相続によって家を取得した場合、その売却には多くの手続きと判断が求められます。初めての経験であれば、何から手を付けるべきか、どのように進めるべきか迷うことも多いでしょう。
この記事では、相続した家をお得に売却するための具体的な手順と注意点を、専門家の視点から徹底解説します。スムーズかつ有利に売却を進めるためのポイントを、ステップごとに詳しくご紹介します。
1. 相続した家を売却する前に知っておくべきこと
1-1. 売却前に確認すべき相続手続き
相続が発生した際、まず重要なのは相続に関する基礎的な手続きを適切に行うことです。家を売却する前に、以下の手続きを確認しましょう。
遺産分割協議と相続登記の重要性
遺産分割協議は、相続人全員が納得する形で遺産の分け方を決定するための話し合いです。この協議が整わなければ、相続登記ができず、家の売却も進められません。
遺産分割協議書が作成されたら、速やかに法務局で相続登記を行い、家の名義を相続人に変更することが必要です。
相続税の確認と申告のタイミング
相続税が発生する場合、相続開始から10か月以内に申告と納税を行う必要があります。売却を考える前に、相続税の有無や納税額を確認し、必要に応じて早めに申告手続きを行いましょう。
税務署に相談し、適切な手続きを進めることが肝要です。
1-2. 売却か保有かの判断基準
相続した家をどうするかは、家族の状況や資産運用の方針によって異なります。以下のポイントを参考に、売却するか保有するかを判断しましょう。
- 相続財産の大半が不動産であり、相続税の支払いが必要な場合
- 相続した不動産を利用する予定がない場合
- 公平に遺産を分割することが難しい場合
結論からお伝えすると、次の3つの要件が当てはまれば相続不動産を売却したほうが良いケースが多いです。1.相続人が複数いる。2.相続財産のうち7割以上が不動産である。3.相続不動産に住む予定の人がいない。
不動産を持つということで固定資産税の支払いや管理義務が発生するため、使う予定がない場合は現金化してしまう方が良いというケースは多いと思います。
もちろん、「今後もその不動産価格が上がると思っている」「相続した土地にアパートを建てて賃料収入を得る算段がある」など例外は存在しますので、立地や土地の特性、ご自身の経験を踏まえて適切なタイミングで判断する必要があります。
- 相続財産の中に現金が十分にあり、相続税の支払いも特に問題がなさそうなケース
- 相続した不動産に誰かが住むことが想定できる場合
- 不動産とその他の財産を公平に分割できる場合
逆に言えば、空き家になる可能性がなく、遺産分割と相続税の支払いも問題なくできる場合は今すぐに不動産を売却する必要性は低いと思われます。
ただし、不動産の価額はマーケットや金利、為替、など景気の影響を強く受けるため、「今すぐに売る必要性はないが、今すぐに売った方が良いという状況があるという点に注意は必要です。
2. 相続した家をお得に売却するための準備
2-1. 家の価値を正確に把握する
家をお得に売却するためには、まずその価値を正確に把握することが不可欠です。市場においてどの価格で売れるのか判断材料がなければ買い叩かれる、あるいはまったく売れないということになってしまいます。
不動産の状況調査をしっかりと自身で行う
不動産を査定するにあたり、どこかしらの業者に依頼することになるわけですが、まずはご自身が不動産のことをしっかりと把握しておくことが何よりも重要です。
不動産の価格にはまず4つの価格設定が存在します。原則的には下に行くほど高いですが、実勢価額については売り手と買い手の合意で決まることから、状況によっては路線価より低くなることもあり得ます。
固定資産税路線価
相続税路線価
公示価額
実勢価額
この中から少なくとも公示価額と実勢価額だけは調査しておくようにしましょう。近隣の不動産がどれくらいの値段で売られているかウェブで検索したり国土交通省のホームページより公示価額を調べてみましょう。
不動産査定の方法とポイント
自身で調べた上でさらに不動産の価値を詳細に把握するためには、不動産業者に査定を依頼します。査定には、「机上査定」と「訪問査定」がありますが、正確な価格を知るためには訪問査定を受けるのが良いでしょう。
当然ながら、査定結果は一社だけでなく、複数の業者から見積もりを取り、比較することが重要です。
複数の業者に依頼して比較する方法
