原告適格の判例:処分の相手でない人が取消訴訟を起こせるか、9条2項の読み方

処分の相手でない人(第三者)も、取消しを求める「法律上の利益」がある人なら、取消訴訟を起こせます(行政事件訴訟法9条1項)。法律上の利益があるかは、処分の根拠になる法律が、その人の利益をみんなの利益(公益)の中に吸収させてしまわず、個々の人の利益としても守っているかで決まります。

判例を並べると、命・体への被害や、著しい騒音などの被害を直接受ける周辺住民は認められやすく、消費者・利用者・研究者のように、みんなと同じ立場で利益を受ける人は認められにくい形です。この記事は、令和8年4月1日時点の行政事件訴訟法9条と、裁判所ウェブサイトで確かめた最高裁判所の判例10件で書いています。

身近な例で考えると

登場人物は次のとおりです。

人物立場争いたいこと
けんたさんがけの下に住む会社員上の土地の開発許可
さきさん地元の遺跡を調べている研究者遺跡の史跡指定を解く処分
県知事処分をする行政庁開発許可と、史跡指定の解除をした
  1. 県知事が、けんたさんの家の上にあるがけを含む土地に、宅地の開発許可を出しました。許可を受けたのは開発業者で、けんたさんではありません。
  2. けんたさんは「がけ崩れが起きたら命が危ない」と、許可の取消訴訟を考えます。
  3. 同じころ、県は、さきさんが調べてきた遺跡の史跡指定を解きました。さきさんは「研究ができなくなる」と、解除の取消訴訟を考えます。
  4. 判例に当てはめると、けんたさんは原告適格(訴えてよい資格)が認められる側、さきさんは認められない側です。

違いは、法律が誰の、どんな利益を守ろうとしているかです。開発許可の基準は、がけ崩れなどで周りの人の命や体が害されないことも目的にしています。史跡の保護の法律は、文化財を守ることでみんなが受ける利益を、公益として守っています。研究者の利益を、特別に守る規定は見当たらない、と判例は読みました。

たとえると、「みんなのための公園の管理」と「隣の家の塀の安全」の違いに近いものです。前者は誰か一人のものではなく、後者は隣に住む人自身の安全です。ただし本物の判断は、たとえのような所有の話ではありません。法律の目的と、害される利益の中身と程度で決まります。

条文ではこう決まっている

  • 9条1項:取消訴訟は、処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に限り起こせます。
  • 9条2項:処分の相手以外の人に法律上の利益があるかは、次のように判断します。
  1. 処分の根拠になる法令の規定の文言だけで決めない。
  2. その法令の趣旨・目的を考える。目的が共通する関係法令があれば、その趣旨・目的も参考にする。
  3. 処分で考えるべき利益の内容・性質を考える。
  4. その際、処分が法令に違反してされた場合に害される利益の内容・性質と、害される態様・程度もあわせて考える。

判例は、法律にもとづく不服申立てができる人を、処分により「自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」と表現しました(最高裁判所第三小法廷 昭和53年3月14日判決の裁判要旨)。自分の利益が法律で守られているかを問う点で、取消訴訟の原告適格を考えるときの参考になります。9条2項は、処分の相手以外の人について、何を見て判断するかを条文で並べたものです。

どんな利益なら○か:判例の一覧

守られる利益の種類で分けると、次のとおりです。

守られる利益原告適格あり(○)原告適格なし(✕)
命・体の安全原子炉の周辺住民(もんじゅ)、がけ崩れの危険がある周辺住民―
健康・生活環境(著しい被害)空港の周辺住民(騒音)、鉄道高架化の関係地域の住民、保安林の解除で洪水などの影響を受ける住民付属街路の事業の周辺住民(小田急の同じ判決)
業務・営業既存の公衆浴場の業者、場外車券売場の近くの医療施設の開設者場外車券売場の周辺に住むだけの人
みんなと同じ利益―一般消費者(主婦連)、特急の利用者(近鉄)、史跡の研究者(伊場)

命・体の安全:認められやすい

最高裁判所第三小法廷 平成9年1月28日判決(開発許可処分取消)

  • 事案:がけ崩れのおそれが多い土地を含む区域に、都市計画法の開発許可が出された。周辺の住民が争った。
  • 結論:がけ崩れなどで、生命・身体などに直接の被害を受けると予想される範囲の住民には、原告適格がある。
  • まちがえやすい所:同じ判決は、原告の住民が亡くなったときは、この訴訟は当然に終わるともしています。相続人が訴訟を引き継ぐことはない、ということです。

最高裁判所第三小法廷 平成4年9月22日判決(原子炉設置許可処分無効確認等請求事件。いわゆる、もんじゅ訴訟)

  • 事案:高速増殖炉の設置許可について、周辺の住民が無効の確認を求めた。
  • 結論:原子炉の事故などで生命・身体などに直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民は、無効確認を求める「法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法36条)に当たる。約29キロメートルから約58キロメートルの範囲に住む住民も当たるとした。
  • まちがえやすい所:取消訴訟ではなく、無効確認の訴え(36条)で、訴えを起こせる人かが問われた事件です。

