行政書士と宅建、どちらから受けるか:範囲の重なりと順番の決め方

行政書士試験と宅建試験(宅地建物取引士資格試験)で重なる範囲は、民法を中心とした「権利関係」です。行政法・憲法・商法(会社法)・基礎知識は行政書士試験だけ、宅建業法・法令上の制限・税は宅建試験だけの範囲です。

どちらから受けるかは、「どちらが簡単か」では決めません。当サイトは、①資格を何に使うか、②試験日の順(宅建は10月の第3日曜日、行政書士は11月の第2日曜日)、③1年で使える時間、の3つで決めることをすすめます。働きながら初めて法律を学ぶなら、1年目は片方に絞り、翌年にもう片方へ進む順番が組みやすい形です。

2つの試験は、日程と形がどう違うか

まず、公式に発表されている令和8年度の数字で並べます。行政書士試験は行政書士試験研究センター(以下「センター」)、宅建試験は不動産適正取引推進機構(以下「機構」)が実施しています。

項目行政書士試験宅建試験
試験日11月8日(日)10月18日(日)
時間13時〜16時(3時間)13時〜15時(2時間)
毎年の実施日11月の第2日曜日10月の第3日曜日
受験手数料10,400円8,200円
ネット申込(令和8年度)7月21日〜8月24日7月1日〜7月31日
合格発表令和9年1月27日(水)令和8年11月25日(水)
受ける場所全国どこでも選べる原則、住んでいる都道府県

宅建試験は、登録講習を終えた人(宅建業で働く人が受けられる講習の修了者)は5問免除で45問になり、時間も13時10分からの1時間50分です。どちらの試験も、出題の根拠になる法令は「試験を実施する年度の4月1日現在施行されているもの」です。

次に、問題の形と合格の決まり方です。

項目行政書士試験宅建試験
問題数60問(令和7年度)50問
形式5肢択一式・多肢選択式・記述式(40字程度)4肢択一式(マークシート)のみ
配点の形300点満点。択一1問4点、多肢1問8点、記述1問20点(令和7年度)基準点は「50問中◯点」と問題数で示される
合格基準法令等50%・基礎知識40%・全体60%以上の3つを全部満たす年度ごとに基準点が決まり、合格発表の日に公表
令和7年度の基準法令等122点・基礎知識24点・全体180点50問中33点

行政書士試験の配点は事前には公表されず、合格発表のときに公表されます。上の配点は令和7年度のものです。合格基準は、問題の難しさによって補正(基準点の見直し)されることがあります。

「どちらが難しいか」は合格率で決められるか

直近5年の合格率は、行政書士試験が11.18%〜14.54%、宅建試験が15.6%〜18.7%です(どちらも公式の推移表から。宅建の令和3年度は10月と12月の2回分を含みます)。数字だけ見ると行政書士試験のほうが低くなっています。

ただ、合格率は「受けた人のうち何%が受かったか」です。受ける人の顔ぶれや準備の度合いが違えば、同じ物差しにはなりません。しかも、2つの試験は合格の決まり方が違います。

  • 行政書士試験:満点に対する割合で基準が決まっています。全体で6割を取っても、法令等が5割、基礎知識が4割に届かなければ不合格です(足切り)。記述式は40字程度で書く問題です。
  • 宅建試験:基準点が年度ごとに変わります。直近5年の一般の受験者の基準点は、50問中33点(令和7年度)から37点(令和6年度)まででした。前もって決まった点はありません。

そのため当サイトは、「どちらのほうが簡単」とは書きません。言えるのは、求められる力の形が違うということです。行政書士試験は、範囲の広さに加えて、書く力と基礎知識の足切りへの備えが要ります。宅建試験は、4択の細かい違いを正確に見分ける力と、その年の基準点を越える余裕が要ります。合格率の読み方は行政書士試験の難易度の記事で詳しく書いています。

