の標準地について行う。公示区域は、都市計画区域その他の、土地取引が相当程度見込まれる区域として国土交通省令で定める区域。国土利用計画法の規制区域は除く(2条1項)。
- どうやって:毎年1回、2人以上の不動産鑑定士の鑑定評価を求める。その結果を審査し、必要な調整をして、一定の基準日の1㎡あたりの正常な価格を判定し、公示する(2条1項)。国土交通省の説明では、基準日は毎年1月1日、公示は3月です。
- 正常な価格:自由な取引が行われるとした場合に、通常成立すると認められる価格。土地に建物などや地上権などの権利があっても、それらがないものとして考える(2条2項)。
- 標準地の選び方:土地鑑定委員会が選ぶ。似た利用価値の地域の中で、利用状況や環境などが通常と認められる一団の土地(3条)。
- 鑑定評価のしかた:不動産鑑定士は、①近くの似た土地の取引価格から出した推定の価格、②近くの似た土地の地代などから出した推定の価格、③同じ効用の土地を造るのにかかる推定の費用、を勘案する(4条)。
- 公示のしかた:官報で公示する。所在地と地番、1㎡あたりの価格と価格判定の基準日、地積と形状、標準地とその周りの利用の現況などを載せる(6条)。
- 閲覧:委員会は関係する市町村長に書面と図面を送る。市町村長は、それを事務所で一般の閲覧に供する(7条)。
- 規準にする義務:公示区域の土地を鑑定評価する不動産鑑定士は、正常な価格を求めるとき、公示価格を規準としなければならない(8条)。土地収用法などで土地を収用できる事業者が、公示区域の土地を事業のために取得するときも同じ(9条)。
- 「規準とする」の意味:対象の土地と標準地の位置・地積・環境などを比べて、価格のつり合いを保たせること(11条)。
不動産の鑑定評価に関する法律
- 不動産の鑑定評価とは、土地・建物やその所有権以外の権利の経済価値を判定し、その結果を価額に表すこと(2条1項)。
- 不動産鑑定士でない人は、不動産鑑定業者の業務として鑑定評価をしてはならない(36条1項)。
不動産鑑定評価基準(国土交通省)
- 最有効使用の原則:不動産の価格は、その不動産の効用がいちばん発揮される使い方(最有効使用)を前提にした価格を標準として形成される。今の使い方が最有効使用と同じとは限らない。
- 価格に影響する要因:一般的要因、地域要因、個別的要因の3つに分けられる。
- 価格の種類:基本は正常価格。依頼の目的に応じて、限定価格・特定価格・特殊価格を求める場合がある(下の表)。
- 評価の方式:原価方式・比較方式・収益方式の3つ。それぞれの代表の手法が、原価法・取引事例比較法・収益還元法。
| 手法 | 出発点 | 出てくる価格 |
|---|---|---|
| 原価法 | 今もう一度造るといくらか(再調達原価) | 積算価格 |
| 取引事例比較法 | 似た不動産の取引事例 | 比準価格 |
| 収益還元法 | 将来生み出す純収益 | 収益価格 |
- 原価法:再調達原価から、古くなった分などを引く(減価修正)。減価修正は「耐用年数に基づく方法」と「観察減価法」を併用する。土地だけでも、造成地など再調達原価を適切に求められるときは使える。
- 取引事例比較法:集めた取引事例に、特殊な事情があれば直す(事情補正)。取引のときと価格時点の間の値動きも直す(時点修正)。投機的な取引の事例など、適正さを欠くものは使えない。事例は、原則として近隣地域か同一需給圏内の類似地域から選ぶ。
- 収益還元法:一期間(たとえば1年)の純収益を還元利回りで割って価格を出す直接還元法と、何年分もの純収益と最後に売るときの価格を今の価値に割り引いて足すDCF法がある。自分で使っている不動産も、人に貸すと想定して使える。文化財など市場性がない不動産を除き、基本的にすべてに適用すべきとされている。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例
- 建物が建っている標準地:標準地に家が建っていても、公示する正常な価格は、建物がないものとして判定します(2条2項)。
- 自宅の評価に収益還元法:えりこさんが、しんごさんの自宅(人に貸していない)を評価するときも、貸したと想定して収益還元法を使えます。
当てはまらない例
- しんごさんが公示価格より高く売った:取引する人の義務は、公示価格を指標にするよう「努める」ことです(1条の2)。高く売っても、地価公示法違反にはなりません。
- 規制区域の中の土地:国土利用計画法の規制区域は、公示区域から除かれています(2条1項)。
- 値上がりを当てこんだ転売の事例:投機的な取引と認められる事例は、取引事例比較法の事例に使えません。
ひっかけやすい例
- 都市計画区域の外:公示区域は「都市計画区域その他の」区域です。都市計画区域の外でも、土地取引が相当程度見込まれる区域として省令で定めれば、公示区域になりえます。
