相続が発生すると、多くの手続きが必要になります。その中でも重要なのが「預金名義の変更」です。被相続人(亡くなった方)の預金は、そのままの名義で放置しておくと、後々のトラブルの原因となることが少なくありません。
この記事では、相続時の預金名義変更に関する基本的な手順と、スムーズに手続きを進めるためのポイントを解説します。相続手続きが初めての方でも安心して進められるよう、分かりやすく説明していきます。
1. 相続時に預金名義変更が必要な理由
1-1. 預金名義変更とは?
預金名義変更とは、被相続人の名前で管理されていた預金口座を、相続人の名前に変更する手続きです。
相続が発生すると、被相続人の預金口座はそのままでは利用できなくなり、銀行によって凍結されます。手続きをして名義変更を行うことで、相続人はその預金を正当に管理・利用できるようになります。
預金名義変更は、相続手続きの中でも特に重要なステップです。名義変更を行わないと、預金を引き出すことができないばかりか、口座自体が凍結されたままになり、後々の手続きが複雑になることもあります。
また、名義変更を適切に行うことで、相続人間のトラブルを未然に防ぐことができます。
1-2. 預金名義変更が必要となるケース
預金名義変更が必要になるのは、主に相続が発生したケースになります。
- 被相続人の死亡に伴い、その預金口座が相続の対象となります。相続人が複数いる場合は、遺産分割協議を経て名義変更が行われます。
名義変更を行わない場合、預金は凍結されたままとなり、相続人が自由に使うことができません。また、未処理の状態が長引くと、相続税の申告やその他の手続きに悪影響を及ぼす可能性があります。
もし相続人間の誰かが相続放棄をした場合でも相続される方が他にいる場合は故人の名義から相続される方へ名義変更の手続きを行う必要があります。
2. 預金名義変更の基本的な手順
2-1. まずやるべきこと:銀行への通知
相続が発生したら、まず初めに行うべきことは、被相続人が利用していた銀行に通知することです。銀行に相続が発生したことを伝えることで、預金口座が凍結され、無断での引き出しや口座利用を防止することができます。
通知時に必要な情報は以下の通りです。
- 被相続人の氏名と口座番号: どの口座が相続対象となるかを明確にするために必要です。
- 相続人の連絡先: 以降の手続きに関する連絡がスムーズに行えるよう、相続人の情報を伝えておきます。
- 死亡診断書のコピー: 被相続人の死亡を証明するための書類として必要になります。
銀行に相続発生の通知を行うと、預金口座は一時的に凍結されます。これにより、相続人以外の第三者による不正な引き出しを防ぐことができるため、早めの通知が推奨されます。
注意点としては、一度銀行に通知を行ってしまうと葬儀費用や専門家への報酬のための資金を引き出すことも当然できなくなってしまうという点です。
葬儀も規模によってかかる費用は大きく異なりますが、一般的には200万円前後かかってきてしまいます。さらに相続手続きを専門家に依頼する場合、案件にもよりますが10万円から100万円程度とかなりの費用負担が求められます。
相続人のうち誰かが立て替えられれば問題ないかもしれませんが、なかなか数百万円単位のお金をポンと立て替えるのは難しいという場合も多いでしょうから専門家からの助言を受けた上で事前に引き出しておくなど準備が必要です。
2-2. 預金口座の凍結とその解除方法
預金口座が凍結されると、相続人でも自由に引き出すことができなくなります。この凍結を解除するためには、銀行に対して相続手続きを行い、名義変更を完了させる必要があります。凍結解除のための手順は以下の通りです。
- 必要書類の準備: 銀行に提出するための必要書類を全て揃えます。主な書類は後述しますが、戸籍謄本や遺産分割協議書などが必要です。
- 銀行窓口での手続き: 書類が揃ったら、被相続人の預金口座がある銀行の窓口で手続きを行います。銀行によっては、相続専用の窓口が設置されている場合もあります。
- 凍結解除後の名義変更: 銀行が書類を確認し、問題がなければ口座の凍結が解除され、相続人への名義変更が完了します。これで、相続人は預金を自由に管理・使用できるようになります。
凍結解除には、数日から数週間かかることがありますので、早めに手続きを進めることが大切です。また、銀行によってはオンラインで手続きを行える場合もあるため、事前に確認しておくと良いでしょう。
3. 預金名義変更に必要な書類
3-1. 名義変更に必要な書類リスト
