相続の相談ってだれにしたらいいんだろう
銀行は身近だから相談しやすそう
銀行は、普段からよく訪れる為、手軽に相談にいけそうな感覚がある方も多いと思います。しかしながら、相続手続きの代行を銀行に任せてしまうことには思わぬ落とし穴があります。
あまり言うと怒られるかもしれませんが、相続関係に精通している専門家の中で銀行に相続相談した方が良いという人を私は聞いたことがありません。
なぜならば、お客さんにとって利点が薄すぎるからです。
銀行から案件をもらっている専門家は「銀行に相談するといいよ」というかもしれませんが、本音をいうと「銀行は高いよ」と思ってるはずです。
この記事では、相続の手続きを銀行に代行してもらう利点と欠点、他の相談先との違いについて士業事務所で相続の手続きを行っていた著者が業界の裏側を交えてわかりやすくお伝えします。
- ほとんどの人は銀行に相続手続きの代行をしてもらうメリットが少ない
- 銀行に依頼すると銀行への報酬とは別に士業への報酬を払う必要があり相場の倍は超える
- 財産状況が銀行に筒抜けになってしまうことで様々な勧誘や金融商品の提案がくる可能性がある
1.相続手続きの代行を銀行に依頼するとかなり高額
相続手続きを代行してもらうとなった場合に費用がどれくらいかかるかは気がかりだと思います。
結論から伝えると、銀行に依頼すると一般的な士業事務所にお任せした場合と比較して2倍ほどはすることが多いです。
もちろん、個別の案件の事情を見てみなければ報酬額もわからないので、当てはまらないこともあるかと思いますが、事実としてとにかく高いということは間違いありません。
以下では、具体的な事例に当てはめて実際にどれくらいの報酬を支払う必要があるのかについてお伝えしていきます。
1-1.銀行に依頼した場合に支払う報酬額
相続財産が5000万円の方が三井○友信託銀行に相続手続きトータルサービスを依頼した場合、おおよそ下記の料金がかかります。できるだけ、具体的な数値を出しておりますので参考にしてください。
- 銀行への手数料:110万円
- 司法書士への報酬:約30万円
- 公的書類取得費用:約1万円
- 相続税申告報酬等:約40万円
- 税金(登録免許税):12万円(不動産価格を3000万円とした場合)
合計:約193万円
司法書士や税理士への報酬は銀行の支店ごとに契約している事務所等が異なるため概算になります。
提携している士業事務所も含めて、いままでに著者が見てきた見積もりや請求書をもとに相場の金額を算出しています。
金額としては、相場をはるかに超える費用が必要となります。
1-2.銀行の報酬が高くならざるを得ないたった1つの理由
銀行に相続手続きを代行してもらうとなると非常に高額であるということは確認頂けたかとは思います。ただ、そもそもなぜここまで高いのでしょうか。
せめて、士業事務所と同じくらいの水準にできないものでしょうか。
結論から言うと難しいと思われます。なぜなら、かかっている経費の金額が士業事務所と銀行では大きく差があるからです。
まずは、人件費ですが有価証券報告書に記載されている情報を確認したところ三井住友銀行に関しては平均年収で842万円あるようです。
シンプルにこれだけの給与をもらっている人間が動いて処理をする訳ですから、それ相応の料金を請求しなければ経営として成り立たないという背景があります。
また、銀行がある場所を想像していただくとわかっていただきやすいと思いますが、非常に良い立地にあることが多いと思います。士業事務所と比較した場合、家賃等の金額も天と地の差があります。
それに加えて、実際の手続きは全て提携している士業に外注する訳です。士業事務所の場合は人(パートさん)と事務所(安価)でも運営できるため「そりゃあ、高くなって当然だろ」って感じです。
1-3.相続専門の優秀な士業に依頼する方が報酬は明らかに安い
単純な相続手続きですら、最低110万円かかるのが一般的な銀行に対して、司法書士に依頼すれば、シンプルな手続きであれば15万円~20万円ほどで依頼できます。
相続税を申告する必要がある場合は、別途、申告報酬を支払う必要がありますが、合計しても銀行の手数料にははるか及びません。