- 鑑定士は1人で足りる?:地価公示のための鑑定評価は、2人以上の不動産鑑定士に求めます(2条1項)。
- 価格を決めるのはだれ?:鑑定評価をするのは不動産鑑定士ですが、審査・調整して正常な価格を「判定」し、公示するのは土地鑑定委員会です。
似ているルールとの違い
まず、「指標」と「規準」の違いです。
| だれが | 公示価格との関係 | 根拠 |
|---|---|---|
| 土地の取引をする人 | 指標として取引するよう努める | 1条の2 |
| 不動産鑑定士 | 規準としなければならない | 8条 |
| 土地を収用できる事業者 | 規準としなければならない | 9条 |
次に、鑑定評価で求める価格の4つの種類です(不動産鑑定評価基準)。
| 種類 | どんなときか | 例 |
|---|---|---|
| 正常価格 | ふつうの市場で成り立つ価格 | 一般の売買 |
| 限定価格 | 買う人が限られる場面 | 借地権者が底地を買う、隣の土地を合わせる |
| 特定価格 | 法令などの目的で、正常価格の前提を満たさない | 民事再生法の早期売却 |
| 特殊価格 | 市場性がない不動産 | 文化財の建物、宗教建築物 |
地価公示の「正常な価格」(地価公示法)と、鑑定評価基準の「正常価格」は、言葉が少し違います。地価公示の側は、建物や権利が「ないもの」として土地を見る点が特徴です。
宅建試験ではここをまちがえやすい
宅建試験の出題範囲には「宅地及び建物の価格の評定に関すること」が入っています(宅建業法施行規則8条6号)。登録講習修了者が免除される範囲(同条1号・5号)には入りません。行政書士試験の中心となる範囲ではありません。宅建では、次のような入れ替えの形で問われやすいといえます。
- 主語の入れ替え:標準地を選び、価格を判定・公示するのは土地鑑定委員会。都道府県知事や不動産鑑定士ではありません。
- 人数・回数:毎年1回、2人以上の不動産鑑定士。
- 正常な価格の中身:建物や地上権などがあっても「ないもの」として判定します。
- 指標と規準:一般の取引は「指標」で努力義務。不動産鑑定士と収用できる事業者は「規準」で義務。
- 公示区域:都市計画区域に限られない。国土利用計画法の規制区域は除く。
- 4条の3つの要素:取引価格・地代など・造成費用を勘案。取引価格だけではありません。
- 手法と価格の名前:原価法=積算価格、取引事例比較法=比準価格、収益還元法=収益価格。
- 減価修正:耐用年数に基づく方法と観察減価法の「併用」。どちらか一方ではありません。
- 取引事例:投機的な取引の事例は使えない。事情補正・時点修正ができる事例を選ぶ。
- 収益還元法の範囲:賃貸用だけでなく、自分で使っている不動産にも使える。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題) 地価公示の標準地に建物が建っている場合、公示される正常な価格は、その建物の価格も含めて判定される。
答え:✕ 正常な価格は、土地に建物などの定着物や地上権などの権利があっても、それらが存しないものとして判定します(地価公示法2条2項)。
問2(このサイトのオリジナル問題) 土地の取引をする人は、取引する土地に似た標準地の公示価格を規準として取引しなければならない。
答え:✕ 取引をする人は、公示価格を「指標として」取引するよう「努めなければならない」とされています(1条の2)。「規準としなければならない」のは、不動産鑑定士(8条)と、土地を収用できる事業者(9条)です。
問3(このサイトのオリジナル問題) 収益還元法は、人に貸している不動産にだけ使える手法で、所有者が自分で使っている不動産には使えない。
答え:✕ 不動産鑑定評価基準は、自分で使っている不動産でも、貸すことを想定して収益還元法を適用するとしています。
まとめ
- 地価公示=土地鑑定委員会が、標準地の1月1日時点の1㎡あたりの正常な価格を判定し、3月に官報で公示する。
- 鑑定評価は毎年1回、2人以上の不動産鑑定士。正常な価格は、建物や権利が「ないもの」として判定する。
- 一般の取引は公示価格を「指標」に努める。不動産鑑定士と収用できる事業者は「規準」にしなければならない。
- 鑑定評価の3手法:原価法(積算価格)・取引事例比較法(比準価格)・収益還元法(収益価格)。
- 価格の種類は、正常・限定・特定・特殊の4つ。
このサイトで次に読むなら、地価公示で除かれる「規制区域」が出てくる国土利用計画法の届出をわかりやすくがおすすめです。土地の取引の規制と価格の目安は、あわせて押さえると整理しやすくなります。税・その他の分野をひととおり見るなら、不動産を売ったときの税金をわかりやすくも続けて読めます。
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