債務引受をわかりやすく:併存的と免責的の違い、だれの合意・承諾がいるか

債務引受(さいむひきうけ)は、ほかの人の借金(債務)を、別の人が引き受けることです。もとの債務者も払う義務が残るのが併存的(へいそんてき)債務引受、もとの債務者が抜けて引受人だけが払うのが免責的(めんせきてき)債務引受です(民法470条・472条)。

どちらも、だれとだれが契約するかで、効力が生じる時が変わります。債権者と引受人の契約なら、併存的は契約だけで、免責的は債権者が債務者に通知した時に効力が生じます。債務者と引受人の契約なら、どちらも債権者が引受人に承諾することが必要です。

債務引受は、令和2年4月施行の民法改正で条文が置かれた制度です。当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで「債権総論(その他)」に分けた問題は3問あり、そのうち令和6年度の1問が債務引受を主な論点とする問題でした(公開されている問題で確かめています。残り2問の中身は、この記事のためには確かめていません。分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。債権を譲り渡す側の話は債権譲渡の記事で扱っていて、この記事はその反対側、債務を引き受ける側を扱います。

身近な例で考えると

登場人物は4人です。家を売る人(もとの債務者)=ひろしさん、家を買う人(引受人)=あやさん、お金を貸した銀行(債権者)=みどり銀行、ひろしさんの父でローンの保証人=たつおさんです。

  1. ひろしさんは、みどり銀行から住宅ローンを借りて家を建てた。家には銀行の抵当権が付き、たつおさんが保証人になった。
  2. ひろしさんは、転勤で家を売ることにした。ローンはまだ1,000万円残っている。
  3. 家を買うあやさんは、「代金の一部の代わりに、残りのローンを私が引き受けます」と提案した。
  4. 併存的にする場合:あやさんも銀行に1,000万円を払う義務を負い、ひろしさんの義務も残る。2人は連帯して払う。
  5. 免責的にする場合:あやさんだけが払う義務を負い、ひろしさんは抜ける。銀行は、抵当権や保証を、あやさんの債務の担保に移すかどうかを決める。

銀行の立場で考えると、違いがはっきりします。併存的なら、払ってくれる人が1人増えるだけなので、銀行に損はありません。免責的だと、ひろしさんに請求できなくなるので、あやさんに払う力がないと困ります。だから、免責的では債権者の関わり方が重くなります。

たとえるなら、併存的は「割り勘の相手が1人増える」、免責的は「会計を別の人に交代してもらう」ことです。ただし本物のルールでは、併存的の2人は連帯して全額の義務を負います。割り勘のように半分ずつではありません。

条文ではこう決まっている

併存的債務引受(470条・471条)

  • 効果(470条1項):引受人は、債務者と連帯して、債務者と同じ内容の債務を負います。
  • 債権者と引受人の契約(470条2項):この契約ですることができます。
  • 債務者と引受人の契約(470条3項・4項):この契約でもできます。その場合、債権者が引受人に承諾をした時に効力を生じます。第三者のためにする契約の規定に従います。
  • 引受人の抗弁(471条):引受人は、効力が生じた時に債務者が主張できた抗弁(支払を断る理由)を、債権者に主張できます。債務者が取消権や解除権を持っているときは、それで債務者が債務を免れる限度で、支払を拒めます。

免責的債務引受(472条〜472条の4)

  • 効果(472条1項):引受人は債務者と同じ内容の債務を負い、債務者は自分の債務を免れます。
  • 債権者と引受人の契約(472条2項):この契約ですることができます。その場合、債権者が債務者に、契約をした旨を通知した時に効力を生じます。
  • 債務者と引受人の契約(472条3項):債務者と引受人が契約をし、債権者が引受人に承諾をすることによってもできます。
  • 引受人の抗弁(472条の2):併存的と同じく、効力が生じた時に債務者が主張できた抗弁を主張できます。取消権・解除権については、引受がなければ債務者が免れることができた限度で、支払を拒めます。
  • 求償できない(472条の3):免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権(立て替えた分を返してもらう権利)を取得しません。
  • 担保の移し替え(472条の4):債権者は、債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を、引受人の債務に移すことができます。引受人以外の人が設定した担保なら、その人の承諾がいります。移すことは、前もってか同時に、引受人に意思表示してします。保証人がいるときも同じで、保証人の承諾は書面(電磁的記録を含む)でしなければ効力を生じません。

だれとだれの契約かで見る4マス

だれの契約か併存的免責的
債権者と引受人契約だけで効力(470条2項)債権者が債務者に通知した時に効力(472条2項)
債務者と引受人債権者が引受人に承諾した時に効力(470条3項)債権者が引受人に承諾することでできる(472条3項)

