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相続手続きに税理士は必要なのだろうか?
自分で手続きをして間違ってしまうとややこしそう
なんとか税理士に頼まずに安く手続きできないかな?
などとお考えではないでしょうか。
相続手続きの代行を依頼すると多額のお金がかかるため、できればご自身でやってしまいたいと思うのは当然かと思います。
この記事では士業事務所に勤めていた筆者の経験をもとに相続手続きに税理士は必要なのかどうかについて率直で公平な意見とどうするのがあなたにとって最適なのかについて徹底的に考えお伝えします。
- 質の悪い税理士もいるので、優秀で本当に信頼できる税理士に依頼することが大事
- 相続財産が5000万円以上あるなら税理士に依頼するメリットが多い(優秀な税理士に限る)
- 自分で手続きをすると制度や控除を十分に活用できていない可能性がある
- 資産が3000万円以内なら行政書士や司法書士に依頼する方が報酬は安い
1.相続に税理士が必要かどうかの結論
結論からお伝えすると、以下の2点をどちらも満たさないと依頼するメリットは薄いように思います。
- 相続財産が5000万円以上
- 税理士が本当に優秀で信頼できる人である
相続財産が5000万円のラインを超えなければ、生命保険の非課税枠を使うなど少しの対応だけで相続税対策ができてしまうケースが多いからです。
もちろん自身でやる手間はかかるので、時間と余裕がなければ難しいのですが、土地がらみの複雑な控除等を使用しなくても税金がかからないのであれば自分でもなんとかできる可能性があります。
また、本当に良い税理士を見つけることは案外難しく中には相続税を過剰に申告するなどし、お客さんの不利益よりも自分の利益を優先するような方も存在しています。
ですので、仮に資産があったとしてもちゃんとした税理士を見分けられない場合は気づかない間に損をしてしまっているリスクが高いです。
一方で、5000万円を超える場合は、そのまま申告すると相続税がかかるケースがほとんどです。
そのため、各種控除や特例を使用し相続税を減らす必要があるのですが、そうすると申告書類の作成難易度が上がります。
もし、ここで申告を誤ってしまうとある日突然、税務署から職員が自宅に来て延滞税、過少申告加算税等の税金を追加で徴収されてしまう可能性を残してしまいます。
せっかく自身で申告したのに支払い総額はむしろ増えてしまうとそれまでの時間も労力も無駄になってしまう上、税金も多く納めないといけないため非常に効率が悪いです。
したがって、相続財産が5000万円以上で本当に優秀な税理士を見極められるのであれば、依頼することをお勧めします。
2.相続に税理士が必要か判断する5つの基準
1章の内容を踏まえて、もし私が相続の手続きが必要で税理士に依頼するか迷っているという状況だとしたらどういった点を考慮して考えるのかについて、5つの観点から客観的に考察を加えていきます。
2−1.お客さんの利益を考え、悪質な手続きをしない事務所かどうか
実は、税理士といっても皆がみな、公平中立で信頼できる人という訳ではありません。税理士によってはお客さんが損をしようとも自身に利益があればそれで良いという考えの人も残念ながら存在します。
ほんの一例ですが、中にはお客さんが損をすることを承知で、相続税を過剰に申告するなどの行為を当たり前のように行っている事務所もあったりします。
相続税を過剰に申告すれば、税務署は十分に税金を取っているため、税務調査に行く必要性がありません。
税務署から税務調査に入られなければ、「うちを利用してもらえれば税務調査にはいられないですよ」と対外的には宣伝できてしまいます。
「税務調査怖そうだな」と思う気持ちは良くわかります。
ですが、本当に実力があり、誠実な税理士であれば、相続税の対策をしっかり行った上で、たとえ税務調査に入られようともお客さんが損をしないようにしっかりと税務署に説明してくれるはずです。
まずは、自分たちの利益しか考えず、あなたの立場に立って考えてくれないような税理士を選ばないことが、前提として非常に重要になってきます。
税理士なんだから誰に頼んでもさほど変わらないだろうと思われるかもしれませんが、全くそんなことはありません。事務所や担当ごとに天と地ほどの差があるのが実情です。
2−2.担当税理士の経験と実力
そもそもですが、あなた自身にでもできる相続税の申告を依頼するのに数十万円以上の報酬が発生するその根拠とはなんなのでしょうか。
そこまでの報酬を支払う価値は一体どこにあるのでしょうか。