さらにいうと銀行への報酬はあくまで、相続のコンサルティング料金となっています。手続きにかかる報酬ではないため、手続きへの報酬は別に支払わなければなりません。
つまり、銀行側が提携している士業事務所の専門家に新たに見積もりをしてもらい、その金額を支払うことでやっと手続きが進むということです。
だったら、最初から良い士業事務所に依頼した方が銀行の手数料分お得になるね。
そうだね。正直、相続手続きをするのにわざわざ銀行に行く利点はあまりないと思うよ。
2.相続手続きを代行できる知見が銀行にはない
料金が高くてもその価格に見合うサービスが提供されているならば、特にいうことはありません。
例えば、銀行が相続手続きのプロ集団として社内でしっかり全ての手続きができるのであれば、それほど問題だとも思いません。
ただ、実態としてはそうではないというのが結論です。以下、詳しくお伝えします。
2-1.そもそも銀行は相続手続きも申告もできない
前提として、相続手続きを代行するとなると少なくとも行政書士の資格を取得し、登録することが必要です。
土地を相続されるケースであれば司法書士、相続財産が多い場合は税理士でなければ代行ができません。
つまり、銀行は、原則として相続手続きを代行することはできないということになります。
もし、銀行内に士業の資格登録をしている人がいれば手続き可能ですが、現に銀行は自分達では手続きをやっていないです。
相続手続きをして報酬をもらうよりも、高い金額を払ってくれる方からコンサル費だけ徴収し、あとはどこかに外注した方が利益率が高いからというのも1つの理由だとは思います。
ですが、自分で案件の処理までできるのであれば外注せずに自社でやったほうが売上も出るし、お客さんにとってもスムーズであることは間違いないでしょう。
2-2.銀行の担当者も専門家も優秀な人を選ぶことはできない
実際に自身で相続手続きをやったことがある方はピンとくるかもしれませんが、銀行員のあたりはずれ問題で相続手続きのスピードが大きく異なります。
やや専門的な話になりますが、相続手続きにおいて財産の調査をする場合には残高証明書や経過利息計算書も必要になることがあります。
自分で手続きしようと銀行に訪ねても、銀行員がそこまで考慮できない結果、何度も何度も足を運ばないといけないみたいなケースが結構あります。
銀行のメイン業務は相続ではないため、すべての銀行員が相続について詳しい知識を持つことは難しい面もあると思いますが、その程度のサービスに高い報酬を支払う意味はあまりないように思います。
また、ある程度相続に知見があれば、専門家の中でもとびぬけて優秀な人を見分けたり、逆にこの専門家はいまいちだなと判断できますが、銀行側にそこの判断がきっちりできているのかは疑問が残ります。
2-3.想定していないリスクまで対応できない
銀行の担当者は相続手続きの専門家ほどの知見はないため、例えば事前に対策していれば相続税対策に効果的な対策やどのようなやりくりすればお客さんにとって有利かどうか判断することが難しい場合があります。
優秀な専門家であれば、確実にお客さんの状況や要望に合わせて専門的な知見から適切な段取りを最初の時点で考えてくれるので、あとはその通りに動くだけです。
一方で最初の構想が適切でなければ後になってから手続きをやり直さないといけなくなったり、もう少しうまくできる方法があったとしてもすでに手続きが進んでしまい後戻りできないこともあります。
つまり、最初の設計段階がとても大事なのですが、すべての職員さんがきちんとできているかは大変疑問に思います。
3.相続手続きを銀行に代行されると危険な理由
現代において個人情報というのは新しく法律ができるほどに重要なものです。その中でも個人の財産状況というのは最も取り扱いが重要なものです。
もし、それらが流出してしまうとあらゆる法人から商品の紹介を受けたり、迷惑な電話や勧誘が来ることは簡単に相続できると思います。
この章では、銀行に個人の財産データを残すことによるリスクについてお伝えします。
3-1.銀行に財産状況をすべて把握されてしまうことの危険性