重なる範囲と、重ならない範囲はどこか

行政書士試験の法令等の科目は、センターの案内で「憲法、行政法、民法、商法及び基礎法学」とされています。宅建試験の範囲は、宅地建物取引業法施行規則8条が7つの事項で決めています。たとえば二号は「土地及び建物についての権利及び権利の変動に関する法令に関すること。」です。この2つを並べると、次のようになります。

範囲行政書士試験宅建試験
民法(売買・貸し借り・抵当権・相続など)出る出る(二号)
民法(婚姻・親子、債権の細かい仕組み)出る(科目は民法全体)土地・建物の場面が中心
借地借家法など科目に挙がっていない二号に入ると考えられる
行政法(行政手続法など)中心の科目科目にない
憲法・商法(会社法)・基礎法学出る科目にない
基礎知識(文章理解など)出る(足切りあり)科目にない
法令上の制限(都市計画法など)科目に挙がっていない出る(三号)
税・価格の評定科目に挙がっていない出る(四号・六号)
宅建業法科目に挙がっていない出る(七号)

見てほしいのは、重なる部分が思ったより小さいことです。宅建の二号は「土地及び建物についての」権利の決まりなので、土地・建物に結びつく場面が中心になります。一方、行政書士試験は科目として「民法」を指定しているので、家族の決まりや、お金の貸し借りの細かい仕組みまで範囲です。

もう一つ、名前が似ていて混ざりやすいのが「行政法」と「法令上の制限」です。法令上の制限は、都市計画法や建築基準法のような、土地の使い方を決めた個別の法律を学びます。行政書士試験の行政法は、行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法・国家賠償法・地方自治法と、行政の一般的な法理論が中心です。どちらも「行政」が出てきますが、学ぶ中身は別物と考えておくほうが計画を立てやすくなります。

目的から決める:仕事で使うのか、法律の基礎を作りたいのか

いちばん先に考えるのは、資格を何に使うかです。

  • 不動産の売買や賃貸の仕事で使う:宅建からです。宅建業法16条2項は「試験は、宅地建物取引業に関して、必要な知識について行う。」と定めています。仕事の決まりそのものが試験の中心です。なお、合格したあと宅建士として仕事をするには、登録(実務経験2年か登録実務講習)と宅建士証の交付が必要です。
  • 役所に出す書類や許認可の手続に関わる仕事で使う:行政書士試験からです。行政法は、許可の申請や不服の申立てなど、行政とのやりとりの決まりを学ぶ科目です。行政書士として仕事をするには、合格のあと日本行政書士会連合会の名簿への登録が必要です。
  • 仕事に直結はしないが、法律の基礎を身につけたい:どちらから始めても民法は共通です。この場合は、次の「試験日の順」と「使える時間」で決めます。

「いずれ両方ほしい」という人は、先に取りたいほう、つまり仕事や生活ですぐ使うほうを1年目にします。2年目のもう一方は、民法を土台にできるぶん、新しく学ぶ範囲に時間を回せます。

試験日の順から決める:宅建は10月、行政書士は11月

2つの試験は、毎年ほぼ同じ時期に続けて行われます。令和8年度は、宅建が10月18日、行政書士試験が11月8日で、間は3週間です。申込もどちらも夏(宅建は7月、行政書士は7月下旬〜8月)です。この並びから、順番の組み方は3つに分かれます。

順番流れ向く人
宅建→翌年に行政書士10月に宅建。11月から行政書士の勉強を始め、翌年11月に受ける宅建を先に使いたい人。民法を土地・建物の場面から始めたい人
行政書士→翌年に宅建11月に行政書士。翌年10月に宅建を受ける行政書士を先に使いたい人。民法を最初から全体で学びたい人
同じ年に両方10月に宅建、3週間後に行政書士すでに片方の範囲をかなり学んでいる人