健康・生活環境:著しい被害を直接受けるか

最高裁判所第二小法廷 平成元年2月17日判決(新潟空港訴訟)

  • 事案:定期航空運送事業の免許を、空港の周辺住民が争った。
  • 結論:免許に係る路線の航空機の騒音で、社会通念上著しい障害を受けることとなる周辺住民には、原告適格がある。
  • 理由の要点:航空法は、航空機の運航で生じる障害の防止も目的としている。免許の審査では、空港周辺の騒音への影響も考えるべきとされている。空港周辺の騒音障害の防止の法律も、目的が共通する法律として参考にした。
  • まちがえやすい所:原告適格は認められたが、住民が主張した違法事由は、自分の法律上の利益に関係のないものだとして、請求は認められなかった(10条1項)。

最高裁判所大法廷 平成17年12月7日判決(小田急線連続立体交差事業認可処分取消)

  • 事案:鉄道の高架化の事業認可を、沿線の住民が争った。
  • 結論:騒音・振動などで、健康や生活環境に著しい被害を直接的に受けるおそれのある者には、原告適格がある。東京都の環境影響評価の条例で定めた「関係地域」の中に住む人は、これに当たるとした。
  • まちがえやすい所:同じ判決で、付属街路(高架の横の道路)をつくる別の事業については、周辺住民の原告適格を認めなかった。事業ごとに結論が分かれます。

最高裁判所第一小法廷 昭和57年9月9日判決(長沼ナイキ基地訴訟)

  • 事案:保安林(洪水を防ぐなどのために伐採を制限する森林)の指定を解く処分を、周辺の住民が争った。
  • 結論:森林法27条1項の「直接の利害関係を有する者」は原告適格をもち、洪水の緩和や渇水の予防で直接影響を受ける一定の範囲の住民がこれに当たる。
  • まちがえやすい所:原告適格は認めたが、代わりの施設ができて危険がなくなったことで、訴えの利益は失われたとした。伐採後の跡地の利用で生じる危険は、原告適格の根拠にならないとした。

業務・営業:既存の業者と、施設の開設者

最高裁判所第二小法廷 昭和37年1月19日判決

  • 事案:公衆浴場の営業許可が別の人に出された。近くの既存の業者が、配置の基準(距離の制限)に反するとして、許可の無効の確認を求めた。
  • 結論:既存の業者は、ほかの人への許可の無効確認を求める訴えの利益を有しないとはいえない。
  • まちがえやすい所:取消訴訟ではなく無効確認の訴えで、今の行政事件訴訟法ができる前の判決です。「競争相手が増えるだけでは争えない」と一律に覚えると、この判例と合いません。

最高裁判所第一小法廷 平成21年10月15日判決(場外車券発売施設設置許可処分取消請求事件。いわゆる、サテライト大阪事件)

  • 事案:場外車券売場(競輪の車券を売る施設)の設置許可を、周辺の住民や医療施設の開設者が争った。
  • 結論:位置の基準を根拠にして、周辺に住む人や事業者は原告適格をもたない。一方、施設の運営で著しい業務上の支障が生じるおそれがあると位置的に認められる区域にある医療施設などの開設者は、原告適格をもつ。
  • まちがえやすい所:同じ判決の中で、住民は✕、病院などの開設者は○と分かれます。周辺環境と調和しているかの基準を根拠にしても、住民などの原告適格は認められませんでした。

みんなと同じ利益:消費者・利用者・研究者

最高裁判所第三小法廷 昭和53年3月14日判決(主婦連ジュース訴訟)

  • 事案:果汁の表示に関する公正競争規約を公正取引委員会が認定した。消費者団体などが、当時の景品表示法にもとづく不服申立てをした。
  • 結論:法律にいう一般消費者であるというだけでは、不服申立てをする法律上の利益はない。
  • まちがえやすい所:取消訴訟の原告適格そのものではなく、法律にもとづく不服申立てができる人の範囲を判断した事件です。

最高裁判所第一小法廷 平成元年4月13日判決(近鉄特急料金認可処分取消等請求事件)

  • 事案:鉄道会社の特急料金の値上げの認可を、沿線に住み、通勤定期券で特急を利用している人が争った。
  • 結論:原告適格はない。
  • 理由の要点:認可の規定は、もっぱら公共の利益を確保するためのもので、個々の利用者の権利利益を守る趣旨とは読めない。

最高裁判所第三小法廷 平成元年6月20日判決(伊場遺跡訴訟)

  • 事案:県の史跡の指定を解く処分を、その遺跡を研究してきた学術研究者が争った。
  • 結論:原告適格はない。
  • 理由の要点:文化財の保存で人々が受ける利益は公益に吸収され、その保護はもっぱら公益の実現を通じて図られる。研究者の利益に特段の配慮をした規定も見いだせない。