複数の不動産業者に査定を依頼し、価格や提案内容を比較しましょう。さらに事前の調査を踏まえた疑問点などがあれば、聞いておくことも重要です。これにより、最も信頼でき、かつ適正な価格を提示してくれる業者を選ぶことができます。
業者の対応や売却するにあたっての戦略も重要な比較ポイントですので、注意して聞いておくことをお勧めいたします。
2-2. 家の状態を改善して売却価格をアップさせる
家の状態を良くすることで、売却価格を引き上げることが可能です。購入希望者に良い印象を与えるための準備をしましょう。
リフォームや修繕の検討
家の状態が悪い場合は、リフォームや修繕を行うことで、売却価格を上げることができます。特に、水回りや外壁の修繕は、購入希望者にとって重要なポイントとなります。
ただし、過剰なリフォームは費用対効果が低くなるため、必要最低限の修繕に留めることがポイントです。
不動産のプロによるホームステージングの活用
ホームステージングとは、売却前に家を魅力的に演出することです。家具やインテリアを工夫することで、購入希望者に良い印象を与え、売却価格を高める効果が期待できます。
プロのアドバイスを受けることで、効果的なステージングを実現し、早期売却を目指しましょう。
2-3.不動産の価格上昇要因について理解する
不動産の価格はどのような要因で動くのか把握しておくことが重要です。例えば、金利が今後上がっていくことが想定される場合、不動産を購入するハードルが上がるため下がっていく可能性が高いこと。
他にも円高になれば海外からの投資額が減少するため、都心部への不動産投資金額は減少傾向に向かう可能性が高いなど、少なくとも最低限の金融知識を持った上で冷静に判断することが重要です。
かつてバブルがはじけたように不動産は水物であり、同じ物件でもその時々のマーケットにおいて価格は大きく変わってきますので、経済状況が良い時点で売却することを強くお勧めします。
2-4. 相続不動産のある土地の開発状況や市政について調べる
マーケットの状況と同様にその不動産が存在する場所の開発状況や市や民間企業の計画を正しく把握しておくことも非常に重要です。
例えば、最寄り駅付近が現在進行形で開発されていく計画があるのであれば、利便性が上がることで土地の価値自体が上昇する可能性がありますし、近くにイオンモールができることが確定していれば暫らくは値崩れしにくいと考えられます。
資産を保有していると上がる理由ばかりを見てしまいがちですが、例えば、駅が廃駅となることや商業施設が閉鎖されるなど悪い情報にもしっかりと目を当てなければ適切な判断はできません。
3. 売却手続きの流れと具体的なステップ
3-1. 不動産業者の選び方と売却依頼のポイント
信頼できる不動産業者を選ぶことは、家の売却を成功させるために非常に重要です。
これは肌感覚によるところもありますが、どちらかというと地方では地域密着、地元の不動産屋さんや相続物件に力を売れている不動産屋さんのほうが、情報の精度は高いように感じています。
信頼できる不動産業者の選び方
不動産業者を選ぶ際には、業者の実績や口コミ、担当者の対応力を確認することが大切です。特に、地域に精通した業者を選ぶと、地元市場の特性を活かした売却が可能になります。
また、初回の相談時に、担当者の対応が丁寧かつ誠実であるかを見極めることも重要です。また、回答を濁さずにはっきりと責任をもって伝えてくれる人を選ぶことをお勧めします。
売却依頼時に気をつけるべきこと
売却依頼時には、媒介契約の内容をよく確認しましょう。媒介契約には、専属専任媒介契約、専任媒介契約、一般媒介契約の3種類があり、それぞれに異なる特徴があります。
特に、専属専任媒介契約では、他の業者に重ねて依頼できないため、よほど良い企業でない限り慎重な判断が求められます。
3-2. 売却契約と引渡しまでの手続き
売却が決まったら、売買契約の締結と引渡しの手続きを進めます。
売買契約の締結と重要事項説明書の確認
売買契約を締結する際には、重要事項説明書の内容をしっかりと確認しましょう。重要事項説明書には、物件の状態や契約条件が詳細に記載されており、後々のトラブルを防ぐために非常に重要です。理解しにくい箇所があれば、不動産業者に確認することを忘れずに。
引渡し時の注意点と買主との交渉ポイント