定年退職された方に対して、銀行の支店長が出てきてVIPルームに連れていき、お客さんを良い気分にさせて割高な投資信託を売りつける。1度は聞いたことがある話だと思います。
銀行というのは、金融商品の販売や金利などが主な収益源なので、その銀行に個人の財産状況が筒抜けになってしまうことは、もはや「どうぞ、営業してください!」と言っているようなものです。
特に年齢が高くなってくると判断能力や自分で調べて理解する能力が落ちてくるため、年配の方がよくわからないうちに契約してしまったようなケースも正直よくあるのではないかと思います。
かつて、ゆうちょ銀行と同じグループであるかんぽ生命が、高齢者をだますような形で保険に二重加入させている事件が大きな問題になりました。
どこも同じようなことをやっているというつもりはありません。
しかし、営業員にノルマが課せられている以上、財産があることがわかれば、そこには必ず強めに営業をかけたいというのが銀行側の本音であることもまた事実です。
今は良くても将来的に判断能力が落ちてきた時に下手な契約をしてしまうリスクをなくしたいのであれば、金融商品を扱わない優秀な専門家に依頼されたほうが絶対に良いと断言できます。
3-2.メールやDMがたくさん来るようになる
相続手続きの代行を任せるということは、お亡くなりになった方の財産が誰のものになり、その人がいくら保有しているのかすべて把握されるということです。
その顧客情報というのは手続きが終わった後にもちろん使用されます。カードの勧誘から保険の勧誘iDeCoにNISA、投資信託、劣後債などあらゆる商品の提案をされやすい状況になります。
人間は、お金や財産など物質的なものを注視することが多くありますが、実際にその物質を生み出すのは「時間」ですから、本来は時間がなによりも価値が高いはずです。
壮大な話になりましたが、このような余計な情報を受け取ることであなたが使えたはずの大事な時間が消えてしまうことに繋がります。
4.相続手続きの代行を銀行に依頼するメリット
あくまで著者の個人的な考えですが、お客さん目線で考えた場合、相続の代行を銀行に依頼するメリットはあまりないというのが結論です。
しかし、一切メリットがない訳ではないと思ったので、この章では実際に相続の相談をされるお客さんの声も参考に銀行に依頼する良い点を2つお伝えします。
4-1.依頼する側としては安心感がある
いくら、価格が高いとはいえ、銀行の規模の大きさにかなう士業の事務所は存在しません。
普通に考えたら、士業事務所と大手の銀行を比較した場合、廃業するリスクが高いのは士業事務所の方です。もし、リーマンショックを超えるやばい不況が来たら銀行も打撃は受けますが、体力が桁違いです。
もし、不況であろうと災害が起ころうと相続手続き自体は何らかの形で進んでいくことはメリットと言えるのではないでしょうか。
4-2.規模が大きく訪問しやすい
メガバンクであれば、たくさんの支店がありますし、その他の銀行であればアクセスしやすいところに必ずあるのもメリットかもしれません。
士業の事務所はなんとなく門をたたきにくいというか、入りにくいイメージの方も多いようですので、相談までのハードルという意味では銀行の方が身近に感じるところはあるでしょう。
なんとなく、疑問に思っていたり、手続きしないといけないことはわかってるけど、なかなか相談に行く腰が重いという方も多くいらっしゃいますので、近くで入りやすいという良さはあるかもしれません。
5.相続手続きの代行は優秀な専門家に適正価格で依頼するのが最適
相続手続きの代行を依頼するにあたり重要なことはざっくりまとめると2点に集約できます。
1つは優秀でお客さんのことを大事に考える専門家に依頼すること
2つ目がサービスに対して適正な価格で依頼すること
当たり前のことと思うかもしれませんが、これが非常に難しい現状があります。いっけん、誠実で信頼できそうな方でもお客さんが損をするような手続きを平気でやっている専門家もいます。
「わからない」分野だからこそ専門家の知恵を借りるわけですが、それは極端に言えばだまされていても気づきにくいということです。
だからこそ、ちゃんとした専門家に依頼することがとにかく重要だということを忘れないでいただきたいなと思います。