似ている論点との違い

原告適格は「誰が訴えられるか」の問題です。「今さら訴える意味があるか」の訴えの利益とは別で、長沼の判決のように、原告適格は○でも訴えの利益が✕になることがあります。

くらべる点原告適格訴えの利益
問うことその人は訴えてよい人か取り消す意味が今もあるか
条文9条1項・2項9条1項かっこ書き
典型の判例新潟空港、もんじゅ、近鉄特急工事の完了、期間の経過、代わりの施設

事情が変わったときの判例は訴えの利益の判例の記事、そもそも処分に当たるかの判例は処分性の判例の記事で並べています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 文言だけで判断する肢:「根拠法令の文言だけで決める」→ ✕。9条2項は「文言のみによることなく」と書いています。
  • 関係法令を見ない肢:目的を共通にする関係法令の趣旨・目的も参酌します。新潟空港の判決は、空港周辺の騒音の法律も参考にしました。
  • 利用者・消費者:「毎日使っている」「代金が上がる」だけでは○になりません(近鉄特急、主婦連)。
  • 同じ判決で分かれる組:小田急は鉄道の事業○・付属街路✕、サテライト大阪は医療施設の開設者○・住民✕。
  • 原告適格と訴えの利益の混同:長沼は原告適格○、訴えの利益✕。
  • 主張できる違法の範囲:原告適格があっても、自分の法律上の利益に関係のない違法は取消しの理由にできません(10条1項)。

9条2項の考え方は、条文の言葉のまま「文言のみによることなく」「趣旨及び目的」「利益の内容及び性質」「害される態様及び程度」の4つの語で言えるようにしておくと、判例の理由を読むときの手がかりになります。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
県知事が、がけ崩れのおそれが多い土地を含む区域について、開発業者に開発許可を出した。がけ崩れが起きれば生命・身体に直接の被害を受けると予想される範囲に住むDさんは、許可の相手ではないが、この許可の取消訴訟を起こす原告適格がある。

答え:○ 分かれ目は、守られている利益が個々の住民の命・体かです。最高裁判所第三小法廷平成9年1月28日判決は、このような住民に開発許可の取消訴訟の原告適格を認めました。許可の相手でないことから✕と迷いやすい肢です。みんなと同じ立場で受ける利益しかない人、たとえば史跡を研究する研究者は、原告適格を否定されています(平成元年6月20日判決)。

問2(このサイトのオリジナル問題)
鉄道会社の特急料金の値上げを国が認可した。沿線に住み、通勤定期券を買って毎日その特急を使っているEさんは、値上げで直接に負担が増えるので、この認可の取消訴訟の原告適格がある。

答え:✕ 分かれ目は、法律が利用者個人の利益を守る趣旨かです。最高裁判所第一小法廷平成元年4月13日判決は、料金の認可の規定はもっぱら公共の利益を確保するためのものだとして、通勤定期で特急を利用している人の原告適格を否定しました。正しくは、Eさんには原告適格はありません。騒音で著しい障害を受ける空港の周辺住民に原告適格を認めた新潟空港の判決(平成元年2月17日)と、結論の向きを取り違えないようにします。

問3(このサイトのオリジナル問題)
場外車券売場の設置許可について、判例によれば、施設の運営で著しい業務上の支障が生じるおそれがあると位置的に認められる区域で病院を開いているFさんは、位置の基準を根拠に原告適格をもつ。一方、施設の周辺に住むだけのGさんは、同じ基準を根拠にしては原告適格をもたない。

答え:○ 分かれ目は、位置の基準が誰の利益を守っているかです。最高裁判所第一小法廷平成21年10月15日判決は、位置の基準を根拠にした原告適格を、周辺の住民には否定し、著しい業務上の支障が生じるおそれがあると位置的に認められる区域の医療施設などの開設者には認めました。「住民のほうが被害が大きそうだ」と考えると✕にしてしまいます。周辺の住民に原告適格を認めた小田急の判決(平成17年12月7日)は、騒音・振動で健康や生活環境に著しい被害を受けるおそれがある場合で、場面が違います。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。

まとめ

  • 第三者も「法律上の利益」があれば取消訴訟を起こせる(9条1項)。
  • 判断は、法令の文言だけでなく、趣旨・目的、関係法令、利益の内容・性質、害される態様・程度で(9条2項)。
  • 命・体の安全、著しい騒音などを直接受ける周辺住民は○になりやすい(がけ崩れ、もんじゅ、新潟空港、小田急)。
  • 消費者・利用者・研究者のように、みんなと同じ利益しかない人は✕(主婦連、近鉄特急、伊場)。
  • 同じ判決の中で○✕が分かれる組(小田急、サテライト大阪)と、原告適格○・訴えの利益✕の組(長沼)を押さえる。

取消訴訟の入口の全体は取消訴訟の要件の記事で、条文の順に確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の版を指定して確かめました。判例は裁判所ウェブサイトで判示事項・裁判要旨を確かめ、理由の要点は判決全文で確かめました。