引渡し時には、物件の状態確認や残代金の受領など、細かい手続きが必要です。また、買主との交渉では、柔軟な対応を心がけつつ、譲れないポイントはしっかりと主張することが大切です。特に、設備や備品の引渡し条件については、事前にしっかりと取り決めておきましょう。
4. 売却に伴う税金と節税対策
4-1. 家の売却にかかる税金の種類
家を売却する際には、いくつかの税金が発生します。これらの税金を正しく理解し、適切に対処することが重要です。
譲渡所得税や住民税、その他の税金
家を売却して利益が出た場合、その利益(譲渡所得)に対して譲渡所得税が課されます。譲渡所得税は、課税所得に応じて異なる税率が適用されます。
また、住民税も同様に発生します。これに加え、印紙税や登録免許税などの税金も考慮する必要があります。これらの税金を正確に計算し、必要な手続きを行うことが求められます。
税金計算の方法と注意点
譲渡所得税の計算には、売却額から取得費や譲渡費用を差し引いた額が用いられます。取得費とは、購入時の価格や購入にかかった費用を指し、譲渡費用とは、不動産業者への手数料や広告費などです。
これらの費用を正確に計算し、適切に申告することが大切です。
4-2. 節税対策のポイント
家を売却する際には、いくつかの節税対策を講じることが可能です。適切な節税対策を行うことで、税金負担を軽減することができます。
3000万円特別控除の活用方法
居住用財産を売却する場合、売却益から3000万円を控除できる特別控除の適用を受けることができます。これにより、課税所得を大幅に減らすことが可能です。
ただし、この控除を受けるには、適用条件を満たしている必要があり、事前に税務署に確認しておくことが重要です。
他の節税テクニックや税理士への相談の重要性
特別控除以外にも、譲渡損失の繰越控除や、特定居住用財産の買換え特例など、さまざまな節税テクニックがあります。
個別具体的な助言はここではできませんが、売却前に専門家へ相談し、最適な節税方法を選択することができれば税金負担を最小限に抑えることができます。
5. 相続した家を売却する際の注意点とトラブル回避方法
5-1. 相続人間でのトラブルを防ぐ方法
相続した家を売却する際、相続人間でのトラブルが発生しやすいです。これを未然に防ぐためには、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
遺産分割協議のポイントと合意形成のコツ
遺産分割協議では、相続人全員が納得する形で分割方法を決めることが必要です。感情的な対立を避けるためにも、冷静に話し合い、専門家のサポートを受けることをおすすめします。特に、相続人の間で意見が分かれる場合は、第三者の立会いのもとで協議を進めると良いでしょう。
専門家に依頼して調整する方法
どうしても意見がまとまらない場合は、弁護士や司法書士などの専門家に依頼し、調整を図ることが有効です。専門家の介入によって、スムーズに協議が進むことが多いため、早めに相談することがトラブル回避につながります。
5-2. 売却後の手続きと注意点
売却が完了した後も、いくつかの手続きが必要です。これらの手続きを確実に行うことで、トラブルを防ぐことができます。
売却後に行うべき税務申告や他の手続き
売却が完了した後、譲渡所得税の申告や、住民税の支払いなど、税務上の手続きを忘れずに行いましょう。また、売却代金の管理や、相続人間での分配も適切に行うことが重要です。税務申告に関しては、税理士に相談しながら進めると安心です。
トラブルを防ぐための書類管理と確認ポイント
売却後も、契約書や税務書類など、重要な書類はきちんと保管しておきましょう。これにより、後から発生するかもしれないトラブルにも冷静に対処できるようになります。また、売却後に発生する可能性のあるトラブルを予防するために、弁護士などの専門家に相談することも有効です。
6. まとめ:相続した家をお得に売却するために大切なこと
6-1. 早めの準備と専門家のサポートの重要性
相続した家をお得に売却するためには、早めに準備を始め、必要な手続きを計画的に進めることが大切です。また、税金や相続手続きに関する専門知識が必要な場面では、迷わず専門家のサポートを受けることで、トラブルを未然に防ぐことができます。
6-2. 最適な売却タイミングを逃さないためのポイント
不動産市場の動向を常にチェックし、最適な売却タイミングを逃さないようにしましょう。売却の準備が整っている場合でも、タイミングを見極めることで、より高い価格で家を売却することが可能です。