「宅建→翌年に行政書士」の順は、宅建の試験が終わった11月から、翌年の行政書士試験まで約1年あります。宅建の合格発表(令和8年度は11月25日)を待たずに、行政書士の勉強を始められます。この順番で進める人の組み方は、宅建の次に行政書士を受けるときの記事にまとめました。

「行政書士→翌年に宅建」の順は、行政書士試験の合格発表が翌年1月の下旬です。そこから宅建試験の10月までは、約9か月です。行政書士の民法の知識があれば、宅建の勉強は宅建業法・法令上の制限・税に時間を多く回す形になります。ただし、宅建の権利関係は借地借家法など、行政書士試験の科目に挙がっていない法律も含むので、民法だけで足りるとは考えないでください。

使える時間から決める

どちらの試験にも、公式の勉強時間の目安はありません。当サイトは、どちらの試験もまとまった勉強時間が要るという立場です。そのうえで、時間から順番を決めるときは、次のように考えます。

  1. 試験日から逆算して、平日と休日に使える時間を週ごとに書き出す。残業の多い月や、家の用事が多い月も書いておく。
  2. その時間で、選んだ試験の範囲を、試験日までに過去問で最低2周できるかを考える。1周目は理解、2周目以降は間違えた所の解き直しです。
  3. 2周が見えないなら、範囲を広げる計画(2つの試験を同じ年に受けるなど)はやめ、1つの試験に絞る。

試験日が近い時期に始めるなら、試験日までの月数も目安になります。たとえば春に始める人は、その年の宅建(10月)までも、行政書士試験(11月)までも、残りは半年ほどです。半年あれば足りるという意味ではありません。範囲の広さ・記述式・足切りの有無を考えて、その期間で過去問を2周できる見込みが立つほうを選びます。どちらも見込みが立たなければ、翌年の試験に合わせて計画するのも一つの方法です。科目ごとに何点取るかの組み方は、行政書士試験の得点戦略と宅建試験の得点戦略で、点の割りふりから確かめられます。

同じ年に両方受けるなら、何に気をつけるか

同じ年に両方受けることは、制度の上ではできます。ただ、働きながら初めて法律を学ぶ人には、当サイトはすすめません。理由は3つです。

  • 範囲が広すぎる:重なるのは民法の一部だけです。行政法・憲法・会社法・基礎知識と、宅建業法・法令上の制限・税を、1年で並べて進めることになります。
  • 直前期がぶつかる:宅建の直前1か月(9月中旬〜10月中旬)は、行政書士試験の直前2か月にあたります。宅建の総まとめをしている間、行政書士の過去問の解き直しが止まります。
  • 宅建のあとが3週間しかない:令和8年度なら、10月18日の宅建から11月8日の行政書士試験までは3週間です。この間に記述式の練習と基礎知識の確認を仕上げる時間は多くありません。

それでも両方受けるなら、先に「本命」を1つ決めます。本命の試験は得点の計画どおりに進め、もう一方は「本命の勉強で使った民法が、どこまで通用するかを確かめる場」と割り切ります。申込の締切も別々で、手数料は合わせて18,600円かかります(令和8年度。10,400円と8,200円)。申込の前に、本命でないほうに使える時間が本当にあるかを見直してください。

今日決めること

  • 資格を何に使うかを一行で書く(「不動産の仕事で」「許認可の手続で」「法律の基礎を作りたい」など)。
  • 次の宅建(10月の第3日曜日)と行政書士試験(11月の第2日曜日)を手帳に書き、申込が夏にあることも書いておく。
  • 試験日まで週ごとに使える時間を書き出し、1つの試験の過去問を2周できるかを見る。
  • 1年目に受ける試験を1つ決める。両方受けるなら本命を決める。

宅建を先に受けると決めた人は、次に宅建の次に行政書士を受けるときの記事を読んでおくと、宅建の民法をどこまで深めておけば翌年に使えるかが分かります。行政書士試験から始める人は、行政書士試験の進め方を選ぶページで、残り期間に合う進め方を選べます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)