預金名義変更の手続きを進めるためには、いくつかの書類を揃える必要があります。以下は、一般的に必要とされる書類リストです。
- 戸籍謄本(被相続人と相続人全員分): 相続人を確定するために必要です。被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が求められる場合もあります。
- 遺産分割協議書: 相続人全員で遺産分割の合意を示す書類です。相続人全員の署名と押印が必要です。
- 被相続人の死亡診断書: 被相続人の死亡を証明する書類で、銀行への通知時に必要です。
- 相続人の印鑑証明書: 名義変更に際して、相続人の印鑑証明書が求められます。
- 相続関係説明図: 相続人がどのような関係にあるかを示す図で、銀行によっては必要となります。
これらの書類は、役所や法務局、病院などで取得しますが、揃えるのに時間がかかることがあります。相続手続きがスムーズに進むよう、早めに書類を準備しておくことが重要です。
3-2. 書類が揃ったらどうするか:銀行での手続き
書類が揃ったら、次に行うのは銀行での手続きです。以下の手順で進めていきます。
- 銀行に連絡を入れる: 書類が揃ったら、銀行に連絡して相続手続きを進めたい旨を伝えます。事前に予約が必要な場合もあるため、確認しておきましょう。
- 書類の提出: 銀行の窓口で、必要書類を提出します。銀行の担当者が書類を確認し、不備がなければ手続きを進めてくれます。
- 名義変更手続きの完了: 書類に問題がなければ、名義変更手続きが完了します。この時点で、相続人名義の預金口座が正式に作成され、預金の管理が可能となります。
銀行によっては、手続きが完了するまでに数日かかることがあります。特に、書類に不備がある場合は手続きが遅れることがあるため、提出前に全ての書類を再確認しておきましょう。
4. 名義変更がスムーズに進まないケースとその対処法
4-1. 相続人間で意見がまとまらない場合
相続人間で遺産分割に関する意見がまとまらない場合、預金名義変更手続きが滞ることがあります。特に、相続人が複数いる場合、全員の合意が得られないと遺産分割協議書が作成できず、銀行での手続きが進まないことがあります。
- 調停の利用: 家庭裁判所での調停を利用し、第三者の立会いのもとで話し合いを進めることが可能です。これにより、相続人間の合意形成がスムーズになる場合があります。
- 専門家への相談: 弁護士や司法書士などの専門家に相談し、アドバイスを受けながら調整を進めることが推奨されます。
4-2. 必要書類が揃わない場合
相続手続きを進める上で、必要書類が揃わない場合も手続きが遅れる原因となります。特に、戸籍謄本が揃わない場合や、遺産分割協議書の作成が難航する場合は、対応策を講じる必要があります。
- 家庭裁判所での手続き: 必要書類が揃わない場合、家庭裁判所での手続きが必要になることがあります。例えば、相続放棄を行う場合や、行方不明の相続人がいる場合などです。
- 役所での再確認: 書類の不足が原因で手続きが進まない場合、再度役所で書類を確認・取得することが求められます。特に、相続関係が複雑な場合には、早めに対応することが重要です。
5. 預金名義変更後にやるべきこと
5-1. 他の相続手続きと並行して進めるべきこと
預金名義変更が完了した後も、他の相続手続きを進める必要があります。これらの手続きを並行して行うことで、相続手続きを効率的に進めることができます。
- 不動産の名義変更: 不動産を相続する場合、相続登記を行い、不動産の名義を変更します。法務局での手続きが必要です。
- 相続税の申告と納税: 相続税が発生する場合、相続開始から10か月以内に申告と納税を行います。相続税申告書を作成し、税務署に提出します。
- 保険金の受け取り手続き: 生命保険の受取人が相続人となっている場合、保険金の受け取り手続きを進めます。保険会社に連絡し、必要書類を提出します。
5-2. 名義変更後の管理と注意点
名義変更が完了した後、相続人としての預金口座を管理していく上で、いくつかの注意点があります。これらのポイントを押さえて、トラブルを未然に防ぐことが大切です。
- 口座の定期的な確認: 名義変更後も、定期的に口座の状況を確認し、問題がないかをチェックします。特に、大きな取引や引き出しがあった場合には、記録を残しておくことが重要です。
- 税務上の管理: 預金口座の動きに伴う税務上の処理も重要です。特に、多額の預金を引き出す場合は、贈与税や相続税の課税対象となる可能性があるため、税務署に確認することをおすすめします。