4マスのうち、もとの債務者の同意を求めているマスはありません。債権者と引受人で免責的債務引受をするとき、債務者には「通知」が届けば足ります。反対に、債権者が関わらないで債務者と引受人だけで決めたときは、どちらの型でも債権者の承諾がいります。債権者は払ってもらう側なので、知らないうちに払う人を入れ替えられないようになっています。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例:みどり銀行とあやさんが免責的債務引受の契約をし、銀行がひろしさんに「あやさんが引き受けました」と通知した。→ 通知の時に効力が生じ、ひろしさんはローンを免れます(472条2項)。ひろしさんの承諾はいりません。
  • 当てはまる例:ひろしさんとあやさんが併存的債務引受の契約をし、銀行があやさんに承諾した。→ 承諾の時に効力が生じ、あやさんはひろしさんと連帯して払う義務を負います(470条1項・3項)。
  • 当てはまらない例:ひろしさんとあやさんが免責的債務引受の契約をしたが、銀行は承諾していない。→ 免責的債務引受は成立しません(472条3項)。ひろしさんは今までどおり銀行に払う義務があります。2人の間で「あやさんが払う」と約束したことは、銀行には関係しません。
  • ひっかけやすい例:免責的債務引受で、あやさんがローンを全部払い終えた。あやさんは、ひろしさんに「立て替えた分を返して」と言えるか。→ 言えません(472条の3)。併存的なら、連帯債務として、ひろしさんとの間で負担を分け合う話になります(連帯債務のルールは連帯債務の記事)。
  • ひっかけやすい例:免責的債務引受で、銀行が、たつおさんの保証をあやさんの債務に移したい。たつおさんは口頭で「いいよ」と言った。→ 保証人の承諾は書面(電磁的記録を含む)でしなければ効力を生じません(472条の4第3項〜5項)。保証のしくみそのものは保証の記事で確かめてください。

似ているルールとの違い

比べる点併存的債務引受免責的債務引受
もとの債務者義務が残る(引受人と連帯)債務を免れる
引受人の抗弁債務者が主張できたもの(471条)債務者が主張できたもの(472条の2)
引受人の求償連帯債務として負担を分ける求償権を取得しない(472条の3)
担保・保証もとの債務の担保として残る引受人の債務に移せる(設定者・保証人の承諾)

似た言葉に「債権譲渡」があります。債権譲渡は、お金を受け取る権利(債権)を、債権者が別の人に譲るものです。債務者に対抗するには、譲渡人からの通知か債務者の承諾がいります(467条)。債務引受は、払う義務(債務)の側の入れ替えなので、守られるのは債権者の側です。「通知」という言葉が両方に出てきますが、債権譲渡の通知は譲渡人が債務者にするもの、免責的債務引受の通知は債権者が債務者にするものです。

試験ではここをまちがえやすい

まちがえやすいのは、だれの承諾・通知で、いつ効力が生じるかです。

  • 債務者の同意:債権者と引受人の契約で免責的債務引受をするとき、債務者の同意(承諾)はいらない。いるのは、債権者から債務者への通知。
  • 債権者の承諾:債務者と引受人の契約でするときは、併存的でも免責的でも債権者の承諾がいる。「併存的なら債権者に損はないので承諾はいらない」は、債務者と引受人の契約については誤り。
  • 効力が生じる時:併存的(債務者と引受人の契約)は「債権者が引受人に承諾した時」。契約の時ではない。
  • 求償:免責的の引受人は債務者に求償できない。
  • 担保の移転:担保を移せるのは債権者で、引受人以外の人が設定した担保は、その人の承諾がいる。保証人の承諾は書面。
  • 抗弁:引受人は、効力が生じた時に債務者が主張できた抗弁を主張できる。取消権・解除権そのものを引受人が使えるわけではなく、支払を拒めるだけ。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
みどり銀行とあやさんとの契約で、ひろしさんの銀行への債務について免責的債務引受をする場合、ひろしさんの承諾は不要であり、銀行がひろしさんに契約をした旨を通知した時に効力が生じる。

答え:○ 分かれ目は、債権者と引受人の契約でする免責的債務引受に、債務者の承諾がいるかどうかです。この場合は、債権者が債務者に契約をした旨を通知した時に効力が生じます(民法472条2項)。もとの債務者が抜ける契約なので「本人の承諾がいるはず」と思うと✕にしてしまいます。債務者と引受人の契約でするときは、反対に債権者の承諾がいります(同条3項)。

問2(このサイトのオリジナル問題)
ひろしさんとあやさんとの契約で、ひろしさんのみどり銀行への債務について併存的債務引受をした。この場合、併存的債務引受は、ひろしさんとあやさんが契約をした時に効力を生じ、銀行の承諾は不要である。

答え:✕ 分かれ目は、債務者と引受人の契約でする併存的債務引受の効力が生じる時です。この場合は、債権者が引受人となる者に承諾をした時に効力を生じます(470条3項)。正しくは、銀行があやさんに承諾をした時に効力が生じる、です。契約だけで効力が生じるのは、債権者と引受人の契約でする併存的債務引受(同条2項)で、これと入れ替えた形です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
みどり銀行の承諾を得て、ひろしさんとあやさんとの契約で免責的債務引受をした。その後、あやさんがローンを全額返済したときは、あやさんは、ひろしさんに対し、返済した額について求償することができる。

答え:✕ 分かれ目は、免責的の引受人に求償権があるかどうかです。免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しません(472条の3)。正しくは、あやさんはひろしさんに求償できない、です。家の代金を減らすなど、引受の見返りは引受の契約の中で決めておく話になります。併存的債務引受では引受人は債務者と連帯して債務を負う(470条1項)ので、連帯債務の負担の分け方と取り違えた形です。

まとめ

  • 併存的:もとの債務者も残り、引受人と連帯。免責的:もとの債務者は抜ける。
  • 債権者と引受人の契約:併存的は契約だけで、免責的は債権者から債務者への通知の時に効力。債務者の同意はいらない。
  • 債務者と引受人の契約:どちらも債権者の引受人への承諾がいる。
  • 免責的の引受人は求償できない。担保・保証は債権者が移せるが、設定者・保証人の承諾がいる(保証人は書面)。

民法の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。次に読むなら、債権譲渡の記事がおすすめです。債権を譲る側と債務を引き受ける側を並べると、「通知」「承諾」をだれがだれにするのかの違いが、はっきり見えてきます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(API。基準日2026-04-01)で確かめています。

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