それは端的にいうと専門性と知識です。相続税をどれほど上手に減らせる引き出しを持っているのか、お客さんが理解できていない制度をしっかり説明して当てはめられるかという点になります。
例えば、自分で申告すれば相続税が300万円かかってしまうケースでも事前に税理士に相談し、様々な制度や控除を活用することで、相続税がかからなければ報酬として100万円支払っても200万円お得です。
高い報酬を支払うのであればしっかりとその価値を提供できる税理士を選ぶことが何よりも大切です。
2−3.相続する遺産額
相続する財産が5000万円を超えてくると殆どのケースで基礎控除の枠を超えてしまいます。したがって、基本的に相続税の申告が必要です。
各々のケースに当てはめて、適切な制度や特例を用いたりすることで、相続税の支払い総額を減少させることができますが、それにはかなりの知見が必要になってきます。
制度や特例もただ使えば良いという訳ではなく、申告の方法や書類の作成含めてしっかりと手続きができないければ認められません。
相続財産が大きければ大きいほど、手違いやミスがあった時に追加で徴収される税金が多くなりますから、金額に応じてリスクも相応に大きくなってきます。
5000万円を超えてくると恐らく、あなた自身でやるメリットよりも自身でやることによるデメリットが目立ってくるのではないかと思われます。
2−4.相続案件の複雑性
相続の案件といってもどれも同じというわけでは全くありません。ケースごとに難易度も全く異なります。
土地の面積や形状や場所、相続人の数、どの銀行で資産を持っているのか、株式、債権、投資信託、保険など保有している資産によって対応や手続きも異なってきます。
非常にシンプルで簡単なケースであれば自身で相続手続きはできるかもしれませんが、複雑なケースであれば税理士がやっても間違いが起こるくらいに難易度が高いです。
そこまで大変な思いをした先に大きなメリットがあればまだしも、難しいケースは下手にやるとむしろ損失が大きいため、依頼してしまった方が良いかもしれません。
シンプルで簡単なケースというのは法定相続人が1人しかおらず、土地や複雑な資産が存在しないケースのことを指します。
2−5.生前に財産の評価額を下げておく必要性
相続においてはできるだけ事前に対策をしておくことで、課税額を減らすことができる仕組みがたくさん存在しています。
しかしながら、それらの制度について個別的に相談することができるのは士業の中でも税理士だけです。司法書士にも行政書士にも弁護士にも認められていません。
高齢の親が非常に大きな土地を持っているというケースや預貯金だけでなく、株式や債権など複数の金融資産をお持ちの場合、早期に相談しておくことで、今のうちから相続税を減らす動きができるようになります。
また、いわゆる二時相続の対策も含めて検討する必要があるのであれば、長い時間をかけて準備をした方が有利に対策することが可能となります。
今のうちから対策しておかないと明らかに基礎控除(3000万円+600×法定相続人)を超えるという場合は、税理士への相談か、非課税枠の活用をされるのが良いかと思います。
非課税枠をご利用されることで法定相続人×500万円までは相続財産から控除することが可能です。
3.相続を税理士に依頼する3つのデメリット
相続手続きを税理士に依頼すれば、時間と労力はかかりませんが、一方でデメリットもあります。この章では税理士に依頼することによって生まれるリスクやデメリットを事務所の裏事情も交えてお伝えします。
3−1.税理士に払う報酬が発生する
まずは、シンプルに税理士に支払う報酬になります。自分で相続税の申告をすれば少なくとも30万円以上は節約することが可能です。
パット見て30万円という金額は非常に高額です。ただ、実際はこの報酬を高くするか安くするかはあなたが依頼する税理士の腕によってかなり変わってきます。
わかりやすくするために以下の2つのケースを見比べてみましょう。
税理士に依頼し報酬として30万円支払ったのに過剰に申告されていることに気づかずに相続税100万円を支払った。
税理士に報酬として50万円支払ったが、本来100万円支払うはずだった相続税が0円となった。
最初のケースは、税理士への報酬は非常に安価ではありますが、結果として支払う総額は130万円となっています。
一方で、後者のケースでは税理士への報酬は50万円と高いですが、結果として支払う総額はその50万円のみとなっています。
税理士に支払う報酬は実際に高いからこそ、しっかりとその対価を得られる税理士に依頼する必要性が高いです。優秀な税理士に依頼ができれば高い報酬というデメリットは限定的にすることができます。
3−2.質の悪い税理士に依頼しても見抜くのが困難
既にお伝えしている通り、悪い税理士に依頼してしまうと余計な損をしてしまう可能性があります。
正直にお話しすると多少のミスをしたとしても、お客さんにバレるということはほとんどありません。申告期限に間に合わないなど、よっぽど酷いケースであればさすがにバレますが、基本的に隠し通せてしまいます。
もし、お客さん側に不備を指摘されたとしても基本的にはお客さんよりは知識も経験もあるわけなので、簡単に言いくるめられる状況ではあるわけです。
それがまかり通っているとまでは思っていませんが、そのような状況であることは事実で、お客さんからすると良い税理士と悪い税理士を見分けることがものすごく難しいということは想像しやすいです。
仮に変な税理士に依頼をしてしまうと支払う必要がなかった相続税を追加で支払う羽目になったり、後になって後悔するような形にどうしてもなってしまいます。
3-3.税理士より他の士業の方が適任なケースがある
相続税の申告は税理士にしかできませんが、単純な相続手続きは税理士のみでなく、司法書士や弁護士、行政書士も対応できます。
その場合、税理士に依頼すると報酬が割高になってしまう可能性があります。
4.相続を税理士に依頼するメリット
質の高い税理士であれば、自身が行った手続きに関してはしっかりと責任と持ってくれます。ですので、下記のメリットの恩恵を受けることが可能です。
しかしながら、もしも質の悪い事務所に依頼してしまうとそこまで責任を取ってくれなかったり、むしろ支払う相続税が高くなっていたりするため、下記はあくまで良い事務所に依頼できればという前提で記載しています。
全ての税理士事務所に当てはまるわけではないので、その点はご注意いただければと思います。
4−1.追徴課税のリスクがなくなる
相続税の申告期限は原則10ヶ月以内となっており、それを過ぎると延滞税という名の罰金を支払わなければなりません。
その他にも申告金額が適切でなかった場合には過少申告加算税や重加算税といった思い罰金を課せられます。
優秀な税理士に依頼することでこういった類のペナルティーを受けるリスクはなくすことができます。
また、万が一しミスによって追加で税金を払わないといけない場合でも誠実な事務所であれば責任を取り追加で発生した税金は代わりに支払ってくれます。
特に相続財産が億以上の方は、申告を失敗した際の追加課税額が税理士報酬よりも大きくなってしまったりするので、最初から優秀な税理士に依頼した方がリスクは明らかに少ないです。
4−2.時間と労力がかからない
普段相続の手続きをしていない人にとって、複雑な手続きを1からするのはかなり面倒だと思います。
また、その面倒の先に大きなメリットがあるならまだしも相続財産が多い場合は細かいミスで大きな損失につながってしまうことも少なくありません。
それだったら、一層のことその間、あなたは自分にできる仕事や家事をすることで生活状況をよくすることを考えた方が賢明かもしれません。
4−3.税務調査でのリスクが下がる
個人で相続税の申告を行い、税務調査を受けることになった場合、ほぼ100%追加で税金を払うことになります。
税務署も税務調査をするにあたりかなりの調査を行ってくる上、受け答えも記録されており、言い間違えも含めて不利な証言はどんどん詰められます。
正直、多少の知識でどうにかできるようなものではありません。
ですが、税理士に依頼し申告していれば、その申告に関しては税理士が責任をもって税務調査の対応もしてもらえます。
これにより仮に税務調査を受けたとしても、税理士が税法上筋道が通った受け答えをしてくれるため、、リスクは限定的になります。
ただし、税理士にも黙っていた隠し財産があるなどといった場合はさすがに優秀な税理士でもどうしようもないため、財産に関しては抜け漏れなく伝えていただくことが重要です。
5.相続に税理士が必要なケースは限定的
相続において税理士が必要になるケースというのは実際は非常に限定的です。なぜなら、そもそも相続財産がかなり多くなければ、税理士に依頼する必要性がないからです。
士業事務所で相続手続きをやっていた私の経験上、5000万円を超えてくると良い税理士に依頼できるメリットは大きくなってくるという実感があります。
相続税の申告が必要であれば最初から税理士に依頼した方が安くなることが多いと思いますが、相続税の申告が必要なければ司法書士や行政書士に依頼する方が安く済むケースも多々あります。
もし、自分のケースはどこに相談すればよいのかわからない…とお思いでしたら、こちらの記事も参考にしていただければと思います。